トーブを乗せたケツァルコアトルスが、白亜紀の広大な平原へと力強く着地した。
そこでは、エルドラド最強の部隊『パーフェクト・カスケイド』へのリベンジを果たすため、雷門のメンバーたちがトロオドンを相手にした過酷なサッカーバトルの特訓に汗を流している真っ最中だった。
バキバキと音を立てるボールの軌道や気迫のこぼれる掛け声のなか、トーブの帰還に気づいた天馬たちが一斉に練習を中断し、駆け寄ってくる。
「コウは……コウは無事なの!?」
真っ先に飛び出してきた紫が、鬼気迫るほどの切実な表情でトーブの服を掴んで問い詰めた。
「おう!コウは無事だぞ!今は怪我をした恐竜を手当してるから、すぐ後から追いつくって言ってた!」
紫はそれを聞くと、全身の力が抜けたようにふうっと深く息を吐き出し、胸をなで下ろした。
「そう……」
その様子を見ていた黄名子が、ニヤニヤとした笑みを浮かべて冷かすように声をかける。
「ふふーん? コウがいない間ずっと心配で心ここにあらずって感じだったやんね〜」
「別にそんなわけ……だって仲間が一人行方不明になってたんだから、心配するのは当然でしょ……っ!」
耳まで真っ赤に染めながら必死に言い訳する紫の姿に、周囲からクスリと温かい笑い声が漏れる。
そんな和やかな空気を引き裂くように、トーブの足元へとトコトコと駆け寄る小さな影があった。それは、トーブを慕う一頭の子供の肉食恐竜——ビッグだった。
ビッグは、時空最強イレブン第8の力『太古の力を宿し、その牙の力は海をも割るダイナミックミッドフィルダー』のオーラの持ち主と目されていた恐竜・ロックスターの子供だ。だが、ロックスターはかつてパーフェクト・カスケイドに無理やり操られた末に命を落としてしまった。親を失った深い心の傷はまだ完全に癒えていないはずだが、今はトーブの帰還を無邪気に喜び、その足元にすり寄っている。
「おお、ビッグ! よかったな、寂しかったか?」
トーブがビッグの頭を優しく撫でてやった、その時——。
「——目標を再補足」
冷徹で機械的な電子音声が、青空の広がる平原に響き渡った。
「なっ……なんだ!?」
一同が身構えた瞬間、空中に見覚えのあるサッカーボール型のスフィアデバイスが出現し、眩い光を放った。光の中から現れたのは、感情の一切を削ぎ落としたかのような無機質な表情をした男——パーフェクト・カスケイドの一員、レイ・ルクだった。
『ムーブモード』
レイ・ルクが無表情のままデバイスを操作すると、強烈な光が爆発し、トーブやトーチャン、そして小さなビッグを含めた雷門のメンバー全員の足元を包み込んだ。
「うわっ……!?」
「転送される……っ!?」
光が収まった時、そこに見覚えのある景色が広がっていた。前回、パーフェクト・カスケイドと初めて激突した、あの険しい渓谷に囲まれたサッカーフィールドだった。
ピッチの対面には、寸分の狂いもない動作で佇むパーフェクト・カスケイドの選手たちがずらりと並んでいる。
レイ・ルクは冷たい瞳を雷門に向けたまま、淡々と宣戦布告した。
「プランシックスティーンに従い行動を開始する。目的雷門の殲滅」
圧倒的なプレッシャーと絶望的なまでの冷徹さ。しかし、前回の敗北から這い上がってきた雷門の選手たちの瞳に、もう怯えの色はなかった。
「この前のワシらだと思ったら大間違いぜよ!」
錦先輩がキリッとした鋭い眼光を飛ばしながら、力強く前へ踏み出す。
天馬もチームメイトを見渡して大きく気焔を吐いた。
「みんな!特訓の成果を見せるんだ!!」
パーフェクト・カスケイドの冷徹な完全無欠の統率に対し、仲間を想う絆と特訓の成果を胸に秘めた雷門の反撃の狼煙が、今、渓谷のピッチで高く上がる。
*
各自がポジションにつき、息を呑む緊張感の中で審判の笛が鳴り響いた。
不在のコウの穴を埋めるのは、トーブだ。
パーフェクト・カスケイドボールで始まった直後、奴らは前回雷門を絶望に突き落としたあの寸分の狂いもない超速攻を仕掛けてくる。グラからダイへと一直線に繰り出される高速パス。
だが——
「させるかぁぁぁッ!!」
天馬が野生の勘と特訓で培った鋭い反応で割り込み、前回は掠りもしなかったあの最速パスを見事にカットしてみせた
「ナイスカット天馬!」
ルーズになったボールの奪い合いではパーフェクト・カスケイドが一歩先んじたものの、今度は紫が稲妻のようなスライディングで泥臭く挑みかかり、相手の緻密なドリブルコースを鮮やかに潰してみせる。
「くっ……これなら行けるわ……!」
パスワークだけでなく、個人の打開力にまで対応し始めた雷門の成長ぶり。あの圧倒的だったパーフェクト・カスケイド相手に、激しいボールの奪い合いを演じ、ほぼ互角の展開へと持ち込んでいた。
その拮抗した戦況の中で、神童先輩の力強い声がピッチに響き渡る。
「みんな、今だ! 一気に攻め立てるぞッ!!」
「「「おおおっ!!」」」
神童先輩の号令を合図に、雷門の選手たちが一斉に己の内に眠る『時空最強の力』を呼び醒ます!
