イナズマイレブンGO 紅蓮の翼   作:シキDX

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第四十六話 踊り子大作戦!?

「「「 今川義元!?」」」

 

 白鹿組の男が恐怖のあまり白状したその名に俺たち雷門のメンバーは一斉に驚愕の声を上げた。歴史に疎い天馬でさえ目を丸くしている。

 

「今川のお殿様に言われたんだ。兵にするための子供を連れて来いって」

 

 ガタガタと震えながら一気に捲し立てる無頼漢。その非道極まりない真実を耳にした瞬間、錦先輩がドスの利いた足音を鳴らして前に踏み出だした。その顔は、これまでに見たことがないほどの激しい怒りに満ち溢れている。

 

「子供たちを兵にするじゃと!まっこと許せんぜよ!」

 

 錦先輩の凄まじい怒号がアジトの木組みを震わせる。乱世の身勝手な大人の都合で、太助たちの未来が奪われようとしていたのだ。

 

「何故そんなことをする必要があるんだ!」

 

 神童先輩が疑問を口にする。それに答えたのはお勝さんだった。

 

「聞いたことがあります。なんでも近々京に登るためにたくさんの兵が必要なんだとか」

 

 今川が何故兵を集めるのか?何故ベータが今川に関わっていたのか謎が深まるばかりであった。

 

 *

 

 太助達を無事に救出した俺たちは、一度拠点にしている薄暗い古寺へと戻り、車座になって今後の対策を話し合うことにした。

 

「それにしても、あの白鹿組の背後に今川義元が控えていたとはな……」

 

 ワンダバが大きな頭を抱え、重々しく首を振る。

 

「この時代では天下取りに一番近いと言われている男だ」

 

 未来の歴史を知るワンダバが深刻な顔で言うと、気怠げに寝転がりながら藤吉郎さんが、急に「はっ!」と鼻で笑った。

 

「何を言う!天下を取るのは信長様以外おらん!今川など敵ではないわ!」

 

 相変わらずの絶対的な信長信者っぷりに、俺も思わず苦笑いしてしまう。だが、その言葉を聞いた神童先輩が、ふと真面目な顔で頷いた。

 

「……確かに、藤吉郎さんの言う通りだ。俺たちの知る本来の歴史では、このあと織田信長は、圧倒的な兵力差を覆して『桶狭間の戦い』で今川義元を討ち破ることになっている」

 

 しかし、隣にいたフェイが、冷たい水を浴びせるように厳しい口調で遮った。

 

「……それは、本来の歴史の通りに進めば、の話だよ」

 

「えっ……?」

 

「もしプロトコル・オメガが今川義元に接触して、歴史に干渉しているとしたら……本来の歴史通りに信長が勝つとは限らないよ」

 

 フェイのその言葉に、ピッチリと一同の空気が凍りつき、全員が「ううむ……」と深く唸らざるを得なかった。

 

「戦いが本格的に始まってしまえば、城信長に会うのがもっと難しくなる……その前にやるしかない」

 

 神童先輩が拳を握りしめ、覚悟を決めたように言った。今こそ信長のオーラを手に入れ、ミキシマックスを成功させなければならない。

 そこで、天馬がふと根本的な疑問を口にした。

 

「どうやったら花見の宴に忍び込めるんでしょうか?」

 

 天馬の真っ当な指摘に、今度は別の意味で一同が「ううむ……」と頭を抱えて唸ってしまった。お勝さんの話では近々開催されるらしいが、俺たちが簡単に入れるような場所ではない。

 

「……考えても、すぐに名案は浮かびそうにないね。焦っても知恵は出ないわ」

 

 気がつけば夜もすっかり更けており、昼間の激しいサッカーバトルの疲れによる疲労感もピークに達していた。

 

「そうだな。答えが出ないまま夜更かししても効率が悪い。……みんな、今日はもう寝よう。明日、また頭をすっきりさせてから考え直すんだ」

 

 神童先輩の提案に全員が同意し、俺たちはそれぞれ古寺の硬い床に雑魚寝することにした。

 

 *

 

