イナズマイレブンGO 紅蓮の翼   作:シキDX

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第三十一話 VS新雲学園

 ついに、ホーリーロード全国大会準決勝の幕が上がる。

 俺たちが足を踏み入れたのは、その名の通り一面が砂に覆われた「デザートスタジアム」だった。

 

「ちゅーかさ、これ全部砂? 足取られて走りにくいんじゃないの?」

 

 浜野先輩が不安げにピッチを見渡す。だが、速水先輩が軽くその場でジャンプして感触を確かめた。

 

「……いえ、見た目ほど柔らかくないですね。踏み込んでも沈み込まないし、普通の土のグラウンドと感覚は変わりません。これならプレーに影響はなさそうです」

 

 少しホッとした空気が流れるが、霧野先輩の表情は険しいままだった。

 

「油断するな。これまでだって、一見普通に見えてとんでもない仕掛けがあるスタジアムばかりだった。何が起きるか分からないぞ」

 

「ああ、その通りだ。警戒を怠るな」

 

 神童先輩が引き締め、俺たちはそれぞれのポジションへと散っていった。

 

 その時だ。対戦相手である新雲学園のベンチから、一人の選手がゆっくりとフィールドへ歩を進めてきた。

 

「……えっ!?」

 

 俺の隣で、天馬が息を呑む。俺もその姿を見て、自分の目を疑った。

 オレンジ色の髪、どこか浮世離れした穏やかな微笑み。

 

「太陽……!? なんでアイツが、あそこに立ってるんだよ!」

 

 あの日、病院で出会った雨宮太陽。激しい運動はご法度だと聞かされていた、あの太陽が、新雲学園のユニフォームを着て俺たちの前に立ちはだかっている。

 

「どういうことだ……? 太陽は病気でサッカーができないはずじゃ……」

 

 天馬が激しく動揺し、その場で立ち尽くしてしまう。太陽の登場に、新雲学園の応援席からは地鳴りのような大歓声が沸き起こった。その熱狂ぶりだけで、彼がチームにとってどれほど特別な存在かが嫌でも伝わってくる。

 

「……あの選手、只者じゃないな」

 

 霧野先輩が鋭い視線を向け、ベンチの音無先生に問いかけた。

 

「先生、あの雨宮という選手の情報は?」

 

「雨宮太陽……。名前は登録リストにあるけど、これまでの試合には一度も出場していないみたいね」

 

 音無先生が慌ててPCを叩く。神童先輩も「雨宮……どこかで聞いたことがあるような気がするんだが……」と記憶を辿る。

 

「……見つけた! 彼、中学サッカー界では『十年に一人の天才』と呼ばれていた逸材……でも、重い病気で長期療養中だったはずなのに」

 

 音無先生の言葉に、神童先輩と霧野先輩の顔に緊張が走る。

 突如現れた最強の伏兵。そして、天馬と俺にとっては「友達」である。

 太陽は俺たちの視線に気づくと、眩しいほど純粋な笑顔で、小さく手を振った。その瞳の奥には、病魔をねじ伏せてでもフィールドに立つという、狂気にも似た執念が宿っていた。

 

 *

 

 ホイッスルが鳴り響き、運命の準決勝が幕を開けた。雷門のキックオフ。倉間先輩がボールをキープし、目の前に立ちふさがる新雲の真住を抜き去ろうと仕掛ける。

 だがその瞬間、ピッチが牙を剥いた。足元の砂が、まるで生き物のように轟音を立てて横方向へ流れ出したのだ。

 

「なっ……うわぁぁっ!?」

 

 足を取られるどころではない。倉間先輩はボールごと、抗う術もなくラインの外へと押し流されてしまった。これこそがデザートスタジアムの真の姿――ランダムに牙を剥く「流砂」のギミックだ。

 労せずしてボールを確保した新雲学園。スローインから、ボールは早くもあの男、太陽へと渡る

 

「……行くよ、みんな」

 

 太陽が動いた瞬間、俺は戦慄した。病気療養中だなんて信じられないほどの爆発的な瞬発力。あの神童先輩が、反応することすら許されず一瞬で抜き去られたのだ。

 

「行かせない!」

 

 天馬が必死に進路を塞ぐ。対峙する二人。太陽はどこか感無量といった表情を浮かべたが、そこに再び流砂が巻き起こった。二人ともボールごと流され、バランスを崩しかける。

 だが、太陽の判断は冷徹かつ正確だった。彼はあえて誰もいない方向へボールを大きく蹴り出したのだ。

 

