イナズマイレブンGO 紅蓮の翼   作:シキDX

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投稿時間ミスってしまった申し訳ない


クロノストーン編
第三十六話 真実


 ホーリーロードの死闘から三ヶ月。

 管理サッカーの呪縛から解き放たれた少年サッカー界は、かつてない活気に沸いていた。旧聖帝・イシドシュウジこと豪炎寺さんが設立した「サッカー教育プログラム」。雷門のメンバーが全国各地の学校へ赴き、自由なサッカーの素晴らしさを伝えるこのプロジェクトの一環で、俺は長崎県にある南雲原中にいた。

 

「ナイスシュート! 今のダイレクト、完璧なタイミングだったぞ!」

 

 グラウンドで行われている五対五の紅白戦。俺はピッチの外から、声を張り上げて指示を送る。俺のアドバイスを受けた少年が、鮮やかなパスワークからダイレクトシュートを叩き込み、練習試合の幕が降りた。

 

「ありがとうございました、コウさん!」

 

 駆け寄ってくる部員たちの顔には、充実した笑顔が浮かんでいる。

 ふう、と息をついてベンチに腰を下ろすと、南雲原サッカー部の監督が隣に座り、感慨深げにグラウンドを眺めた。

 

「いやはや、コウくん。君が来てくれてから、部員たちの目の色が変わったよ。本当に感謝している」

 

 南雲原中は、中高一貫の進学校でありながら、スポーツでも県内有数の実績を持つ学校だ。特に野球部とサッカー部は「花形」と呼ばれていたが、ホーリーロードの最中、彼らはフィフスセクターに反旗を翻す「革命派」として雷門を支持した。

 その報復は苛烈だった。地区予選で送り込まれたシードがいるチームに惨敗し、一時は廃部寸前まで追い込まれたという。野球部に練習場所を奪われ、肩身の狭い思いをしていた彼らを救ったのは、豪炎寺さんのフォローと、そしてこの三ヶ月間、彼らと共に泥にまみれてボールを追い続けた俺の存在だった。

 

「俺がやったのは、きっかけを作っただけ。みんながサッカーを好きだって気持ちを思い出してくれたから、野球部の奴らも認めざるを得なくなったんだ」

 

 俺がグラウンドの隅で練習を続ける野球部員たちに目を向けると、彼らもまた、活気を取り戻したサッカー部に敬意を払うような視線を送っていた。

 だが、この充実した日々も今日が最後だ。

 

「……名残惜しいけど、俺は明日、雷門に戻る。天馬たちも、それぞれ別の場所で頑張ってるはずだから」

 

 俺は立ち上がり、集まってきた南雲原の部員たち一人ひとりと握手を交わした。

 

「コウさん、俺たち、いつか絶対に雷門に追いついてみせます!」

 

「ああ、待ってるぜ。……いつか雷門を打ち倒すぐらい強くなってくれ!」

 

 夕日に染まる長崎の街。大きく手を振って別れを告げ、俺は駅へと向かった。

 三ヶ月ぶりの雷門。天馬、剣城、信助……あいつらはどんな顔をして戻ってくるだろうか。紫は相変わらず皮肉を言いながら迎えてくれるだろうか。

 

 *

 

 南雲原中のみんなに手を振り、長崎の夕暮れを後にした。バスに乗ろうと歩き出したが、緊張が解けたせいか、腹の虫が盛大に鳴る。

 

(……クソッ、腹減った。この辺りに美味いうどん屋があったな……一走り行くか!)

 

俺は食欲に突き動かされ、路地をショートカットしようと走り出した。角を曲がった、その瞬間。

 

「……っ、危ねぇ!!」

 

目の前に、突如として人影が現れた。影というより、まるで空間が歪んで、そこから男が這い出してきたような、奇妙な現れ方だった。俺は慌てて急ブレーキをかけ、男とぶつかりそうになるのを寸前で回避した。

 

「何処から湧いて出たんだよ。気をつけろッ!」

 

俺は心臓の鼓動を落ち着かせながら、男を睨みつけた。

 男は、未来的なデザインのスーツに身を包んでいた。年齢は俺たちと変わらないように見えるが、その瞳には感情というものが一切存在しない。

俺の怒号を、男は完璧に無視した。ただ、事務的に、淡々と口を開く。

 

「ターゲット確認……お前には、ここで消えてもらう」

 

「……あ? 何言ってんだ、お前」

 

消える? 俺を? 誘拐か何かか? 困惑する俺をよそに、男はサッカーボールのような物体を取り出した。

 

「私はアルファ……お前を今から、圧縮された次元に封印する」

 

 アルファの手にある物体が、禍々しい紫色に輝き始める。その光が俺の身体を捉えた瞬間、ボールに吸い寄せられた。

 