織田信長とミキシマックスした神童先輩、沖田総司とミキシマックスした剣城、ジャンヌ・ダルクとミキシマックスした蘭丸先輩、坂本龍馬とミキシマックスした錦先輩、劉備とミキシマックスした信助、そして諸葛孔明とミキシマックスした紫——さらには恐竜ティラノサウルスのオーラを纏うフェイ。
一度に7人もの選手が一気にミキシマックスを果たすという、かつてない圧巻の光景。雷門ベンチからも割れんばかりの歓声が上がる。
しかし——レイ・ルクの表情は、ピクリとも動かない。
「無駄だ。『プラズマシャドウ』——」
感情の一切ない声とともに、レイ・ルクの全身から赤紫色の不気味なオーラがドッと溢れ出した。その禍々しい光はぐにゃりと歪み、見る見るうちに巨大な形を成していく。
顕現したのは……これまでに見てきたどの化身ともどこか雰囲気が異なる、機械的で歪な化身。
「今までの化身とは何か違う・・・」
「これは化身では無い。プラズマシャドウだ。」
天馬が異様なプレッシャーに息を呑み、一瞬の困惑を見せた——まさにその隙だった。
シュッと風を切り、レイ・ルクが機械的な素早さで天馬の足元からボールを奪い取る。そしてその場から、もはやパスではなくシュートと言っても過言ではない凄まじい威力のロングパスを前線へ放ち打った。
「くっ……止めるッ!」
ミキシマックス状態の蘭丸先輩が必死にコースへ入るが、パスの放つ衝撃波だけで軽々と吹き飛ばされてしまう。
パスを受けたパーフェクト・カスケイドのFWもまた、寸分違わぬ不気味な『プラズマシャドウ』を顕現。立ちはだかるトーブを力任せに弾き飛ばすと、間髪入れずに足振り抜いた
凄まじい質量を持った紫の軌道がゴールへと襲いかかる。
「絶対止める……!!」
ミキシマックスした信助が渾身の必殺技で迎え撃つが、ボールの解き放つ狂暴なエネルギーは必殺技ごと信助を吹き飛ばし、豪快にゴールネットを揺らした。
0-1
均衡を破ったのは、雷門のミキシマックスをも力ずくで踏みにじる、パーフェクト・カスケイドの絶望的な『人工化身』の力だった。
*
1点の先制を許したのを皮切りに、ピッチの主導権は完全にパーフェクト・カスケイドへと奪い去られた。
人工化身『プラズマシャドウ』を次々と顕現させる相手に対し、ミキシマックスで対抗する雷門だったが、無機質かつ完璧に計算された連携の前にじわじわと追い詰められていく。防戦一方の展開の中、立て続けにゴールを割られ、スコアは瞬く間に 0-4 まで開いてしまった。
「オメーらの好きにはさせねぇぞ!『ジャガウォック』!」
怒りを爆発させたのは、野生の勘で生きるトーブだった。トーブの全身から凄まじいオーラが吹き荒れ、背後に巨大な化身——『太古の戦士ジャガウォック』が立ち立ち昇る!
「『ハンティングランス』ーーーッ!!」
強烈な一撃で前を行くパーフェクト・カスケイドの選手を容赦なく吹き飛ばし、力ずくでボールを奪い取ってみせたトーブ!