「あんなところに……!?」

 

 天馬が驚愕する中、蹴り出されたボールは流砂の勢いに乗り、完璧な放物線を描いて再び太陽の足元へと吸い寄せられた。スタジアムの仕掛けすらも味方につける、圧倒的な対応力。

 一気にゴール前へ侵入した太陽が、三国先輩と対峙する。

 

「来いっ!『太陽神アポロ』!!」

 

 太陽の背後に、黄金の炎を纏った巨大な化身が姿を現した。

 灼熱のプレッシャーがスタジアムを支配する。太陽はそのまま強烈なボレーシュートを放つ。

 

「『無頼ハンド』!!」

 

 三国先輩も叫びと共に、渾身の力を込めた『無頼ハンド』で迎え撃つ!

 凄まじいエネルギーが衝突し、火花が散る。拮抗したかと思われた次の瞬間、アポロの放つ熱量が無頼ハンドを粉砕した。ボールがゴールへ吸い込まれる――

 

「……まだだ! 終わらせねぇッ!!」

 

 俺は流砂を蹴立ててゴールライン際へと滑り込み、空中で光り輝く右足を振り抜いた。

 

「ぶっ飛べ……『流星ブレード』!!」

 

 閃光を纏った俺のシュートが、太陽の放ったアポロの残火を真っ向から弾き飛ばす。それだけじゃない。ボールは俺の意志を宿したまま超高速の流星と化し、無人の新雲ピッチを一直線に駆け抜けた。

 新雲のキーパーが反応する間もなく、ネットが激しく揺れ動く。

 

「……っ、決まった……!」

 

 先制したのは、俺たち雷門だった。

 

 *

 

 フィールド中央、先制点を奪ったものの、雷門イレブンの顔に余裕はなかった。三国先輩が荒い息をつきながら、俺たちDF陣を集める。

 

「……今の太陽の化身のパワー、俺一人じゃ止めきれない。みんなの力が必要だ!」

 

 三国先輩の悲壮な決意に、俺と霧野先輩、狩屋、そして信助が力強く頷く。鉄壁の連携で「天才」を封じ込める。それが今の俺たちにできる唯一の対抗策だ。

 新雲学園のボールで試合が再開される。太陽は再び磁石に吸い寄せられるようにボールを呼び込むと、雷門の攻撃陣を軽やかなステップで次々と抜き去っていく。

 

「信助、狩屋、霧野! 三人がかりで行け! コウはこぼれ球とパスコースを狙え!」

 

 三国先輩の的確な指示が飛ぶ。三人がかりの分厚いマークに、さしもの太陽も強引な突破を断念した。彼はサイドを駆け上がる味方へパスを送ろうとするが、そのコースにはすでに俺が入り込んでいた。

 

「……そこだッ!」

 

 パスコースを限定させ、シュートポイントを一箇所に絞り込ませる。誘い込まれた敵のシュートを、三国先輩が見事に正面でキャッチした。

 

「よし! 反撃だ!!」

 

 だが、攻撃に転じようとした雷門の前に、再び「流砂」のギミックが立ちはだかる。足を取られ、パス回しが繋がらない。その閉塞感を打ち破ったのは、信助だった。

 

「天馬、パス! ……『スカイウォーク』!!」

 

 信助が砂地を蹴り、まるで空中を歩くように軽快に前進し始めた。いつの間に身につけたのか、重力を無視したその動きは砂の干渉を一切受けない。信助からパスを受けた神童先輩が、間髪入れずに必殺シュート『フォルテシモ』を叩き込む!

 決まったかと思われたが、新雲のキーパー・佐田が吠えた。

 

「『鉄壁のギガドーン』!!」

 

 現出した重厚な化身が、神童先輩のシュートを赤子のように容易く受け止める。佐田は即座に前線の太陽へ超ロングパスを送った。

 太陽が霧野先輩を鮮やかなターンでかわし、再び『太陽神アポロ』を顕現させる。放たれる灼熱のシュート。

 

「もう一度跳ね返してやる!『流星ブレード』!!」

 

 俺は三国先輩に届く前に止めようと、渾身の力で『流星ブレード』を放ち、太陽のシュートを跳ね返す。

 だが、次の瞬間、俺は自分の目を疑った。

 太陽は俺の放ったシュートの軌道を一瞬で見切り、その場で跳躍すると、俺と全く同じフォームで右足を振り抜いたのだ。

 

