要塞の最奥へと続く重厚な扉を押し開けた瞬間、一行の視界を眩い光と色彩が満たした。
「わあ……っ!すごい……!」
葵が思わず歓声をあげる。薄暗いカラクリ要塞の奥深くに広がっていたのは、見渡す限りの美しい花畑だった。穏やかな風がそよぎ、色とりどりの花々が咲きこぼれる様は、まるでここだけが別世界であるかのような錯覚さえ抱かせる。
そんな中劉備は腰に手を当てて花畑の奥に向かって大声を張り上げた。
「孔明!!来たぞ!さぁ姿を現せ!さもないと誰もが赤面するようなことを叫ぶぞ!」
一同が脱力しかけたその時——ふわりと、強い風と共に色鮮やかな花吹雪が舞い上がった。
風が止むと、花畑の奥にたたずむ質素な庵の前に、いつの間にか一人の人物が立っていた。
言葉をかけることすら躊躇われるほどの圧倒的な威厳と、佇むだけで空間を支配するような神秘的な威容。天馬たち、そして劉備が心から会うことを熱望していた人物——諸葛孔明その人であった。
孔明は静かに微笑み、口を開いた。
「よくぞ……ここまでたどり着きましたね」
「「「えっ!?」」」
その声が響いた瞬間、雷門の一同は目を丸くした。
通り通った、美しくもどこか涼やかな声。それは紛れもなく、女性のものだったからだ。
「じ、女性……!?孔明って、女性だったの!?」
「速水先輩が来てたら驚いて気絶してたな……」
そんな一同の動揺をよそに、孔明は庵の縁側に優雅に腰を下ろすと、手に持った羽扇をゆったりとあおいだ。
劉備は気を取り直すと、凛とした表情で孔明に向き直り、滔々と語りかけた。
「儂は民のための国を作ると決めた。そのためには孔明、お前の力が必要だ。頼む、儂に力を貸してくれ!」
熱弁をふるう劉備だったが、孔明はそんな彼に目もくれず、チラリとも視線を合わせようとしない。むしろ興味深そうに眺めているのは、劉備の後ろにいる俺たち雷門の面々だった。
劉備は孔明の冷ややかな態度に気づいているのかいないのか、なおも熱く語り続ける。
「曹操に付いても国は良くならんぞ。むしろ民を蔑ろにした国に成ってしまうかもしれん」
「あなたならこの国を善き方向に導けると。では、そのためにあなたは私の力をどのように使うおつもりですか?」
孔明は劉備の言葉を遮り、冷徹な一言を投げかけた。
「そ、それはこれから考える。だが、儂は民のための国を作ると決めたのだ。そのためにはお前の力が必要なのだ」
「……はぁ」
道理も戦略もなく、ただ「仲間になりたい」の一点張りを繰り返す劉備に、孔明は盛大ため息をついた。そしてプイと顔を背けると、彼の青臭い理想論を鼻で笑い飛ばしたのだった。
己の説得が完全に失敗に終わったことを悟り、劉備はガックリと肩を落とし、あからさまに失望の色を浮かべた。
「ダメだ……まったく相手にされていない……」
フェイが困ったように眉をひそめ、天馬たちに耳打ちする。
「どうする?これじゃミキシマックスするどころか話を聞いてもらうことすらできないんじゃ……」
「いえ、聞かずとも分かっています」
「え?……あ」
驚くフェイたちが孔明の視線の先を辿ると——そこには、『ミキシマックスガン』を孔明に向けて構えているワンダバの姿があった。
「あいつ……! 露骨すぎるだろ……!」
孔明はそれ以上話す気はないとばかりに立ち上がると、優雅な取り立てで庵の奥にある池の方へと歩き去ろうとする。
「兄者、あんなやつあてにすることはないぞ!」
劉備を愚弄されたことに激怒した張飛が武器を構えようとするが、劉備はそれを手で制した。
