イナズマイレブンGO 紅蓮の翼   作:シキDX

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第六十話 幕末の風雲児 坂本龍馬

 フラフラとした覚束ない足取りで戻っていく沖田の背中を、俺たちは切ない思いで見送るしかなかった。

 するとそこへ、先ほど天馬たちが話していた「中岡」という人物が息を切らせて現れた。どうやら姿を消した龍馬さんを探していたらしく、俺たちは彼の案内に従って、龍馬さんたちが身を寄せている隠れ宿へと向かうことになった。

 宿の部屋に通されるなり、龍馬大好きな錦先輩は大はしゃぎ。

 

「ぬお〜!ここが坂本龍馬の寝泊まりしてる場所!感動じゃの〜!!」

 

「ちょっとは落ち着け!」

 

 あまりの興奮ぶりに、水鳥先輩が呆れ顔で頭を叩いて諌めている。

 そんな二人を前に、中岡は温かい笑顔を浮かべながらみんなにお茶を淹れてくれた。

 

「それにしても龍馬さんどこに行ったんだろう」

 

「ま、そのうち帰って来るだろう。みんなもここで待つと良い」

 

「ありがとうございます。中岡さん」

 

「わぁ〜、良い天気やんね〜障子開けなきゃ勿体無いやんね〜」

 

 マイペースな黄名子が何気なく障子を開けようと手をかけた——その瞬間!

 

「待ちなさいッ! 開けてはダメだ!」

 

 中岡が急激に顔色を変えて飛んできた。

 慌てる黄名子に、中岡さんは息を整えながら静かに説明を始めた。

 

「ここに我々がいることを知られたらまずいんだ!特に新撰組には」

 

「うぅ……ごめんなさい……」

 

自分の無知さを痛感し、しょんぼりと反省する黄名子。

——だったのだが。

 

「今帰ったぞーッ!!」

 

「お前が大声出すなよ……」

 

 街道まで響き渡りそうな大声を上げながら、当の坂本龍馬本人がバタバタと豪快に帰ってきたのだ。

 中岡さんの命懸けの警戒と説明を台無しにするレベルのダイナミックな登場に、俺たちは思わずずっこけそうになった。

 

「龍馬さん! 一体どこへ行ってたんですか!?」

 

フェイが呆れ交じりに尋ねると、龍馬さんはお茶をグッと飲み干しながら、こともなげに言い放った。

 

「おう! ちょっと二条城まで行ってきた!」

 

「「「ええぇぇぇーーーッ!???」」」

 

 天馬とフェイ、そしてその場にいた全員が大目玉を飛び出させて叫んだ。命を狙われている討幕派のトップが、幕府の本拠地である二条城へ乗り込むなど、常識では考えられない暴挙だ。

 

「で、どうだったんですか二条城は!?」

 

「いやあ、全然アカンかったわ! 門番どもが『捕らえろー!』って刀を抜いて襲いかかってきたから、脱兎のごとく逃げてきたってわけよ! ハッハッハ!」

 

 淹れたてのお茶をズズッと啜りながら笑い飛ばす龍馬さん。

 想像を絶する行動力と命知らずぶりに、中岡さんも頭を抱えて呆れ果てている。

 

「しかし何故だ?どうしていきなり慶喜公に会いたいなどと」

 

 中岡の問いかけに、龍馬さんは先ほどまでの冗談めかした顔を捨て、真っ直ぐで力強い目を向けた。

 

「前から思ってたんだ。早く日本をなんとかしなきゃならねぇってな。もっと良くしたいだ。この国を世界に誇れる素晴らしい国に。そのためなら俺っちはなんでもやる」

 

 慶喜公を説得し、戦を回避して日本を生まれ変わらせる——その大きすぎる志に、俺は息をのんだ。

 だが、現実は甘くない。龍馬さんはぐっと肩を落とし、畳の上にごろりと横になってしまった。

 

「だが結局は門前払い……どうすれば良いもんか」

 

 幕府を倒そうと画策する代表格が、直接将軍に会えるはずもない。どれだけ熱い志があっても、一個人の立場という大きな壁が立ちはだかる。己の限界を痛感した龍馬さんの言葉に、部屋の中にはどんよりとした煮詰まった空気が漂い始めた。

 その重苦しい沈黙を打ち破ったのは、やっぱり天馬だった。

 

「そうだ!サッカーの練習をしませんか!?」

 

 名案と思いついたように目を輝かせる天馬の提案に、部屋の空気がふっと動き出したのだった。

 

*

 

 その後、俺たちは神社の脇にある広い空き地へと移動し、それぞれサッカーの練習に打ち込んでいた。

天馬たちは龍馬さんを囲んで楽しくボールを蹴り合っている。そんな賑やかな声から少し離れた場所で、俺は自分の右手に意識を集中させていた。

 

「くっ……出ろ、『獄炎鳥ダークフェニックス』……!」

 

 腹の底から力を込め、抑え込まれた黒いオーラを引き出そうと試みる。だが、姿を現すのは、いつも俺の背後に宿る、紅蓮の炎を纏った不死鳥だった。

 

「……ダメだ。やっぱり出てこねぇ……」

 

 何度やっても現れるのはいつもの『聖焔のフェニックス』だ。膝に手をつき、肩で息を吐きながら俺は苦々しく吐き捨てた。

 

「こんな状態で……あのザナークの化身に勝てるのか……?」

 

 自分の不甲斐なさと焦りから不安を漏らす俺に、明るい声が飛んできた。

 

「コウ! できへんことをウジウジ悩んでても仕方ないやんね! そういう時は、新しい必殺技の練習でもして気分転換するに限るやんね!」

 

 サッカーボールをポンポンと足でリフティングしながら、黄名子が眩しい笑顔でこちらへ駆け寄ってくる。

 俺のダークフェニックスを出す特訓をずっと横で見守り、サポートしてくれていた紫も、優しく微笑みながら頷いた。

 

