シャルル王太子からの援軍を引き連れ、俺たちはオルレアンへの途上にあるヴォークルールの街へと戻ってきた。
無事の帰還を待っていた仲間たちが、笑顔で俺たちを出迎えてくれる。
「コウ!無事でよかったわ」
まっさきに駆け寄ってきた紫が、安堵の息をつきながら言葉をかけてきた。
「敵中を横断するなんてあまりに危険だと思ったけれど……怪我もないみたいで本当に安心したわ。お疲れ様」
「おう!サンキューな!」
そんな俺たちの傍らで、信助が目を丸くして街道を埋め尽くす軍勢を見上げていた。
「すごいや……!こんなにたくさんの兵隊さんを引き連れてくるなんて、ジャンヌさんって本当にすごいんだね!」
「史実の記録では、この時の援軍は約一万二千人いたとされているけれど……実際に目の当たりにすると圧巻の光景ね」
紫の感心したような呟きに、俺はドヤ顔で胸を張った。
「だろ!すげえんだよ!俺は何もしてなかったけどさ!」
「自慢気に言うことじゃないでしょ」
紫に呆れ混じりの苦笑いを返されたが、無事に合流できた安堵感で場が和らぐ。
ヴォークルールで待機していた仲間たちもキャラバンや馬車に乗り込み、俺たちはついに決戦の地・オルレアンへと向けて進軍を開始した。
*
重厚な門がゆっくりと開き、ジャンヌ率いる軍勢がオルレアンの街へと入城する。
半年間という果てしない包囲戦に苦しめられてきた街の人々は、沿道を埋め尽くし、割れんばかりの大歓声で俺たちを迎えてくれた。
「ジャンヌ・ダルク様だ!」
「これでオルレアンは救われるっ!」
民衆の歓喜の叫び。しかし、彼らが掲げる手は垢で汚れ、痩せ衰え、骨が浮き出ている者ばかりだった。
食糧も底を突きかけ、民の疲弊は限界に達している。ジャンヌが懸念していた通り、オルレアンは明日にも陥落してもおかしくない絶望の淵に立たされていたのだ。
そこへ、必死の思いでシノン城へ使者を送っていたオルレアンの騎士が出迎えた。
「ジャンヌ様……よくぞ、援軍をお連れくださいました……!」
ジャンヌはその騎士の両手を優しく包み込み、申し訳なさそうに頭を下げた。
「遅くなってごめんなさい。さぞ辛かったことでしょう……」
そしてジャンヌは、その華奢な身体からは想像もつかないほど決然とした瞳で振り返り、全軍に向けて鋭く叫んだ。
「敵はこちらに援軍が来たことに気づいていません。今のうちに総攻撃を仕掛けましょう!!」
フランス軍の堂々たる入城により、外囲を固めていたイングランド軍はいま明らかに浮き足立っていた。味方の士気が最高潮に達し、敵の隙が生まれたこの瞬間こそが最大の勝機。ジャンヌは直感的にそれを理解していたのだ。
だが——
「総攻撃は時期早々だ」
重々しい声を上げたのは、シャルルの命で同行してきた重臣であり、百戦錬磨の騎士であるラ・イールとジル・ド・レだった。
ラ・イールが顔をしかめ、唐突な指令に待ったをかける。
「左様、まずは旅の疲れを癒すのが先というもの」
「で、でもオルレアンの士気が高まっているうちに戦わなくちゃ!」
喰い下がるジャンヌに対し、ジル・ド・レが冷ややかな、しかし高圧的な視線を向けた。
「それも神のお告げか?」
「い、いえ……」
「戦は我ら騎士に任せておけ」
そう言い捨てると、二人はジャンヌの反論を聞く耳も持たず、さっさと前線基地である拠点へと姿を消してしまった。
*
兵たちが動いてくれない以上、俺たちにできることもない。仕方なく一度体を休めることになった。
階段に腰を下ろし、俺は隣に座る紫に声をかけた。
「なあ、紫。……正直、今の状況ってどっちの言い分が正しいと思う?」
紫は少し呆れたような、だけど確信に満ちた表情で答えた。
「……体を休めて体力を回復させるのも、戦いにおいては確かに大切なことよ。でも、相手が隙を見せている最大の勝機を逃してまで休息を優先するなんて……どう考えても愚策でしかないわ」
「だよな!こんな時に攻められでもしたら一網打尽だしな!」