「…いや、儂は孔明の力を借りる止めた。顔は見せ、伝えることは伝えた。あとはもう押すのみ!押して押して押しまくる!」
「おお、俺もそう言おうと思ってたんだ!」
「よし、行くぞ!」
劉備はぎゅっと拳を握りしめると、去りゆく孔明の背中に向けて、再び一歩を踏み出した。
一度決めた信念は絶対に曲げない。どれほどあしらわれようと、どれほど冷たく拒絶されようと、自分の「想い」を届けるまでは決して引かない——。
その泥臭くもまっすぐな姿を信助は息をのんで見つめていた。
*
「頼む孔明殿! 俺の話をもう一度だけ聴いてくれ!」
去りかけようとする孔明の背中に向かって、劉備はなおも情熱的に言葉を投げかけ続ける。しかし、孔明は足を止める素振りすら見せず、羽扇をあおぎながら冷ややかにあしらうばかりだった。
「何度言われても同じことです。あなたの戯れ言に割く時間はありません」
噛み合わない押し問答が続くなか、ふと孔明が足を止め、視線を変えた。
「……この音、何かが近づいてくる……?」
紫も異変に気づき、耳をすませる。遠くから響いてくるのは、凄まじい重低音を響かせるエンジン音のような轟音だった。
「……まさか、バイククラフト!?」
紫の言葉に、コウが素早く周囲を警戒しながら問いかける。
「バイククラフト……なんだそれ?」
「未来の乗り物よ! 重力を無視して空を飛ぶエアバイクみたいなもの……!」
次の瞬間、要塞の切り立った崖の下から、一台の真っ赤なエアバイクがダイナミックに跳躍し、花畑の真ん中に豪快に着地した。巻き起こる風と土煙のなか、エンジンを吹かしながら不敵に笑う男——その姿に俺たちは息をのんだ。
「ザナーク……! 」
「またお前か!」
そこにいたのは、かつてフランスの地で激闘を繰り広げた宿敵、ザナーク・アバロニクだった。思わぬ刺客の襲来に、雷門の一同に一瞬で緊張が走る。
「今日は俺の友達を連れてきた。さぁ俺たちとサッカーしようぜ」
ザナークは不敵に言い放つと、手元にあった赤いスフィアデバイスを操作した。
眩い光と共に、彼の背後に次々とプレイヤーたちが転移してくる。そのなかには、先ほどこの要塞で雷門の前に立ちふさがった3人組の姿もあった。
「俺たちの名は『ザナーク・ドメイン』だ!」
そう言うと同時に、再びスフィアデバイスを作動させた。強い光が山上の空間を包み込み、優雅だった花畑の一角が、あっという間にサッカーフィールドへと変貌を遂げる。
「よしっ!ならばこの試合はこのクラーク・ワンダバット様が名采配を……」
「劉備さん! 僕たちの『監督』になって指示を出してもらえませんか!?」
天馬はワンダバの演説を完璧にスルーし、真っ直ぐに劉備へと駆け寄った。
「いいだろう。任せておけ」
劉備は二つ返事で快諾した。
ショックのあまり白目を出して倒れ込むワンダバを放置し、雷門イレブンは劉備監督のもと、ザナーク・ドメインとの決戦に向けてポジションへと散っていく。
その様子を、孔明は庵の陰から静かな眼差しで見つめていた——。
*
ホイッスル代わりの銅鑼の重厚な音が、山上のフィールドに高く響き渡った。
雷門のボールでキックオフ。まずは剣城から倉間へ、さらに右サイドを駆け上がる紫へと、テンポよくパスがつながっていく。
雷門は順調な立ち上がりを見せているように思えた。しかし、相手の動きに違和感がある。立ちふさがる敵のプレッシャーが、どこか甘いのだ。
ザナークに至っては、ボールを追う素振りすら見せず、腕を組んで不敵な笑みを浮かべながら何かをブツブツと呟いていた。
「……いち、に、さん……」
(なんだあいつ……何か数えてる……!?)
