イナズマイレブンGO 紅蓮の翼   作:シキDX

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第三十三話 VS聖堂山

 ついに、運命の日がやってきた。

 決勝戦の舞台は、ホーリーロード大会会場の象徴ともいえる巨大な塔の最上階――「アマノミカドスタジアム」。空に最も近いその場所で、中学校サッカーの頂点が決まる。

 試合開始前、雷門の控え室。

 

「……ふぅ。……はぁ……」

 

 俺は何度も深呼吸を繰り返していた。これまでの試合とは空気が違う。スタジアムを包む地鳴りのような歓声が、壁を伝って心臓を直接叩いてくるようだ。

 

「あら、コウ。あんなに特訓したのに、今更ガタガタ震えてるの?」

 

 隣で試合に必要なものをまとめていた紫が、クスクスと小馬鹿にするように笑いかけてきた。

 

「るせぇ! 震えてねーよ。……武者震いだ」

 

「そう。顔色が真っ青だけど?」

 

「……お前なぁ……!」

 

 いつもの軽口の応酬。けれど、言い返しているうちに、不思議と指先の震えが止まっていた。

 

「……ま、少しはマシになったぜ。ありがとな」

 

「勝って、日本の頂点から見える景色……しっかり拝んできなさい」

 

 紫が不敵に微笑む。俺は無言で拳を突き出した。

 

「当たり前だ。お前も一緒に見るんだぞ。……行くぜ」

 

 トン、と互いの拳をぶつけ合う。最高の相棒からのエールを受け、俺は迷いなく部屋を出た。

 ピッチへと続く薄暗い通路。そこで俺たちは、ついに「究極」と対峙した。

 聖堂山中学校。

 彼らは、静かに、だが圧倒的な覇気を纏ってそこにいた。

 

「君が……新しいキャプテンだね」

 

 聖堂山の心臓、黒裂真紅が天馬の前で足を止めた。彼は神童先輩がいないことを嘲笑う風でもなく、穏やかな笑顔で右手を差し出した。

 

「全力で戦おう。どちらがこの時代の王者に相応しいか、証明するために」

 

「……はい! よろしくお願いします!」

 

 天馬がその手を力強く握り返す。黒裂の態度はどこまでも紳士的だった。勝利を「命令」されているこれまでのシードたちとは違う。彼らは自らの意志で、最強であることを誇りに戦いに来ている。

 ついに両チームの入場。

 ピッチに足を踏み入れた瞬間、視界が開け、雲を突き抜けたような青空が広がった。ベンチ前で円堂監督が俺たちを呼び止める。

 

「いいか、みんな。……これが最後の戦いだ。俺からの指示は一つだけ。……楽しんでこい!」

 

「えっ……それだけですか!?」

 

 驚愕する俺たちに、隣の鬼道コーチと音無先生が苦笑いを浮かべる。いかにも円堂監督らしい、けれど今の俺たちに最も必要な言葉。

 

「ははっ、驚くことはないだろ? サッカーが大好きなお前たちが、最高に楽しんでプレーする。それが一番強いんだからな」

 

 監督はいたずらっぽく笑うと、一転して力強く拳を握った。

 

「行くぞ! 日本一の栄冠を掴み取れ!!」

 

「「「うおおおおおぉぉぉッ!!!」」」

 

 気合は十分だ。試合開始のポジションに散る前、車田先輩が天馬の肩を叩いた。

 

「おい天馬! 最後だ、キャプテンとして気合いの一発を入れてくれよ!」

 

「えっ、俺がですか!?」

 

「何言ってんだ。今のキャプテンはお前だろ!」

 

 倉間先輩にまで背中を押され、天馬はしぶしぶ輪の中心へと歩み出た。

 全員が身構え、天馬の言葉を待つ。スタジアムが静まり返ったその時――

 

「……ぜ、絶対に優勝しましょおぉぉ~!!」

 

 緊張のしすぎで、天馬の声が派手に裏返った。

 

「「「…………」」」

 

 一瞬の沈黙。その後、張り詰めていた空気が一気に抜ける。

 

「あはは! 天馬、それじゃ気合入らねーよ!」

 

「……っ、もう!コウ笑わないでよ!」

 

「いいか天馬。先輩後輩なんて気にするな。タメ口でいい、腹の底からぶちまけてみろ!」

 

 三国先輩の助言に、天馬が一度深く目を閉じた。

 そして、顔を上げた。その瞳に、迷いのないキャプテンの火が宿る。

 

「……絶対優勝するぞぉっ!!!」

 