「そうよ、コウ。焦って自分の身体を追い詰めても良いことなんてないわ。黄名子の言う通り、今は一度頭を空っぽにして、できることに集中しましょう?」

 

 ふたりの言葉に、俺はスーッと深呼吸をして頭の熱を冷ました。

 

「……そうだな。ふたりとも、ありがとな。よし……黄名子、前から話してたあの連携技の特訓、再会しようぜ!」

 

「おー! 任せるやんね!」

 

 俺たちは気持ちを切り替え、黄名子との新しい連携シュートの完成に向けてボールを蹴り始めた。

 

*

 

 それからしばらく時間が経ち、汗を流していた俺たちの元へ、街道の方から中岡が猛スピードで走ってきた。

 息を切らした中岡の手には、一通の重々しい書状が握られていた。それはなんと、幕府から坂本龍馬宛てに届いた公式の書状だった。

 

「どうした中岡?」

 

 駆け寄った龍馬さんが書状を受け取り、目を通す。すると次の瞬間、龍馬さんの瞳が子どものようにキラキラと輝き出した。

 

「な……なんとーっ!? 慶喜公が……わしに会ってくれるってよ!!」

 

「えぇッ!?すごいじゃないですか!?」

 

 だが、案内してきた中岡さんの表情は酷く険しかった。

 

「だが、俺が思うにこれはおそらく罠だ……龍馬を呼び出して命を奪おうとしているに違いない」

 

 冷静な中岡さんの指摘に、その場の空気がキュッと引き締まる。

 しかし、龍馬さんは書状を固く握りしめたまま、ニッと力強く笑ってみせた。

 

「……いや、俺っちはいくぜ!」

 

「命を捨てる気か!?」

 

「慶喜公に俺っちの考えを伝える良い機会だからな」

 

「ダメだっ!幕府の思う壺だ!」

 

 たとえ罠だと分かっていても、日本の未来のために自らの命を懸ける——その一歩も引かない眼差しは、彼の言葉が一切の嘘偽りもない本物であることを証明していた。

 

 いや!ここで行かなきゃ男が廃る!まあ、いざとなればこの腹でぽーんだ! ハッハッハ!」

 

 豪快に自分の太い腹を叩いて見せる龍馬さん。

 その覚悟と堂々とした姿を見つめていたフェイが、ふと何かを思いついたように顔を上げた。

 

「そうだ良い作戦があるよ!」

 

 

 *

 

 フェイの思いついた作戦——それはなんと、あらゆる障害を全て無視し、TMキャラバンに乗って空からダイレクトに二条城の敷地内へ龍馬さんを送り届けるという、あまりにも大胆不敵な方法だった。

 キャラバンから降り立った龍馬さんは、堂々とした態度で静かに頭を下げた。

 

「この度のお目通り!誠にありがとうございます!」

 

「……うむ、苦しゅうない」

 

 機先を制するようなその誠実な言葉に、あらかじめ龍馬さんをここで討ち取ろうと潜んでいたであろう徳川慶喜公は、思わず息を呑み、気圧されるようにたじろいだ。

 そこへ畳みかけるように、フェイが物陰に潜む刺客たちに聞こえるよう、ワザとらしく大きな声を張り上げた。

 

「龍馬さんに何かあったら、僕らはすぐにこれで帰ります!

 

「どういうことだ!」

 

「もし罠だったてことが人々に知られたら誰も幕府を信用しなくなるんじゃないかな」

 

 無邪気な笑顔で恐ろしい牽制を言い放つフェイ。慶喜公の隣で何やら良からぬ入れ知恵をしていたであろう側近の家臣は、ぐうの音も出ず二の句が継げなくなった。

 幕府側の汚い裏の手を完璧に封じ込めたところで、天馬が真剣な眼差しで一歩前へ出た。

 

「龍馬さんの話を聞いてあげてください!お願いします!」

 

 ここまでの手筈を踏まれてしまっては、慶喜公ももはや無碍に断るわけにはいかなくなった。

 

「……手短に話せ」

 

 苦々しい表情ながらも、会談を承諾する慶喜公。傍らに控えていた沖田さんは納得がいかない様子で拳を握りしめていたが、上様である将軍の意思を前にしては、ただ静観するしかなかった。

 発言の機会を得た龍馬さんは、一秒たりとも時を無駄にしなかった。まっすぐに慶喜公を見つめ、即座に核心を突く。

 

「はっ!単刀直入に申し上げます。日本はもっと開かれた国にしたいのです」

 

「何を言い出す!」

 

「『大政奉還』であります!」

 

 天下の将軍を前にして、将軍が将軍たる所以であるその絶大な権力を全て手放せと迫ったのだ。

 

「これが……歴史の教科書で見た『大政奉還』の現場か……!」

 

「とんでもない瞬間に立ちあってるぜよ!ワシら!」

 

 学校の授業で名前だけは誰もが知っている歴史的大事件。俺はその場のヒリヒリとした緊張感に息を呑み、鳥肌が立つのを抑えられなかった。俺たちは今、まさに日本の歴史が大きく塗り替わる瞬間の渦中に立っているのだ。

龍馬さんは熱弁を振るう。

 

「鎖国をやめ世界に目を向けるのです。皆んなが平等の社会を作り日本人が一つになる。そうすれば外国にも負けない強い国『日本』ができるに違いありません!」

 

 だが、その先進的すぎる思想は、武士階級のトップに君臨する慶喜公にとっては承服しかねるものだった。

 

「武士が町人と一つになるだと戯言よ!さすが田舎侍の考えることだな」

 

 一蹴し、龍馬さんをあからさまに見下して罵る慶喜公。

 

「田舎侍じゃと!」

 

 その言葉に、龍馬さん本人よりも後ろにいた錦先輩が激高しかける。

 しかし、その一触即発の場に、さらなる嵐のような珍客が乱入してきた。

 爆音とともに赤いエアバイクを駆って乱入してきたのは、あのザナーク・アバロニクだった。

 

