銅鑼の音がグラウンドに響き渡り、前半終了の合図が告げられた。スコアは1-1。勝負の決着は後半戦へと持ち越された。
ベンチへと戻る俺たちの元へ、劉備が大きな笑顔で駆け寄ってきた。
「ハハハ!見事だ、コウ!紫!あの土壇場で素晴らしいシュートを決めてくれたな!いやぁ、孔明殿の力も実に見事だった!感謝するぞ、孔明殿!」
劉備が庵の方を振り返って声を張るが、当の孔明は羽扇をゆったりとあおぎながら、冷ややかに視線を逸らした。
「別にあなたのためにやった訳ではありません。私はあくまで降りかかる火の粉を払ったに過ぎません」
「何を!」
すかさず張飛が眉をひりつかせて身を乗り出したが、孔明は取り合おうともせず言葉を続けた。
「彼女に力を授けたのも私の力を一番効率よく扱えると思ったからです」
「まぁ結果的に助かったんだから良いではないか!」
「おう!俺もそう言おうと思ってたんだ!」
劉備は怒るどころか、相変わらずのおおらかさで豪快に笑い飛ばしている。本当に底が知れないというか、懐の深い人だ。
そんなやり取りの横で、紫が胸を張って黄名子に向き合っていた。ポニーテールに戻った髪を揺らしながら、少し誇らしげに鼻を鳴らす。
「どう、黄名子? コウとぶっつけ本番で連携技を成功させてみせたわ! 有言実行でしょ?」
「うんうん! 流石は紫やんね〜! えらいえらいっ!」
「わっ、ちょっと……子供扱いしないでよ!」
黄名子がニコニコと笑顔で紫の頭を撫でまわし、紫は顔を少し赤くしながら抗議している。口では嫌がりつつも、以前のような微妙な空気はすっかり消えていた。
(二人ともだいぶ距離が縮まったな)
ギクシャクしていた二人の仲が良い雰囲気に変わっていくのを見て、俺は足の痛みをしばし忘れ、密かに胸を撫で下ろした。
ハーフタイムの短い時間が終わりを告げる。劉備さんが全員を見渡し、一際大きな声で檄を飛ばした。
「よしッ! さあみんな、このままの勢いに乗って、一気に逆転といくぞーっ!」
「「「オーッ!!」」」
雷門イレブンの雄叫びが山上に響き渡る。
*
「まずはしっかりディフェンスからだ!」
神童先輩が手際よくピッチ全体に指示を飛ばす。その声に引き締まる雷門陣営の中で、紫が静かに一歩前へ出た。
「神童先輩、天馬。ここは私に任せてくれないかしら」
思い切ったその言葉に、天馬と神童先輩が驚いたように顔を見合わせる。俺は紫の隣へ並び立ち、その真剣な瞳を覗き込んだ。
「紫、何か考えがあるのか?」
「ええ、もちろん。孔明の智謀……見せてあげるわ」
「だったら、乗らない手はないな。信じてみようぜ!」
俺が笑ってみせると、紫は小さく満足そうに頷いた。
後半はザナーク・ドメインのボールでキックオフ。ボールを保持したザナークは、初手から一切の手加減なしに圧倒的なオーラを解き放つ。
「ミキシトランス、『曹操』!」
オーラを纏い、強烈な威圧感を放ちながら突進してくるザナーク。それに対し、紫も迷うことなく己の内に眠る新しき力を解き放った。
「ミキシトランス『孔明』!!」
神秘的なオーラが紫を包み込み、優雅で気高い姿へと変貌を遂げる。だが、紫は単身でザナークに突撃するような真似はしなかった。瞬時にグラウンド全体を見渡し、澄んだ声で素早く指示を飛ぶ。
「天馬、剣城、倉間先輩!ザナークを中心に右回転で回りなさい!錦先輩とフェイは私と一緒にその外周を左回転!そしてコウたち残りの4人は、さらにその外周を右回転よ!」
「えっ……回転!?」
一瞬惑いながらも、雷門イレブンは紫の完璧な指示に従って一斉に交差するように走り出した。内側、中間、外側と、異なる方向へ旋回する三層の人間陣風。