「行けぇぇッ、剣城!!」
トーブは勢いのまま前線へと攻め上がり、前線で構える剣城へ絶好のフィードを送る。雷門に訪れた千載一遇の決定機——
しかし、相手キャプテンのレイ・ルクは微動だにせず、極めて平然とした冷徹な声を響かせた。
「キーパーの経験を積むために攻撃の機会を与えよう」
「……何だと!?」
あえて防ぎに行かず、キーパーに守備の経験を積ませるために攻撃させてやるという、雷門を徹底的に見下した機械的な判断。
「……舐めるなよッ!『菊一文字』!!」
激怒した剣城は、ミキシマックスの力を極限まで解放。足を振り抜き、目にも留まらぬ居合いの一閃——『菊一文字』を放った。閃光のようなシュートが直線的にゴールを襲う。
だが、パーフェクト・カスケイドのキーパーは無表情のまま両腕を交差させた。
「『
放たれた十字の衝撃波が空間を切り裂き、剣城渾身のミキシマックスシュートをいとも易々と弾き飛ばしてしまった。
「そんな……剣城の『菊一文字』が……!」
愕然とする天馬たち。そこへ、ベンチのサカマキ監督から冷ややかな指示が入る。
「レイ・ルク——オプティカルファイバーを実行せよ」
「了解。実行」
レイ・ルクの応答とともに、パーフェクト・カスケイドの選手たちが一斉に動き出す。前線の6人がまるで光ファイバーの網のように有機的に組み合わさり、凄まじい速度と計算された軌道で雷門の防御網を強引に切り裂いていく。
「くっ……何だこの動きはッ! 追いつけない……!」
神童先輩の必死の指示も虚しく、残された2人の選手によってあっという間にボールはゴール前へと持ち込まれた。最後、ボールの前に立ったのはレイ・ルク。
ピクリとも表情を変えないまま放たれたレイ・ルクの凄まじいシュート。必死に飛びついた信助の手を容易く弾き飛ばし、ボールは無情にもネットを揺らした。
0-5
あまりにも絶対的な力の差、そして感情を持たない兵器のような完璧な強さを突きつけられ、雷門イレブンは息を呑んでピッチに立ち尽くすしかなかった——。
*
試合再開のホイッスルが鳴り響く。
「くっ……!」
ミキシマックスの力を全開にしたフェイが、恐竜のオーラを纏いながら敵陣を突き進む。だが、パーフェクト・カスケイドの戦術<オプティカルファイバー>は、フェイの突破をまるで計算された歯車のように完璧に、そして冷酷に阻止した。
自らの力が通用しない焦りと苛立ちが、フェイの胸中を黒く染め上げていく。
「くそっ、どうして通じないんだ!」
その空回りするフェイの横を、すっと併走する影があった。黄名子だ。彼女は焦燥に駆られるフェイをじっと見据え、静かに、しかし力強く声をかける。
「フェイのサッカーに賭ける思いはそんなものなの?」
その真剣な眼差しには、愛する子供を導く母親のような、厳しさと底知れない優しさが満ちていた。図星を突かれたようにフェイが息を呑む。
だが、感傷に浸る隙など与えないとばかりに、パーフェクト・カスケイドの猛攻は続く。ベンチのサカマキ監督から下された「今度こそ雷門を完璧に潰し、引導を渡せ」という絶対の命令に忠実な機械人形のように、彼らの攻撃は止むことを知らない。
「――ウチを見て!『暁の巫女アマテラス』!!」
黄名子はフェイの前へと飛び出し、立ちはだかる敵のプレッシャーをその身で受け止めた。彼女の全身から眩い光が溢れ出し、神々しい化身——『暁の巫女アマテラス』が顕現する!
「『光輪の矢』!!」
放たれた神々しい光の矢が相手の隙を撃ち抜き、見事にボールを奪い去ってみせた。
「フェイ!」
ボールをキープした黄名子は、再びフェイに向かって言い聞かせるような、強い口調で問いかける。
「フェイは優れたプレイヤーなのに、デュプリだって出せるのにどうして化身を出さないの?」
「っ……!」
黄名子の真剣な視線から、フェイはたまらず目を逸らした。その胸の奥には、拭い去れない深い負い目と、絶対に口にしたくない理由が隠されていたのだ。
——その時、大地が大きく揺れた。
ドスッ、ドスッ、ドスッ……!!