紫の言葉に勇気をもらった俺は、ポンッと自分の膝を叩いて立ち上がった。
「あの頭の硬い騎士たちが動かないなら、俺だけでも一言物申してくる! ジャンヌの言う通りにするべきだってさ!」
鼻息荒くラ・イールたちのいる城内へ向かおうとした、その時だった。
「おい、一体何が起きたんだ!?」
「ジャンヌ様が……!?嘘だろ、本当にか!?」
城門のあたりから、兵士たちの慌ただしい怒号と走る足音が響いてきた。空気が一瞬で緊迫したものへと変わる。
嫌な予感がした俺と紫さんは顔を見合わせ、走り寄ってきた近くの兵士の腕を掴んだ。
「ちょっと待ってくれ! 何かあったのか!?」
「お前たち……!大変だ、ジャンヌ様が……ジャンヌ様が少数の手勢だけを連れて、出撃してしまわれたんだ!」
「なっ……出撃!?どこへ向かったんだ!?」
「イングランド軍が築いた、目と鼻の先にある砦だよ! 騎士様たちが動かないのを見て、ご自身で打って出られたんだ……!」
「そんな……!?」
俺が絶句していると、隣で話を聞いていた紫がハッと息を呑み、苦々しい表情で呟いた。
「……きっとジャンヌさんは、自分が先陣を切って飛び出せば、後ろから兵士たちが続いてくれると信じて突撃したんだわ……!」
自分の命をなげうってでも、この停滞した状況を打ち破り、民を救おうとしたのだ。だが、ろくな援軍もないまま強力なイングランド軍の砦に突っ込むなんて、自殺行為以外の何物でもない。
「冗談じゃないぞ……!あんなに優しいやつを、一人で死なせられるかよ!」
「ええ、行きましょう、コウ!」
俺と紫はすぐさまジャンヌが向かったという前線の砦へ向かった。
*
途中で天馬たちとも無事に合流し、俺たちはジャンヌが向かったというイングランドの砦付近へと辿り着いた。
だが、視界に飛び込んできたのは、立ち上る黒煙だった。
「そんな……!もう戦いが始まってる!?」
天馬が息を呑む。
砦へと続く大きな橋の向こうから、凄まじい怒号と金属のぶつかり合う音が響いてくる。一刻も早くジャンヌのもとへ駆けつけなければ、彼女の命が危ない。
「急ごう!ジャンヌを助け出すんだ!」
霧野先輩が先頭を切って橋を渡ろうとした、その時だった。
「おっと待ちな」
俺たちの眼前に一人の男が立ちはだかった。
圧倒的な威圧感。ただ者ではない雰囲気を全身から放つ男は、不敵な笑みを浮かべながら名乗った。
「俺はザナーク・アバロニク。……名も無き小市民だ」
「いや、ガッツリ名前あんじゃねえか!!」
そんな俺のツッコミを完全無視し、フェイが警戒を露わにしながら問い詰める。
「何をしに来たんだ!」
「ハッ、俺と遊んでくれる奴を探しにな……」
ザナークがフッと凶悪な笑みを深めると同時に、彼の背後の空間が歪み、一瞬にして11人の影が現れた。
それはガンマ率いるプロトコル・オメガ3.0だった。
「お前たちには二つの選択肢がある。こいつらとサッカーで戦って勝つか。それとも向こうまで泳いでいくかだ。ま、泳いだら邪魔するがな」
「くっ……!やるしかないか……!」
「そういうと思ったぜ」
霧野先輩が歯噛みする。ジャンヌの危機を前に、こんなところで足止めを喰らうわけにはいかない。
その時、後ろから猛スピードで追いついてきた足音が響いた。
「皆の者、ジャンヌに続け!騎士の誇りを見せるのだ」
遅れてやってきたのは、シャルル王太子率いるフランス軍だった。
だが、ザナークは俺たちやフランス軍の動揺など意にも留めず、スフィアデバイス」に手をかざした。
『フィールドメイクモード』
デバイスから溢れ出た眩い光が橋全体を包み込み、一瞬にして広大なサッカーフィールドが現出する! さらに、フィールドの外周を遮断するように強力な結界が張り巡らされ、俺たちは完全に閉じ込められてしまった。
「聞かれる前に説明するぜ。ここからはこの試合が終わるまでここから出られない。ほらほら早くしないと歴史が変わっちまうぜ」
もはや道は一つ。プロトコル・オメガを叩きのめして、この場を力ずくで突破するしかない!
