ちょっと詰め込みすぎたかも……
ミーティング室のモニターに映し出されているのは、かつて俺たちも苦しめられた「サイクロンスタジアム」での試合映像だった。だが、そこに映るチームは、あの猛烈な竜巻さえも呼吸を合わせるかのように軽々と受け流し、相手を圧倒していた。
「……新雲学園。準決勝の相手だ」
神童先輩が、新雲学園の選手一人一人のデータを冷静に読み上げていく。どのポジションにも穴がなく、全選手がトップクラスの能力を持っているようだ。
「ちゅーかさ、結局その新雲学園も、フィフスセクターの息がかかってるんでしょ?」
浜野先輩が椅子に深くもたれかかりながら尋ねる。神童先輩は短く「ああ」と頷いた。やはり、次の壁も管理サッカーの象徴というわけだ。
神童先輩が新雲学園対策の練習メニューを告げようとした、その時。扉が勢いよく開き、一乃先輩と青山先輩が血相を変えて飛び込んできた。
「みんな、大変だ! フィフスセクターが……ついに実力行使に出た!」
「実力行使……?」
俺が聞き返すと、二人は震える声で語り始めた。雷門の革命に共鳴し、フィフスセクターに反旗を翻した学校。その勇気ある学校たちが、今、次々と潰されているのだという。
「……廃校処分。地区予選で敗れた三つの学校が、すでに取り潰された」
一乃先輩の言葉に、部室が凍りついた。サッカーの結果一つで、学校そのものが消される。フィフスセクターという組織が持つ権力の巨大さと、その底知れぬ冷酷さを、俺たちは改めて突きつけられた。
「……雷門を逆恨みしている選手もいるらしい」
青山先輩が苦しげに付け加える。霧野先輩が「……無理もない。自分たちの居場所を失ったんだからな」と、沈痛な面持ちで呟いた。
(俺たちが正しいと信じてやってきたことが、誰かの学校を奪ってる……?)
胸の奥に、泥のような罪悪感が広がる。俺たちが勝てば勝つほど、どこかの誰かが泣くことになるのか。……いや、だからこそ負けられないんだ。これ以上の被害を出さないためには、元凶であるフィフスセクターそのものを叩き潰すしかない。
「ふざけるな! 廃校なんて、そんな横暴が許されていいはずがないだろ!」
車田先輩が拳を机に叩きつける。月山国光や白恋……俺たちが共に戦い、絆を結んだ学校も、今この瞬間、廃校の危機に晒されているのだ。
「……逆に考えれば、奴らも追い詰められているということだ」
霧野先輩が鋭い視線で分析する。天城先輩も「そうだド! こんな強硬策、自分たちの首を絞めてるだけだド!」と気炎を上げた。
部室全体が「打倒フィフスセクター」の熱に包まれていく中、俺は一人、俯いたまま動かない天馬の姿に気づいた。
「天馬、どうした?」
神童先輩が優しく声をかける。「もっと強い風を起こそう」と励ますが、天馬は絞り出すような声で答えた。
「……俺たちが戦うことで、またどこかの学校が廃校になるんじゃないか……。そんなの、俺……」
天馬はそれ以上言葉を続けることができず、「ごめんなさい……っ!」と叫んで、弾かれたように部室を飛び出していった。
「天馬くん! 待って!」
信助や葵、輝が後を追おうとするが、それを鋭い声が制した。
「……よせ。今はそっとしておいてやれ」
剣城だった。腕を組み、壁に寄りかかったままの彼は、その瞳に静かな影を宿していた。
革命の先にある「責任」という重圧。天馬はその重さに、初めて足を止めてしまったのだ。
*
新雲学園の衝撃、そして廃校処分のニュース。重すぎる現実に耐えかねて飛び出した天馬が心配で、俺は一人、彼が暮らす「木枯らし荘」へと向かった。
「……神童先輩?」
「ああ、コウも来たのか」
入り口には、管理人である木野さんの他に、すでに神童先輩の姿があった。考えることは同じだったらしい。戻ってきた天馬は、俺たちが揃っているのを見て、心底驚いたような顔をしていた。