 夜中。誰かに肩を激しく揺さぶられて、無理やり意識を引き戻された。

 

「……ん、うぅ……なんだよ?まだ夜中だろ……」

 

 目をこすりながら起き上がると、そこには俺だけでなく、天馬や神童先輩、剣城たち雷門のメンバーが全員、眠そうな目をこすりながら一箇所に集められていた。

 

 一同を起こしたのは、マネージャーの山菜茜だった。普段はおっとりしている彼女が珍しく興奮した様子で目を輝かせている。

 

「みんな、起きて!……名案を思いついちゃったの!」

 

「名案……? 茜先輩、こんな夜中に一体何ですか?」

 

 天馬が欠伸を噛み殺しながら尋ねる。茜はフフッと不敵に微笑み、人指し指を立てて言い放った。

 

「みんなで『踊り子』になるの!」

 

「「「……は?」」」

 

 みんなが激しく困惑する中、突如としてワンダバが前に躍り出た。その目は、すでに作戦の成功を確信したように怪しく光っている。

 

「信長が開く花見の宴に入り込むことができれば信長とのミキシマックスのチャンスが来る。だがどうやって入り込むのかが1番の問題だったが……」

 

 ワンダバの言葉を引き継ぐように、フェイがポンと手を叩いて納得の表情を浮かべた。

 

「踊り子なら信長に警戒されずに近づくことができるのか!」

 

「うむ! まっこと素晴らしいアイデアなぜよ!!」

 

 錦先輩がガハハと豪快に笑い、大喜びし始める。おいおい、マジで言ってるのか!?

 

「よし!みんな着替えるのだ!可愛い踊り子に変装し信長に接近する!名付けて『踊り子大作戦』!!」

 

 ワンダバが夜の古寺で一人激しく気合を入れまくっている。

 

 ……嫌な予感しかしない。

 だって、このメンバーのほとんどが「男子中学生」だぞ? 確かに俺たちのジャージを着物に変えたワンダバのテクノロジーなら、一瞬で艶やかな踊り子の衣装を用意することなんて朝飯前だろう。だが、肝心の『中身』がこれでは、見つかった瞬間にただの不審者として即座に打ち首にされるんじゃないだろうか。

 

 作戦に対し、まだ全く現実を受け止めきれず、半信半疑のままたじろぐ天馬と俺の、魂の底からの疑問の声が、静まり返った戦国時代の夜の闇を盛大に切り裂いた。

 

「「ホントにやるの~~~っっ」」

 

 

 *

 

 次の日の朝、古寺の境内には、いつになく真剣な表情の俺たちが集まっていた。

 ちなみに神童先輩の姿はここにはない。彼は信長の莫大なオーラを受け止める「器」に相応しい自分になるため、早朝から一人、過酷な特訓へと向かったのだ。中盤の要である先輩が命がけで戦っているんだ、俺たちも遊んでいるわけにはいかない。

 

「よし、全員揃ったな! 『踊り子大作戦』の具体的な詰めを行うぞ!」

 

 ワンダバが仁王立ちになり、花見の宴の会場の地図を書いた板を叩く。

 

「作戦はシンプルだ! 踊り子に変装して花見の宴に乗り込み、信長がその美しい舞に見惚れて完全に隙を見せた瞬間、この私がミキシマックスガンを照射! 一気にオーラをいただくというものだ!」

 

「問題はどんな踊りなら信長の気を引けるのかってことだよね」

 

 天馬が眉を下げて言うと、すかさず錦先輩が胸を叩いて前に出た。

 

「わしらの時代の踊りがいいぜよ! 未来のだから目新しくてウケるはずぜよ!」

 

「目新しいということなら私の時代の方がいい」

 

 ワンダバが張り合い、二人はお互いに謎のヘンテコなダンスを披露し始めた。当然、見ている俺たちの心は完璧に冷え込み、全員一致で即座に却下された。

 

「……はぁ。一応聞くけど、みんなの中でダンスの経験者とかいる?」

 

 葵が呆れ顔で一同を見渡すが、誰もが気まずそうに目をそらす。

 

「そうよね……そう都合よくはいかないか」

 