雷門の大監督を自認するワンダバが、青い胸を力強く叩いて前に踊り出た。
「いいだろうザナークとやら!この大監督、クラーク・ワンダバット様が相手だ!」
「……かんとくとは何だ?」
威勢よく叫んだワンダバの横で、シャルルが不思議そうに隣の茜先輩に問いかけた。
「監督は全ての人に指示を出す一番偉い人のこと」
茜先輩が簡潔に答えると、シャルルは「ほう!」と胸を張り、当然のような顔でさらに前へしゃしゃり出た。
「つまり王のようなものか。ならば!この余が務める!」
「だああああああ!!?」
またしても超展開で監督の座を奪われ、頭を抱えてショックに打ちひしがれるワンダバだった。
*
フィールドに広がり、それぞれのポジションに就く雷門イレブン。
だが、向かい合うプロトコル・オメガ3.0の選手たち対峙した瞬間、息を呑むような重苦しい圧迫感が全身を襲った。
「こいつら…」
「様子が違う……」
フェイも不穏な気配を感じ取り、眉をひそめて警戒を強めた。
雷門の動揺をあざ笑うかのように、敵陣の中央で髪をかき上げたガンマが、口元に酷く歪んだ笑みを浮かべる。
「ザナーク様とミキシマックスしたプロトコル・オメガ3.0の力見せてやろう」
「何!?」
「全員がミキシマックスしているだと!?」
ガンマの得意げな言葉に、雷門サイドに激震が走る。
ザナークのパワーがガンマに上乗せされている。嫌な汗が背中を伝った。
容赦なく、試合開始のラッパの音がフィールドに響き渡る。
ガンマの軽いキックオフからボールを受けたレイザが、凄まじいスピードでド直球にドリブルで駆け上がってきた。
「させるかよ!」
俺や神童先輩たちが迎え撃とうとポジションを詰める。
その時だった。ベンチの指示出しエリアから、聞き捨てならない大声が響き渡った。
「全員で王の城を守れい!」
叫んだのは、大監督の座を横取りしたシャルル王太子だった。
「……はぁぁぁ!? 全員防御!?」
思わず叫んでしまった。サッカーの試合で、キックオフ直後からフィールドプレイヤー全員で自陣に引き籠もれというのか。
「ちょっと待ってくれ!そんな指示、守れるかよ!」
「ああ、さすがに無茶すぎる!一旦無視してこのまま前進するぞ!」
俺と神童先輩の判断で、シャルル王太子の指示をスルーし、前方へプレスをかける。
レイザは迫る俺たちを嘲笑うようにバハムスへと横パスを出した。
「止めるぜよ!」
「うちがもらったやんね!」
錦先輩と黄名子が2人がかりでバハムスに襲いかかる。しかし、バハムスはそのゴツい巨体からは想像もつかないほどしなやかでトリッキーな足さばきで、二人を翻弄しながらヒールでバックパスを打ち上げた。
宙を舞うボールを綺麗に足元に収めたのは、ガンマだ。
「フッ……スマート!」
自画自賛の決め台詞とともに、疾走するガンマ。
その圧倒的な自信と内に秘めたオーラに強烈な危機感を抱いた神童先輩が、剣城を伴って即座に二人で立ち塞がる。
「行かせない!」
「ここで止める!」
雷門のダブルエースによる固いチェック。
だが、ガンマはそれすらも織り込み済みだと言わんばかりに冷ややかに口元を緩めた。
「フッ……想定の範囲内だ」
目にも留まらぬ高速シザースから、一瞬の加速。神童先輩と剣城の隙間を、まるで幻影のようにあっさりと通り抜けてしまった。
「な……っ!?」
「速い……!」
二人が置き去りにされる。破竹の勢いで中央を突破したガンマの前に、次なる壁として立ちはだかったのは俺と霧野先輩だった。
「これ以上は行かせねぇ!」
「ここで食い止めるんだ!」
俺と霧野先輩が距離を詰め、挟み込もうと足を伸ばす。
しかし、ガンマの瞳が妖しく赤く光り輝いた。
「ハァァァァッ!!出よ!『迅狼リュカオン』!!」
凄まじいプレッシャーとともに、ガンマの背後に巨大な狼の化身・迅狼リュカオンが顕現する!