「な、何者だッ!?」

 

 驚愕する慶喜公たちを尻目に、ザナークは不敵に笑いながらスフィアデバイスの黄色のボタンを起動させる。まばゆい光が放たれ——それは対象を洗脳するマインドコントロールモードの発動だった。

 黄色い光を浴び、怪しい光を瞳に宿した慶喜公には、ザナークの姿が信頼する新選組局長「近藤勇」に見えているようだった。

 

「よう将軍様。俺にいい考えがあるぜ」

 

 ザナークは将軍相手に堂々とタメ口で語りかける。

 

「『大政奉還』を賭けてサッカーで勝負するのはどうだ?」

 

 ザナークの突飛すぎる提案に、敵味方の全員に極限の緊張が走った。

 

「本当に勝てるのだろうな」

 

 慶喜公の側近が不安げに尋ねる。

 

「ハッ、俺に任せておけば間違いねえ」

 

自信満々と言い放つザナークの態度に気を良くした慶喜公は、その提案をあっさりと受け入れてしまった。

 

「……良いだろう! 坂本龍馬、もしお前たちがこのサッカーの試合に勝てば、大政奉還を受け入れてやろう!」

 

 無用な血を流さずに話がまとまるのであれば、龍馬さんに異論があろうはずもない。そしてそれは、歴史を守り、サッカーで全てを解決したい雷門の全員にとっても、渡りに船の最高の条件だった。

 

 *

 

 試合を前に、龍馬は雷門の全員を見渡し、力強い声で言葉を紡いだ。

 

「大政奉還が掛かっているんだ!絶対に負けられねえ!」

 

「ハイっ!気合い入れていきましょう!」

 

「「「おーっ!!」」」

 

 雷門の面々に一気に気合が入る。だがその時、ザナーク・ドメイン側のベンチから、刺さるような鋭い視線が飛んできた。沖田さんだ。その瞳には「絶対に龍馬の思い通りにはさせない」という強い意志が宿っていた。

 睨み合う龍馬と沖田。日本の未来を幕府のまま残すのか、それとも新しい時代へと変革するのか——まさにふたりの相容れぬ思想と覚悟が、ピッチ全体を焦がすような熱気となってぶつかり合っていた。

 その熱気に感化されたのか、横で見ていたワンダバが「うおおおっ!」と興奮状態で体を真っピンクに染めて叫び出す。

 

「今度こそ!監督ができるぞっ!」

 

歓喜に打ち震えるワンダバ……だったのだが。

 

「おい、中岡!監督がいるらしいからお前がやってくれ」

 

「よろしくお願いします!」

 

「承知した!」

 

 龍馬と天馬はあっさりと中岡に監督を依頼し、中岡さんも爽やかな笑顔で快諾した。

 ベンチの端で頭から派手に転げ落ちる哀れなワンダバを横目に、運命の試合が幕を開けた。

 

 *

 

 ぶおおお〜〜〜ッ!!

重厚な法螺貝の音が響き渡り、ザナーク・ドメインのボールでキックオフ!

 ラセツからパスを受けたザナークは不敵に口元を歪め、すぐさまゴブリスへ。空中ダイレクトでそれを受けたゴブリスからエンギルへ——息をつく暇もない超高速のノートラップパス回しが展開される!

 

「くっ、速い……ッ!パス回しについていけない!」

 

 雷門が翻弄される中、シンジャミから前線の沖田さんへとパスが渡った。

 

「ここからは絶対に通さん!」

 

「お前には負けん!!」

 

 立ちはだかる龍馬。だが、ライバル心を激しく燃やす沖田さんは、かつて見せた切れ味鋭い身のこなしをさらに上回るスピードで、龍馬さんを鮮やかにかわしてみせた。ザナークの力によって、彼の身体能力が異常なまでに引き上げられているのは明らかだった。

 しかも、個人技に頼っていた以前とは違い、今の沖田さんはチームプレイにも撤している。すぐさまサイドのラセツへ正確なパスを供給。ラセツを経由し、ボールは中央のザナークへ渡った。

 

「ハハッ! 早速決めさせてもらうぜ!」

 

 ザナークが早くも必殺シュートの体勢に入る。

 

(させるかよ……ッ!!)

 

 俺は走ると同時にリストバンドを外し、内に秘めた力を一気に開放した。全身を駆け巡る高負荷のオーラをコントロールし、超加速でザナークの懐へと飛び込む!

 

「ぬ……っ!?」

 

「ここで打たせるかぁぁぁッ!!」

 

 ザナークの巨体と激しく衝突し、泥臭く身体をねじ込んで力ずくでボールを奪い取る! 拮抗したプレイで強引にカットしてみせた俺に、ザナークは驚きつつもニヤリと楽しそうに笑った。

 

「へっ……面白いじゃねえか、コウ!」

 

「黄名子、上がれッ!」

 

 奪ったボールを素早く黄名子へパス。

 

「任せるやんね! 天馬!」

 

 黄名子がダイレクトで前に送ると、受け取った天馬が勢いよくドリブルで駆け上がる。立ち塞がる相手DFのヤシャに対し、天馬は構える。

 

「『アグレッシブビートV2』」

 

 眩い光のビートでヤシャを抜き去り、前線で待つ剣城へ完璧なラストパス!

