また遅れてしまってすみません!
今回は短いですがデート?回です
現代の稲妻町へと戻った俺たちは、鉄塔広場で鬼道コーチと一度別れることになった。
「時空最強イレブンは任せたぞ。俺は他に円堂を助ける方法がないか探ってみる」
そう言い残し、去っていく鬼道コーチの背中を見送った後、雷門イレブンはアーティファクトを手に入れるため手分けして信長に関する手がかりを探し始めた。神童先輩や天馬たちは、インターネットや学校の図書室、あるいは豪炎寺さんからの連絡を待つために動き出す。
一方、フェイ、ワンダバ、紫、そして俺の未来人組は、エリア内に隠したTMキャラバンの中に残り、運転席のデバイスを囲んでいた。
「うーん……さっぱり分からん……。そもそも織田信長って、どれくらい昔の人なんだ?」
画面に表示されるホログラムの古文書や年表を眺めながら、俺は頭を抱えて唸った。セカンドステージチルドレンとしての能力はあっても、過去の細かい歴史の知識なんて持ち合わせているはずがない。
「約四百五十年前の人物よ、コウ。少しは歴史の勉強もしなさい」
紫が呆れたようにため息をつきながら、流れるような手つきでデバイスの画面をスクロールしていく。
「あ! 待て、今の!」
俺が指差した先には、現代の稲妻町で信長の使っていた刀が展示されているという情報が表示されていた。
「ほらこれ見ろ!これを借りに行けば一発じゃん!」
身を乗り出して喜ぶ俺の頭に、紫のチョップと共に容赦ないツッコミが飛んできた。
「バカ言わないで。そんな歴史的な貴重品、中学生が『タイムトラベルに使いたいから貸してください』って言って、おいそれと貸してもらえるわけないでしょ。最悪、不審者として捕まるわよ」
「うっ……確かに……」
結局、現代で安全かつ確実に入手できる手がかりは見つからなかった。
「やっぱり、現代で探すのは限界があるみたいだね」
フェイが画面を閉じ、前髪を軽くかき上げながら言った。
「こうなったら、やっぱり現地で探すしかないよ」
「現地で探す?」
「信長が実際に生きていた、戦国時代のゆかりの地を直接探すんだよ。歴史の教科書に載るような場所なら、何かしらアーティファクトになるような物が眠っているかもしれないからね」
フェイの提案に、俺は思わず自分の財布を取り出して顔をしかめた。
「おいおい、そんな遠いところまで行く暇なんてあるのかよ? 新幹線とか乗る金もないぜ?」
「相変わらず視野が狭いわね、コウ」
紫がクスクスと笑いながら、自分の左手首に巻かれた細身の腕時計型デバイスをトントンと叩いて見せた。
「私のデバイスの空間転移機能を使えば、現代の移動なんて一瞬よ。日本国内ならどこへだって秒単位で行けるわ」
「お、おい、マジかよ……未来の科学力、便利すぎるだろ……」
「よーし、役割分担を決めよう」
ワンダバが大きな身振りと共に指示を出す。
「私とフェイはここでTMキャラバンで調査を続けながら、天馬たちのバックアップを行う! 紫とコウは、ワープ機能を使って信長ゆかりの地へ向かい、アーティファクトになり得るものを偵察してくるのだ!」
「了解。それじゃあ、ちょうど良さそう場所へジャンプするわね」
紫が腕時計を操作すると、二人の身体を淡い光の粒子が包み込んだ。
次の瞬間、キャラバンの中から二人の姿が掻き消える。
目が眩むような時空転移の感覚が収まったとき、俺たちの目に飛び込んできたのは、現代の喧騒とはかけ離れた、静まり返った広大な緑の丘と、風に揺れる草木だった。
「ここは……?」
「滋賀県——『安土城跡』よ。かつて織田信長が天下にその名を轟かせた城があった場所」
崩れた石垣だけが静かに佇むその場所で、俺と紫の、歴史を遡るための最初の調査が始まろうとしていた。
*
現代の滋賀県、安土城跡。
かつて天下布武を掲げた織田信長が築いたという幻の城は、今はもう建物の影もなく、ただ壮大な石垣だけが歴史の面影を留めていた。
「信長って毎日こんな登ってたのかよ……」
延々と上へと続いている急勾配の石段を見上げながら、俺は思わず愚痴をこぼした。いくら毎日鍛えているといっても、ひたすら同じような景色の中を階段で登らされるのは精神的にくるものがある。
俺の文句を聞いて、前を歩いていた紫がふと足を止め、振り返ってクスクスと笑った。
「なによコウ、もしかしてもうバテたの?」
「んなわけねぇだろ! この程度、雷門のいつもの特訓メニューに比べたら全然余裕だ! ちょっと信長の生活環境に同情しただけだよ!」
負け惜しみ半分で胸を張ると、紫は「そう? それなら良かったわ」と、どこか楽しげに微笑んだ。
だがその直後、紫は観光客用に綺麗に整備された見学ルートから突如として外れ——木々が鬱蒼と生い茂る山の中へと迷いなく足を踏み入れた。
「おい紫!? どこ行くんだよ、道はこっちだぞ!」
焦って声をかける俺に、紫は立ち止まることもなく、生い茂る草木をかき分けながら涼しい顔で答える。
「観光用に整備された綺麗な場所になんて、何百年も前の物品が転がっているわけないでしょ。そういうものは大抵、誰の目にも触れずに眠っているものよ。……ほら、手付かずの場所を調査するわよ。遅れないでね、コウ」