「こうかな……『流星ブレード』!!」

 

 カウンターのカウンター。俺の『流星ブレード』を模倣し、撃ち返されたシュートが、無情にも雷門のゴールネットを揺らした。

 

「……はぁ、はぁ……っ」

 

 着地した太陽が、一瞬だけ胸を押さえて苦しげな表情を見せる。だが、心配して駆け寄ろうとした天馬を制するように、彼はすぐに不敵な笑みを浮かべて立ち上がった。

 

「……驚いた? でも、これが僕のサッカーなんだ。……さあ、もっと熱くなろうよ」

 

 同点。スタジアムに吹き荒れる熱風が、さらに激しさを増していく。

 

 *

 

 同点に追いつかれ、スタジアムの熱気が一段と増す中、雷門のベンチが動いた。三国先輩が鬼道監督に短く言葉を交わすと、審判に選手交代が告げられる。

 

「……えっ、ボクが!?」

 

 三国の代わりにピッチへ送り出されたのは、キーパーユニフォームに身を包んだ信助だった。緊張で肩を震わせながらも、彼はあの特訓で掴んだ感覚を反芻するように、ゴール前に陣取った。

 雷門のキックオフで試合が再開される。だが、またしても「流砂」のギミックが倉間先輩の進撃を阻む。その隙を逃さず、新雲の根淵が砂の流れを逆利用してボールを奪い取った。パスの先は、やはり太陽だ。

 天馬が猛烈なプレッシャーをかける。互いの意地とプライドが激突し、激しいボールの奪い合いが続く。だが、太陽の呼吸が明らかに乱れているのが見えた。

 一瞬、天馬の心に迷い生じる。太陽はその隙を見逃さず、鋭いターンで天馬をかわし前進を再開した。

 太陽の進撃は止まらない。雷門のDF陣を物ともせず、ついに残るは狩屋一人。抜き去る技量は十分にあるはずの太陽だったが、ここで彼は意外にも横へとパスを出した。

 

「……あいつ、体力を温存したのか?」

 

 俺が直感した通り、太陽のパスを受けた根淵がノーマルシュートを放つ。

 

「止めてみせる……!来いっ!!」

 

 信助が叫ぶが、背後のオーラは形を成さずに霧散してしまう。まだ化身を使いこなせていないのだ。

 

「信助! パンチングだッ!!」

 

 ベンチから三国先輩の怒号が飛ぶ。その声に弾かれたように信助が飛び込み、辛うじて拳でボールを弾き出した。だが、こぼれ球を拾った根淵がニヤリと笑う。

 

「現れろ、『海帝ネプチューン』!!」

 

 巨大な三叉槍を携えた化身が顕現する。対する信助は焦燥に駆られ、再び化身を出そうとするが、やはり発動しない。絶体絶命の瞬間、再び三国先輩の熱いメッセージが届いた。

 

「信助! あの特訓を思い出せ!!」

 

 兵頭さんの厳しい指導、泥だらけになって繰り返したキャッチング……。信助の脳裏に、あの時の極限の集中力が蘇る。

 根淵が化身シュート技『ヘヴィアクアランス』を放つ。迫りくる水の槍。その刹那、信助の全身から眩い光が溢れ出した。

 

「うぉぉぉッ!! 『護星神タイタニアス』!!」

 

 現出した守護神の長い腕が、重圧を伴うシュートを優しく、しかし力強く抱き込んだ。土煙が収まると、ボールは信助の小さな手にすっぽりと収まっていた。

 

「……止めた! 止めたよ!!」

 

「よし、反撃だ! みんな、行くぞ!!」

 

 信助の活躍にチームの士気は最高潮に達した。神童先輩が鋭い視線でフィールドの砂の動きを凝視する。

 

「……流砂の法則は見切った!」

 

 神童先輩の指先から、指揮の軌跡が描かれる。

 

「『神のタクト』!!」

 

 砂が流れ出す直前の予兆を読み切り、雷門の選手たちが次々とパスを繋いでいく。流砂すらも道しるべに変えた一気呵成の猛攻。

 一気にゴール前まで攻め上がった神童先輩が、キーパーの佐田と対峙する。

 

「これで決める……ッ! 『奏者マエストロ』!!」

 