紫は前方へと走り込む天馬へロングパスを供給する。だが、ここは相手ディフェンダーの激しいスライディングによって間一髪でカットされた。
「くっ……! まだだ!」
こぼれ球に素早く反応したのはフェイだった。鋭い出足でボールをキープすると、そのまま華麗なステップで敵陣へと切り込み、間髪入れずに鋭いシュートを放つ! しかし、これは相手の頑強なディフェンダーに力ずくでブロックされてしまった。
大きく前線へクリアされたボールを、今度はバックラインから疾走してきた俺が間一髪でセービング。
「霧野先輩っ!」
「ナイスコウ!」
ボールを引き継いだ霧野さんは、中盤の錦先輩へパスを渡す。だが、そこへすさまず襲いかかってきたのは、シュラだった。鋭いタックルで錦からボールを奪い取ると、そのまま前線から強烈なシュートを放つ!
「させないやんねっ!」
間一髪のところで軌道上に割り込んだのは黄名子だった。くるりと宙を舞い、ジャンピングボレーでボールを弾き飛ばして難を逃れる。
落ちてきたクリアボールを、司令塔の神童が落ち着いてトラップした——その瞬間だった。
「——きゅう、じゅう!」
それまで微動だにしなかったザナークの瞳が、ギラリと怪しい光を放った。
「なっ……!?」
次の瞬間、神童の視界からザナークの姿が消えた。爆風のような凄まじい突進力で距離を詰めてきたザナークは、強烈なボディチャージで神童を吹き飛ばし、あっけなくボールを奪い去ったのだ。
芝生に叩きつけられた神童が息を呑むなか、ザナークはボールを足元に収め、泰然と首を鳴らした。
「こいつは挨拶がわりだ。お前ら全員にボールを触らせてやったんだ。ありがたく思えよ」
ザナークがブツブツと数えていた数——それは、雷門の選手たちがボールに触れた人数だったのだ。真剣勝負の最中に、自分たちの力を「テスト」するかのように観察されていた事実に、雷門イレブンの胸に激しい怒りが芽生える。
「おっと、あと一人残っていたな。さぁ全員でサッカーを楽しもうぜ!」
ザナークの凶暴な視線が、雷門のゴールマウスを守る信助へと向けられた。
「『ディザスターブレイク』!!」
「くっ……『護星神タイタニアス』ッ!!」
信助は必死で化身を召喚し、鎧として纏う「化身アームド」を試みようとする。しかし——ザナークのシュートスピードと威圧感は、信助の反応速度を遥かに凌駕していた。
「間に合わない……っ!?」
バリバリと音を立ててタイタニアスが打ち破られ、信助の身体ごとボールが豪快にネットへと突き刺さった。
*
試合は再び雷門のキックオフで再開された。
「全員で攻め上がるぞ! 前線を押し上げろ!」
神童先輩の鋭い指示と共に、俺たちは一斉に敵陣へと走り出した。だが、ザナーク・ドメインのプレスは甘くない。中盤でパスを回そうとした瞬間、相手の素早い寄りにボールを引っ掛けられ、奪われてしまう。
「させない——ミキシトランス!『ジャンヌ』!!」
だが、ここで引き下がる俺たちじゃない。霧野先輩が瞬時にジャンヌ・ダルクとのミキシマックスを発動。
「『ラ・フラム』!!」
炎と共に繰り出された必殺技『ラ・フラム』で鮮やかにボールを奪い返した。
「剣城!」
霧野先輩からの素早いロングフィードが、前線の剣城へ正確に渡る。このまま一気に同点へ——そう思った瞬間、背筋が凍りつくような強烈な殺気がグラウンドを支配した。
「……ッ!?」
いつの間にか、その背後にはザナークが肉薄していた。背後から漂う禍々しいプレッシャーに、息が詰まる。
「面白いものを見せてやるぜ」
ザナークが不敵に口角を上げ、天を突くように高らかに叫んだ。
「ミキシトランス——『曹操』!!」
天地を揺るがすような圧巻の波動が爆発した。空間そのものが歪むほどのオーラを纏い、ザナークの漆黒の髪が一瞬にして白へと変化していく。威厳をその身に宿したその姿に、グラウンド全体が息をのんだ。
瞬時に危機を悟った剣城が、躊躇なく自らの威容を解き放つ。
「『剣聖ランスロット』——アームド!!」
化身を現出させると同時に、一瞬で光の鎧として纏う。そのままゴール目掛けて、渾身の全力シュートを叩き込んだ!