ザナークを取り囲むように複雑な円陣が展開されていく。だが、完璧に見えるこの回転封鎖にも、人が交差する瞬間にほんの一瞬だけ、ポカリと穴が空く隙が存在した。
ザナークの鋭いギラついた瞳が、その一瞬の空間を見逃すはずがなかった。
「馬鹿め、ガラ空きだ!」
ザナークはその隙間を目掛けて強引に突破すると、間髪入れずに足元から破壊的なシュートをぶちかました。
「しまっ——!」
陣を抜かれたと焦る俺たちの視線の中、弾丸のようなシュートがゴールへと向かって突き進む。キーパーの信助が咄嗟に構えるが凄まじい金属音が響き、ボールは直接左ゴールポストを直撃して弾き飛ばされた。
「た、助かった……」
冷や汗を拭いながら胸を撫で下ろす信助。しかし、戻ってきた紫は静かに首を横に振った。
「外れたんじゃないわ……外させたのよ」
「え……?外させた……!?」
信助どころか、周りで聞いていた俺たちまでもが目を丸くする。紫は不敵な笑みを浮かべ、孔明譲りの知略のカラクリを明かした。
「周囲を完璧に攻め囲まれた人間は、死に物狂いでその封鎖を打ち破ろうとするわ。その際、あえて一つだけ『隙のある抜け道』を作っておくと、人間の心理として絶対にそこへ誘導されてしまうの。あのポスト直撃の角度も、すべて計算通り……人間の心理特性を利用した必殺タクティクス——『奇門遁甲の陣』よ」
「な……心理誘導……!?」
あの傍若無人なザナークですら、完全に紫の描いた手のひらの上で踊らされていたというわけか。
史上最高の軍師と称された諸葛孔明の力を完璧に使いこなし、敵の絶対的な個の力を戦術で完封してみせた紫。その人外じみた高度な頭脳プレイを目の当たりにし、雷門イレブンの士気は一気に最高潮へと跳ね上がった!
「すごい……!本当に孔明さんの力を自分のものにしてるんだ……!」
「ああ! これなら行けるぞ、一気に逆転だ!!」
勢いづくチームの熱量を感じながら、俺は膝の痛みを忘れ、頼もしい相棒である紫の背中を見つめて熱い高揚感を噛みしめていた。
*
試合は信助のゴールキックで再開された。
「行くよ!」
信助から正確なロングボールが紫へと送られる。ボールを収めた紫を睨みつけ、ザナークはチッと舌打ちをした。
「諸葛孔明、曹操が恐れたという天才軍師力……ならば!」
己の不利を瞬時に悟ったのか、ザナークは自ら曹操とのミキシトランスを強引に解除した。白髪が元の髪色へと戻る。だが、その威圧感は衰えるどころか、むしろ凶悪さを増して膨れ上がっていく。
「千年に一度の恐怖を、味わわせてくれるわ!!来い、『魔界王ゾディアク』!!」
「な……ッ!? 2体目かよ!?」
天馬たちがその異様なプレッシャーに息をのむ。ザナークは驚愕する俺たちを嘲笑うかのように、間髪入れずにその漆黒の鎧を身に纏った。
「これが俺本来の化身だ!アームド!!」
邪悪なオーラを全身から吹き出しながら、一人で前進を開始するザナーク。その圧倒的な背中を見て、ザナーク・ドメインの連中は「ニヤリ」と邪悪な笑みを浮かべた。リーダーが本気を出し始めたことを歓喜しているのだ。
「みんな、落ち着いて! もう一度『奇門遁甲の陣』で包囲するわよ!」
紫がすぐさま指示を飛ばし、俺たちは再び交差するように回転陣を展開する。心理の誘導、完璧な計算——孔明の知略が再びザナークを捉えるはずだった。
だが——本領を発揮したザナークには、もはや高度な戦術すら意味をなさなかった。
「邪魔だぁぁ!!」
思考も、心理誘導も関係ない。ただの桁外れな「力押し」と圧倒的な暴力。ザナークは陣の隙間を探すことすら略し、正面から俺たちの包囲網を紙屑のように力ずくでぶち破ってきた!