 現出した化身と共に放たれる必殺技『ハーモニクス』。対する佐田も『鉄壁のギガドーン』で『ギガンティックボム』を繰り出すが、神のタクトによって統率された雷門の想いが勝った。

 轟音と共にゴールネットが揺れる。

 雷門、勝ち越し。

 2対1

 神童先輩の鮮やかな一撃に、スタジアム全体が揺れるような大歓声に包まれた。

 

 *

 

 新雲学園のキックオフ。一点を追う焦燥感など微塵も感じさせない凄まじいプレッシャーと共に、やはりあの男が動き出した。

 

「……太陽ッ!」

 

 天馬が食らいつくが、太陽のドリブルはさらに鋭さを増している。霧野先輩、狩屋、そして俺の横をも瞬きする間にすり抜けていく。砂漠のピッチを滑るようなその足取りは、まさにフィールドの独壇場。しかし――

 

「……くっ、あ、あぁ……っ!」

 

 太陽が突如、胸を強く押さえて膝をつきかける。病魔の牙が、非情にも彼の肉体を蝕み始めていた。

 それでも、太陽は執念だけで立ち上がる。

 

「……まだだ。僕の命は……今、この瞬間のためにあるんだぁぁッ!!」

 

 咆哮と共に、三度目の顕現を果たす『太陽神アポロ』。対する信助も、一歩も引かずに守護神を呼び出す。

 

「ボクが止める……! 来いっ!! 『護星神タイタニアス』!!」

 

 放たれる化身必殺技『サンシャインフォース』。灼熱の業火がゴールを焼き尽くさんと迫るが、信助は精神を研ぎ澄ませ、巨大な手のひらを正面に突き出した。

 

「『マジン・ザ・ハンド』!!」

 

 化身の手が、太陽の執念を真っ向から受け止める。凄まじい衝撃波がスタジアムを揺らしたが、土煙が晴れたとき、ボールは信助の腕の中にがっしりと収まっていた。

 

「止めた……! 信助、ナイスだッ!!」

 

 信助から素早く前線へボールが飛ぶ。神童先輩を経由し、ボールは敵陣深く、絶好の位置にいた天馬へと渡った。

 キーパーと一対一。誰もが追加点を確信したその瞬間だった。

 天馬の背後に、死に物狂いで追いすがってくる太陽の気配。荒い息遣い、削り取られていく命の音――それが天馬の耳に届いたとき、彼の心に迷いが生じた。

 

「……っ、あああぁぁッ!!」

 

 迷いを振り切るように放たれたシュートは、皮肉にも天馬の心の乱れを映し出していた。ボールは無情にもゴールバーを激しく叩き、そのままラインの外へと跳ね飛ばされてしまう。

 

「……あ……」

 

 天馬がその場に呆然と立ち尽くす。絶好のチャンスを逃した衝撃と、自らの甘さへの絶望。

 

 ピピーッ、ピピ――!!

 

 そこで前半終了のホイッスルが鳴り響いた。

 リードしてはいる。だが、雷門のベンチへ戻る足取りは、誰一人として軽くはなかった。

 

 *

 

 ハーフタイム。デザートスタジアムの控え室で、俺はベンチに深く腰掛け、両手で頭を抱えていた。

 

「どうすんだよ俺……」

 

 脳裏に焼き付いて離れないのは、前半のあのシーンだ。血の滲むような特訓でようやく形にした『流星ブレード』。それを、あいつは初見で、しかも完璧な精度でコピーして見せた。それだけじゃない。俺自身のシュートを、俺自身の技で跳ね返されたんだ。

 自分が積み上げてきた時間が、一瞬で上書きされたような感覚。

 指先が微かに震える。そこへ、隣に誰かが腰を下ろした気配がした。

 

「……また、悩んでるの?」

 

 顔を上げなくてもわかる紫だ。珍しく彼女の俺に掛ける声はどこか落ち着いていた。

 

「……悪ぃ。……流星ブレード、あいつに模倣された。あの必殺技が、あんなに簡単に……」

 

 情けないとは思いながらも、絞り出したのは弱音だった。すると、紫は呆れたように小さくため息をつき、俺の横顔をじっと見つめて言った。

 

「……ねえ、コウ。それって、同じ技を使われたっていうだけでしょ? あなたの『流星ブレード』って、そんなに安いものだったの?」

 

「……えっ?」

 

「形を真似されたくらいで、あなたの努力が全部無駄になるの? あの技に込めた想いまで、あいつが模倣できたとでも思ってるわけ?」

 