「未来よりこの時代に近い方がいいと思う」

 

 フェイが真面目な顔でみんなに語りかけた。

 

「あまりに突飛すぎる踊りが流行すれば歴史を改変することになるだろうからね」

 

「この時代に近い、古くからある踊りか……」

 

 俺は腕を組んでう〜んと唸り、ふと思いついたアイディアを口にしてみた。

 

「なぁ、それなら『ソーラン節』とかどうだ? いかにも古そうだし運動会とかでみんな一度は踊ったことあるだろ?」

 

「ダメよ、コウ」

 

 隣から紫が冷徹にツッコミを入れてきた。

 

「ソーラン節の起源は江戸時代後期から明治時代にかけて。この戦国時代から見れば、200年以上も未来の踊りになっちゃうわ」

 

「うぐっ……そ、そうか歴史って難しいな」

 

 俺が撃沈すると、今度は葵がポンと手を叩いた。

 

「それなら、日本の伝統的な『盆踊り』はどうかな? 誰もが一度は夏祭りで踊ったことがあるし、和風の宴にはぴったりだと思うんだけど……」

 

「盆踊りなら大丈夫よ」

 

 紫が知識を披露するように頷く。

 

「盆踊りの原型になる念仏踊りは、平安時代が起源のはずだから、この戦国時代に踊っても歴史の改変にはならないわ。衣装も着物だし、潜入用の変装とも相性がいいわね」

 

「よし、盆踊りに決まりだね!」

 

 天馬が嬉しそうに顔を輝かせ、葵に向き直った。

 

「葵、盆踊り踊れる? 」

 

「何度か踊ったことはあるけど細かいところまでは……」

 

 急に先生役に指名され、葵が自信なさげに両手を振る。

 けれど、天馬はいつもの真っ直ぐな笑顔で葵の手を握った。

 

「大丈夫だよ! 葵が覚えているところだけでいいから、まずは教えて。分からないところがあればみんなで考えながらやろうよ」

 

「天馬……うん、分かった! 私、頑張って思い出してみるね!」

 

 天馬のキャプテンらしい前向きな言葉に、葵も意を決して大きく頷いた。

 

 

「はい!ワンツースリーフォー!ワンツースリーフォー!」

 

 古寺の外、麗らかな陽気の差し込む平地に出て、俺たちは葵の指導の元でさっそく盆踊りの練習を開始した。

 だが……現実はそう甘くはなかった。

 葵の必死の呼びかけも虚しく、ピッチの上では息のあった動きをするはずの雷門イレブンの動きは完全にバラバラだった。

 

「ダメだ! ダメだ! ダメだぁぁぁーーーッ!!」

 

 その様子を特等席で見ていたワンダバが、頭を抱えて激しく転がり回った。

 

「リズム、ステップ、ハート! その全てが全くなってない!これでは信長を魅了するなど夢のまた夢だぞ!

 

「お前が言うな!!」

 

 すかさず水鳥の強烈なツッコミが入る。

 

「……でも、ワンダバの言うことも一理あるよ」

 

 フェイが苦笑いしながら、少し困ったようにみんなを見つめた。

 

「今のレベルだと宴の会場から追い出されかねない」

 

「どうすれば……」

 

 天馬が頭を抱え、自身のぎこちない手の動きを見つめて悩み込んでしまった。

 その時だった。

 

「お前ら、踊りが上手くなりたいのか?」

 

 ふいに、木陰の方から聞き覚えのある、元気な声が響いた。

 俺たちが声の方へ一斉に向き直ると、そこには頭の後ろで腕を組み、ニカッと白い歯を見せて笑う太助の姿があった。

 

「太助くん!」

 

 天馬が目を丸くすると、太助は地面を蹴って俺たちの輪へと歩み寄ってきた。

 

「姉ちゃんに頼んでやろうか?」

 

「お勝さんに?」

 

「ただ、姉ちゃん店の手伝いがあるから、あんまり長い時間は無理だけど……」

 

「本当っ!? 頼んでもらえるかな!」

 