ガンマはそのまま溜めを作り、容赦ない一撃をボールへと叩き込んだ!
「うわぁぁぁぁっ!?」
放たれたシュートの波動は、力でねじ伏せようとした俺と霧野先輩を一瞬ではじき飛ばした。
激しい衝撃で地面に叩きつけられ、視界が揺れる。
「あっ……!?」
ゴールマウスを守る信助が必殺技の体勢に入る暇すら与えない。
暴風のようなシュートは、反応すらできなかった信助の横を通り抜け、そのまま豪快にネットを揺らした。
——ゴール!!
化身アームドすらしていない、ただの化身シュート。それなのに、雷門の守備陣を蹴散らす絶大な威力。
ザナークの力をミキシマックスしたガンマの圧倒的なパワーの前に、俺たちはあっという間に先制点を奪われてしまったのだった。
*
先制点を奪われ、重苦しい空気の中で雷門のキックオフにより試合が再開された。
中央でボールを保持した剣城の前に、早くもガンマが立ちはだかる。
「フッ……無駄だ」
剣城は鋭い切り返しで抜き去ろうとしたが、ガンマは眉ひとつ動かさず、まるで未来を知っているかのように完璧にタイミングを合わせてボールを奪い去った。
「なっ……!?」
息を呑む剣城。俺はその一連の動きを見て、冷や汗が背中を伝うのを感じた。
(嘘だろ……剣城のフェイントを完全に完璧に見切ってただと……!?)
「……間違いない。ガンマは俺たちの動きを完全に『読んでいる』んだ」
隣の神童先輩が苦々しい顔で呟く。
そして恐怖すべきはそれだけではない。プロトコル・オメガ3.0の選手たちの瞳は、全員がザナークと同じ妖しい色に染まっていた。チーム全員に先読みや異常な力が植え付けられているのだ。
目にも留まらぬパス回しに、俺たちは翻弄され、ボールを追うことすら追いつかない。
「くそっ……こんなところで終わってたまるか!ジャンヌの思いに、応えるんだ!!」
霧野先輩が魂の叫びとともに気迫のタックルを繰り出し、ついに敵のパスをカット! 反撃の足がかりを作る。
こぼれ球を拾った天馬が得意のドリブルで駆け上がると、正面からダーナが不敵な笑みを浮かべて迫ってきた。彼女もまた、天馬のコースを読み切っている顔だ。
「突破してみせる!」
天馬が果敢に挑もうとした、その時だった。
「待て。ドリブルで戻ってこい」
ベンチからシャルルの大声が響き渡った。
「ええっ!?」
天馬が絶句する。前線へ攻め上がる局面で、自陣へ引き返せというトンデモ指示。あまりに無茶苦茶だが、最初の失点時に彼の言った「防御」の指示を思い出した天馬は、迷いながらも大人しくその指示に従い、後ろへとボールを下げた。
天馬からバックパスを受けたフェイが突き進む。だが、シャルルは容赦なく引くようにと命じる。
攻めては下がり、上がっては戻る謎の迷走指示に、フェイをはじめ俺たちの混乱はピークに達していた。
「いい加減にしてください!こんなの無駄に体力を消耗してるだけじゃないですか!」
ついに我慢の限界を迎えた霧野先輩が、プレイしながらベンチのシャルルへ怒りの抗議声を上げる。
しかし、シャルルは煽りを受ける風もなく、爪をカリカリと噛みながら飄々と答えた。
「なんだ不満か。なら攻めろ」
「なっ……軽っ!?」
だが、とにかく攻めていいという許可は出た!
「よし、行くぞ!!」
天馬が再び前線へ一気にドリブルで切り込む。
そこへ、これまで散々引き伸ばされ、あっちへウロウロこっちへウロウロと訳のわからない動きに翻弄されてきたガンマが、青筋を立てた怒りの形相で立ちはだかった。
「いい加減にしろ!!」
冷静さを欠き、怒りに任せて飛びかかってくるガンマ。
次の瞬間——天馬のスルリとした身のこなしが、今まで完璧に動きを読まれていたはずのガンマを鮮やかに置き去りにした!