凄まじい地響きとともに、周囲の森や平原から数頭の凶暴な恐竜たちが、敵味方の区別もつけずにフィールドへと雪崩れ込んできた。
「なっ……なんだこれ……!?」
暴れ狂う恐竜たちに、ピッチの選手たちはどよめく。だが、彼らの瞳は一様に虚ろだった。それは、スフィアデバイスから放たれた洗脳光線によって操られているものであろうことは明白だった。
サカマキ監督が冷徹に計算し尽くした、歴史改変ルールを極限まで悪用した卑劣な作戦だった。もはやまともなサッカーができる環境ではない。
だが、パーフェクト・カスケイドの側もまた、同じように恐竜たちの襲撃を受けていた。つまり条件は互いに同じ。レイ・ルクは平然と言い放つ。
「むしろ経験値を積むにあたって好都合だ」
言葉通り、パーフェクト・カスケイドの選手たちは襲い来る恐竜たちの間隙を縫うように、驚異的な精度でパスを繋ぎ、プレーを続行する。そしてガラ空きになったゴールへと、レイ・ルクが無慈悲なシュートを叩き込んだ。
トリケラトプスに襲われていた信助は、キーパーとしての仕事を果たすことすらできなかった。
スコアは 0-7。あまりにも絶望的なビハインド。
「このままじゃ……試合にならない……っ!」
天馬は歯を食いしばると、状況を打破するため一歩前へ出た。まずはこの異常な事態を終わらせる。恐竜たちの洗脳を解くことこそが先決だ。
「『魔神ペガサスアーク』——アームド!!」
天馬が化身を喚び出し、すかさずアームド。鎧を纏った天馬は、洗脳されて暴れる恐竜めがけて、渾身のシュートを激しく撃ち下ろした!
そして次の瞬間、トリケラトプスの瞳にかかっていた濁りがスーッと消え去った。
「効いた……! みんな、恐竜を元に戻すんだ!」
天馬の叫びに呼応し、他のメンバーたちも次々とボールを蹴り出し、恐竜たちの洗脳を次々に解除していく。やがてピッチ内の混乱は鎮まり、恐竜たちは静かに森へと帰っていった。
……だが。
荒れ果てたピッチに立つ雷門の選手たちは、すでに満身創痍だった。
度重なる激闘の疲労困憊、そして容赦なく突きつけられた 「7失点」 という圧倒的なビハインド。彼我の力の差は、もはや埋めようのない絶望的な壁となって、雷門の前にそびえ立っていたのだった。
*
圧倒的な点差と疲労に沈むピッチで、レイ・ルクが冷徹な足取りで再び前進を再開した。
「ディフェンス、俺たちの後ろを守ってください!」
天馬は必死にディフェンス陣へ指示を飛ばし、自らも前へ出てその進路を塞ごうと飛び出す。だが、その直後——
「ダメだ!右サイドががら空きになる」
「あ……!」
前キャプテンである神童先輩の鋭い指摘が飛んだ。天馬の焦りによる独断的な動きが、守備の致命的な綻びを生んでいたのだ。
そして、相手はその隙を寸分違わず見逃さない。
天馬の空けた穴を埋めようと、フェイが慌ててサイドへと走り込む。だが、心に迷いを抱えたフェイの足取りはどこか鈍く、パーフェクト・カスケイドの選手・ブルに一瞬で置き去りにされ、軽々と振り切られてしまった。
「フェイ。どうして全力でプレイしないの?」
ピッチに響いたのは、走り去るフェイの背中に向けられた黄名子の厳しくも切実な叱責の声だった。
予想外のところからの厳しい批判に、フェイはその場でたじろぎ、顔を歪める。
「戦ってるさ!全力で戦ってる!!」
声を荒げて抗弁するフェイだったが、そのムキになった態度こそが、何か言い訳のできない事情や、あえて全力を出さずにいるという後ろめたさをより鮮明に浮き彫りにしていた。一切の批判や意見を拒絶するように背中を向け、再び駆け出すフェイの背中を、黄名子は悲しげに、そして痛切な瞳で見つめるしかなかった。
そのピッチの緊迫感をあざ笑うかのように、パーフェクト・カスケイドの監督・サカマキトグロウは不敵な笑みを浮かべる。圧勝ムードに酔ったのか、彼は勝利を確信した余裕から、あらかじめ用意していたさらなる「余興」の実行を命じた。
ズシン、ズシン……ッ!!
大地を揺るがす凄まじい地響きと、耳をつんざくような荒々しい咆哮が響き渡る。その鳴き声を何度も耳にしてきたトーブは、青ざめた顔でそれが何者であるかをすぐに悟った。
岩陰を突き破り、その巨体を現したのは——かつて獣の谷のボスに君臨し、ビッグの母親であるロックスターを死へと追い込んだ、あの凶暴なトリケラトプス・デスホーンだった。
予期せぬ乱入者に気を取られ、完全に隙を見せてしまったフェイ。その背後から迫ったダイのタックルを受け、フェイはピッチへと激しく倒れ込んだ。
さらに、怒り狂ったデスホーンが、巨体をうならせながら倒れたフェイめがけて一直線に突進していく。
「フェイっ危ない――ッ!?」
もう間に合わない——誰もがそう絶望しかけた、その瞬間だった。
ガブリッ……!!