天馬の部屋に入ると、真っ先に愛犬のサスケが尻尾を振って寄ってきた。
「よしよし、サスケ。元気だったか?」
俺がサスケを撫でていると、神童先輩の視線が棚に飾られた一つのサッカーボールで止まった。イナズマのマークが描かれた、少し古びたボール。
「……それ、イシドシュウジのボールなんだ」
神童先輩が手に取ると、天馬はどこか悲しげに頷いた。俺は驚いてサスケを撫でる手を止めた。
「えっ、あの聖帝の……憧れの人って話じゃ――
そこにお茶菓子を持った秋さんが入ってきて、室内の緊張が少しだけ和らいだ。天馬はポツリポツリと、今日イシドシュウジに会ったこと、そこで炎を纏う凄まじいシュートを見たこと、そして「真実を知りたければ勝ち続けろ」と告げられたことを話してくれた。
「……大変な一日だったな、天馬」
神童先輩が労うように言う。そして、天馬の背負っている「廃校への責任感」を少しでも軽くするように、静かに語りかけた。
「君がイシドに命を救われ、今、その君が少年サッカー界を救おうとしている。……あの時と逆だな」
「あの時……?」
「忘れたのか? 少年サッカーの行く末に絶望して、俺が退部を決めようとした時だよ。天馬とコウが、俺の部屋に無理やり押し掛けてきただろう」
神童先輩の言葉に、俺は思わず苦笑いした。
「あーそういやそんなこともあったな……俺だけ立場変わってないような」
「まあコウだからな」
「まあコウだしね」
神童先輩と天馬が同時に言って、顔を見合わせた。
「……俺のこと能天気だって言いたいのか?」
俺の軽口に、天馬の表情にわずかな光が戻った。それを見た神童先輩は、イシドシュウジの真意について自分の考えを話し始めた。
「『勝ち抜け』という言葉は、聖帝からのエールにも聞こえる。廃校がお前のせいだと言ったのも、お前の負けん気を引き出すためじゃないのか。……天馬、君が起こした風は、もう全国に届いているんだ」
神童先輩はボールを小脇に抱え、天馬を真っ直ぐに見つめた。
「……河川敷へ行かないか? ただ、君とボールを蹴りたいんだ。コウも一緒だ」
だが、天馬は申し訳なさそうに視線を泳がせた。
「……すみません。まだ、そんな気持ちになれなくて……」
「……わかった。その気になったら来い。待ってるぞ」
神童先輩は無理強いせず、俺を促して部屋を出た。夜の河川敷に向かう道中、先輩は夕方の空を見上げてポツリと言った。
「あいつなら大丈夫だ。信じよう、コウ」
「……ああ。俺も、アイツが来ると信じてる」
俺たちは冷たい夜風の中、天馬がやってくるのを信じて、二人でボールを蹴り始めた。
その時だ。土手の上から、バタバタと激しく芝生を駆ける足音が聞こえてきた。
「はぁ、はぁ……っ!」
神童先輩は、後ろを振り返ることなくその気配に気づき、フッと口角を上げた。ボールを足元に収め、ゆっくりと顔を上げる。
「……来たか、天馬」
「遅いぞ、天馬!」
俺がそう言うと、息を切らせて立ち止まった天馬は、顔を上げて真っ直ぐに俺たちを見つめた。その瞳からは、先ほどまでの迷いや濁りは完全に消え去っていた。
「……すみませんでした! 神童先輩、コウ! 俺……もう迷いません!」
天馬の声が、夜の静寂を切り裂くように響く。
「ホーリーロードを勝ち抜いて、聖帝の言う『答え』をこの目で確かめます。俺が……俺たちが大事にしているサッカーへの思いを、全力でぶつければ、きっと未来は変えられる……そう信じて戦います!」
力強い宣言。その言葉に、神童先輩は満足そうに深く頷いた。
「ああ、その通りだ。答えは、フィールドの先にある。……よし、天馬! その決意、プレーで見せてみろ!」
「はいっ!」