「「「おおおおおぉぉぉッ!!!」」」

 

 今度は、ピッチの底から震わせるような咆哮が響き渡った。

 

 *

 

 アマノミカドスタジアムに、運命の開始の笛が鳴り響いた。

 雷門のキックオフ。剣城が天馬の意図を汲み、瞬時に空いたスペースへ走り込む。だが、パスを出そうとした天馬の視界が、遮られた。

 

「……っ、速い!?」

 

 常識外れのスピード。黒裂を中心とした聖堂山の選手たちが、まるで磁石のように天馬を包囲したのだ。出しどころを失った天馬に、右サイドから速水先輩の声が飛ぶ。

 

「天馬くん、こっちです!」

 

 天馬は咄嗟にパスを出すが、速水先輩がトラップした瞬間には、もう目の前に敵が立ち塞がっていた。

 

「無理です!浜野くん!」

 

 大きくサイドチェンジし、左サイドの浜野先輩へ。だが、そこも既に「詰んで」いた。

 一瞬の隙を突かれ、ボールを奪われる。その鮮やかな連動を見た剣城が、苦々しく吐き捨てた。

 

「……徹底してやがる」

 

 ボールは聖堂山の心臓、黒裂へと渡る。

 

「行かせない!」

 

 霧野先輩が鋭いディフェンスで対応する。黒裂の神懸かり的な切り返しにも食らいつく蘭丸。だが、黒裂は表情一つ変えず、ヒールを使ったノールックパスを後方へ流した。

 そこへ走り込んだ10番の選手が突進する。

 

「……そこだッ!!」

 

 俺は最短距離でスライディングを仕掛け、ボールを強奪した。そのまま前線の天馬へ繋ぐ。

 

「天馬、カウンターだ!」

 

 天馬が倉間先輩へのスルーパスを狙う。しかし、さっきまで攻撃の起点にいたはずの黒裂が、信じられない走力でパスコースを遮断していた。

 

「……嘘だろ、あの戻りの速さ……!」

 

 パスを封じられた天馬は、ボールを中空へ蹴り上げ、個人技での突破を試みる。だが、抜いても抜いても次が来る。錦先輩がキープして打開を図るが、聖堂山のフォーメーションは一点の綻びも見せない。

 

「こっちです!」

 

 単身敵陣へ切れ込んだ速水先輩へパスが送られる。だが、黒裂の読みはさらにその上を行っていた。

 

 黒裂はパスの軌道に完璧に入り込み、インターセプト。スピードだけじゃない。速水先輩の声から錦先輩の意図を完全に読み切っていた。

 黒裂がそのままボレーシュートの体勢に入る。そこへ、狩屋が捨て身のスライディングで突っ込んだ!

 黒裂は抜群の身体能力でボールごと跳躍し、空中で狩屋をかわす。だが、狩屋の執念はそこからだった。

 

「……逃がすかよぉッ!!」

 

 倒れ込んだ状態から、身体のバネを活かして黒裂の足元へ飛びつく!

 その奇策に、さしもの黒裂もわずかに体勢を崩した。焦って放たれたシュートはコースを外れ、三国先輩が正面でがっちりとキャッチする。

 

「ナイスだ、狩屋! 天馬、行けッ!!」

 

 三国先輩から前線の天馬へ、超ロングパスが飛ぶ。黒裂が前線に上がっている今こそ、最大のチャンス――のはずだった。

 どこからともなく現れた影が、天馬の手前でボールを攫っていった。黒裂だ。

 そのまま、彼は一気に雷門ゴールへと駆け上がる。その瞳には、聖帝への絶対的な忠誠と、勝利への冷徹な意志が宿っていた。

 

「『バリスタショット』!!」

 

 重戦車の砲弾のようなシュートが放たれる。あまりの弾速に、三国先輩は必殺技を出す暇さえ与えられない。

 雷門のネットが、無残に突き刺さるボールの勢いで激しく跳ね上がった。

 

 0対1。

 

 先制したのは、聖堂山。

 スタジアムを支配する絶望的な静寂の中、黒裂は静かに自陣へと戻っていった。

 

 *

 

 アマノミカドスタジアムに響く、聖堂山の先制を告げる残酷な歓声。一点の重みが、雷門イレブンの肩にずっしりとのしかかる。だが、俺の心は折れていなかった。

「天馬!リスタートしたら、すぐに俺に回せ!」

 

「……コウ?」

 

「策はある……信じろ!」

 

 試合再開のホイッスル。天馬の鋭い指示と共に、剣城から最短距離の低弾道パスが俺の元へ突き刺さる。

 

「霧野先輩、狩屋! 行くぞ!!」

 

 俺の合図に、二人が左右から爆発的なダッシュを見せる。『ザ・フェニックス』を発動しようとしたその瞬間、視界にあの男が割り込んできた。

 

「……そうはさせない!」

 

 黒裂だ。影のような速さで俺の懐に潜り込み、ボールを刈り取ろうとする。

 

(しまっ……!?)