「くっ……! 完全に突破される……ッ!!」
陣が崩壊し、ザナークが牙を剥いてゴールへ迫る。このままじゃ確実にやられる——俺は意を決し、右手首のリストバンドを外した。
身体の奥底から、抑制していた破壊的なエネルギーが爆発的に吹き出す。セカンドステージチルドレンとしての力を完全解放した俺は、全身を漆黒の炎で包み込みながら叫んだ。
「来いッ! 『獄炎鳥ダークフェニックス』!!」
禍々しくも気高き黒炎の翼を広げ、俺はアームド状態のザナークの前へと躍り出た。強烈な衝撃と共にその猛攻を真っ向から受け止め、強引に前進をねじ伏せる!
「ハハハッ!やっと出したか、その力ぁッ!!」
ザナークは歓喜に目を輝かせると、アームド状態のまま必殺シュートを放った。
「吹き飛べぇッ! 『ディザスターブレイク』ッ!!」
「止まれぇぇぇッ!!」
俺はダークフェニックスの威容と共に、全身全霊をかけてその極大のシュートブロックに入った。空間が軋むほどの圧倒的なエネルギーとエネルギーが真っ向から激突する。力は拮抗した——だが。
「グッ……あ、ああああああっ!?」
じわじわと、だが確実に押し込まれていく。ザナークの桁外れな破壊力が、俺のダークフェニックスの黒炎を強引に鎮圧していく。耐えきれなくなった俺の身体は無残に空中で弾き飛ばされ、芝生の上へと叩きつけられた。
「コウっ!?」
紫の悲鳴が聞こえる。破られたシュートはそのまま勢いを落とさずゴールへ直行。信助が必死に『護星神タイタニアス』を出して立ち塞がったが、止めることはできずゴール奥のネットへと突き刺さった。
勝ち誇るザナーク・ドメインの歓声。
「嘘だろ……俺の……ダークフェニックスが……破られた……?」
俺は倒れ伏したまま、自分の手を見つめて呆然とした。セカンドステージチルドレンの力を使ってなお、届かなかったという事実に、強烈な衝撃と戦慄が全身を駆け巡る。
だが——点を奪い、勝ち誇って自陣へ戻ろうとしたザナークが、ふと足を止めた。
「……ッ!?」
その顔が、一瞬苦痛と疑念で固まる。
彼の全身から、制御を失ったかのように散逸していく禍々しいオーラ。自分の身体に起きた謎の変調を感じ取ったのか、あの大胆不敵で絶対的な自信に満ちていたザナークの表情に、今までにない不吉で不安げな影が差していた——。
*
試合が再開される前、俺は足の激痛と全身の疲労を押し殺しながら、ゴール前にポツンと立つ信助の元へと駆け寄った。
「信助、大丈夫か……!?」
「コウ……ごめん……」
信助は固く拳を握りしめ、地面を見つめたまま肩を震わせている。最後の砦であるキーパーが完全に自信を失ってしまっていた。チーム全体に重苦しい不安と絶望のムードが広がりかける。
「こんな時こそ攻めるぞ!攻撃は最大の防御、攻めて攻めてザナークにシュートを打たせなくすればいいんだ!」
神童先輩の叱咤がグラウンドに響き渡る。
「まっこと!その通りぜよ!!」
錦先輩がド直球な熱量で同意する。沈みかけていた雷門イレブンの瞳に再び反撃の炎が灯った。そのポジティブな意識が、瞬く間にチーム全体へと伝播していく。
失点を喫した雷門のキックオフで試合が再開された。
剣城から素早いパスが錦先輩へと渡る。前線へ押し上がろうとしたその瞬間——目前に立ちはだかったのはザナークだった。
「ふん、攻撃は最大の防御だと?攻撃とはこういうことを言うんだ!」
ザナークは雷門のフレーズをあざ笑うように、凶悪な笑みを浮かべながら強烈極まりない肉弾チャージを見舞ってきた。
「グアッ……!?」
錦先輩の身体が弾き飛ばされ、ボールがザナークの足元へこぼれる。
「俺が止める!『戦旗士ブリュンヒルデ』!!」
「来い!『魔界王ゾディアク』!」