天馬が俺たちの輪の中に飛び込んでくる。
一人では抱えきれない重圧も、三人でボールを繋げば、それは明日への活力に変わる。
三人の影が夜のグラウンドで躍動し、一つのボールが未来への軌道を描き始めた。
*
準決勝、新雲学園戦に向けて、雷門中のグラウンドはかつてない熱気に包まれていた。廃校処分の脅威、そして聖帝の言葉。それらすべてを「勝って答えを出す」という決意に変えたイレブンの動きは、鋭さを増している。
だが、その喧騒から少し離れた場所で、信助だけが所在なげに立ち尽くしていた。
「ぼーっとしてると怪我するんだド!」
天城先輩の声に肩を揺らして、信助は慌てて「あ、ごめんなさい!」と駆け出した。だが、その足取りはいつもの軽快さを欠いている。
葵から事情を聞いた俺と天馬は、練習の合間に信助の元へ駆け寄った。
「信助、顔色が悪いよ?」
天馬が心配そうに覗き込むが、信助は視線を落としたまま、小さく首を振った。
「ううん……体は大丈夫なんだけど……。ねえ、天馬、コウ。ボク、本当にキーパーなんてできるのかな」
「三国先輩から言われたこと、気にしてるのか?」
俺が尋ねると、信助はグローブをはめていない自分の両手を見つめ、震える声で続けた。
「……怖いんだ。キーパーって、チームの一番後ろで、失敗したら全部自分の責任になるでしょ? ずっと一人でその重圧を背負ってきた三国先輩の凄さを考えたら、ボクなんかがその代わりを務めるなんて……想像もつかないよ」
最終防衛線という孤独。一歩間違えれば敗北に直結するその場所に立つ恐怖。これまでピッチを自由に跳ね回っていた信助にとって、ゴールという檻はあまりにも重苦しく感じられるのだろう。
「信助。最初から完璧な奴なんていないよ。……そうだ、円堂監督を目指すっていうのはどう?」
天馬がパッと表情を明るくして提案した。
「そうだな! 目標はデカい方がいい。伝説のキーパーを目指して特訓すれば、不安なんて吹き飛んじまうかもよ」
俺も同調して、信助の背中を強めに叩いた。だが、信助は力なく笑って首を振る。
「円堂監督……? 無理だよ。ボクなんかが手を伸ばしたって、最初から届かない……遠すぎるよ」
信助の言葉には、謙虚さを通り越した、深い諦念が混じっていた。
自分と、伝説との圧倒的な距離。それを見上げて立ちすくむ小さな背中を、俺たちはどう励ませばいいのか分からず、ただ見守ることしかできなかった。
*
練習が終わり、夕闇に包まれ始めた雷門中のグラウンド。
「お疲れさまでしたー!」
部員たちが次々と明るい声を上げ、校門へと向かっていく。俺も天馬と一緒に、心地よい疲労感を感じながら帰り支度を整えていた。
だが、天馬がふと足を止めて振り返る。
「……あれ? 信助、帰らないの?」
グラウンドの隅、片付けの終わったゴールポストの傍らに、信助が一人で立ち尽くしていた。その背中は、夕日に照らされてひどく小さく見える。
「信助! 一緒に帰ろうよ!」
天馬が大きな声で呼びかけるが、信助は肩を震わせ、振り返ることなく絞り出すような声で答えた。
「……ごめん、天馬。今日は、先に帰ってて。ボク……もう少しここにいたいんだ」
いつもの明るいトーンではない、突き放すような物言いに、天馬は戸惑いの表情を浮かべる。
「でも、信助……」
心配して駆け寄ろうとする天馬の肩を、神童先輩が静かに制した。
「……よせ、天馬。今は一人にしてやるんだ」
「神童先輩……でも、信助あんなに悩んでて……」
「わかっている。だが、あの葛藤は信助自身が答えを出さなければならない問題だ。他人がいくら言葉を尽くしても、彼が自分で一歩を踏み出さなければ、本当の意味でゴールを守ることはできない」
神童先輩の瞳は、厳しくも温かい信頼を湛えていた。キャプテンとして、一人の選手が殻を破る瞬間に必要な「孤独」を理解しているのだ。