「……な、何だこれ……身体が、吸い込まれる……ッ!!」

 

「お前はこの時代に必要ではない。存在してはならないのだ」

 

 俺は必死に足を踏ん張ろうとした。しかしあまりの吸引力で俺は足を滑らせてしまった。

 そのまま俺の身体は光るボールの中に吸い込まれた。

 

 *

 

 アルファは、コウを閉じ込めた球体を無機質な瞳で見つめ、耳元の通信機に手を当てた。

 

「……ミッション完了。これより帰還――」

 

 その言葉が、背後から突き刺さるような冷ややかな声によって遮られた。

 

「そう簡単に、帰えることができると思っているの?」

 

「……!」

 

 アルファが振り向くよりも早く、一筋の白の影が風を切って通り過ぎた。目にも留まらぬ速さ。アルファの手から、コウを封印していた球体が鮮やかに奪い取られる。

 影が止まる。そこに立っていたのは、紫だった。

 紫がボールを弄るとカチリ、と硬質な音が響くと同時に、球体から眩い光が溢れ出した。次の瞬間、地面に放り出されるようにしてコウが出現する。

 

「……痛っ! ……死ぬかと思った……紫!? なんでお前がここに……!」

 

「お礼なら後でいいわ。今はあっちの片付けが先よ」

 

 紫は「これはもう、必要ないわね」と吐き捨てると、先程までコウが入っていたボールをアルファの足元へ無造作に転がした。

 アルファは紫を警戒し身構えたが、その時、彼の耳元で再び通信が入る。

 

「……こちらアルファ」

 

 アルファの表情は相変わらず無機質だったが、その瞳が微かに揺れた。

 

「……イエス。ご指示のままに」

 

 アルファはコウと紫を一瞥もせず、空間に溶け込むようにしてその場から消え去った。

 

 *

 

 アルファが消え、静寂が戻った路地裏。俺は激しい混乱の中にいた。

 

「おい、紫。何が起きてるんだ? あいつは何者で、お前は一体……」

 

 矢継ぎ早に問い詰める俺に対し、紫は少し考えた後、静かに俺の額を指先で突いた。

 

「……まずは、アレを思い出してもらうわ」

 

 ガツン、と頭を鈍器で殴られたような衝撃が走った。

 脳裏に濁流のように流れ込んできたのは、あのゴッドエデンでの記憶だ。

 俺の『聖焔のフェニックス』が禍々しい闇に染まり、『獄炎鳥ダークフェニックス』へと変貌した瞬間。抗えない衝動に身を任せ、白竜たちを圧倒的な力で蹂躙し……そして、最後に紫によって強引にその暴走を止められた光景。

 

「俺は……一体……何をしたんだ……」

 

 自分の内側に潜んでいた「怪物」の感触に、指先が震える。

 

「その力は『セカンドステージチルドレン』の力よ。今はそのリストバンドで力を一時的に封じてるから、暴走の心配はないわ。安心して」

 

 紫は淡々と告げた。俺はその腕のリストバンドを見つめ、絞り出すように問う。

 

「……お前、何者なんだ」

 

「私はあなたから見て未来人。本名はユミル・ニヴル。……そして、一応言っておくけれど、あなたも未来人よ。未来での名前は、スルト・ムスペル」

 

「未来人……? 俺が……?」

 

 あまりに飛躍した話に、乾いた笑いが出そうになる。だが、紫の瞳は冗談を言っているようには見えなかった。

 

「あなたは赤ん坊の頃、タイムマシンの整備不良による事故に巻き込まれたの。かろうじて脱出ポッドで逃がされた結果、この時代に辿り着いた……それが真実よ」

 

「……ってことは、俺の本当の家族は……」

 

 俺の問いに、紫は静かに目を伏せた。その反応だけで、言葉以上の重みが伝わってきた。

 

「そうか……」

 

 俺は短く答えた。お日さま園で育った自分。親を知らない自分。その欠けていたパズルの一片は、あまりに遠い時間の彼方に消えていたんだ。

 

「……さっきの『アルファ』って奴はなんなんだ。なんでサッカーを消そうなんてしてやがる」

 

「あいつは『エルドラド』という組織の差し金。未来の意志決定議会よ。彼らにとって、サッカーは人類に災いをもたらす不要な存在……だから歴史から消そうとしている。理由は分からないけれど……でも、サッカーを消すなんて、絶対にさせない」

 

 紫は俺の手を強く握った。その手の温かさは、未来も過去も関係なく、今ここに生きている人間のものだった。

 

「まずは、天馬たちのところへ行くわよ。……私たちの戦いは、ここから始まるんだから」

 

 紫が腕時計を操作すると、俺たちの身体を青い光の粒子が包み込む。

 次元が歪み、長崎の路地裏から俺たちの姿は瞬時にかき消された。




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