 天馬の顔が一瞬でパッと輝いた。地獄に仏、いや、戦国に救世主だ。

 太助は少し照れくさそうに鼻の下を人差し指で擦りながら、嬉しそうに頷いた。

 

「この前白鹿組から助けてくれたお礼もしたいしな」

 

 そう言うと、太助はきらきらとした純粋な目を天馬に向けた。

 

「その代わり頼みがある。天馬と一緒にやったサッカーってやつまたやりたいんだ」

 

「いいよ!やろうサッカー!」

 

 天馬は力強く頷き、太助の手をガシッと握りしめた。

 

 *

 

 お勝さんの指導が始まると、バラバラだった動きが嘘のようにまとまり始めた。

 お勝さんの優しく的確な教え方のおかげで、俺たち雷門イレブンはみるみるコツを掴み、ある程度見栄えのする、息の合った盆踊りができるまでになった。

 ……ただし、錦先輩を除いては。

 相変わらず盆踊りとはかけ離れたステップを踏み続ける錦先輩の姿にお勝さんも苦笑いするしかなかったが、ともかく、作戦を実行できる最低限の形は整った。

 

 

 そして迎えた、織田信長が主催する『花見の宴』の当日。

 外の陽気とは裏腹に、張り詰めた緊張感が漂う古寺の境内に、俺たちは集まった。

 

「いよいよ花見の宴当日だ! この作戦は、神童が信長のオーラを受け取れる器を完成させているかにかかっている!……大丈夫か?」

 

 ワンダバがいつになく真剣な表情で、ミキシマックスガンを構えながら神童先輩に問いかけた。

 しかし、神童先輩は、どこか俯き気味に、自身の両手を見つめながら静かに口を開く。

 

「わからない……」

 

 その不安を振り払うように、フェイが神童先輩の前に進み出で、優しく、けれど確信に満ちた声で語りかけた。

 

「大丈夫だよ。神童くんなら、絶対に信長とミキシマックスできる。僕は信じているよ」

 

 

「フェイ……」

 

 まっすぐな未来の仲間の瞳に背中を押され、神童先輩はふっと息を吐くと、少しだけ自信を取り戻したように顔を上げた。

 

「……ありがとう、フェイ。みんなのためにも、絶対にやり遂げてみせる」

 

「よっしゃあ!踊りまくってやるぜよ!」

 

 雰囲気を変えようと、錦先輩がこれみよがしに袖をまくって鼻息を荒くした。

 だが、その目の前に、水鳥先輩が冷酷な表情で「錦、お前はこれ」と、太くて頑丈な2本の『太鼓のバチ』を突き出した。

 

「太鼓の担当だ!」

 

「な、何故ぜよ―!!」

 

 錦先輩はその場にガックリと膝をつき、まるで世界が終わったかのような顔で項垂れた。

 

「神童、剣城。お前達は笛な」

 

 水鳥先輩は続けて、神童先輩と、少し離れたところで腕を組んでいた剣城の二人に、木製の綺麗な『和笛』をそれぞれ手渡した。

 

「渡されても笛なんて吹けませんよ」

 

「そこは抜かりない!これを用意してある」

 

 そう言うとワンダバは懐から音楽プレイヤーのようなものを取り出す。

 

「準備は整った!では行こう!花見の宴へ!」

 

 *

 

 俺たちは織田信長が主催する『花見の宴』の会場へと到着した。

 絢爛豪華な門の前には、すでに多くの芸人や踊り子たちが長蛇の列を作っている。どうやら、宴に相応しい者だけを入れるための「軽い面接」のようなものがあるらしい。

 俺たちはワンダバスイッチによって着替えた艶やかな踊り子の着物に身を包み、緊張しながら列に並んだ。

 だが、前方で行われている面接の様子を見ていると、何かがおかしかった。

 

「はい、そこのお前達。美人だから合格!」

 

「次! ……うーん、お前達はカッコ良すぎるから不合格!」

 

 立ちはだかる審査員の武士はたったの一人。しかもその判断基準はめちゃくちゃで、かなり大雑把かつ雑極まりないものだった。

 やがて、俺たちの番が回ってくる。

 

「次、そこな。……ほう、これは中々良いではないか」

 