 紫の言葉が、冷水を浴びせられたように脳を叩く。

 そうだ。俺があの技を完成させるまでに、どれだけボールを蹴った? あの技は、ヒロトおじさんの思いもこもってるんだ。

 

「……なら、やることはわかってるわね」

 

 紫は立ち上がり、扉の方を指差した。その瞳には、俺を信じきっている強烈な光が宿っている。

 

「どっちが『本物』か……あいつに、叩きつけてやりなさい」

 

 その言葉に、震えていた指が止まった。代わりに、腹の底から熱いものがせり上がってくるのを感じた。

 真似されたくらいでビビってどうする。俺には、俺にしか撃てない『流星』があるはずだ。

 

「……ああ。そうだな、紫。ありがとよ」

 

 俺は立ち上がり、ユニフォームの汚れを乱暴に払った。

 後半戦。天才の模倣を超える、本物の重み。それを太陽に教えてやる。

 

 *

 

 後半戦開始のホイッスルが響く。新雲学園のキックオフで幕を開けたが、その初動を断ち切ったのは剣城だった。

 

「……甘い!」

 

 根淵から強引にボールを奪い去った剣城は、前方に構える太陽の存在を確認すると、無理な突破を避けサイドの影山へパスを送る。影山が前衛を鮮やかに抜き去り、再び中央の剣城へ折り返すが――

 

「……させないよ!」

 

 死力を尽くした太陽の執念が、そのパスを空中でカットした。新雲の流れるようなパス回しから、再びボールは太陽の元へ。

 

「行かせんぜよッ!」

 立ち塞がるのは錦先輩。重戦車のようなプレスで奪い合い演じるが、太陽は神懸かり的なステップでその重心を見切り、股抜きパスを通して根淵へ繋ぐ。

 

「天馬、集中しろ!」

 

 神童先輩の怒号で、天馬はようやく我に返った。今の今まで、天馬のプレーには迷いがあった。病身の太陽を気遣う優しさが、プレイヤーとしての牙を奪っていたのだ。

 神童先輩が根淵の侵攻を阻み、こぼれた球を再び太陽が拾う。その前に、ようやく天馬が立ちはだかった。

 

 運命の再戦。だが、何度挑んでも天馬はボールを奪えない。命を削り、この一瞬にすべてを懸ける太陽と、相手の体調を案じて踏み込めない天馬。その覚悟の差は、残酷なほどプレーに現れていた。

 

「……天馬! 君の実力はそんなものじゃないはずだよ。でもそんなのは関係ない」

 

 天馬を翻弄しながら、太陽が激昂する。

 

「僕は次の試合プレイできるかどうかわからないんだ。だから目の前の試合に全力を尽くす!それが雨宮太陽なんだ!!」

 

 その叫びが、天馬の目を覚まさせた。

 

「……!そうか太陽がこんなに強いのは自分の心に従ってるからなんだね……。分かったよ……。俺も従う。この試合……全力で戦って君に勝つんだ!」

 

 優しさという名の侮辱を捨て、一人の戦士として太陽を見据える。本気の表情を見せた天馬に、太陽は満足げに、そして嬉しそうに笑った。

 

「……あははっ、それでこそ天馬だ!」

 

 決然と駆け出す両者。だが、競り勝ったのは太陽だった。天馬を抜き去り、雷門のディフェンス陣を嘲笑うかのように突破。ついに信助との一対一を迎える。

 

「『護星神タイタニアス』!!」

 

 信助は最強の盾を召喚する。対する太陽は、力押しではタイタニアスを破れないと悟っていた。彼はシュート体勢に入りながら、土壇場でボールに強烈なバックスピンをかけた。

 

「『マジン・ザ・ハンド』!!」

 

 巨大な手が空を切る。タイミングを完全に外された信助の目の前で、ボールは砂の上で跳ね、再び走り込んだ太陽の足元へ。

 

「行くよ――『流星ブレード』!!」

 

 太陽が放ったのは、俺から模倣した『流星ブレード』。

 

「今度こそっ!『流星ブレード』!!」

 

 俺はゴールライン際へ飛び込み、渾身の力を込めて同じ技で迎え撃った。二つの流星が正面から衝突し、スタジアムが白光に包まれる。

 だが……

 

「……ぐ、ああああぁぁぁッ!!」

 