 

「頼むぞ、剣城!」

 

「任せろ! 『デビルバースト』!!」

 

 剣城が漆黒の翼を広げて跳躍し、禍々しい魔力を込めた強烈なシュートを放つ! ゴールへ突き刺さるかと思われたその時——相手GKシュテンが怪しく手を掲げた。

 

「ふん……『サンドカッター』!」

 

砂の刃が切り裂くように剣城のシュートを激しく減衰させ、あっけなくキャッチされてしまった。

ボールを収めたシュテンからパスを受け取ったザナークは、不敵に肩をすくめて言い放つ。

 

「ハッ、なかなかやるじゃねえか。……だが次は、全員で遊んでやるぜ!」

 

 ザナークのその言葉通り、敵チーム全体が怒涛の勢いに乗って襲いかかってきた。ザナーク・ドメインの圧倒的なフィジカルと連携に押され、雷門は完全に防戦一方へと追い込まれてしまう。

 そして、再びボールは沖田の足元へ。

 

「……ぐっ!?」

 

 ボールを受けた直後、沖田は突如として苦痛に顔を歪め、激しく胸を押さえてその場に膝をつきかけた。肺病の進行はあまりにも深刻だった。ザナークから与えられた強大な術をもってしても、病魔が彼の蝕む苦痛までは消し去れなくなってきていたのだ。

 そこへ、龍馬が大声で駆け寄る。

 

「沖田!!何故そこまで幕府にこだわる!」

 

 病を押してまで幕府を守ろうとする沖田さんの頑なな姿に、見かねた龍馬が叫ぶ。だが、沖田は荒い息を吐きながら、血走った目で龍馬を睨み返した。

 

「幕府を守ることがひいてはこの国を守ることに繋がるんだ!」

 

 龍馬さんの制止を振り払い、沖田は執念だけで前進すると、中央のザナークへ魂のパスを繋いだ。

 

「これで終わりだぁッ!」

 

 絶好の体制でボールを受けたザナークが、ダイレクトで必殺シュートを放つ!

 

「『ディザスターブレイク』!!」

 

幾重もの破壊のエネルギーが旋風となって迫る!

 

「ミキシトランス・『劉備』!!」

 

 信助がミキシトランスし、必殺技で迎え撃つ! だが、ザナークの規格外のパワーは信助の防壁を容赦なく打ち砕き、そのまま信助ごとゴール枠内へ強烈に押し込んでしまった。

 シュートが突き刺さると同時に、前半終了を告げる寂しげな法螺貝の音がピッチに響き渡った。雷門は1点のビードを許したまま、重苦しい空気でハーフタイムを迎えることとなった。

 

*

 

 ピッチに前半終了を告げる重々しい法螺貝の音が響き渡った、まさにその瞬間だった。

 糸がプツリと切れた人形のように、沖田がその場に崩れ落ち、力尽きて膝を地に突いた。胸を強く手で押しつけ、これまで以上に壮絶な苦悶の表情を浮かべて激しく咳き込んでいる。

 

「ハッ……ガハッ……! く……っ!」

 

 激痛と酸欠に苛まれながらも、彼は震える足でなお立ち上がろうと地面を引っかいていた。

 だが——そんな沖田の姿を冷ややかに見下ろす慶喜公、そしてザナークの目には、もはや病身の彼に対する情などひとかけらも残っていなかった。

 

「まだだ……まだ俺は……」

 

「終わりだな沖田」

 

 ザナークは吐き捨てるように言い放つと、非情にも沖田さんに背を向けた。それは、後半戦で沖田さんを使うつもりは毛頭ないという、冷酷な戦力外通告だった。

 自分の命、己のすべてを賭けて挑んだ戦いだった。それなのに、あまりにもあっけなく、一方的に終わりを告げられた沖田さんは、ただ虚ろな目で力無く肩を落とすことしかできない。

 そんな彼の元へ、迷いのない足取りで駆けていったのは——敵であるはずの剣城だった。

 

「無念だ俺の力では守ることができないのか……」

 

 血の気の引いた唇で無念さを漏らす沖田さんに対し、剣城は膝をつき、まっすぐに彼の目を見つめて語りかけ始めた。

 

「聞いてください、沖田さん……幕府を守ることがこの国を守ることじゃない。俺たちはこの国の未来から来ました。だから、わかるんです」

 

 思い切った剣城の告白に、沖田さんの目がかすかに揺れた。

 

 荒唐無稽極まりない話だ。普通なら一蹴されるような言葉だったが、鋭敏な感性を持つ沖田さんには分かっていた。自分を真っ直ぐに見つめ返す剣城の瞳が、一切の嘘や誤魔化しを語っていないことを。

 そこへ、重厚な足音とともに龍馬さんが歩み寄り、加勢するように熱い声を掛けた。

 

「こいつが言ってることは本当だぜ。お前だって気づいてんだろ。幕府を維持したところでこの国は良くならないって。その事実から目を背けて意地になってる。俺っちを斬っても何も変わらねえ本当に変わらないといけないのはウジウジと殻に籠った今の日本だ!」

 

「俺は……俺達は間違っていたのか……?そんなはずは……!」

 

 龍馬さんの雷のような喝破が、沖田の胸を強く突く。過ちを認めつつも、長年背負ってきた誇りの重さに押し潰され、諦めかけたように顔を背ける沖田。

 だが、剣城は諦めなかった。さらに語気を強め、魂を揺さぶるように言葉を重ねる。

 

「間違っていたのなら正せば良いじゃないですか!間違いを認めれば正しい道に進めます!」

 

「しかし今頃気づいてもどうにもならん!」

 

「諦めるんですか!」

 

「今の俺に何ができる!」

 

「俺は知っています!絶望の中にいながらも決して諦めなかった男を!俺はその人を尊敬しています!」

 

 剣城の瞳に宿る熱い光。それは言外に、「あなたにも、俺が尊敬する兄のように、絶望を越えて立ち上がってほしい」という切実な魂の叫びだった。

 

「俺たちに力を貸してください!あなたの力があれば大きなものを救えるんです!」

 

 熱を帯びた剣城の説得に、沖田さんの心は激しく揺れ動いていた。自分の過ちも、時代の流れも、頭では薄々理解している。だが——『新選組』という看板を背負い、これまで信念を貫いて生きてきた彼の立場が、それを簡単に良しとはしなかった。

 背負ってきたものの重さ、積み上げてきた信念。それを自ら覆すということは、これまでの沖田さんの人生そのものを否定し、捨て去るに等しい行為だ。

 

 (……くそっ、沖田……!)

