イナズマイレブンGO 紅蓮の翼   作:シキDX

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第三十九話 VSプロトコル・オメガ2.0

 アメリカ代表としてピッチに立った俺たち。

 既にアメリカ代表は点を決められているため雷門からのキックオフだ。

 剣城が鋭いドリブルで駆け上がるが、ベータの冷徹な命令を受けたドリムが、サッカーの動作とは到底思えないラリアットを剣城に見舞った。

 

「がはっ……!」

 

 激しい音を立ててピッチに叩きつけられる剣城。誰が見ても明らかなレッドカードものの反則だ。だが、審判は虚ろな瞳で前方を見つめたまま、笛を吹こうともしない。

 

「おい、審判! 今のを見てなかったのかよ!」

 

 俺の叫びも、催眠下にあるスタジアムには届かない。何でもありと言わんばかりのドリムが、再びボールを奪おうと襲いかかってくる。

 

「……汚ねぇ真似してんじゃねえッ!『イグナイトスティール』!!」

 

 俺は襲い来るドリムの肘打ちを間一髪で回避すると、爆炎と共にボールを奪い去り、中盤の紫へ繋ぐ。

 

「コウ、ナイス!……回すわよ!」

 

 紫からの流れるようなノートラップパスが、フェイ、そして前線の錦先輩へと渡った。

 

「よっしゃあ! 『戦国武神ムサシ』!!『武神連斬』!!」

 

 錦先輩が雄叫びと共に化身を召喚し、必殺技『武神連斬』を叩き込む。勝利への突破口になるはずの一撃——。

 だが、キーパーのザノウは必殺技すら使わず、その屈強な胸板で真正面からシュートを受け止めた。

 

「な……!?」

 

 錦先輩の驚愕がチーム全体に伝染する。隙を見逃さないプロトコル・オメガは、瞬時に前線のオルカへロングフィードを放った。

 

「邪魔だ!」

 

 阻止に動くフェイの顔面を、オルカの鋭い蹴りがかすめる。

 

「……っ、危ない!」

 

 フェイが身を翻した隙に、奴らは正確無比なパス回しで俺たちのゴール前まで侵食してきた。

 ボールは、静かに待ち構えていたベータの足元へ。

 

「——ふふ。それじゃあ始めちゃいます」

 

 その瞬間、ベータの纏う空気が一変した。

 愛らしい少女の仮面が剥がれ落ち、そこにあったのは獲物をなぶり殺そうとする凶戦士の形相。

 

「来い! 『虚空の女神アテナ』——アームド!!」

 

 召喚された女神が光の粒子となり、ベータの身体に鎧となって纏い付く。「化身アームド」——。

 凶暴な笑みを浮かべたベータが、アームド状態で無慈悲なシュートを放った。

 

「……絶対に止める! 『無頼ハンド改』!!」

 

 三国先輩が渾身の必殺技で立ち向かうが、女神の力を宿したシュートはその掌を無残に弾き飛ばし、ゴールネットを引き裂かんばかりの勢いで突き刺さった。

 0-9

 

 *

 

 試合は再び、雷門のキックオフで再開された。

 だが、俺たちの心には重い影が落ちていた。ベータの圧倒的な「化身アームド」を前に、対抗する手段は限られている。

 

「化身アームドで戦うしかない……! 天馬、頼むぞ!」

 

 俺が叫び、天馬へと絶好のパスが渡る。アームドを成功させている天馬なら、この絶望を切り裂いてくれるはずだ。

 

「よし……やってやる! 『魔神ペガサスアーク』!!」

 

 天馬の背後に巨大な化身が立ち昇る。天馬は強く拳を握り、あの時の感覚を呼び覚まそうとした。

 

「アームド……ッ!!」

 

 ペガサスアークが光の粒子となり、天馬の全身を包み込もうとする。完璧なタイミングに見えた。——だが、あと一歩というところで光は歪み、形を成す寸前で霧のように虚空へと消えてしまった。

 

「え……? なんで……!?」

 

 自身の身体を見つめ、呆然とする天馬。その隙を見逃すほど、プロトコル・オメガは甘くない。

 

「どけ!」

 

 ドリムの強烈な体当たりが天馬を襲い、ボールが無情にも奪い去られる。

 

「天馬! ……クソッ、俺がやる!」

 

 俺は奪われたボールを取り返すべく、自らもアームドを試みた。だが、どれだけイメージを膨らませても、力が指先から逃げていく。

 