 太陽の放った一撃には、彼の執念が乗っていた。力負けした俺の体が弾き飛ばされ、ボールは無情にもネットを揺らした。

 

 2対2。同点。

 

 膝をつき、砂を噛み締める俺の前に、荒い息を吐きながら太陽が立っていた。

 

「……悪いな太陽」

 

 俺はふらつきながらも立ち上がり、太陽の瞳を真っ直ぐに射抜いた。

 

「今のは俺の負けだ。……けどな、もう負けねえ。次は……本物の『流星』を、その目に焼き付けてやるよ!」

 

 俺の宣戦布告に、太陽は挑発的な、けれどどこか楽しそうな笑みを返した。

 

 *

 

 同点に追いつかれ、スタジアムの熱風が雷門のピッチを焼き尽くさんとする中、俺は天馬のもとへ歩み寄った。

 

「……天馬」

 

「コウ……?」

 

「……俺は、太陽の『流星ブレード』に、絶対に勝つ。次こそはな」

 

 俺は、砂を噛み締めた右足に力を込めた。紫にもらった言葉が、まだ胸の奥で熱く脈動している。

 

「でも、問題はその先だ。……新雲のゴールキーパー、次は絶対に化身を出してくる。ただのカウンターシュートじゃ、あの化身は破れねぇかもしんねぇ」

 

 俺の言葉に、天馬は一瞬目を見開いたが、すぐに力強く頷いた。その瞳からは、迷いなんて完全に消え去っていた。

 

「……分かった。その後は、俺に任せて!」

 

 短い言葉。けれど、そこには確固たる信頼と、彼自身の覚悟が込められていた。

 

「……頼んだぜ天馬」

 

 俺たちは拳を軽く合わせ、それぞれのポジションへと散っていった。

 雷門のキックオフで試合が再開される。勝ち越さなければ、革命の未来はない。雷門は一気呵成の攻勢に出る。輝から神童先輩へ、鮮やかなパスが通る。だが、その刹那、オレンジ色の閃光がパスコースを断ち切った。

 

「……まだ終わらないよ!!」

 

 執念の塊と化した太陽が、ボールを奪い取る。新雲学園のパス回しが再開され、ボールは再び根淵の元へ。

 

「出ろ、『海帝ネプチューン』!!」

 

 巨大な化身を顕現させ、シュート体勢に入る根淵。対する信助も、迷いなく守護神を呼び出す。

 

「『護星神タイタニアス』!!」

 

 『ヘヴィアクアランス』の構え。信助が『マジン・ザ・ハンド』で迎え撃とうとした、その瞬間だ。根淵の不敵な笑みと共に、ボールはシュートではなく、背後の太陽へとヒールパスされた。

 

「『流星ブレード』!!」

 

 またも放たれる信助の隙をついた『流星ブレード』。だが、俺はその軌道上に、最初から立ち塞がっていた。

 

「今度こそぶっ飛ばす!!俺のサッカーをお前に見せてやるよ」

 

 俺は全身の細胞一つ一つからエネルギーを絞り出し、右足に集中させた。あの特訓の日々、紫の言葉、天馬との信頼――すべてを、この一撃に懸ける。

 

「……ぶち抜けッ! 『流星ブレードV2』!!!」

 

 俺の放った流星は、太陽のそれを凌駕する、圧倒的な質量と熱量を帯びていた。正面から激突した二つの流星。凄まじい閃光がスタジアムを白く染め上げる。

 競り勝ったのは、俺だった。

 太陽の放った流星を粉砕し、俺のカウンターシュートはさらに威力を増して、新雲のゴールへ向かって一直線に駆け抜けた。

 

「……コウっ!?」

 

 新雲のキーパー、佐田が吠える。

 

「出ろ、『鉄壁のギガドーン』!!」

 

 先制点の時のようにはやらせないと言わんばかりに『ギガンティックボム』の体勢に入る佐田。その時だった。

 俺の流星に合わせるように、一人の少年が砂場のピッチを蹴り上げた。

 

「太陽より高く!もっと高く飛ぶんだ!!」

 

 天馬の咆哮と共に、彼の背後に、眩い光を放つ巨大な化身が現出した。

 

「『魔神ペガサスアーク』!!!」

 

 その背には、自由の象徴である巨大な翼が羽ばたいていた。天馬は俺の『流星ブレードV2』に、空中から化身必殺技を叩き込む。

 

「天まで届けぇぇッ!! 『ジャスティスウィング』!!!」

 