「……そっすね。信助があそこで何を見つけるか、俺たちが口出ししちゃ野暮だ」
俺も天馬の背中を軽く叩き、校門の方へと促した。天馬は何度も後ろを振り返り、心配そうに信助の小さな背中を見つめていたが、やがて神童先輩の言葉を噛み締めるように頷いた。
「……うん。信助、待ってるからね」
俺たちは渋々その場を後にした。
背後で、パシッ……と、ボールがグローブに当たるような、あるいは地面を蹴るような音が小さく響いた気がした。
*
結局、信助を一人残したことが気にかかり、俺と天馬は真っ直ぐ帰る気になれず、近くの公園に立ち寄っていた。
「……大丈夫かな」
ベンチに座り、所在なげに空を見上げる天馬。俺は「喉乾いたろ」と自販機へ向かった。天馬の分と俺の分、二本目を買おうとしたその時、自販機の電子音がピピピッと跳ね上がる。
「げっ、当たりかよ。……タイミングいいんだか悪いんだか」
手元には三本のペットボトル。一本余らせたまま、俺は天馬の元へ戻った。
「ほらよ。……天馬、今俺たちにできるのは、信助に負けねぇように足掻くことだけだ。あいつが戻ってきた時、俺たちが弱かったら話にならねぇだろ?」
「……そうだね。よし、俺も練習しよう! ……って、ボールがないや」
天馬が苦笑いしたその時、コロコロと足元に一つのサッカーボールが転がってきた。
「あ、ごめんなさーい!」
駆け寄ってきた少年たちにボールを投げ返すと、彼らは無邪気な笑顔で礼を言った。その少年たちの輪の中には、夕方の公園には不釣り合いな、白いスーツを纏ったピンク色の髪の紳士が混じっていた。
「君たちもどうかな? サッカーは人数が多いほうが楽しい」
紳士の穏やかな誘いに、俺と天馬は顔を見合わせ、自然とその輪に加わっていた。
ひとしきりボールを追いかけ、汗を流したあと。俺たちはベンチで一息ついた。俺は余っていた最後の一本の飲み物を、その紳士に差し出した。
「ほら、おっさん。アンタも喉乾いたろ?」
「おっさん、か。……ふふ、ありがとう」
紳士は穏やかに受け取り、楽しそうに走り回る少年たちを細い目で見つめた。
「素晴らしいものだ、サッカーは。初めて会った人間同士でも、こうして一瞬で心を繋ぐことができる」
その言葉に、俺も天馬も迷いなく頷いた。サッカーが持つ「繋ぐ力」。それこそが俺たちが信じているものだ。……だが、紳士の言葉のトーンが、ふっと重く沈んだ。
「だが……その素晴らしい力ゆえに、サッカーは恐ろしい側面も持っている」
「え……?」
天馬が息を呑む。紳士の視線は、冷徹なまでに現実を見据えていた。
「サッカーが大好きで、どんなに頑張っても報われない。……負けるという現実を知った時、その絶望は愛した分だけ巨大なものになる。人と人を繋ぐ力は、同時に人を切り離す力でもあるのだよ」
静かな、けれど逃れようのない正論。天馬は言葉を失い、少年たちの笑い声が遠く感じられるほどの静寂が流れた。だが、俺は黙っていられなかった。
「……繋がった分だけ傷つくなら、その分だけ、もう一度繋ぎ直せばいい。切れるのが怖いから繋がらないなんて、そんなの……つまんねぇだろ」
俺の言葉に、紳士はわずかに目を細めたが、首を横に振った。
「だが、現実はそう上手くはいかない。……君たちの名は?」
「……松風天馬です」
「……俺は、不知火恒陽」
「天馬くんに、恒陽くんか。覚えておこう」
紳士は、白いスーツを翻して去っていった。
すっかり暗くなった夜の闇に消えていくその背中を、天馬は複雑な表情で見送っていた。
*
翌朝、登校時間の雷門中の正門前。
俺と天馬は、昨夜公園で出会ったあの白いスーツの紳士の言葉が、澱のように胸に溜まって離れなかった。