 

 体勢を崩され、ボールが離れる。万事休すかと思われたその時、小さな影が猛然と飛び込んできた。

 

「させるかぁぁッ!!」

 

 信助だ!信助が、黒裂の足元から泥臭くボールを奪い去り、俺へと蹴り戻した。

 

「コウ、今だッ!!」

 

 最高の繋ぎだ。俺、霧野先輩、狩屋の三人が一点で交差する。

 

「「「『ザ・フェニックス』!!」」」

 

 爆発する炎の竜巻。黄金の翼を広げた不死鳥が、ピッチを焼き尽くさんばかりの勢いで聖堂山ゴールへ襲いかかる。

 

「……ぐ、させるものかッ!!」

 

 だが、聖堂山の守備陣もまた一筋縄ではいかない。三人のディフェンダーが身を挺してシュート軌道上に飛び込み、肉体でその威力を削りにくる。不死鳥の炎が減速し、キーパーの手前に落ちようとしたその刹那――。

 漆黒の翼を広げた剣城が、空中で待機していた。

 減速したフェニックスの核を、悪魔の力を宿した右足がさらに加速させる。

 

「『デビルバースト』――でりゃぁぁ!!」

 

 炎の不死鳥と闇の炎が融合し、シュートチェインとなってゴールネットを突き刺さった。

 

 ピーーッ!!

 

 1対1

 

「……はぁ、はぁ。……ナイスだ、剣城」

 

 俺は荒い息をつきながら、剣城と拳を合わせた。だが、隣にいた霧野先輩の表情は険しいままだった。

 

「……今の、かなり危なかったな。信助のカバーがなかったら、逆にカウンターを食らっていたところだ」

 

「ああ……。ザ・フェニックスは強力だけど、予備動作が大きい分、黒裂級の相手には乱用はできないな……」

 

 俺は自分の右足に溜まった熱を感じながら、自陣へ戻る黒裂の背中を見つめた。

 

 *

 

 同点に追いつき、勢いに乗るかと思われた雷門。だが、試合再開のホイッスルと共に、聖堂山はその「真の姿」を現した。

 これまで防御重視だった聖堂山の陣形が、一気に牙を剥く。パスワークの精度と速度が一段階跳ね上がり、中盤の要である錦先輩ですら、影を追うのが精一杯という状況に陥った。

 パスを受けたMFの日向が、立ち塞がる天馬を必殺技『ラウンドスパーク』で鮮やかに抜き去る。

  

「くっ、速すぎる……!」

 

 天馬が弾き飛ばされ、ボールは再び、絶対的エース・黒裂の元へ。

 

「行かせるかぁッ!!」

 

 俺は最短距離を読み、渾身のスライディングタックルを仕掛けた。だが、黒裂はまるで見えていたかのように、最小限の動きで俺の足をかわす。その背後に、立ち込めるような熱気が渦巻いた。

 

「現れろ……! 『炎魔ガザード』!!」

 

 スタジアムを焼き尽くさんばかりの紅蓮の炎と共に、巨大な化身が顕現する。

 

「受けてみろ! 『爆熱ストーム』!!」

 

 化身の腕に抱えられた黒裂が空高く舞い上がり、炎の竜巻と共にシュートを叩きつける。それはかつて伝説のストライカーが放ったシュートと同じだった。

 

「 『ハンターズネット』!!」

 

 狩屋が電光石火の糸を張り巡らせるが、爆炎の塊はそれを紙切れのように焼き切り、一直線にゴールへ突き進む。

 

「……止めてみせる! 『無頼ハンド』!!」

 

 三国先輩が気合と共に巨大な手を出現させた。だがシュートの威力は、その全てを飲み込み、ゴールネットを激しく揺らした。

 

 ピッ、ピーーッ!!