 流星の破壊力に、ペガサスアークの聖なる光が融合する。

 二人の絆が生み出した、シュートチェインが、鉄壁のギガドーンを真っ向から粉砕した。

 轟音と共に、ゴールネットが千切れるほど激しく揺れ動く。

 雷門、勝ち越し。3対2。

 

 *

 

 試合終了間際、砂漠のスタジアムに最後の熱風が吹き荒れる。新雲学園が総攻撃を仕掛けようとしたその刹那、神童先輩が電光石火の動きでボールを奪取した。

 

「……行かせるかぁぁッ!!」

 

 味方さえも驚く執念のドリブル。だが、その前をフィールド最強の男、太陽が塞ぐ。神童先輩が抜き去ろうとした瞬間、太陽が天を仰いで咆哮した。

 

「おおおおおぉぉぉッ!!」

 

 凄まじいプレッシャーが神童先輩を弾き飛ばし、砂の上を激しく転がす。しかし、真の脅威はその背後にあった。後方の根淵、牧里、樹田たちが手をかざし、全エネルギーを太陽へと注ぎ込んでいる。

 

「……出ろ、『太陽神アポロ』!!」

 

 仲間の想いを束ね、限界を超えて巨大化したアポロが灼熱の炎を噴き上げる。

 

「天馬……俺たちだって負けられない。……そうだろ?」

 

「……うん!俺たちの思いは、その上を行くッ!!」

 

 俺と天馬は同時に叫び、互いのオーラを一つに重ね合わせた。

 

「「化身合体ッ!!」」

 

 眩い光が俺たちを包み込む。その間に太陽は『サンシャインフォース』を練り上げ、雷門ゴールへ向けて放った。太陽の全てを懸けた一撃。今の信助の力でも、単独では防ぎきれない業火。

 だが、その濁流のようなシュートは、俺たちの放つ光の壁に激突した。

 光の中から現れたのは、フェニックスの紅蓮の翼とペガサスの白銀の翼を併せ持ち、鋭き隼の瞳を宿した神――

 

「『天空神ホルス』!!」

 

 『魔神ペガサスアーク』と『聖焔のフェニックス』を融合させたホルスの爪が、アポロの炎を真っ向から引き裂く。仲間の声援、これまでの苦闘、その全てが翼に宿る。

 

「「はぁぁぁっ!!『クロスウィング』!!」」

 

 聖なる旋風が新雲のゴールを突き破り、試合終了のホイッスルが響き渡った。

 

 4対2。雷門勝利!!

 

 歓喜に沸く雷門サイドとは対照的に、フィールド中央では太陽が糸の切れた人形のように崩れ落ちた。俺と天馬は、勝利の余韻に浸る間もなく彼のもとへ駆け寄る。

 

「太陽! 大丈夫か!?」

 

 天馬が必死に声をかけた。すると、太陽は少しの沈黙の後、肩を震わせて笑い始めた。

 

「……あははっ。……動けない。……指一本、動かせないよ……」

 

 ただ全力を出し切り、文字通り空っぽになっただけだった。彼は自分を信じてくれた仲間に「ありがとう」と告げ、そして俺たちを見上げた。

 

「……幸せだった。君たちと戦えて、本当に……」

 

 思い残すことはない。そう口にした太陽だったが、その瞳にはすぐに新しい火が灯った。

 

「……どうしよう? 僕はまだ……サッカーがやりたいよ!」

 

 泣き出しそうな子供のような表情。俺と天馬は、迷わず彼の熱い手を取った。

 

「……できる。病気なんて蹴散らして、また一緒にやろうぜ」

 

 俺たちが太陽を引っ張り上げると、その手はそのまま「約束の握手」へと変わった。いつかまた、最高のフィールドで相見えることを誓って。

 感動的なムードが漂う中、背後で重苦しい音が響いた。

 

「……っ! 神童先輩!?」

 

 振り返ると、そこには倒れ伏した神童先輩の姿があった。




新必殺技:『流星ブレード』
属性:火
使用者:不知火恒陽
詳細:
既存技。
ヒロトおじさんから伝授された必殺技

新化身:『天空神ホルス』
属性:風
使用者:松風天馬、不知火 恒陽
詳細:
ペガサスの翼と不死鳥の翼を持つ隼の合体化身
必殺技:『クロスウィング』
2人が化身と共に飛び上がり、化身の翼撃と共にシュートを放つ技。

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