「言うのは簡単だけどよ……」
俺はため息をつきながらも、道なき道を進む紫の背中を追いかけて森の奥へと進んでいった。湿った土の匂いと、静まり返った山の空気が、心なしか俺たちの目的である「戦国時代」の気配を少しずつ手繰り寄せているような、そんな不思議な感覚がしていた。
*
先頭を俺が歩き、狭い通路を通ったり、生い茂る草を強引にかき分けたりしながら、俺たちはくまなく手がかりを探し続けた。しかし、どれだけ時間をかけても、それらしい物は見つからない。気付けば辺りはすっかり茜色に染まり、夕暮れ時を迎えていた。
「おい、紫……。やっぱりこの探し方、結構無謀だったんじゃねぇか?」
汗を拭いながら尋ねると、紫は少し悔しそうに唇を尖らせながらも、平然とした口調で答えた。
「……仕方ないわね。最悪、この辺りに転がっている古い石垣の破片でも借りていくわ。この場所なら、誰にもバレないでしょうし」
(いや、それってただの不法占拠っていうか泥棒じゃ……)と心の中でツッコミを入れつつ、俺がさらに一歩を踏み出した、その時だった。
「キャッ……!?」
背後で、湿った土の足場がボロッと崩れる音が響いた。振り返ると、紫が体勢を崩して斜面を滑り落ちそうになっている。
「紫っ!!」
身体が反射的に動いた。俺は全速力で手を伸ばし、彼女の細い腕をがっしりと掴んで引き寄せた。
「……ふぅ、危ねぇ。大丈夫か?」
「ええ、ありがとう……。でも、ちょっと足を捻っちゃったみたい……」
見ると、紫は眉をひそめて足首を押さえていた。歩けないほどではなさそうだが、道なき山道をこの足で歩かせるわけにはいかない。
「よし、俺の背中に乗れ。背負っていってやる」
「えっ!? い、いいわよ、一人で歩けるから……」
「強がるなって。ほら、早く!」
少し躊躇していた紫だったが、俺が強引に背中を向けると、観念したように小さく溜息をついて、そっと背中に体重を預けてきた。
紫の軽い身体を背負い、再び道なき道を進んでいく。すると、いつの間にか鬱蒼とした森を抜け、綺麗に整備された観光ルートへと戻っていた。辿り着いたその場所は、かつて絢爛豪華な天守がそびえ立っていたとされる『天守跡』。そこからは、夕日に照らされて黄金色に輝く琵琶湖の美しい景色が一望できた。
「綺麗ね……」
背中から漏れた紫の呟きに、俺も「ああ、そうだな……」と見惚れていた、その時。
「あらあら、仲が良いわねぇ。若いっていいわ」
突然、背後から声をかけられて、俺たちは心臓が飛び出るほど驚いた。振り返ると、そこにはにこにこと微笑む観光客のお婆さんが立っていた。夕暮れの絶景の中でおんぶをしている姿は、どう見ても熱愛中のカップルにしか見えなかったらしい。
「ち、違います! これは、その……!」
紫は一瞬で顔を真っ赤に染め、大慌てで俺の背中から無理やり飛び降りた。あまりの勢いに俺の方がよろめくほどだった。
お婆さんはそんな紫の反応を微笑ましそうに見つめると、「せっかくの綺麗な景色だし、記念に写真を撮ってあげようか?」と親切に申し出てくれた。
「あ、じゃあ頼む!」
俺はポケットから自分のガラケーを取り出してお婆さんに手渡した。恥ずかしがって少し距離を置こうとする紫の肩を強引に引き寄せ、画面に収まる。
パシャリ、と小気味いいシャッター音が響いた。
「はい、どうぞ。仲良くね」
「ありがとうございます!」
お婆さんにお礼を言い、受け取ったガラケーの画面を二人で覗き込む。夕日をバックに、少し照れくさそうに笑う俺と、まだ顔が赤いままそっぽを向いている紫のツーショット。なんだか気恥ずかしいけれど、上手く撮れていた。
「後で紫にも写真送るわ」
そう言った瞬間、手の中でガラケーが突然けたたましく鳴り響いた。画面に表示された名前は『天馬』。
「もしもし、天馬? どうした?」
『あ、コウ! 良かった、繋がって! 二人に報告があるんだ。信長にまつわるアーティファクトが見つかったよ!』
「マジか!? どんなやつだ?」
『稲妻町で展示されてた『刀』だよ! 信助と葵と一緒に、館長さんにお願いして借りてくることができたんだ!』
電話越しに聞こえる天馬の弾んだ声。それは、まさに数時間前に俺がTMキャラバンで見つけ、紫から「そんな貴重品、中学生に貸してくれるわけないでしょ」と一蹴された、あの刀のことだった。
「……おい、紫」
俺が電話を繋いだまま視線を向けると、全てを察した紫は完全に目を逸らし、耳の裏まで真っ赤にしながらフイッと顔を背けた。そのプライドの高さと分かりやすい動揺が、なんだか無性に面白かった。
「あはは! ま、アーティファクトが見つかったんだし、結果オーライってことで!」
俺が笑いながら電話を切ると、紫はまだ赤みが引かない顔のまま、小さく「ふん」と鼻を鳴らした。
「……そうね。それに、手がかりは見つからなかったけど……中々楽しめたし、いいわ」
琵琶湖を渡る心地よい風が、紫の白く綺麗な髪を揺らす。現代での大捜索は空振りに終わったけれど、俺たちの関係は、この夕暮れの景色のように少しだけ深く、色鮮やかなものに変わっていた。