 

 1対2。再び、聖堂山が勝ち越す。

 

「……これが聖堂山のサッカーだ」

 

 自陣に戻り際、黒裂が呆然とする天馬の横を通り過ぎながら静かに告げた。

 その言葉には、揺るぎない自信と、対戦相手への敬意すら感じられた。力でねじ伏せるだけではない、正々堂々とした圧倒的な強さ。

 フィフスセクターが「究極」と呼ぶそのチームの壁は、俺たちが想像していたよりも遥かに高く、険しいものだった。

 

 再び一点のビハインド。だが、今の雷門に絶望の色はなかった。

 

「みんな、まだ時間はある! 一点返そう!」

 

 キャプテン・天馬の力強い声に、イレブンが呼応する。失点してもなお、前を向き続ける仲間たちの表情を見て、天馬の心に確かな手応えが宿っていた。この団結力があれば、どんな壁だって乗り越えられる。

 天馬がドリブルで中盤を切り裂く。そこへ聖堂山のMF、天瀬が立ちふさがった。

 天馬が仕掛けようとした刹那、天瀬の動きが上回った。

 

「『エアーバレット』!!」

 

 凝縮された空気の塊が天馬を直撃し、その身体を無慈悲に弾き飛ばす。こぼれたボールは、再び聖堂山の心臓・黒裂の足元へ。

 浜野先輩が食い下がるが、黒裂は華麗な股抜きでそれを翻弄する。だが、その先に待っていたのは霧野先輩だった。

 

「……ここだ! 『ザ・ミスト』!!」

 

 深い霧が黒裂の視界を奪い、鮮やかにボールを奪取する。

 

「錦、頼んだぞ!!」

 

 霧野先輩からの鋭い縦パスが錦先輩に渡る。錦先輩はスライディングを軽妙なステップでかわすと、前方の状況を瞬時に見極めた。

 

「倉間、行くぜよ!」

 

 錦先輩からのパスを受けた倉間先輩が、空中でダイレクトのジャンピングボレーを放つ。それはシュートではなく、さらに奥に走り込んでいた剣城への絶妙なパスだった。

 一点目の再現を狙う剣城。だが、そこには聖堂山の巨漢DF二人が壁となって立ちふさがる。

 剣城は不敵に笑うと、強引に突破すると見せかけて右サイドへボールを流した。そこには、完全にノーマークとなった錦先輩が走り込んでいた。

 

「出でよ、『戦国武神ムサシ』!!」

 

 二刀流の武者の姿をした化身が、錦先輩の背後に雄々しくそびえ立つ。

 

「『武神連斬』!!!」

 

 重厚な一撃が空気を切り裂き、爆音と共にゴールネットを揺らした。

 

 ピーーッ!!

 

 2対2。雷門、再び執念の同点!

 余裕を崩さなかった黒裂も、これには流石に呆然とした表情を隠せなかった。

 そこで前半終了を告げる笛が鳴り響く。

 引き上げる最中、黒裂が天馬の隣に並び、感情を押し殺した声で告げた。

 

「……驚いたよ。だが、僕たち聖堂山に敗北という文字はない。後半、その意味を知ることになるだろう」

 

 無機質に言い放つ黒裂に対し、天馬は真っ直ぐにその目を見つめ返し、太陽のような笑顔で答えた。

 

「俺たちだって絶対に負けません! 本当のサッカーの楽しさ、もっとぶつけ合いたいんです!」

 

 対照的な二人のキャプテン。

 白熱する頂上決戦は、互角のまま運命の後半戦へと突入しようとしていた。

 

 *

 

 後半戦の開始を告げる直前、スタジアムを未曾有の震動が襲った。

 

「な、なんだ!? 地震か!?」

 

 足元が激しく揺れ、アマノミカドスタジアムの構造そのものが異音を立てて変貌していく。観客席が、ピッチが、まるでもがき苦しむ巨大な生物のように縦へ、さらなる高みへと伸び上がっていく。文字通り「天の帝」の名に相応しい高度へと到達したその要塞に、俺たちは息を呑むしかなかった。

 通路で出陣を待っていた俺たちの前に、重苦しい足音が近づいてくる。

 姿を現したのはその瞳に冷徹なまでの虚無を宿した十一人の男たちだった。

 

「えっ……聖堂山じゃない!?」

 

 天馬が驚愕の声を上げる。

 先ほどまで正々堂々と渡り合っていた黒裂たちの姿はどこにもない。代わりに先頭に立っていたのは、長く鋭いピンクの髪を靡かせた、威圧感の塊のようなどこか見覚えのある男だった。




次回……最後の聖戦!!
明日の7時に出す予定です
乞うご期待!!

ホーリーロード編までの設定集とか欲しいですか?

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