フェイの目前で、デスホーンの凄まじい突進がピタリと止まった。その強靭な喉元に噛みついていたのは、恐怖を克服して飛び出したビッグだった。
「ピイイイィィーーーッ!!」
デスホーンの荒い巨体に振り払われながらも、ビッグは怯えることなく、その注意をすべて自分へと引きつける。そして母を奪った憎き敵、そして今また大切な友達であるフェイを襲う脅威に向かって、全身全霊の勇気を込めて鋭く鳴き声を上げた。
あんなにおとなしく、怖がりで、いつも誰かの後ろに隠れていた甘えん坊のビッグが——たった一匹で孤独を乗り越え、誰かを守るために戦っている。
ピッチの地面に倒れ込んだまま、フェイはその小さな戦士の姿を呆然と見つめた。胸の奥が熱くなり、かつての記憶と現在の現実が激しく交錯していく。
そのフェイの傍らに、いつの間にか黄名子が歩み寄っていた。
「……化身アームドだってできるはずなのに何故やらないの?フェイを押さえつけてるのは何?」
「……嫌いなんだ自分の化身」
「ウチは好きやんね。……『光速闘士ロビン』は、可愛くて強い、最高の化身やんね!」
その名前を聞いた瞬間、フェイは雷に打たれたように全身を硬直させ、驚愕の表情で黄名子を見上げた。
言葉を失うフェイに対し、黄名子は追撃するように、まっすぐで強い瞳を向けたまま言葉を紡ぐ。
「みんな必死に戦ってるやんね。なのにフェイはそれでいいの?フェイのサッカーへの思いはそんなものなの!?」
「……っ……」
「サッカーが大事ならフェイの本気を見せてよ!!」
溢れそうになる涙を堪えながら、必死に訴えかける黄名子。その真っ直ぐすぎる慈愛と拒絶できない眼差しから、フェイは一歩も目を離すことができなかった。
*
試合は雷門のスローインで慌ただしく再開された。
太陽から錦先輩へと送られたパスは、しかしパーフェクト・カスケイドの組織的な網にかかり、またもカットされてしまう。こぼれ球を追って神童先輩が懸命に立ち向かうが、重いチャージをまともに受けてピッチへと激しく弾き飛ばされた。
誰もが打ちのめされそうな絶望的な状況の中、フェイはピッチに這いつくばりながらも再び立ち上がろうとする仲間たちの背中を見つめた。そして、自分の何十倍もある巨体のデスホーンに対し、怯えながらも必死に牙を剥くビッグの姿に目を奪われる。
(みんなは……サッカーを守るために、こんなにも必死に戦っているのに……!)
仲間たちの泥臭い奮闘が、フェイの心の奥底に澱のように溜まっていた恐怖と後悔の殻を、音を立てて打ち砕いていく。
そのフェイの姿を捉えた黄名子は、まっすぐに彼を指差し、力強く叫んだ。
「見せてよ、フェイの本当の力を……!」
その瞳に宿る温かな覚悟が、フェイの心に刺さっていた最後の棘を綺麗に洗い流した。もう逃げない。そう心に決めたフェイは、目の前へと飛んできたボールに向かって一直線に走り出した!
「うおおおおおーーーっ!!」
フェイの身体を包んでいたティラノサウルスのミキシマックスオーラが弾け飛ぶ。次の瞬間、フェイの背中から鮮烈な光を纏った青い影が天高く突き抜けた。
「『光速闘士ロビン』!!」
フェイが化身を喚び出した瞬間、天馬をはじめとする雷門のメンバーは驚きのあまり目を見張り、声を失った。だが、なぜか最初からその力を知っていたかのような黄名子だけが、満面の笑みを浮かべてその雄姿を見守っている。
さらに、そのフェイの覚醒に呼応するように、傍らで身構えていたビッグの背中からも凄まじいオーラが噴き出し、ガッチリとした獣の化身が具現化した!
ビッグの化身が放った圧倒的な咆哮の波動を受け、それまで猛威を振るっていたデスホーンは、相手の強大な格上ぶりを本能で察知したのか、怯えたように尻尾を巻いてすごすごとその場から逃げ出していった。それは、亡き母ロックスターの意志を継ぎ、ビッグが新たな「獣の谷のボス」へと登りつめる確かな証だった。
「行くぞ、フェイッ!!」
ベンチから飛び出したワンダバが、すかさずミキシマックスガンを構えて一人と一匹めがけて引き金を引く。眩い光線が走り、ビッグの持つ太古のオーラがフェイの肉体へと一気に注ぎ込まれ、完全に融合を果たした!