ザナークも間髪入れずに禍々しい己の化身を召喚。圧倒的な化身パワーのぶつかり合いとなったが、本領を発揮したザナークの力は凄まじく、ブリュンヒルデごと霧野先輩を容赦なく打ち倒してしまった。
「霧野先輩ッ!! ——くそっ、俺が行く!!」
ザナークが前進するのを阻止するため、俺は再びリストバンドを外し身体の奥底から叫びを上げた。
「出ろッ! 『獄炎鳥ダークフェニックス』!!」
黒炎の巨鳥を背後に現出させ、ザナークの射程範囲へと躍り出る。対するザナークは嘲笑いながら、アームドなしで化身必殺技を繰り出した。
「喰らいな! 『レッドプリズン』ッ!!」
真っ赤な檻のような必殺シュートが迫る。俺はダークフェニックスの巨大な拳と同調し、渾身の力でそのシュートを力任せに蹴り返した。
ボールは大きく軌道を逸れ、そのままサイドラインを割っていった。
シュートを外されたザナークは、悔しがるどころか不敵にニヤリと口角を上げた。
「アームドなしじゃ破れないときたか……面白い! 今度はお前もアームドして来い! 本気と本気で激突しようぜ!!」
去っていくザナークの背中を睨みつけながら、俺は膝をつき、激しい息吐きを繰り返した。
(ハァ……ハァ……無理だ……アームドなんて……ッ)
化身アームドは、化身を出す以上にプレイヤーの身体に負荷がかかる。ただでさえ、出すだけで体力を削り取られる『ダークフェニックス』だ。ましてや今の俺は足も傷め、スタミナも減っている。
この状態でアームドしようものならどうなるか分からない。そんな過酷なリスクが、俺の頭を冷たく支配していた。
*
ザナークのシュートを弾き返した俺の元へ、信助が走ってきた。
「コウ……! ごめん、僕……僕が不甲斐ないから……っ!」
「謝るな、信助。俺たちはまだ負けてない」
俺は必死に信助を励まそうと声をかけた。だが、信助は溢れ出そうな涙を必死に堪えながら、膝を震わせて苦しい胸の内を吐き出した。
「でも、怖いんだ・・あのシュートが。あんなの、どうすればいいか・・・」
信助の顔には、絶望と恐怖が色濃く張り付いていた。一度折れてしまった心——こればかりは、周囲がどれほど前向きな言葉で鼓舞しようとも、簡単に拭い去れるものではなかった。
その時だった。
これまでベンチで静観していた孔明が、初めて自ら動いた。羽扇をすっと収めると、あまりにも突拍子のない、驚くべき指令を響かせたのだ。
「皆さん、ここは逃げましょう!!」
「「「えぇぇぇッ!?」」」
雷門全員が驚愕の声を上げる。あまりにも予想外すぎる言葉に、誰もが耳を疑った。
しかし、当の孔明は至って涼しい顔のままだ。
「今のままなら最善の策は逃げることです」
その冷徹な提案に真っ向から噛みついたのは、他でもない劉備だった。
「待て、儂は何も成し遂げずに逃げる事などできん!」
孔明はため息をつき、手にした扇で口元を隠しながら冷静に注釈を加えた。
「私は今のままならと言いました。逃げないというなら状況を打開する策が必要です。ですが、皆は満身創痍、彼もザナークの力に怯えてしまい最早立ち向かう力は残されていないでしょう。既に勝敗は見えています。それでも続けると言うのですか?」
理路整然とした完璧な正論。弱点を的確に突きつけられ、流石の劉備さんも論理的な反論ができずに一瞬言葉を詰まらせた。
——だが、劉備さんは力強く胸を叩いて叫んだ。
「だが、儂は好かん!!」
「え?」
感情論だけで己の完璧なロジックを突っぱねられ、今度は孔明の方がその常識破りな態度に目を見張る番だった。
劉備さんはその場に立ち尽くす信助へと向き直ると、雷のような声を張り上げた。
「信助、まだ戦いは終わっておらんぞ!諦めていいのか!?」
だが……劉備さんの熱い言葉にいつもなら鼓舞されていたはずの信助も、今度ばかりは深くうつむいたまま、弱々しく首を振るだけだった。