「抜けた……!? 天馬がガンマを抜いたぞ!!」
紫がハッと目を見開いた。
「激昂させたことで、彼らの先読みを狂わせたんだわ!」
「マジかよ……あいつ、そこまで計算して……!?」
敵の最大の武器である「先読み」を封じ込め、ついに反撃の糸口を掴んだ雷門!
さあここから一気に怒涛の攻撃だ——と全員が意気込んだその時。
野暮ったく虚しく、前半終了を告げるラッパの音が橋の上に鳴り響いたのだった。
*
前半終了のラッパの音が鳴り響き、俺たちは重い足取りでベンチへと引き上げてきた。
「はぁ……はぁ……っ、疲れた……!」
天馬やフェイたち前線陣は、そのまま地面に倒れ込みそうなほど荒い息を吐いていた。
「シャルル王太子の作戦……相手を怒らせて『読み』を狂わせるという意味では、確かに一定の有効性はあったわ」
タオルで汗を拭きながら、紫が静かな、だが厳しい声で切り出した。
「でも……その代償があまりにも大きすぎる。攻めては戻り、守っては走りさせられたせいで、私たちの前衛陣の疲労はすでにピークに達しているわ」
MFとしてピッチを奔走していた紫自身も、見るからに体力を削られており、呼吸が乱れている。
一方で、DFとして自陣近くに控えていた俺は、前線ほどの運動量ではなかったため、比較的体力が残っていた。
「俺はまだ動けるけど……前線の皆はもうボロボロだ。紫さんの言う通り、後半も同じ手を使ったら……相手をハメる前に俺たちがバテて倒れちまうぞ」
俺が懸念を口にすると、チーム全体に暗い緊張が走る。相手はザナークの力を得た凄まじいフィジカルを持つプロトコル・オメガ3.0だ。スタミナ勝負に持ち込まれれば、こちらに勝ち目はない。
だが、そんな重苦しい空気などどこ風吹く風といった様子で、シャルル王太子は豪快に胸を張ってみせた。
「案ずるな、次の策は考えてある」
「策……!?」
驚く俺たちの前で、自信満々に不敵な笑みを湛えるシャルル。
迷走続きの王太子が思いついた次の手とは一体何なのか?そして雷門は、この劣勢を跳ね返すことができるのか——勝負の後半戦が、間もなく始まろうとしていた。
*
そして、運命の後半戦が開始された。
ホイッスルとともにフィールドへ出た雷門の陣形を見て、観客席の誰もが目を疑う。シャルルの命じたポジションチェンジは、前衛と後衛を根こそぎ入れ替えるという破天荒なものだったのだ。
「おいおい……こんな配置でホントに大丈夫なのかよ!?」
元々のディフェンダーである俺が不安交じりに声をかけると、FWの位置に立った黄名子がドヤ顔で胸を張った。
「大丈夫、大丈夫!元FWの本領発揮やんねー!」
なぜかやる気満々の黄名子に毒気を抜かれつつ、ラッパの合図とともに試合が再開される。
本来のポジションを得て張り切る黄名子がボールを運ぼうとした、その時だった。
「待て待て待て~い。前半通りにするのだ」
ベンチのシャルルから再び横槍が入る。黄名子は「ええ〜っ!?」と不満げに首をすくめながらも、言われた通り持っていたボールをサイドラインの外へ蹴り出した。
自ら攻撃権を放棄する愚策。それだけに留まらず、雷門は相手のパスを奪おうともせず、泥臭くライン外へ押し出し続ける。
「小賢しいやつらめ!」
不可解なプレイの連続に、ガンマたちのイライラと焦燥感は一気にピークに達していた。
「隙ありだ!『イグナイトスティール』!!」
その隙を見逃さず、俺は足を滑らせて激しい炎とともに相手からボールを奪い取る!
ボールはラインを割らず、そのまま前方の霧野先輩の足元へ転がった。
焦る霧野先輩は指示を無視し、自らの判断で前線へ一気に攻め上がった。だが——
「『
「ぐあぁぁぁっ!?」
激しく地面に叩きつけられた霧野先輩は、右膝を痛めて苦悶の表情を浮かべた。
強引な上がりからボールを奪われ、チームは一転して絶体絶命のピンチに陥る。自分の焦りが招いた失態に、膝の激痛以上のショックが霧野先輩の心を打ち砕いていた。立ち上がろうとしても膝が笑い、そのまま膝から崩れ落ちてしまう。
「出よ!『迅狼リュカオン』——アームド!!」
ゴール前でガンマが化身を顕現させ一気に化身をアームドする!