「ミキシマックス、コンプリーート」
だが、フェイの決意はそれだけにとどまらなかった。
「ロビン……お前のことは、正直まだ好きになれない。だけど……! 今は仲間たちのために、力を貸してくれ……!!」
フェイの心の底からの叫びに、光速闘士ロビンは光の束となって応え、一気にフェイの全身へと纏わりついていく。
「化身アームド……ッ!!」
『ロビン』装甲を纏ったフェイがピッチを蹴った瞬間、周囲の空気が割れた。
——速い。これまでのパーフェクト・カスケイドの選手たちでさえ反応できない、文字通りの「別次元のスピード」。
一瞬で相手ディフェンスの網を置き去りにし、一気にゴール前へと駆け抜けたフェイは、そのまま全霊のエネルギーを右足に乗せた。
「王者の牙ーーーーッ!!!」
黄金の光を纏った猛烈なシュートが、敵ゴールへと突き進む。
『
パーフェクト・カスケイドのキーパーが慌てて迎撃を試みるが、アームドしたフェイの凄まじいパワーはその十字の衝撃波ごとボールをねじ伏せ、ゴールネットを豪快に引き裂いた!
雷門が、ついに1点を返すことに成功した!圧倒的な力に屈し、まったく歯が立たないと思われていた最強の相手から奪い取った、価値のある大きな1点。ピッチの仲間たちはもちろん、ベンチのマネージャーたちも歓声を上げ、互いに抱き合ってその快挙を称え合う。
そして——熱狂の冷めやらぬピッチに、前半戦終了を告げる無情で、しかし清々しいホイッスルが高らかに鳴り響いたのだった。
*
後半戦のホイッスルが鳴り響くと同時に、雷門イレブンは一斉に動き出した。
「行くぞみんな……! 一気に反撃の狼煙を上げるんだ!」
天馬の合図とともに、天馬、紫、フェイ、剣城、神童先輩、そして錦先輩の5人が、一斉に己の化身を呼び起こし、鮮やかな光を纏って『化身アームド』を遂行する!
休息を挟んで体力が回復した後半の開始直後、圧倒的な個人技で一気に攻勢を仕掛ける奇襲作戦だ。
その目論見は見事に的中した。
完全覚醒したフェイを中心とした雷門の攻撃は、先ほどまでの圧倒されっぱなしだった劣勢が嘘のように、パーフェクト・カスケイドと互角、いやそれ以上に渡り合っている。これまで機械のように完璧だった相手の連携も、予測不能なフェイの突破力を警戒するあまり、わずかながら乱れが生じ始めていた。
「よし、この調子で押し込むぞ!」
だが、相手もただの人間ではない。さすがの強さを誇るレイ・ルクが鋭い読みでフェイのパスをカットすると、すかさず完璧なタイミングでゴール前へとセンタリングを放り込む。
ピンチかと思われたその瞬間、ピッチの脇で予期せぬ珍事が起きた。
「すげ——!ウホウホくっぞ!!」
仲間たちのアームド姿に興奮したのか、トーブが突如としてウホウホダンスを踊り始めたのだ。さらに、その姿に感化されたのか、育ての親であるケツァルコアトルスのトーチャンまで「ピシャ——!」と鳴きながら空を旋回して大暴れし始める。
「二人ともエキサイトしているな……いいだろう!ならばミキシマックスだ!」
それを見たワンダバが何かを閃いたように目を輝かせ、手にした『ミキシマックスガン』を素早く構えた。
「おいトーブ! そのまま高く飛び上がれ――ッ!!」
ワンダバの指示に戸惑いながらも、トーブが跳ね上がった瞬間、引き金が引かれた。眩い光線が走り、トーチャンの持つ太古の翼竜のオーラが、トーブの肉体へと一気に流れ込んでいく!
「ミキシマックス、コンプリ——ト!」
「おおおお……! すげえ力が湧いてきやがったぞ――ッ!!」
ミキシマックスを果たしたトーブは、体内で爆発するようなオーラを持て余しながら、まるでゴリラのように自身の胸を激しくドラミングした。
ちょうどその時、錦先輩からトーブめがけて鋭いパスが放たれる。相手ディフェンスにカットされかけたボールだったが、空中に浮いたルーズボールに対し、翼竜のオーラを纏ったトーブが常識外の跳躍力で誰よりも高く飛びついた。
ミキシマックスの効果を十全に発揮したトーブは、まるで大空を滑空するかのような長大な滞空時間を誇りながら、驚愕する神童先輩の頭上へ正確無比なパスを送ってみせる。
ボールを受け取った神童先輩から、剣城へ。そしてアームド状態の選手たちによる華麗なホットラインがつながり、ボールはついに最前線のフェイのもとへと渡った。
フェイは力強く前方を走りながら、並走する天馬へ視線を送る。
「天馬っ……行くよ!」
「あぁ、行こう……!」
言葉はなくとも、二人の間には完璧なまでの以心伝心が成立していた。阿吽の呼吸で瞬時に思惑を把握した天馬とフェイは、敵ディフェンスの虚を突き、ゴール前へとアクロバティックに駆け上がりながら飛び込む。
二人の呼吸が完全に重なり合った瞬間、黄金のオーラを纏った強力な必殺シュートが解き放たれた。
「『エクストリームラビット』ーーーッ!!!」
放たれたシュートは、二匹の獣が重なり合うような凄まじい軌道を描いてゴールへと殺到する。パーフェクト・カスケイドのキーパーが慌てて「弧月十字衝」で迎撃を試みるが、その十字の衝撃波ごとボールは弾き飛ばされ、ゴールネットを激しく突き破った。
完璧だったパーフェクト・カスケイドの守備網を完全に粉砕する、見事な合体ゴール。沸き立つ雷門ベンチとピッチ。
試合の流れは、確実に雷門へと傾き始めていた——!