 

 傍らで見守る俺も、胸が締め付けられる思いだった。こればかりは外から誰が何を言おうと、他人には決して踏み込めない聖域だ。沖田さん自身が、己の意思で殻を破り、変わる決断をする以外に道はないのだから。

 

*

 

「ハハッ、どこからでもかかって来いよ!」

 

「ワシが本当のサッカーを教えてやるぜよ!」

 

 

余裕の笑みを浮かべるザナークの煽りに、錦先輩がと威勢よく乗っかる。

 

「へっ! そう言うと思ったぜ!」

 

 ザナークはさらにニヤリと鼻で笑った。

 ハーフタイムが明け、雷門のキックオフで後半戦がスタートする!

 フェイから天馬へ、さらに紫を経由して、前線の龍馬へと細かいパスがつながる。

 

「大政奉還、必ず勝ち取ってみせる!」

 

 龍馬さんは気合十分でボールをキープしようとするが、いくら類稀な才覚があろうと、サッカーを始めたばかりの初心者だ。立ち塞がった相手DFのヤシャにあっさりとボールを奪われてしまう。

 

「くっ、奪われた!?」

 

 一瞬にして攻守が入れ替わる。ザナーク・ドメインは前半同様、息の合った素早いパス回しでヤシャからメイズ、そして巨体のゴブリスへとボールを展開していく。

 

 

「させるかッ!」

 

 猛然と突進してくるゴブリスの前に、俺は立ちはだかった。前半から力を解放し続けているせいで呼吸は荒く、身体には重い疲労が蓄積し始めている。だが、ここで引くわけにはいかない。

 

「『イグナイトスティールV4』!!」

 

 足元から爆炎を打ち上げ、真っ向からゴブリスの突進を喰い止めて難なくボールを奪い去る!

 

「紫! !」

 

 すぐさま味方へパスを出す俺。だが、ザナーク・ドメインの連動したプレスは凄まじく、パスを受けた味方は即座に囲い込まれてしまい、あっという間にボールを再奪取されてしまった。

 勢いに乗って攻め込んでくるザナークに対し、錦先輩が立ち塞がる。

 

「これ以上行かせんッ!」

 

 しかし、ザナークはと余裕の表情のまま、圧倒的なフィジカルで錦先輩を力ずくで吹き飛ばして抜き去っていく。

 

「ハッ、本当のサッカーとやらを教えてくれるんじゃなかったのか?」

 

 俺は抜かれた錦先輩のカバーに入ろうとザナークの前に立ちはだかった。だが、ザナークに強烈なマークが集中したその一瞬の隙を見逃さず、フリーになっていた逆サイドのラセツへボールが渡ってしまう!

 

「やばい、ラセツが完全にフリーだ!」

 

「……ダメ! 身体に力が入りすぎてるわ!」

 

 ゴール前で身構える信助の異変を、紫がいち早く察知して叫んだ。「絶対にこれ以上入れさせない」という強いプレッシャーから、信助の身体はガチガチに力んでいた。この状態では、ラセツの放つ強烈なシュートを受け止めることはできない。

 絶体絶命——誰もがそう覚悟したその瞬間だった。

 

「させるかぁぁぁッ!!」

 

 突如、雷門のゴール前へ滑り込んできた影があった。なんと、FWであるはずの剣城だ!

 最前線から自陣ゴール前まで必死に戻ってきた剣城は、ラセツのシュート体勢に入る直前に鮮やかなスライディングでボールをカットしてみせたのだ!

 

「なっ……剣城!?」

 

 ピンチを凌いだ剣城の執念のプレーに、敵であるザナークだけでなく、ベンチの沖田までもが驚愕の目で息を呑む。

 ザナークは敵ながら剣城の気迫に感心したようにニヤリと笑うと、すぐさまシンジャミとゴブリスのふたりを剣城へ向かわせた。

 ふたりは剣城に対して強引に身体をぶつけ、あからさまにその進撃を妨害する。

 

「今のは反則ぜよッ!」

 

「ハッ! これが俺達のやり方だ!」

 

 あからさまなラフプレーに錦先輩が激高して抗議の声を上げるが、ザナークは悪びれもせず取り合わない。

 

 だが、本当に周りを驚かせたのは、その後の剣城の振る舞いだった。

 激しく倒された剣城は、素早く立ち上がると審判や相手に抗議する素振りすら一切見せず、脇目もふらずにボールを保持するシンジャミへ向かって猛ダッシュを開始したのだ。

 

「……チッ、どこまでも往生際の悪い奴だ!」

 

 ラフプレーで痛い目に遭わせたはずの剣城が、なおも折れずに食らいついてくる。その凄まじい執念を突きつけられたザナークは、手加減無用とばかりにヤシャとオーグの二重の壁を剣城の進路にぶつけた。

 

 オーグの巨体にはじき飛ばされ、さらにはヤシャのしなやかな脚で痛烈にボールを蹴りつけられる! 激しく宙を舞い、容赦なくピッチへ叩きつけられる剣城。

 

「剣城——ッ!!」

 

 俺は助けに入ろうと足を踏み出したが、前半から力を解放し続けていた反動と疲労が脚にズシリと圧しかかり、思うように身体が動かない。

 

「くそっ……!」

 

 だが、ボロボロになりながらも、剣城のサッカーへの強い思いが折れることは決してなかった。

 身体中を激しく打ちつけられ、激痛が全身を走っているはずなのに——転がってくるボールを目にした瞬間、何事もなかったかのようにすっと体を起こし、ボールを拾って再び前進を開始したのだ。

 

「うおおおぁぁぁッ!!」

 

 何度も蹴り飛ばされ、地に這いつくさりながらも、剣城は泥を噛むように前へ前へと突き進む。いかにサッカーを守りたいという思いが強くとも、このままの無茶なプレーを続ければ剣城の身体が壊れてしまうのは明白だった。