「……おはよう。天馬、コウくん」
「あ……お、おはよう、葵……」
「……おはよ」
マネージャーたちからの朝の挨拶に、俺たちは力なく応える。いつもな元気に返す天馬でさえ、どこか心ここにあらずといった様子だ。
「二人とも、朝からそんなお葬式みたいな顔してどうしたの?」
紫が呆れたように腰に手を当てて俺たちを覗き込んできた。
「無理して一人で悩んでも仕方ないわよ。……そんなに難しい問題なら、私に相談してもいいのよ?」
ぶっきらぼうに差し伸べられた助け舟。だが、あの言葉は、安易に他人に預けられるほど軽いものではなかった。
「……いや、いいわ。ありがとな、紫。でも、これは俺たちが自分で答えを見つけなきゃいけない気がするんだ」
俺が少し考えてそう答えると、紫は一瞬目を見開いたあと、フンと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。
「えっ、ちょ……怒ったのか? 悪い、そういうつもりじゃ……」
完全な拒絶に俺は頭を抱えた。女子の機微ってのは見極めるのが難しい。困り果てて立ち尽くす俺を見て、紫は一度だけ足を止め、振り返らずに肩を小さく揺らした。
「ふふっ」
掠めるように聞こえた、鈴の音のような小さな笑い声。
「……今の、笑ったのか?」
「……多分ね。コウ、嫌われてはないみたいだよ」
天馬の苦笑いに、俺は少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。
そんな中、背後から弾むような足音が聞こえてきた。
「天馬! コウ! おはようッ!!」
振り返ると、そこには昨日の沈んだ様子が嘘のように、キラキラと目を輝かせた信助が走ってきた。
「信助! ……なんか、妙に元気だな?」
「うん! ボク、昨日あのあと特訓して、何かを掴んだ気がするんだ! だから、今日の放課後、ボクの特訓に付き合ってくれないかな?」
迷いの消えた、信助本来の真っ直ぐな瞳。
天馬はそれを見て、ようやく顔を綻ばせた。
「……よかったぁ。うん、もちろん! 喜んで付き合うよ、信助!」
自分たちの悩みはまだ解決していない。けれど、親友が自らの力で一歩踏み出したことが、天馬にとっては一番の特効薬だったようだ。
「ところで……」
茜がカメラを構えながら不思議そうに首を傾げた。
「一人で特訓してたの? ……その、掴んだっていうのは……誰かに教わったの?」
「あ、そうなんだ! 夜のグラウンドに、すっごいゴールキーパーの人が現れてね、ボクにキーパーの基礎を叩き込んでくれたんだよ!」
「凄いキーパー……? 誰だそれ」
俺が身を乗り出して尋ねると、信助は「えーっと……」と指を顎に当てて考え込んだ。
「……あ。そういえばボク、名前聞くの忘れちゃってた」
「「ええええっ!?」」
俺と天馬の声が重なる。
その人物の正体が誰であれ、元気な様子を見るに信助の中に眠っていたキーパーの芽を叩き起こしたのは間違いなさそうだ。
*
放課後のグラウンド。信助はゴールマウスの前に立ち、天馬の放つ鋭いシュートを次々と正面でキャッチしていた。その姿には迷いなど微塵もなく、天馬が「信助、なんだかいつもより大きく見えるよ!」と驚くほどの存在感を放っている。
「へへ、そうかな? 次はコウだ!来いッ!」
「おう、行くぜ信助!」
俺がボールをセットし、助走に入ろうとしたその時だ。俺の横を、空気を切り裂くような音と共に一球のボールが通り過ぎた。
「なっ……!?」
その強烈な一撃を、信助は後ずさりしながらもガッチリと両手で掴みとった。驚いて蹴り込んだ主の方を見ると、そこには見覚えのある月山国光中のユニフォームを纏った男が立っていた。
「……南沢先輩!?」
「フン、相変わらずおめでたい連中だな」