 審査員の目は、葵や紫、水鳥先輩たち女子メンバーにはかなり好評のようで、鼻の下を伸ばしている。しかし、俺や天馬、フェイたち変装した男子メンバーに視線が移ると、途端に微妙な顔になった。

 

「ううむ……。これは微妙じゃな……」

 

 審査員が顎をひねり、不合格を言い渡そうかと迷い始めた、その瞬間だった。

 

「合格ぜよ?」

 

 突如、列の真ん中から堂々と前に躍り出たのは、錦先輩だった。

 彼がバッと振り返り、その顔を審査員の目の前に突き出した瞬間、俺たちは全員「ぶっ」と吹き出しそうになった。なんと錦先輩の顔には、いつの間に塗ったのか、お世辞にも綺麗とは言えないおしろいがべったりと、それはもう強烈なインパクトで塗りたくられていたのだ!

 

「な、ななな、なんじゃーーーッ!?」

 

 あまりの衝撃に、審査員の武士はひっくり返らんばかりに驚愕した。

 

「不合格じゃ!不合格!!」

 

 激怒した審査員に一発で叩き出され、俺たちは門から少し離れた木陰へと追いやられてしまった。錦先輩は顔を真っ白にしたまま、「ウケると思ったぜよ」本気で首を傾げている。水鳥先輩の冷たい視線が突き刺さっていることには気づいていない。

 

「どうしたらいいんだろう」

 

 天馬が衣装の裾を握りしめて頭を抱えていると、ふいに、上空の太い枝の上から聞き覚えのある軽薄な笑い声が降ってきた。

 

「天馬じゃあないか!!」

 

「藤吉郎さん!こんなところでどうしたんですか?」

 

「せっかくの機会じゃ。遠くからでも一目信長様を見ておきたいと思ってな」

 

「藤吉郎さんは招待されてるの?」

 

「いや、だが入り込むくらい簡単じゃ。ここを使えばな」

 

 藤吉郎さんはニカッと笑い、自身のこめかみを人差し指でトントンと叩いた。頭脳、つまり知恵を使えばどうとでもなる、ということだ。

 藤吉郎さんは先ほどの審査員の元へと堂々と歩き出した。

 

「なんと!あなた方が!あの伝説の松風家の天馬といえば朝廷も認めたほどの踊りの名手ではありませんか!」

 

「な、何!」

 

 あまりの迫真の演技と、聞いたこともない大層な肩書きに、審査員の武士がゴクリと唾を呑む。

 

「お引き止めして申し訳ありませんでした!さ、どうぞお帰りを!」

 

「ま、待て。私の特別な計らいでお前達を特別に花見の宴に参加することを許可しよう」

 

 藤吉郎さんの天才的な嘘と口八丁により、俺たちはついに、織田信長が待つ絢爛たる『花見の宴』の会場へと足を踏み入れることに成功したのだった。

 

 *

 

 藤吉郎さんの機転によって、俺たちはついに宴の主舞台へと上がった。

 視線の先、遥か高いやぐらの上の特等席から、織田信長が鋭い眼光でこちらを見下ろしている。その佇まいから放たれる圧倒的な威圧感に、舞台に立つだけで身体がすくみそうになる。

 

「……よし!」

 

 舞台袖のフェイが未来の機械を操作すると、実際には誰も演奏していないはずの、どこか懐かしくも賑やかな祭囃子の音色が響き渡った。神童先輩と剣城も、事前に打ち合わせたとおり必死に指を動かして笛を吹くフリを合わせる。

 

 ——だが、本番のプレッシャーは想像以上だった。

 

「あ、あれ……っ!?」

 

 信長の視線に完全に呑まれた俺たちは、緊張のあまり身体が思うように動かない。付け焼き刃の練習ではボロが出るのは早く、ステップが狂い、手の動きがズレ、次々とミスを連発してしまう。やぐらの上の信長は、退屈そうに頬杖をつき、全く興味を示していない。

 

(クソッ……このままじゃ信長を魅了するどころか、ミキシマックスガンを構える隙だって作れないぞ……!)