「クソっ……無理か!!」

 

 焦る俺の腹部に、ドリムが容赦ない至近距離からのシュートを叩き込む。

 

「がはっ……!」

 

 衝撃で視界が揺れ、俺の身体はピッチに転がった。跳ね返ったボールは、悠々とベータの足元へ収まる。

 

「あらら、二人とも格好悪いですね♪」

 

 嘲笑うベータの前に、一筋の冷たい影が立ちはだかった。紫だ。

 

「……あなたの好きにはさせない」

 

 紫の瞳が鋭く光る。彼女は迷いなく右手を掲げた。

 

「おいで……『氷雪の女神スカジ』!!」

 

 吹雪と共に現れた女神を、紫は流れるような動作で自らの身に引き寄せた。

 

「アームド!!」

 

「ならこちらも……アームド!!」

 

 銀色に輝く鎧を纏った紫が、同じくアームド状態のベータと激突する。

 スタジアムを震わせるほどの衝撃が火花を散らす。

 

「「はああああ!!」」

 

 互角の競り合い。だが、徐々にベータの圧力が紫を押し込んでいく。

 

「くっ、ああぁぁっ!!」

 

 ベータの強引な突破が紫を弾き飛ばした。均衡が崩れる。

 

「これで終わりです! 『シュートコマンド07(ダブルショット)』!!」

 

 ベータが放った重いシュートが、無防備なゴールに突き刺さった。

 鳴り響くホイッスル。虚しくも前半が終わってしまった。

 

 *

 

 ハーフタイムのベンチ。天馬は自分の両手を見つめ、震える声で呟いた。

 

「……なんでだ。あの時は、あんなに自然に力が溢れてきたのに……」

 

 一度は掴んだはずの感覚が、砂のように指の間からこぼれ落ちていく。一度もアームドに成功していない俺には、その喪失感の正体が分からず、ただ歯痒い思いで見守るしかなかった。

 

「……天馬。これは僕の推測なんだけど、たぶん、前回アームドができた時のような『共鳴現象』が起きていないんだと思う」

 

 フェイの言葉に、俺は思わず聞き返した。

 

「共鳴現象……? なんだよそれ」

 

 代わりに答えたのは、ユニフォームの汚れを払いながら立ち上がった紫だった。

 

「歴史干渉が行われた直後はね、時間の流れの振幅によって、パラレルワールド上に『複数の自分』が存在することになるの。その重なり合った自分たちが互いに共鳴して、一時的に力を増幅させていたんだわ」

 

 フェイが深刻な顔で言葉を継ぐ。

 

「でも、時間が経って雷門に関する歴史の揺れが収まった今、不安定なパラレルワールドは消えてしまった。だから、もう外側からの助け……共鳴現象は起きなくなったんだよ」

 

 天馬は困惑した表情で、眉を下げた。

 

「よく分からないけど……アームドはできないってこと?」

 

「化身アームドをするには天馬自身が力を身につけて自分のものにするしかないんだ」

 

 フェイの厳しい言葉に、天馬はガックリと肩を落とした。

 

「そんな……」

 

「——使えない力に、いつまでも縋っているわけにはいかないぞ」

 

 その時、それまで黙って状況を聞いていた神童先輩が、静かだが力強い声で天馬の肩を叩いた。

 

「俺たちが今持っているこの力だけで戦うしかない」

 

「そうだなクヨクヨしたって仕方ねえし」

 

「……うん!」

 

 そして、後半開始のホイッスルがスタジアムに響き渡る。

 圧倒的な力を持つプロトコル・オメガ2.0に対し、俺たちは再びピッチへと駆け出した。

 

 *

 

 後半戦、雷門の布陣は満身創痍だった。負傷した三国先輩たちに代わり、信助がゴールマウスの前に立ち、狩屋と影山がピッチに入る。スコアは10-0。奇しくも、エルドラドが書き換えた歴史通りの点差となってしまっていた。

 このまま日本代表になりすましたプロトコル・オメガがラフプレーを続け、没収試合になる……それが奴らの筋書きだ。

 後半開始のホイッスルと共に、奴らの暴力は今まで以上の凶悪なものに激化する。審判がレッドカードを掲げようと、奴らはそれを嘲笑うかのように無視し、雷門イレブンを肉体的に破壊しにかかった。

 ボロボロになり、土にまみれる仲間たち。その惨状を見た時俺の脳裏に、ある記憶が蘇る。

 

(……紫が言っていた。リストバンドで『力』を抑えているって……!)