 

 地面に爪を立てながら、剣城はベンチで呆然と自分を見つめる沖田さんへ、魂の叫びをぶつけた。

 

「沖田さん力を……あなたの力を貸してください。稲妻のように切り込む。電光石火のスピードを。大切なものを守るために!!」

 

 自分の強い思いに、沖田の力が応えてくれれば——今、守らなければならないすべてのものを守ることができる! 剣城の眼差しは、言葉を超えた悲痛なまでの慟哭となって沖田さんの胸を強く刺した。

 その真っ直ぐでひたむきな瞳を受け、沖田はもはや自分の気持ちから目を背け続けることができなかった。

 

「俺の力を使えッ!! それで君の大切なものが救えるのならッ!!」

 

 沖田が叫んだ。

 剣城に協力するということは、彼がこれまで命を懸けて従ってきたその全ての法則に背くことを意味していた。だが、剣城の命を削るようなひたむきな思いが、沖田さんの頑なな理念すらも突き動かし、その意志を折り曲げさせたのだ。

 

 そしてこの瞬間こそ——ふたりの思いが完璧に一つに重なり合った、絶好のミキシマックスのタイミングだった。

 

『今じゃ!』

 

 クロノストーンとなった円堂大介さんの激しい号令が響く!

 

「よ~し!ミキシマーックス!!」

 

 ワンダバが両手に構えたミキシマックス・ガンを剣城と沖田さんへ向け、一気にトリガーを引き絞った!

二筋の眩い光が交錯し、剣城の全身を包み込む! 沖田さんの激しくも気高きオーラが、剣城の身体へと完全に融合していく——。

 

「ミキシマックス……コンプリ——ト!!!」

 

 覚醒した剣城は、沖田さんが自分に力を託してくれたその本当の意味を深く理解していた。まるで百万の援軍を得たかのような絶大な自信と気迫を全身から放ち、ザナーク・ドメインの選手たちと対峙する。

 

「行くぞ……ッ!」

 

 疾風のごとき踏み込み。さっきまでは圧倒的なフィジカルではじき返されていた敵陣営を、剣城は影すら踏ませぬスピードで翻弄し、一瞬にして突き抜けていった。

 まるで目にも留まらぬ一筋の稲妻。それこそが、沖田さんの力を得て覚醒した第6の力——『稲妻のように鋭く切り込む疾さ、電光石火のスピードストライカー』の真の姿だった。

 閃光となって敵陣を完全に切り裂いた剣城は、瞬く間に相手ゴール前へと肉薄する。

 

「なっ……速すぎる……っ!?」

 

 相手GKシュテンがその圧倒的な威容に気圧され、怯みながらも必死に構えをとる。

 剣城は極限まで高めた気を脚部に練り上げ、一振りの名刀を抜くがごとく、そのエネルギーを一気に解き放った。

 

「『菊一文字』ッ!!!!」

 

 一閃の刃となって放たれた必殺シュート! その神速と絶大な威力の前に、シュテンは反応することすらできず、ただ棒立ちで立ち尽くすことしかできなかった。

 剣城、そして沖田さんの不退転の思いが込められた白刃のシュートが、ザナーク・ドメインのゴールネットを豪快に貫き揺らす!

 同点 1−1

 雷門が土壇場でついにザナーク・ドメインへ追いついたのだ!

 

 *

 

 1点を返されたものの、ザナークはなおも口元に不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

「これが新撰組隊長、沖田総司の力か。だが、所詮悪あがき。俺の敵じゃないぜ!」

 

 

 試合再開、今度は失点したザナーク・ドメインのキックオフだ。巨体を揺らして突進してくるゴブリスに対し、黄名子が勢いよく飛び出していく!

 

「ウチに任せるやんね! 『もちもち黄粉餅』!!」

 

 ビシッと繰り出された粘り気のある巨大なお餅がゴブリスの突進をしっかりと受け止め、鮮やかにボールを奪い去る。

 

「ナイス、黄名子!」

 

「紫!行ってやんね!」

 

 雷門の急激な変化に、ザナークは今さらながら息を呑み、苦々しく眉をひそめた。

 自らの指示で剣城を追い詰めたはずが、すべて逆効果になっていたことに焦りを隠せないザナーク。

 ドリブルで駆け上がる天馬に対し、激しい対抗心を燃やすヤシャが立ち塞がる。

 

「調子に乗るなよッ! 『スクリュードライバー』!!」

 

 激しい炎を纏った蹴りで天馬を弾き飛ばし、ザナーク・ドメインが反転攻勢に出る。シュラを経由し、ボールは FWのラセツへ。

 奪ったボールは紫、そして天馬へとスムーズに繋がり、雷門が一気に怒濤の攻勢を築き上げる! 剣城が土壇場で魅せた命がけのプレーとミキシマックスによる同点ゴール——その熱い波流が、チーム全体へ確かな力となって伝波していた。

 

「ハハッ、一気に引き突き放してやるぜ!『オーガブレード』!!」

 

 ラセツのシュート凶悪な牙を剥く。

 だが、剣城の命を燃やすようなプレーに刺激されたのは、攻撃陣だけではなかった。

 

「雷門のゴールは……僕が絶対に守ってみせるッ!!」

 

 信助が咆哮する。

 背後に顕現するは『護星神タイタニアス』。瞬く間に鎧を纏うようにアームドし、迫り来る極大のシュートを真っ正面から両腕でがっちりとキャッチしてみせた。

 

「なっ……止めただと!?」

 

 チーム全体の底知れぬ力の向上に目を見張るザナーク。  

 その直後——

 

「グッ……ガハッ……!?」

 

 突如としてザナークが胸を押さえ、苦悶に顔を歪めた。これまで何度も彼を苦しめてきた、強大すぎる力の暴走の発作だ。

 

「くっ……うおおあぁぁッ!」

 