だが——迎え撃つザナークは嘲笑うかのように、そのまま化身を召喚する。
「来いッ! 『剛力の玄武』!!」
巨大な威容が現れ、剣城のアームドシュートを、ザナークは正面から完封して止めてしまった。
絶句する剣城を尻目に、ザナークのギラついた視線が、遥か後方にいる俺へと一直線に向けられた。
「ハッ、次は貴様だ……コウ!!」
ザナークは化身『剛力の玄武』を出現させたまま、ロングレンジから俺目掛けて強烈なシュートを放ってきた。
「俺っ!?……マジかよ!」
凄まじい速度で迫る弾道に、俺は咄嗟に叫んだ。
「来いっ!『聖焔のフェニックス』——アームド!!」
化身を呼び出し、一気にアームドを完了させる。迫り来る漆黒の球体を、俺は全身の力を込めて胸トラップで強引にねじ伏せ、足元に収めた。激しい衝撃が全身を駆け抜ける。
息を荒げる俺に向かって、ザナークは化身を出したまま、ニヤリと不吉な笑みを浮かべた。
「フランスでの戦いでお前……妙な力を使っていたな。俺はな、本気のお前と勝負がしたいんだよ」
(妙な力——ッ! セカンドステージチルドレンの力のことか……!)
ハッと気づく。だが、今の俺は直前の兵馬俑たちとの激闘で、すでにスタミナをかなり消費していた。セカンドステージチルドレンの能力を開放すれば、一気に体力を削り取られる。試合序盤のこの段階で使えば、後半まで体が持つはずがない。
俺は呼吸を整えながら、努めて平然を装って言い返した。
「悪いなザナーク。そんなに安売りしてる力じゃないんだよ!」
「そう言うと思ったぜ……やれ!」
「え——」
ザナークの短い合図と同時に、視界から消えていた相手選手が、いつの間にか俺の背後に回っていた。
「くっ……!?」
死角からの強烈なボディチャージを受け、足元のボールを奪われる。体制を崩しながらも、俺は即座に踏ん張り直し、ボールを取り戻そうと足を伸ばした。
だが、その瞬間——。
「『マッドジャグラー』ッ!!」
相手の容赦ない足技が炸裂した。ボール越しに叩き込まれた強烈な蹴りの衝撃が膝に走り、俺の身体は無残にも芝生の上へと吹き飛ばされた。
「ぐあああっ……!」
「力を使いたくないのなら、使わなければならなくなる状況を作ってやる!」
ザナークの冷酷な声が響く。ボールを保持した相手選手が、倒れ込んでいる俺に向かって容赦なく必殺シュートを放ってきた!
「くっ……立て……立つんだ……!」
立ち上がろうと足に力を込めた瞬間、先ほど喰らった技のダメージで激痛が走り、膝が激しく笑った。バランスを失い、身体が傾く。
(マズい……避けられない……直接受ける……っ!?)
死を覚悟して目を凝らしたその時——横から疾風のごとく割り込んできた影があった。
「させないわっ!!」
紫だ!