「『
凄まじいエネルギーを纏ったシュートがゴールを襲う。
「させるかッ!!」
俺は咄嗟に腕のリストバンドを取った。体内に眠るセカンドステージチルドレンの力が覚醒し、全身の血が煮えたぎる!
「出ろ!『獄炎鳥ダークフェニックス』!!」
漆黒の炎を纏う化身が背後に顕現する。俺は圧倒的なスピードでシュートの軌道へ割り込み、ダークフェニックスの巨大な拳とともにシュートを真っ向から蹴り飛ばした!
間一髪、ボールはラインの外へと弾き飛ばされた。
「はぁ……はぁ……っ!」
能力を解放した反動でめまいがし、ふらつく俺。だが——前回よりも身体が力に順応しており、スタミナの消費は確実に抑えられていた。
申し訳なさそうに視線を落とす霧野先輩。そんな先輩の肩を掴んだのは、神童先輩だった。
「チャンスだと思ったから攻めたんだろ!その判断俺は信じる!」
「神童……!?」
「カバーなら俺たちに任せろ!」
神童先輩の力強い言葉に、霧野先輩の瞳にハッと光が戻る。
過去の迷い、神童への引け目、ミキシマックスへの焦り——それら全てを吹っ切るように、霧野先輩は激しい咆哮とともにピッチへ駆け出した!
「俺の役割は……神童たちが安心して攻撃できるように、みんなを支えることだぁぁぁッ!!」
己のなすべき真の役割を見出したその瞬間、霧野先輩の背中から眩いオーラが一瞬浮かび上がった。
霧野先輩と神童先輩の阿吽の呼吸による二人がかりのスライディングが見事に決まり、ボールをクリアする。
立ち上がった霧野先輩は、神童先輩と手を引き合って立ち上がると、橋の向こう側で膝を折り、自信を失って項垂れていたジャンヌに向かって大声で叫んだ。
「ジャンヌ!俺はやっと分かった!俺がやるべきこと、俺にしか出来ないことが!だから君にだってあるさ!君にしか出来ないことが!」
だが、過酷な現実と重圧に潰されたジャンヌは、弱気な顔を上げることができない。
それでも霧野先輩は諦めず、まっすぐな瞳で彼女を見つめ続けた。
「自分を信じるんだ!俺は信じる!君の言葉を!だから君も自分と神の声を信じて勝利に向かって突き進むんだ!」
神童から受け取った勇気を、今度はジャンヌへと惜しみなく分け与える心からの言葉。その誠実な叫びは、まるで百万の援軍を得たかのようにジャンヌの胸に響き渡った。
試合は相手のスローインで再開される。エイナムからレイザへと渡ったボール。その前に、立ち塞がる者がいた。
「ハァァァァァッ!!来い!『戦旗士ブリュンヒルデ』!!」
天を突く雄叫びとともに、霧野先輩の背後に巨大な鎧を纏った化身ブリュンヒルデが顕現する!
「霧野先輩の……化身!!」
天馬たちが歓声をあげる。その神々しくも雄々しい姿は、見つめるジャンヌの魂をも強く激しく揺さぶった。旗を掲げ、味方を支え、戦場を鼓舞するその姿こそ——彼女自身が果たすべき『聖女』としての役割そのものだったからだ。
「くっ……『
化身の威光を得た今の霧野先輩の敵ではない。ガッチリと受け止め、力尽くでボールを奪い取ってみせた!
ボールを収めた霧野先輩は、再びジャンヌへ向き直り、魂の叱咤を飛ばす。
「ジャンヌ、君は信じていないのか!自分の力を!自分が聞いた言葉を!」
その一言が、ジャンヌの心の奥底に眠っていた折れない信念を完全に目覚めさせた。
「……私、不安になっていた。自分のことですら信じられなくなっていた……信じなきゃ。私が私自身を。」
メガネをかけ直し、力強く立ち上がったジャンヌは、落ちていたフランス軍の軍旗を力強く拾い上げた。そして、戦場へ向けて雄々しく旗を振りかざす!