「劉備さん・・でもボクの力じゃあのシュートは・・・」
「確実に無理だろうな!」
「え……?」
信助が愕然として顔を上げる。劉備さんは慰めるどころか、信助の「無理だ」という弱音をそのまま肯定してみせたのだ。
「儂も一人では曹操に太刀打ち出来ん!だから皆が、仲間がいるんじゃないか!儂も張飛に関羽、そして多くの仲間が居てくれたからここにおる」
劉備さんの言葉に、グラウンド全体が静まり返る。
「どれだけ無様に敗れようと諦めずに立ち上がれるのは、ともに力を合わせ守りたい民がいるからだ。儂を信じ、ついてきてくれた民たち。儂は民たちがいつものびのびと笑っていられる国が作りたい!その笑顔がなければ儂は死んでしまう。水がなくては生きられん魚のようにな!ともに支え合い一人では敵わん相手にも立ち向かう力をくれる、それが仲間だろう!さっきのザナークのシュート、お前が立ち向かえなかったとき前に立ち、守ってくれた仲間を見なかったのか?」
劉備さんの魂からの叫び。それは信助の心だけでなく、これまで彼の誘いを冷ややかに断り続けてきた天才軍師・孔明の胸をも強く打っているようだ。
「信助! お前にもあるはずだ……お前が心から守りたいものがッ!」
「守りたいもの……」
問われた信助の脳裏に、いくつもの光景が駆け巡る。大好きなサッカー。これまでどんな苦難も一緒に乗り越えてきた雷門の仲間たち。傷つきながらも必死にボールを追いかける俺や天馬、紫の姿。
サッカーを守る。そして、その大切な思いを共有する最高の仲間たちが、今も自分を信じて背中を守ってくれている。恐怖で冷え切っていた信助の胸の奥底から、熱い炎が湧き上がってきた。
「守るんだ……サッカーを! みんなと一緒にッ!!」
信助の瞳から恐怖の影が完全に消え去り、力強い光が宿った。彼は劉備さんへと向き直り、断固たる決意を込めて強く頷いた。劉備も満足そうに、力強く頷き返す。
「ワンダバ!今ならミキシマックスできるかもしれない!」
「よぉーし!行くぞ!」
フェイの合図を受け、ワンダバが間髪いれずに銃口を向け、二人のオーラを撃ち抜いた。眩い光が信助を包み込む。光が収まったそこには、髪が鮮やかな青色へと変化し、劉備のオーラを宿した信助が立っていた。
「ミキシマックス、コンプリ——ト!!!」
*
試合は相手のスローインで再開された。ボールを受けたザナークは、ニヤリと凶悪に口角を上げる。
「劉備とのミキシマックスの力、見せてみろ。吹き飛べ!『ディザスターブレイク』!!」
放たれる災害のようなシュート! だが、今の信助に恐れは微塵もなかった。絶対の自信と仲間への信頼を胸に、真っ向からシュートへと飛び込んでいく。
「うおおぉぉ!!」
激しい土煙が立ち込め、グラウンド全体が揺れる。沈黙が訪れた後——土煙の向こうから現れたのは、ボールを両手でガッチリと、完璧に抱え込んだ信助の姿だった。
「やったぞ!信助!!」
雷門イレブンから爆発的な大歓声が上がる。俺も全身の力を抜き、思わず拳を突き上げた。
「フェイッ!!」
信助は即座に素早いアンダーハンドスローでフェイへロングフィード! ボールを受けたフェイは『ミキシトランス・ティラノ』を発動し、圧倒的なスピードで敵陣へと切り込んでいく。
「なめるなッ!」
ザナークが阻止しようと立ちはだかるが——その瞬間、先ほど彼を襲った「謎の違和感」が再び身体を駆け巡り、一瞬だけ動きが鈍った。
「もらった!」
フェイはそのわずかな隙を見逃さず、ザナークを軽やかに抜き去る。
ボールはフェイから神童先輩、そして剣城へと渡り、完璧なパスワークのホットラインが開通する。
「決めろッ!!」
剣城からのラストパスが、絶好のタイミングで中央の紫へと通った。
「ミキシトランス『孔明』!!」
紫は孔明のオーラを纏うと、渾身の力で必殺技を放った!