紫は凄まじい反応速度でシュートの軌道上に割り込むと、渾身のクリアでボールをピッチの外へと蹴り出した。激しい土煙が舞い散る。
「……大丈夫、コウ!?」
紫がすぐさま俺に手を差し伸べ、心配そうに顔を覗き込んできた。膝の痛みに冷や汗が吹き出していたが、俺は心配をかけまいと無理に口元を歪めて笑ってみせた。
「あ、ああ……大丈夫だ。サンキュー、紫」
だが、俺を見つめる紫の瞳はどこまでも冷静で、そして痛々しいほど真剣だった。言葉とは裏腹に、俺の右足の震えと痛みの色を、彼女が完全に察していることに俺は気づいてしまった——。
*
サイドラインを割ったボールから、ザナーク・ドメインのスローインで試合が再開された。
ボールを受けた相手に向かって、俺は足の痛みを堪えながら奪い取ろうと駆け出した。そのまま滑り込んでスライディングを仕掛けようとした——その瞬間。
右膝に鋭い痛みが走り、一瞬だけ踏み込みを躊躇してしまった
「——ッ!」
そのわずかな隙を、相手は見逃さなかった。あっさりと俺を抜き去りながら、すれ違いざまに不快な笑みを浮かべて耳元で囁く。
「ハッ、そんな力じゃ俺たちには勝てないぞ」
「……なんだと……!?」
苛立ちが頭に血を昇らせ、挑発に乗りかけたその時——横から疾風のように飛び込んできた影がボールを奪い去った。
「『ワンダートラップV2』ッ!」
天馬はボールをキープしながら、真剣な目を俺に向けて叫ぶ。
「コウ、落ち着いて! 相手のペースに乗せられたらダメだ!」
「……! ああ……すまん、天馬。助かった」
天馬の声でハッと我に返り、頭を冷やす。ここで熱くなったら奴らの思うツボだ。俺は思考を切り替え、すぐさま天馬とのワンツーで相手のプレッシャーを交わしながら前線へとボールを運んだ。
前線ではフェイがミキシトランス『ティラノ』を発動し、強大なオーラを撒き散らしている。敵のディフェンダー陣が一斉にフェイの動きを警戒して警戒を強めるのが見えた。
だが、俺の視界の端で、逆サイドから静かに合図を送ってくる影があった。
紫だ。
俺はフェイを囮に使い、あえて逆サイドの紫へと鋭いパスを通した!
「来てっ!『氷雪の女神スカジ』——アームド!!」
パスを受けた紫は迷いなく化身をアームドし、一瞬で氷の鎧を纏う。
「『氷の矢』!!」
そのまま必殺シュート『氷の矢』を解き放った!
しかし、相手のゴールキーパー・シュテンもタダ者ではない。
「『巨神ギガンテス』——アームド!!」
化身を現出させてアームドを完了させると、繰り出したのは必殺技『サンドカッター』。凄まじい密度の砂の刃が、紫の放った氷の矢を真っ向から打ち砕き、シュートを完封してしまった。
「くっ……!」
「ハッ、甘いぜ!」
シュテンは奪ったボールを素早く前線のザナークへとスローインする。
自分のシュートが阻まれた焦りからか、紫は先ほどの失敗を取り戻そうと、アームド状態のまま前線のザナークへと猛然と立ち向かっていった。
「私が止める……っ!」
「ハッ、要があるのはお前じゃないんだよ!」
だが、ザナークは冷徹に言い放つと、化身『剛力の玄武』の圧倒的なパワーを解き放ち、強烈なタックルで紫の身体を容赦なく吹き飛ばした。
「紫っ!! やめろッ!!」
吹き飛ぶ紫の姿に俺の理性が弾け飛んだ。痛む足を無視して、俺はザナーク目掛けて全力で駆け出す。
「ハハッ、いいぞ! お前のその力をもっと見せろ!!」
ザナークは狂喜しながら、俺を試すように強烈なシュートを放ってきた。
俺が体力を根こそぎ持っていかれる覚悟で力を開放しようとした——その時だった。目の前で凄まじい衝撃音が轟いた。
「——え!?」
吹き飛ばされたはずの紫が、いつの間にか俺の目の前に割り込み、ザナークのシュートを上から直接踏み潰すようにして力ずくで止めていたのだ。
ハラリと、解けたポニーテールの長い髪が風に揺れる。
「……これ以上続けるなら、潰すわよ」
紫の口から漏れ出たのは、これまで聞いたこともないような、その場の空気すら一瞬で凍りつかせるほどの凄絶な殺気だった。
その殺気に呼応するかのように、グラウンド全体が激しく揺れ始めた。地震かと思うほどの振動の発生源へ視線を向けると、そこには巨大な「龍」が姿を現していた。
ベンチでは劉備さんが目を見開いて叫んでいる。
「やはり孔明が龍に化けるというのは本当だったのか」
「いえ、違います。見てください!」
葵ちゃんが指さした先——龍が現れたまさにその場所の背後に、庵から静かに立ち尽くす孔明の姿があった。あの巨大な龍は、孔明の放った「化身」だったのだ。
龍は咆哮をあげると、フィールド上の紫目掛けて真っ直ぐに飛び込んでいった!