 だが、ザナークは驚異的な精神力で一瞬にして我を取り戻すと、信助から天馬へ送られたパントキックのボールを空中へ跳躍して強引にカット。

 

「認めねえぞ!俺たちが押されるなど!」

 

 流れを引き戻すべく、ザナーク自らがボールを保持して凄まじい鬼気迫る前進を開始する。

 

「させるかぁぁッ! ミキシトランス『ティラノ』!」

 

 フェイが古代の王の力を纏って立ちはだかるが、ザナークの桁外れの推進力の前に力ずくで吹き飛ばされてしまう。

 

「フェイ!」

 

「行かせん!」

 

 霧野先輩と龍馬さんが二重のカバーに入るが、猛進するザナークの前には紙切れ同然だった。まるで無人の荒野を爆走するかのように、ザナークの進撃は誰にも止められない。

 

「信助、そのまま構えてろ!」

 

 ゴール前、化身アームドのまま身構える信助の前へ、俺は息を荒げながら滑り込んだ。力の解放による負荷で全身の筋肉が悲鳴を上げているが、歯を食いしばって構えををとる。

 

「来い!『聖焔のフェニックス』」

 

 背後に紅蓮の翼を広げ、『聖焔のフェニックス』を顕現させて真っ向から迎え撃つ。

 

「ハッ、失せなッ!『魔界——っ!?」

 

 俺に応えるように化身を出そうとしたザナークだったが、その背後に現れた化身は——重々しい黒い鎖でぐるぐる巻きに縛られ、蠢いていた。

 

「ガハッ……!? ぐああぁぁぁッ!!」

 

 ザナークの全身からドス黒い凶悪なオーラが溢れ出し、彼は絶叫しながらその場に膝をついた。その禍々しい気迫と異常事態に、ザナーク・ドメインの選手たちすら息を呑んで後退りしてしまう。

 

(ザナーク……!くそっ、またあの時みたいに助けねぇと……!)

 

 俺は踏み出そうとした。……だが、以前ザナークの暴走を止めたのは、俺の中に眠るもう一つの力『ダークフェニックス』の漆黒の炎だった。今の俺には、いくら念じてもあの化身が出てこない。

 

(今の……『ダークフェニックス』を出せない俺の力で……本当にザナークを救えるのか……!?)

 

 ほんの一瞬、俺の心に迷いと躊躇が生じ、足が止まってしまった。

 その、わずかな一瞬の隙だった——

 

「うおぉぉぉーっ!! 助けてやるぜよぁぁッ!!」

 

 ザナークの背後から疾風のように飛び出したのは、錦先輩だった。

 錦先輩は背後に『戦国武神ムサシ』を顕現させると、躊躇なくその巨大な刀を一閃させた! 凄まじい剣術の冴えが、ザナークの化身をがんじがらめに縛り付けていた漆黒の鎖を一気に切り裂き、粉々に砕いてみせる!

 

「ガハッ……ハァ……ハァ……っ!」

 

 鎖が砕け散ると同時に、ザナークを苛んでいた激しい苦悶の表情がみるみるうちに消え去っていく。錦先輩の咄嗟の行動が、見事に暴走を食い止めたのだ。

 地面に膝をつき、肩で息をするザナークは、なおも自分を心から案じるような視線を向けてくる錦先輩を見上げ、困惑と苛立ちの入り混じった声で問いかけずにはいられなかった。

 

「……お前も……あのコウと同じか……!? なぜ……敵である俺を助ける……!?」

 

 錦先輩は気負う様子もなく、屈託のない眩しい笑顔で言い放った。

 

「決まってるぜよ! おまんと、最後まで全力で戦うためぜよ!」

 

 一切の悪意も計算もない、どこまでも真っ直ぐで温かい言葉。

 敵を前にしてもなお全てを包み込むその絶大な寛容さに、傍らで見ていた龍馬すら「……ほう」と目を見開いて感服していた。

 

「ワンダバ! 今ぜよッ!」

 

 龍馬さんの言葉に応えるように、ワンダバが自信満々にミキシマックスガンを構える!

 

「今度こそ! ミキシマックスーーーッ!!」

 

 放たれた光の弾丸が、錦先輩と龍馬を包み込む。龍馬さんの大海原のごときでかい器とオーラが、錦先輩の熱き魂と完全に融合を果たした!

 

「ミキシマックス……コンプリ——ト!!!」

 

 覚醒した錦先輩の姿を前に、ザナークはニヤリと不敵に笑うと、我が意を得たりとばかりに叫んだ。

 

「それがお前の新たな力か。面白い、受けて立つぜ!ミキシトランス・『曹操』!」

 

 ザナークもまた、以前手に入れた三国志の英雄・曹操のオーラを全身に纏い、怒濤の圧力を放ち始める!

 信助が「錦先輩っ!」と力強いパスを送る。ボールを受け取った錦先輩は、一切の恐れもなく真っ直ぐザナークへと向かって突進した。ザナークもまた、正面からその挑戦を受け止めるべく身構える!

 

「叩き潰してやるぜぇッ!」

 

「おおぉぉぉーッ! 『クロシオライド』!!」

 

 錦先輩が繰り出した波涛のごとき技が、土佐の激しい荒波が断崖絶壁を洗い流すかのように、曹操の力を纏ったザナークをも力ずくで吹き飛ばしてしまった!

 

「な……なにぃっ!?」

 

 続いて襲いかかってくる相手MFのメイズに対し、錦先輩は技を使うまでもなく、華麗な足さばきのテクニックだけで軽々と置き去りにして前進する。ザナーク以外の敵など、もはや力比べをする価値すらないと見抜いていたのだ。

 

「神童! 決めるぜよッ!」

 

 前線へ送られた絶妙なラストパス。

ボールを受けた神童先輩が、即座にオーラを爆発させる。

 

「ミキシトランス・『信長』!!」

 

 織田信長の絶対的な覇気を纏った神童先輩が、跳躍とともに一振りの刀を振り下ろすように必殺シュートを放つ!

