イナズマイレブンGO 紅蓮の翼   作:シキDX

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第三十八話 サッカー禁止令

 歴史が修正され、平穏が戻ったと思ったのも束の間。翌朝、部室に飛び込んできた火来校長の一報が、俺たちの日常を再び粉砕した。

 

「政府が今日の国会で『サッカー禁止令』を可決したんです」

 

「な……サッカー禁止令!?」

 

 俺は耳を疑った。いくらなんでも、法律でスポーツを禁止するなんてありえない。だが、葵や水鳥たちの様子がおかしい。

 

「外国のチーム相手にあんな試合をやってしまったんだものしかたがないかもしれないわ……」

 

「アメリカ代表のほとんどの選手が大怪我をしたんだ。親善試合だってのに日本サッカーの面汚しだぜ!」

 

 音無先生や倉間先輩たちの言葉に、俺、天馬、信助、神童先輩の四人は顔を見合わせた。俺たちの記憶では、あの試合は3-2で日本が競り勝った、素晴らしい熱戦だったはずだ。

 

「別の試合と勘違いしてませんか? 日本代表は最後まで正々堂々と……」

 

 神童先輩が説得しようとするが、春奈先生は悲しげに首を振った。

 

「いいえ。後半戦、日本代表がアメリカの選手たちに次々と暴行を働いて……病院送りにされた選手も大勢いるわ。結局、没収試合よ」

 

 記憶が、食い違っている。

 そこへ、空気を読まずに現れたワンダバが断言した。

 

「……エルドラドの仕業だ!」

 

 突如、部室の真ん中に青いクマのぬいぐるみ——ワンダバが現れた。驚愕するメンバーを余所に、ワンダバは胸を張る。

 

「私の名はクラーク・ワンダバット! こっちはフェイ。そして……君達も説明するといい」

 

 紫は一歩前に出ると、静かに、けれどはっきりと告げた。

 

「……信じられないかもしれないけれど、私とコウは未来人よ」

 

 どよめく部室。円堂監督はそれを聞くと、懐から一枚の古い写真を取り出し、紫に見せた。

 

「もしかして、これも関係あるのか?」

 

「ええ。それはコウがこの時代に漂流した時に乗っていたものよ」

 

 紫の言葉に、監督は何かを確信したように頷いた。

 

「やっぱりか……。俺の過去も、あいつらに変えられそうになったんだ。天馬とフェイが守ってくれなければ、このサッカー部は存在しなかった」

 

「円堂監督の過去まで……!?」

 

 俺がフェイに視線を送ると、彼は「コウ君が合流する前に、中学時代の監督をアルファから守ったんだよ」と頷いた。

 事態を整理するため、俺たちはミーティング室で一ヶ月前の録画を見ることにした。

 画面に映し出されたのは、日本代表のユニフォームを着て、ラフプレーを連発する連中。

 

「あいつら……プロトコル・オメガじゃないか!」

 

 どうやら本当にサッカーを「野蛮で危険なスポーツ」だと国民に植え付けるための、エルドラドによる歴史介入があったみたいだ。

 

「でも、どうして俺たち四人だけ記憶が書き換えられていないんだ?」

 

「エルドラドの仕業じゃよ」

 

 俺の疑問に答えたのは、どこからともなく現れた奇妙な老人だった。

 

「アルノ博士!?何故ここに?」

 

「エルドラドの追っ手を逃れて、時空をRun awayしてきたんじゃよ」

 

 フェイが驚く。ワンダバが誇らしげに紹介したその老人は、タイムマシンの発明者、クロスワード・アルノ博士というらしい。

 

「時の流れは本来一本。だがパラレルワールドが生じると、世界は一つに収斂しようとする。タイムジャンプ中で別の世界にいたお主ら四人だけが、記憶の上書きを免れたというわけじゃ。」

 

 博士の小難しい説明に、俺は頭を掻いた。

 

「要するに、どうすればいいんだ?」

 

「エルドラドを倒し、歴史を正しく修正すれば全て元通りになる」

 

「そう! 我々がアメリカ代表と入れ替わり、あの試合で奴らを叩くのだ!」

 

 ワンダバが鼻息荒く宣言する。

 

「行きましょう! サッカーがなくなるなんて、絶対に嫌だ!」

 

「俺たちの未来は、俺たち自身で取り戻す!」

 

 天馬と神童先輩の言葉に、俺も強く頷いた。

 タイムジャンプには、その時代に関係する「アーティファクト」が必要だという。

 

「……これならどうだ?あの日の試合の半券だ」

 

 三国先輩が差し出したのは、あの日米親善試合の観戦チケットだった。

 

「よし、みんな行くぞ! 目指すは一ヶ月前、スタジアムだ!」

 

 円堂監督の合図で、俺たちは再びTMキャラバンへと乗り込んだ。

 書き換えられた「最悪の試合」を「最高の試合」へ。

 本当の歴史を奪還するための、二度目の時空の旅が始まった。

 

 *

 

 TMキャラバンが到着したのは、日米親善試合が開催されているスタジアムの駐車場だった。だが、降り立った瞬間に響いてきたのは、歓声ではなく悲鳴に近いどよめきだった。

 

「……まずい、時間を設定し間違えたか! 試合はもう始まっているぞ!」

 

 ワンダバの焦り声に、俺たちは弾かれたようにスタジアムへと駆け出した。

 スタジアムに足を踏み入れた俺たちが目にしたのは、無惨な光景だった。

 日本代表の皮を被ったプロトコル・オメガによる、一方的な蹂躙。スコアはすでに8-0。芝の上にはボロボロに傷ついたアメリカ代表の選手たちが倒れ伏し、にもかかわらず試合が止まる気配はない。

 

「……おかしい、審判も観客も、何であんな酷いプレーを見て何も言わないんだ!?」

 

 俺が叫ぶと、上空に浮かぶ不気味なサッカーボール状の物体を指してフェイが答えた。

 

「あれはスフィアデバイス……あの光が会場全体の精神を支配しているんだ。今の彼らにとって、この地獄は『正常な試合』として映っているんだよ」

 

 その時、ピッチの脇から楽しげな声が聞こえてきた。

 

「あーあ、やっぱり来ちゃいましたか」

 

 そこに立っていたのは、どこか幼さの残る微笑みを浮かべた少女だった。

 

「ここだけの話ですけど、プロトコル・オメガは2.0にバージョンアップしちゃいました♪」

 

少女は、愛らしい笑みを浮かべながら、俺たちの名前を次々と口にした。

 

「フェイくんにワンダバさん、それにユミルさんとスルトくんですね。私はベータと言います」

 

「……アルファはどうした」

 

 フェイが鋭く問うと、ベータは小首を傾げてクスクスと笑った。

 

「さあ? お払い箱、とでも言うんでしょうか…… 残念です!」

 

 その言葉の端々に、アルファ以上の冷酷さが透けて見える。

 

「……で、あなたたちはバージョンアップした私たちと、無謀にも勝負しちゃうわけですね!」

 

 煽るようなベータの言葉に、俺は一歩前に出て、彼女を真っ向から睨みつけた。

 

「……負けねぇよ。勝ってサッカーを取り戻してやる!」

 

 俺の言葉に、ベータは一瞬だけ瞳を細め、さらに深い笑みを湛えた。

 

「ふふ、いいですね。その威勢がどこまで持つか、じっくり楽しませてもらいます!」

 

 スタジアムの光が、さらに禍々しさを増す。

 バージョンアップしたプロトコル・オメガを相手に、俺たちの歴史奪還作戦が、今、キックオフの時を迎えようとしていた。




次回は明日の22:00になる予定です。
乞うご期待!!
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