「私の役目。それは剣を持って戦うことじゃない。神の言葉を伝え、仲間を鼓舞すること!」
聖女の覚醒。確固たる自信を得た神の使いの叫びは、怯えていたフランス軍の兵士たちに限界を超えた勇気を与えた。
「勝利を信じ、その命を燃やし尽くすのだ!そうすれば神は必ずその勇気に答えてくださる!」
その爆発的な士気の伝播は一瞬だった。勢いを取り戻したフランス兵たちが怒涛の反撃を開始し、イングランド軍を圧倒し始める!
旗を振り、仲間を鼓舞するジャンヌ。その姿を、霧野先輩は優しい眼差しで見つめていた。
「うおおおおお!これならいける!!」
ワンダバがミキシマックスガンを構え、銃口をジャンヌと黄名子へ向ける。だが、黄名子が慌てて手を振った。
「違う違う!あっち!」
「ぬ!?そうか!」
ワンダバは瞬時に狙いを切り替え、ジャンヌと霧野先輩に向けてミキシマックスガンを引き抜いた!
「ウチ、分かったやんね!ミキシマックスするのは霧野先輩やんね!」
「ミキシマックスコンプリーート!!」
放たれた光線が二人を包み込み、ジャンヌから溢れ出た聖なるオーラが霧野先輩の中へと流れ込む!
光が収まったそこには——髪がジャンヌのような美しい金髪に変わり、知的なメガネをかけた姿の霧野先輩が立っていた。
「調子に乗るなッ!」
激昂したガンマが猛スピードで突進してくる。しかし、ミキシマックスを果たした霧野先輩は、ただ一瞥しただけで、余裕の身のこなしでその突進を完封してみせた。
「剣城!そこだ、行け!!」
味方を統率する司令塔として、完璧なタイミングで最前線の剣城へ絶妙なスルーパスが通る!
絶好のチャンスを受け取った剣城が跳躍する!
「『剣聖ランスロット』!!——アームド!!」
騎士の鎧を纏った剣城が空中から叩きつけるシュート!
「『
相手キーパーは必死に防ごうとするが、その圧倒的な破壊力を抑え込むことなど不可能だった
*
「みんな、流れは俺たちにあるぞ! 一気に押し込むんだ!」
ミキシマックスを果たした霧野先輩の力強い鼓舞に、雷門イレブンの士気は最高潮に達する!
「小賢しい奴らめ……調子に乗るなァァッ!」
焦りを隠せないガンマが無理やりに中央を突破しようと突き進んでくる。しかし、その突進を俺は見逃さない。
「甘ぇよ! 『イグナイトスティールV2』!!」
足元から激しい炎を巻き上げ、ガンマの足元から一瞬でボールを奪い去る!
奪ったボールをそのまま前方の霧野先輩へ素早く送る。
「霧野先輩!」
「ナイスだ、コウ!」
ボールを収めたミキシマックス状態の霧野先輩は、メガネの奥の瞳を鋭く光らせ、フィールド全体を一瞬で把握した。まさに戦場全体を見渡す『聖女』の的確な判断力——。
そして、迷うことなく前線へ絶妙なスルーパスを供給する。その先には、親友である神童先輩が走り込んでいた!
「神童、決めろ!!」
「受け取ったぞ、蘭丸!!」
最高のタイミングで届いた渾身のラストパス。
神童先輩は全身に覇王のオーラを纏い、力強く叫んだ。
「ミキシトランス……『信長』!!」
一瞬にして髪がたなびき、織田信長の強大なオーラが覚醒する。神童先輩はそのまま跳躍し、圧倒的な速度と威力を秘めたシュートを放つ!
「 『刹那ブースト』!!」
空間すら切り裂くような光速のシュートが、一直線に相手ゴールへと襲いかかる!
「『
プロトコル・オメガのキーパーは必死の形相で『キーパーコマンド07』を展開し、両手を突き出すが——信長とジャンヌ、二つの時空最強の力が宿った雷門の絆を止めることなど、もはや出来はしなかった!
キーパーの手を弾き飛ばし、豪快にゴールネットを突き破る!
高らかな勝利のラッパの音がフィールド全体に響き渡り、試合終了が告げられた。
プロトコル・オメガ3.0との激闘を制し、俺たちは見事に完全勝利を掴み取ったのだ!