 

 俺たちの間に焦りが広がった、まさにその時だった。

 コン、コン……と、場違いな小気味いい音が響き、舞台の中央へと一つのサッカーボールが転がってきた。

 

「えっ……!?」

 

 驚いてボールの来た方向を見ると、舞台袖の物陰から、藤吉郎さんがニカッと不敵な笑みを浮かべてこちらに手招きをしていた。その「お前たちの本当の武器を見せてみろ」と言いたげな表情を見た瞬間、天馬の瞳にいつもの真っ直ぐな光が戻った。

 

「……そうか。俺達がやるべきなのはサッカーだ!」

 

 天馬は転がってきたボールを足元でピタリと止めると、次の瞬間、流れるような動作でリフティングを始めた。

 

 突然の予定にない行動に、皆んなが呆気に取られる。だが、その突飛な行動に目を奪われたのは、仲間たちだけではなかった。

 

「ほう……?」

 

 それまで退屈そうにしていた信長が、初めて僅かに身を乗り出し、天馬の足元へとその鋭い視線を注いだのだ。信長の関心を惹きつけることに、ついに成功した!

 

「神童先輩、行きます!」

 

 踊りではなく、自分たちのすべてである『サッカー』でこの宴を魅了する。天馬のその意図を瞬時に察した神童先輩が、即座にそのパスを受け止めた。

 

「そう言うことか!」

 

 神童先輩は着物の裾をひるがえしながら、華麗なトラップから美しい放物線を描くロングパスを俺へと送る。

 

「よし、俺たちも合わせるぞ!」

 

 俺と紫、剣城も即座に連動し、舞台の上で目まぐるしくボールを回し始めた。

 ステップと共に繰り出される正確無比なパスワーク、空中でボールを操るアクロバティックな身のこなし。サッカーというスポーツの存在すら知らない戦国時代の人々にとって、それは未知の、しかし言葉を失うほどに美しい「ボールの舞」として、深い感銘を与えていった。

 会場中が静まり返り、誰もがその一蹴一蹴に釘付けになる。それは、やぐらの上で見つめる信長も例外ではなかった。彼の瞳には、俺たちの放つ強いエネルギーが確かに映り込んでいた。

 

「今だ、ワンダバ!!」

 

 舞台袖からフェイの鋭い合図が飛ぶ。

 

「任せろッ!!」

 

 ワンダバが叫びながら舞台裏から飛び出し、懐からミキシマックスガンを抜いた。二つの銃口の一方を神童先輩に、もう一方をやぐらの上の信長へと向け、引き金を絞る!

 ガンの先端から強烈な光のエネルギー線が放射され、信長の身体から黄金に輝く凄まじいオーラが引き抜かれ、神童先輩へと流れ込んでいく。

 しかし神童先輩へと流れ込んで行ったオーラはすぐに霧散してしまう。

 オーラ奪取は完全に失敗。霧散していく光の中で神童先輩が膝をつくと同時に、宴の静寂は破られた。

 一瞬で我に返った周囲の兵士たちが、槍を構えて一斉にワンダバへと襲いかかる。

 当然、その追及の手は、一緒に怪しげな舞を披露し、共謀していたとしか思えない俺たち雷門イレブンにも一斉に向けられる。一転して絶対絶命の窮地だ。

 ワンダバは逃げ出そうと短足を必死に動かした。だが、用意周到なことに、頭上からバサリと大きな捕縛網が降ってきて、ワンダバを完全に押さえつけた。

 

「曲者です〜」

 

 そこに現れたのは、兵士に変装して宴に紛れ込んでいた、プロトコル・オメガのベータだった。

 

「こやつらは信長様の命を狙う不届きものです~!ほら、これが証拠!」

 

「むっ!」

 

 ベータは網の中からワンダバのミキシマックスガンを強引に奪い取ると、それを高く掲げてやぐらの上の信長に見せつけた。

 自身のオーラを奪われかけ、さらに怪しげな未来の兵器を突きつけられた信長が、ゆっくりと立ち上がる。その顔は、これまでに見たことがないほどの、冷徹で激しい「怒り」の炎に燃え上がっていた。

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