「——ああああああっ!!」
炎のような光の渦が紫を包み込み、彼女の悲鳴が山上に響き渡る。だが、その激しい光は次の瞬間、急激に立ち消えた。
光が収まったそこに立っていたのは——。
白髪から紫がかった幻想的な色へと髪が変化し、髪型が優雅なルーズサイドテールへと変わった紫の姿だった。
あまりの変化に、俺は呆然と問いかけた。
「な……なんだそれ……!?」
「強制ミキシマックス……まさか、こんなことまでできるなんて……」
紫自身も困惑したように己の手を見つめている。すると、フィールド外の庵から孔明の静かな声が響いた。
「今のあなたは冷静さを欠いている。例え強大な力があろうとも、そのままでは守りたいものも守れませんよ」
その言葉が、紫の胸に深く突き刺さる。
「守りたいもの……」
紫はそっと胸に手を当て、隣で足を痛めて立っている俺の姿を視界に収めた。そして、力強く顔を上げる。
「その力をどのように扱うか……それはあなた次第です」
「……はいっ! 私、この力……守りたいもののために使います!」
孔明の言葉を真っ直ぐに受け止めた紫の瞳に、迷いは一切なかった。
「ハハハ! 面白い! 諸葛孔明の力、見せてみろ!!」
ザナークが興奮した様子で『剛力の玄武』を顕現させ、突進してくる。だが、紫は極めて冷静にそれを見すえると、孔明から授かった化身を解き放った。
「来なさい……『蒼天の覇者玉竜』!!」
激突する二つの化身! 凄まじい波動が吹き荒れる中、競り勝ったのは紫の『玉竜』だった。ザナークの体が大きく弾き飛ばされる!
「紫!」
俺は痛む足を押し殺し、紫と並走するように前線へ走り抜けた。
「シュートを打つぞ、紫!」
「でも、コウのその足じゃ……!」
心配そうに俺の右足を見る紫に、俺はニッと不敵に笑ってみせた。
「ああ、この足じゃ一人で強くは打てない……でも、二人なら大丈夫だ!」
「……ふふっ、そうね。やりましょう!」
紫が柔らかく微笑み、二人同時に意識を集中させる。
紫の身体から溢れ出す神秘的な青いオーラ。そして俺の身体から立ち昇る灼熱の赤いオーラ。
ボールと共に空高くとび上がった瞬間、赤と青の二つのオーラがまるで遺伝子の二重螺旋のように美しく絡み合い、ボール全体を圧倒的なエネルギーで包み込んでいく。
「「『ザ・バース』ッ!!」」
二人で放たれた一撃は、光の束となって一直線に相手ゴールへと突き刺さった。キーパーのシュテンは反応することすらできず、ボールはそのまま豪快にネットを揺らしたのだった。
紫ミキシマックスイラスト
https://img.syosetu.org/img/user/v2/8678/698/258072.jpeg
新必殺技:『ザ・バース』
属性:風
使用者:不知火 恒陽、藤原 紫
詳細:コウと紫で放つ連携技