*
雷門の猛追と鮮やかな同点劇に、ピッチの空気が一変した。
ベンチで見守っていたサカマキ監督は、不敵な笑みを浮かべることすらない冷徹な目でレイ・ルクへと冷厳な指示を飛ばす。
「そろそろいいだろう。レイ・ルク、ノーマルダイブモードへ移行しろ」
「了解」
プラクティス——すなわち、練習。
その言葉の意味を理解した瞬間、背筋に冷たいものが走った。つまり、これまでの圧倒的な強さで雷門を苦しめていたパーフェクト・カスケイドでさえ、まだまったくの「練習気分」で戦っていたというのか。
失点を喫したパーフェクト・カスケイドが、試合開始直後以来となるマイボールのキックオフを告げる。
その瞬間だった。
ブル・レクスとグラ・フォムが、人間の動体視力を完全に置き去りにする目にも留まらぬ超高速で剣城の前を駆け抜けた。光速としか表現しようのない極限のパス回しと、変幻自在のドリブル。雷門陣内が、まるでただの障害物であるかのように一瞬で突き破られていく。
「くそっ。ここからが本気だというのか。」
冷や汗を流しながら身構える剣城の目前に、いつの間にかレイ・ルクが音もなく滑り込んでいた。
「本気。それが最大限の力を発揮するという意味なら答えはNOだ」
「何?」
無機質な瞳のまま、レイ・ルクは淡々と告げた。
「君たちのレベルに合わせて力をセーブしている」
——これすらも、全力的ではないというのか。その言葉の裏には、さらに上位の「モード」が控えていることを明確に示していた。
そこからの展開は、あまりにも残酷だった。
パーフェクト・カスケイドの容赦ないプレッシャーは、化身アームドを維持して戦い続ける雷門のメンバーを真っ直ぐに狙い撃つ。強烈なチャージと意図的な衝突により、アームド状態の選手たちに次々とボールが叩きつけられ、その強制解除が相次いだ。
「うっ……ぐあぁっ!」
激しい戦闘の連続と、ここまで走ってきた疲労がピークに達し、満身創痍の雷門イレブン。一瞬の快進撃から一転、ピッチは再びパーフェクト・カスケイドの圧倒的な支配下へと引き戻されていく。
絶望的なムードが漂い始めた、その時だった。
上空から、ふと巨大な影がピッチの地面を覆った。
「……え?」
痛む体を起こしながら天馬が上空へ視線を向けると、そこには燃えるような紅蓮の翼を大きく広げた一頭の翼竜の姿があった。
そして——その背中から、ひとりの人影がふわりと飛び降りる。
ドサッ!!
舞い上がった砂埃がサーッと風に流され、視界がクリアになったその場所には、泥まみれになりながらもまっすぐに前を見据えるひとりの少年の姿があった。
行方不明になっていた——コウだ。
コウは自身の衣服の汚れを軽く払い、苦笑いを浮かべながら天馬の方へと歩み寄る。
「……遅くなって悪かったな、天馬」
その姿を見た瞬間、張り詰めていた緊張の糸がふっと緩 み、天馬の顔に安堵と喜びの笑みがパーッと広がった。
「コウ……っ!」
仲間が全員揃った。絶望的なビハインドと最強の敵を目の前にして、雷門の反撃の本当の狼煙が、今再び力強く上がろうとしていた——!