 

「『刹那ブースト』ーーーッ!!!!」

 

 神速の閃光となって放たれたシュートが、相手GKシュテンの防壁を豪快にこじ開け、ゴールネットを激しく突き破った。

 勝ち越し2−1

 雷門がついに、あのザナーク・ドメインを相手に逆転に成功したのだ!

 

 *

 

 ついに2−1と逆転し、このまま試合の流れは完全に雷門のペースになる……誰もがそう確信した。

 だが、そうはならなかった。彼らが土壇場でみせたのは、これまでの刺客たちとは一線を画す異彩——ザナーク、そしてザナーク・ドメインというチームの本質だった。

 

「このままじゃ終わらねえ。この試合必ず勝つ!エルドラドのジジイどものためじゃねえ。俺のプライドが許さねぇんだ!」

 

「「「おう!」」」

 

 その言葉に、ザナーク・ドメインの選手たちが力強く頷き、不敵な笑みを浮かべた。

 彼らはエルドラドの手柄が欲しいわけでも、任務失敗後の懲罰を恐れているわけでもない。ただ純粋に、「負けたくない」という己の圧倒的なプライドのためだけに戦っているのだ。

 だからこそ——逆転された状況であっても、彼らの瞳には怯えも、動揺も、気後れすらもひとかけらも存在しなかった。

 試合再開。ボールを受けたメイズが獰猛な笑みを浮かべる。

 

「どきなッ!『バンジースラスト』!!」

 

 文字通り強烈な爆煙でフェイを煙に巻き、一瞬で抜き去っていく。

 

「させないやんね! 『もちもち黄粉餅』!!」

 

 だが、すぐさまカバーに入った黄名子が驚異的な反応で粘り強いお餅を展開し、メイズの足元からボールを鮮やかに奪い去る。

 譲れない歴史を守る雷門と、傷つけられぬ誇りを懸けたザナーク・ドメイン。両者の強烈すぎるプライドが正面から激突し、ピッチ上は一進一退の息を呑むような超ハイレベルな死闘へと昇華していった。

 

*

 

 熱戦のまま時間は刻一刻と過ぎ、残り時間はあとわずか。

 

(……くそっ……!)

 

 ボールが行き交う激しい攻防の中、俺の胸の中には泥のような重い感情が渦巻いていた。さっきザナークが暴走した時、助けるのに一瞬迷って足が止まってしまったこと……それが自分自身に対してあまりにも情けなく、失望していた。

 

「あの力がないと……俺には何もできないのか……?」

 

 

 思わず声から漏れ出てしまったその弱音を、すぐ隣を走っていた黄名子が見逃さなかった。

 

「それは違うやんね! コウ!!」

 

 凛とした強い声が、俺の不安を吹き飛ばすように響く。

 

「力がなくたって戦える!皆んなだって諦めずに、今自分ができる限りの力で、全力を尽くしてるやんねッ!」

 

「……今できる、全力……」

 

 ハッと息を呑み、周りを見渡す。ボロボロになりながら走る剣城、必死に声を張る天馬、みんな今持てるすべてをピッチにぶつけている。

 

「そうだな無いものを悔やんで悩んでる暇は俺たちには無いよな!」

 

 俺の心の迷いが晴れ、瞳に再び熱い炎が宿った——まさにその瞬間だった。

 

「『ディザスターブレイク!!」

 

 凄まじい破壊のエネルギーを纏い、ザナークの放った極大の必殺シュートが雷門ゴールへ向かって一直線に飛来する。

 

「黄名子!特訓の成果、ここで出すぞッ!!」

 

「任せるやんね、コウ!!」

 

 俺と黄名子は顔を見合わせると、同時に強い踏み込みで跳躍した!

 

「「『ファイアートルネードDD』ッ!!!!」」

 

 背後に巨大な炎の竜巻を巻き起こし、二人同時に回転しながら空中へ急上昇! 勢いを乗せた熱炎のダブルシュートが、ザナークのディザスターブレイクを正面から完璧に捉え、真逆の相手ゴールへと力ずくで蹴り返した。

 

「な……なにぃッ!?」

 

 跳ね返された超絶威力のボールは、弾丸となってザナーク・ドメインのゴールへと突き進む。だが、ザナークの執念もまた異常だった。

 

「俺が……負けるかぁぁぁッ! 『魔界王ゾディアク』——アームド!!」

 

 背後に化身を顕現させると、なんと一瞬で化身アームド! 鎧を纏った驚異的なスピードで弾かれ飛ばされたボールに一瞬で追いつき、さらに強引に蹴り返そうと足を振り下ろす。

 

「そうはさせんぜよぁぁぁッ!!」

 

そこへ旋風のごとく飛び込んできたのは、錦先輩だ。

 

「『戦国武神ムサシ』——アームド!!」

 

 錦先輩もまた背後の化身を瞬時にアームド! ザナークと錦先輩、二つの圧倒的なアームドの力が、ボールを挟んで空中で激しく交錯する。

 

「うおぉぉぉぉぁぁぁーーーーッ!!!!」

 

 一瞬の静寂の後、渾身の叫びとともに押し切ったのは、龍馬の志と大きな器を纏った錦先輩だった。

 ザナークの足を弾き飛ばし、解き放たれたボールはそのまま吸い込まれるように相手ゴールネットを豪快に揺らした。

 

ピッーーーーッ!! ピッーーーーッ!!

 

 試合終了を告げる笛の音が二条城の空に響き渡る!

 

3−1

 

 雷門が、あの絶対的な威容を誇ったザナーク・ドメインを相手に、見事な大逆転勝利を収めた瞬間だった!




新必殺技:『ファイアートルネードDD』
属性:風
使用者:不知火 恒陽、菜花 黄名子
詳細:コウと黄名子で放つ連携技
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