さらに、その隣には巨漢のキーパー、兵頭司の姿もあった。状況が飲み込めない俺たちの前に、三国先輩が歩み寄る。
「……実はな、南沢たちが雷門を強化するために協力しに来てくれたんだ。俺は、今の自分より鍛えてほしい奴がいると彼らに伝えた。それが、信助だ」
こうして、兵頭を臨時コーチに迎えた信助の地獄の特訓が始まった。
雷門のストライカー陣+南沢先輩が、代わる代わるPK形式でシュートを叩き込む。まずは天馬。だが、親友ゆえの甘さを兵頭に見抜かれ、一喝される。
「次は俺だ! 手加減は苦手だからな、覚悟しろ信助!」
俺は重い一撃を放つ。信助は顔を歪めながらもこれを死守。続く倉間先輩のコーナーを突くシュートも、驚異的な反応で弾き出した。
「……南沢、次は貴様だ。必殺技で行け」
兵頭の指示に南沢先輩が眉をひそめる。
「……正気か?」
「こいつの可能性を信じろと言ったのは三国だ。やれ!」
「……行くぞ、『ソニックショット』!!」
超音速の衝撃波。信助は文字通り吹き飛ばされ、ゴールの中に転がった。必殺技に対し、普通のキャッチではあまりにも無謀だ。だが、兵頭の叱責は止まらない。
「立て! 止めるという意志が足りんぞ!!」
次は錦先輩だ。
「信助ぇ、ここが正念場ぜよ!『伝来宝刀』!!」
居合の閃光が走る。信助は歯を食いしばり、兵頭の「集中しろ」という言葉を胸に、迫りくる光の刃を睨みつけた。その瞬間、信助の背後から黄金のオーラが立ち昇る! だが、それは形を成す前に霧散し、信助は再び弾き飛ばされた。
「……っ、まだだ……まだ終わらない!」
泥だらけになりながら立ち上がる信助。その心意気に、倉間先輩も表情を変えた。
「……なら、これならどうだ! 『サイドワインダー』!!」
蛇のようにうねる弾道。信助の背後に再びオーラが現出するが、まだ足りない。ボールは指先を掠め、ネットを揺らす。
そして、兵頭の視線が最後に剣城を射抜いた。その意図を察した剣城の目に、一瞬の驚愕が走る。
「……本気か?」
「壊れるような器なら、新雲には勝てん。最大火力で行け」
剣城が無言で前へ出る。信助は必死にどのシュートが来るかシミュレートするが、剣城の選択は予想を遥かに超えていた。
「出ろ……『剣聖ランスロット』!!」
化身を前に、信助の足が震え始める。
「無理だ……ボクなんかに、化身シュートなんて……!」
「信助! 逃げるな! 俺たちがついてるぞ!!」
「君ならできる! 自分を信じて、信助!!」
俺と天馬の叫びが、信助の魂に火を灯した。信助は目を閉じ、精神を極限まで統一させる。
「……逃げない。ボクが、みんなのゴールを守るんだぁぁぁッ!!」
「『ロストエンジェル』!!」
凄まじい一撃が放たれる。その場にいた全員が息を呑んだ。ゴールに向かう破滅の光。
だが、信助の絶叫と共に、先ほどまでの霧のようなオーラが爆発的に膨れ上がった。小さな背中の後ろで巨大な「守護神」がその姿を現す!
凄まじい閃光と砂煙がグラウンドを覆い尽くす。
煙がゆっくりと晴れていく中、そこにはゴールラインのわずか手前で、放心したようにボールを抱え込んだまま座り込む信助の姿があった。
「……止めた……? ボク、止めたんだ……!」
「信助ぇぇぇッ!!」
俺と天馬は、弾かれたようにゴールへ駆け寄った。
「やったな信助!!」
「凄いよ、本当に凄い!!」
雷門イレブン全員が、新しい守護神の誕生を祝福する歓声で包まれた。
ホーリーロード編までの設定集とか欲しいですか?
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いる
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いらない