*
「トーブ、俺がいない間……みんなを守ってくれて本当に助かったぜ。ありがとな」
ピッチのサイドラインで交差する瞬間、俺はトーブの肩を軽く叩いて感謝を告げた。トーブは快活に笑い飛ばす。
「なに言ってんだコウ! オイラがやりたくてやったんだから気にすんな!」
トーブとタッチを交わし、俺はそのままピッチの中央へと歩み出た。そして、ベンチの前で呆然と立っていたワンダバに向かって、空を旋回する一頭の翼竜を指差しながら叫ぶ。
「ワンダバ! あれに向かってミキシマックスガンを撃ってくれ!」
「な、なんだと!? 一体何を――」
「いいから早くっ!」
俺の鬼気迫る気迫に押されたのか、ワンダバは慌ててミキシマックスガンを構え、上空を飛ぶコルトめがけて引き金を引いた。
「よく分からんがいくぞ!」
放たれたまばゆい光線がコルトを包み込み、その強力な太古の翼竜のオーラが一直線に俺の肉体へと流れ込んでくる。
「ぐっ……おおおおおーーーっ!!」
体内で爆発するような野生のエネルギー。髪がわずかに伸び、瞳は獲物を狙う野獣のように鋭く、そして狂暴な輝きを帯びて変化していく。白亜紀の空を制する頂点捕食者の力が、俺の全身に宿った。
「ミキシマックス、コンプリ——ト!!」
試合再開の笛が鳴るやいなや、レイ・ルクを先頭にしたパーフェクト・カスケイドの3人が、目にも留まらぬ連携技で俺を抜き去ろうと襲いかかってくる。
「『
「遅れた分の借りは返させてもらうぜ!」
変化した身体能力を爆発させ、俺は真上に凄まじい跳躍を見せた。巻き起こる複数の激しい竜巻とともに相手の意表を突き、鋭い爪撃の如き軌道でボールを鮮やかに刈り取る。
「『古代の翼』!!」
「……っ!?」
レイ・ルクの無機質な瞳に、わずかな動揺の色が走る。だが、俺の反撃はこれだけでは終わらなかった。
「見せてやるよ……俺の本当の力を——『獄炎鳥ダークフェニックス』!!」
胸の奥にあった恐怖の枷はもうない。俺の魂の叫びに呼応し、背後から底知れぬ漆黒の炎が爆発的に噴き出す。顕現したのは、かつて俺を呑み込もうとした忌むべき化身。
だが、今の俺に暴走の気配はない。黒き炎を、俺はその身に直接纏い上げる。
「化身アームド——ッ!!」
「嘘っ!?化身だけじゃなくアームドも!」
紫や雷門の仲間たちが驚愕の声を上げる。ミキシマックスと化身アームド、その二つの力とさらにセカンドステージチルドレンの力を同時に成功させた俺のスピードは、もはやパーフェクト・カスケイドの選手たちでさえ目で追えない領域に達していた。
残像を残すほどの超高速で敵陣を次々と置き去りにし、一気にゴール前へと到達する。
「これで終わりだぁぁぁーーっ!!」
黒き炎を足に纏い、空中で激しく回転しながら、渾身のエネルギーを乗せたシュートを叩きつける。
「『ダークトルネード』ーーーッ!!!」
轟音とともに放たれた漆黒の竜巻シュートは、相手ゴールキーパーが反応する隙すら与えず、ゴールネットを盛大に引き裂いた!
ピッチが静まり返った直後、雷門ベンチから爆発的な歓声が沸き起こった。
圧倒的な新戦力の覚醒に、パーフェクト・カスケイドの面々も動揺を隠せない。ベンチのサカマキ監督が不敵な笑みを引っ込め、次の手を打とうとした——その時だった。
ピーッ!とサカマキのインカムが鋭く鳴り響く。
「ちっ。厄介なことに……ム?トウドウか……どうした……何?奴らが?分かったすぐに向かう」
通信の向こうから伝えられた予想外の報告に、サカマキの表情が険しく凍りついた。彼は慌ててピッチの選手たちへ叫ぶ。
「レイ・ルク、撤退だ」
「了解」
レイ・ルクをはじめとするパーフェクト・カスケイドの選手たちは一切の迷いなく動きを止め、空中から飛来したUFO型の移動ユニット『ルートクラフト』の放つ光線に包まれる。そして、雷門の選手たちが何が起きたのかと呆然と見上げる中、彼らは一瞬にしてその姿をかき消してしまった。
——シーンと静まり返る白亜紀の渓谷。
暴風のような激闘の跡だけを残し、パーフェクト・カスケイドは忽然と姿を消した。敵の試合放棄、および撤退により、この白亜紀での激闘は雷門の劇的な勝利という形で幕を閉じたのだった。
コウミキシマックス後のイラストです
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新必殺技:『古代の翼』
属性:風
使用者:不知火恒陽
詳細:
既存技:
ミキシマックス時に使える技で竜巻と共に相手を蹴散らす
新必殺技:『ダークトルネード』
属性:林
使用者:不知火恒陽
詳細:
既存技:
セカンドステージチルドレンの力を発揮した際に使える技