 

 打開策はこれしかない。

 その時、ベータが瞬く間にゴール前へ侵入した。

 

「『シュートコマンド07(ダブルショット)』!!」

 

「虚空の女神アテナ」をアームドしたベータが、無慈悲なシュートを放つ。

 

「……やらせるかよ!!」

 

 コウはシュートの軌道上に割り込むと、自らの手首に巻かれたリストバンドを迷わず取った。

 その瞬間、全身の血管を沸騰させるような凄まじい力が爆発した。

 

「来てくれっ!!『獄炎鳥ダークフェニックス』!!」

 

 背後に顕現したのは、禍々しくも美しい、漆黒の翼を持つ「獄炎鳥ダークフェニックス」。俺は迫り来るアームドシュートを、化身の巨大な片手で鷲掴みにし、完全に静止させた。

 

「なっ……!? 止めた……!?」

 

 絶句するベータ。俺はそのまま、ダークフェニックスの咆哮と共にロングシュートを撃ち抜いた。

 漆黒の炎を纏った弾丸は、プロトコル・オメガの守備陣を焼き払い、ゴールネットを激しく揺らす。

 

「……やった……ぜ」

 

 しかし、代償は大きかった。鼻から鮮血が滴り、そのまま力なく膝をつく。

 

「コウ! 無茶しすぎよ!!」

 

 駆け寄った紫が即座にリストバンドを装着させると、溢れ出ていた力は急速に収束していった。

 だが、窮地は去っていなかった。

 ベータが冷徹な声で「イエス、マスター」とインカムに応じると、スフィアデバイスを起動させた。

 

『マインドコントロールモード』

 

 スタジアムを黄色い光が包み込み、ボロボロの仲間たちの意識が混濁していく。さらに、ベータはコウを冷たく見据えた。

 

「フェイ・ルーンと同様、危険な存在……そんなあなたたちは、存在を封印しちゃいますね♪」

 

 『封印モード』——デバイスから放たれた紫色の光が、コウを飲み込もうと吸引を始める。

 

「圧縮した次元に封印してたっぷり調べてあげちゃいます」

 

「う……あ……っ」

 

 力の反動で身体が動かない。そのまま吸い込まれそうになった時、紫が俺にしがみついた。

 

「やめて!!」

 

 必死に抵抗する紫。だが吸引力は増し、二人まとめて引きずられていく。

 

「……いい加減にしないと、本気でキレるわよ」

 

 紫の気迫が変わった。彼女がポニーテールの髪留めに手をかけ、何かをしようとしたその時——。

 

「『ゴッドハンドV』!!」

 

 立ちはだかったのは、円堂監督だった。

 輝く黄金の掌が吸引の光を真っ向から受け止め、俺たちを守る盾となる。

 

「みんな、ここは一旦引くぞ! 今の俺たちじゃ勝てない。態勢を立て直すんだ!」

 

 上空から、アルノ博士が操縦するTMキャラバンが降下してくる。

 

「急げ! 全員乗り込め!」

 

 円堂監督の指示で、仲間たちが次々とキャラバンへ避難する。俺もフェイと紫に肩を貸され、何とか乗り込んだ。

 

「監督、全員乗りました! 早く!!」

 

 天馬が叫ぶ。監督は力強く頷き、自身も飛び乗ろうとした。

 だが、その瞬間。ベータが愉悦に満ちた笑みを浮かべ、デバイスの出力を最大に跳ね上げた。

 

「……っ!? ぐああぁぁっ!!」

 

 凄まじい吸引力に、円堂監督の身体が宙に浮く。

 

「監督!!」

 

 天馬が身を乗り出し、監督の元へ行こうとするが、ワンダバがそれを制した。

 

「やめろ! もう間に合わん!!」

 

「でも監督が!!」

 

「監督の犠牲を無駄にするな!!」

 

 天馬の絶叫がスタジアムに虚しく響く中、円堂監督の姿は紫色の光の中に吸い込まれ、消えてしまった。

 TMキャラバンは激しい加速と共に、最悪の結末を迎えたスタジアムを後にした。

 取り戻すはずだった歴史。守るはずだった日常。

 その全てを失い、俺たちは時空の狭間へと逃げ延びるしかなかった。

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