「見せてあげるわ……『天地雷鳴』ッ!!」
天から轟く雷光と凄まじい衝撃波がボールに宿り、相手ゴールへ目掛け一直線に突き刺さる! シュテンは反応することすらできず、ボールはそのままゴールネットを激しく揺らした!
*
得点を許したザナークは、激しい怒りを燃やすと同時に、目の前の雷門イレブンが己の全力をぶつけるに値する「好敵手」であることを認め、口元に狂気じみた笑みを浮かべた。
「同点だと!?・・・俺をここまで楽しませてくれるとは。面白い、面白いぞ雷門!!」
怒涛の威圧感を放ちながら、ザナークは雷門陣営へと強烈に攻め上がってくる。だが——その直後、再びあの異常な違和感が彼の身体を襲った。
「ぐっ……!? ガ……アァぁぁッ!?」
ザナークの身体から、凄まじい密度の禍々しいオーラが制御を失って噴出し始めた。そのオーラは暴風となって荒れ狂う。
その異常をいち早く見抜いたのは孔明だった。
「ここにいては危険です。早く逃げましょう!」
「けど、まだ試合が——」
「あれはただ破壊するだけの力の塊。これは最早、試合ですらありません。それでもまだ続けますか」
「それは……」
「ここは孔明の言うとおりだ。撤退するぞ」
今度は劉備も孔明の判断に即座に同意し、全員に撤退を指示する。その暴走の規模は凄まじく、味方であるザナーク・ドメインのメンバーすらも恐怖に顔を歪め、慌てて次元転送装置を起動してその場から逃走していった。
雷門の仲間たちが一斉に撤退を開始する中、俺はその場に一人踏みとどまり、狂乱するザナークの姿を凝視していた。
(この暴走……俺は知っている……!)
脳裏に蘇る記憶。かつて自分が初めてセカンドステージチルドレンとしての力を覚醒させたあの時——抑えきれないエネルギーに身を焦がし、正気を失って暴走したあの恐怖と全く同じだったのだ。
とても他人事とは思えない。
「ダメよ、コウ! 早く逃げないと巻き込まれるわ!」
逃げ遅れた俺に気づき、紫が必死に叫びながら駆け寄って腕を掴もうとする。だが、俺は紫の手をそっと振りほどき、まっすぐにザナークを見据えた。
「俺にはあいつを助けられる力があるかもしれないんだ……なのに見捨てるなんて選択肢取れるわけないだろ!」
「ダメよ、コウッ!! お願いだから戻ってきて!!」
紫の制止の叫びを背に受けながら、俺は迷うことなく暴走の渦の中心へと駆け出した。脚の激痛など、もう意識にすら上らない。
胸の底から全てのエネルギーを力任せに絞り出す!
「来いッ! 『獄炎鳥ダークフェニックス』!!」
黒炎の巨鳥を呼び覚ますと同時に、その漆黒の鎧を身体に纏う!
「化身アームドーーーーッ!!」
全身を焼くような痛みに叫びながら、アームド状態となった俺は、暴走するザナークの圧倒的なオーラの渦流へと真っ向から突撃した。
二つの巨大力が真っ向から激突した瞬間——
視界の全てが眩い光と爆風で埋め尽くされ、ザナークを中心に天地を揺るがす大爆発が巻き起こった。
「コウーーーーーーッ!!」
遠ざかる紫の悲鳴を最後に、俺の意識は深い闇の中へと落ちていった。