少し遅れてしまいました。申し訳ない!
「SARU……? ……っていうか、俺って確かにお日様園の自分のベッドで寝てたはずじゃ……」
見覚えのない部屋、見知らぬ少年、そして突如として突きつけられた謎の名。俺の頭は完全に混乱し、額から冷や汗が流れる。
そんな俺の動揺を見透かしたように、SARUはフッと柔らかく微笑んだ。
「まあ、まずは落ち着きなよ。ちゃんと全部説明するからさ」
そう言うと、彼は少し離れた場所にあった椅子に向かって静かに手をかざした。すると次の瞬間——まるで目に見えない糸で引き寄せられるかのように、椅子が滑るようにSARUの元へと移動してきた。
「っ!?」
目を見張る俺の前で、SARUは何事もなかったかのようにその椅子へ深々と腰掛けた。
「ここは『フェーダ』。君と同じ、セカンドステージチルドレンの力を持つ者たちが集まった組織さ」
「フェーダ……セカンドステージチルドレン……」
一瞬、何を言っているんだと思いはしたものの、目の前で起きた超常的な現象——テレキネシスのような力を見せつけられ、言葉を飲み込まざるを得なかった。こいつの力、そして俺の中にあるあの力と同じ性質のものだ。
疑問を深める俺に、SARUは脚を組みながら淡々と核心を告げる。
「ユミル……そっちでは『紫』と名乗ってるんだっけ。その紫が、君をここに連れてきたんだよ」
「なっ……紫が!? なんで紫が俺をこんな所に——」
俺が叫びかけた、その時だった。
スッと音を立てて部屋の扉が開き、聞き慣れた声が静かに響いた。
「——そこから先は、私が説明するわ」
「紫……!?」
部屋に入ってきた紫を見て、俺は思わず目を見開いた。
いつもの雷門の制服ではない。白いTシャツに黒の短パン、そしてその上に鮮やかな赤いベストを羽織った、見たこともない衣装に身を包んでいた。
見知った顔の登場にどこか安堵しつつも、俺はベッドから身を乗り出して問い詰めた。
「紫! 一体どういうことなんだよ!? なんで俺をこんな所に連れてきたんだ!?」
紫は乱れることなくまっすぐ俺を見つめ、冷静な声で応えた。
「あなたに、セカンドステージチルドレンの力を鍛えて欲しいからよ。ここにはその力をしっかりと使いこなしている人がたくさんいるわ。あなたにとって、確実に大きな糧になるはずよ」
「鍛えるって……でもよ! まだ時空最強イレブンを探す旅の途中なんだぜ!? 天馬たちを置いてこんな所にいられるかよ!」
「今のあなたじゃダメなの」
紫の厳しい言葉が俺の主張を遮る。
「今のあなたは強すぎるわ。そのまま一緒にいたら、天馬たちの成長の妨げになりかねないのよ。障害は、彼ら自身の手で乗り越えてこそ成長できるもの。あなたが何でもかんでも圧倒的な力で解決してしまったら、みんなが強くなる機会を奪ってしまうじゃない」
「っ……それは……」
ぐうの音も出ない正論に詰まる俺の横で、SARUが穏やかな口調で補足を入れた。
「大丈夫さ。雷門の皆んななら、パーフェクト・カスケイドにだってちゃんと勝てるよ」
二人にそう言われ、俺は不服そうに口を尖らせながらも、渋々納得して腕を組むしかなかった。確かに……俺が全部力ずくで解決してしまったら、天馬たちの旅の意味がなくなってしまうのかもしれない。
「さて……一旦状況確認はこれくらいにしておいて。君が所属するところを決めないとね」
SARUがパンと手を叩き、本題へと話を移す。
「所属……? チームでもあんのか?」
「うん、このフェーダにはいくつかのチームみたいなものがあるんだ。ちなみに紫は『ガル』というチームに所属しているよ」
「えっ……? 紫もフェーダに所属してるってことは……お前もセカンドステージチルドレンの力を持ってたのか!?」
俺が驚いて紫を指さすと、SARUは「え……?」と不思議そうに首をかしげて紫を振り返った。
「教えてなかったのかい?」
紫は少し困ったように息を吐き、呆れた視線を俺に向けてきた。
「ゴッドエデンの記憶が戻った時に、すでに察してると思ってたんだけど……。それに、私ってセカンドステージチルドレンのこととか異様に詳しかったでしょ? 何か気づかなかったの?」
「あ……」
思考のピースが一気に噛み合っていく。
そうだ……あの時も、いままでの戦いでも、紫は俺の力や化身のことまで知っていた。あいつ自身がセカンドステージチルドレンだったなら……全部の説明がつく。
俺が全てを察して口ぐもっていると、SARUは納得したようにうなずいた。
「なるほどね……じゃあ君の所属は『ザン』でいいかな」
「『じゃあ』って何だよ! 適当に決めんなよ!」
「ちゃんと能力を鑑みての選択だから安心してよ。とりあえず、この後ザンのメンバーに会うことになるから、覚えておいて」
SARUはクスッと笑うと、こちらの反論を聞く様子もなく、あっさりと部屋を後にしていった。
静まり返った部屋の中、俺はザンという聞き慣れないチーム名と、自分の置かれた奇妙な状況を噛み締めながら、大きく息を吐き出すのだった。
*
紫から手渡された『ザン』のユニフォームに着替え、ベッドの上でぼんやりと待つこと数分。
「……あー、暇だ」
じっとしているのが性分に合わない俺は、部屋の扉を開けて外へ出てみることにした。
廊下に踏み出すと、そこはお日様園や雷門とはまるで違う、白を基調とした質素でどこか未来的な空間が果てしなく広がっていた。
特に当てもなくぶらぶらと廊下を歩いていると、曲がり角の向こうからドカドカと重い足音が近づいてくる。
(……ん? 誰だ……?)
角からぬっと姿を現したその人物と、正面からバチッと視線がぶつかった。
「……っ!?」
「……あ!?」
そこに立っていたのは——なんと、あのザナーク・アバロニクだった!
「なっ……なんでお前がこんな所にいるんだよ!?」
俺が目を丸くして叫ぶと、ザナークも驚いたように眉を吊り上げ、腕を組みながら睨みつけてきた。
「それはこっちのセリフだぜ! 」
「俺は紫に連れてこられたんだよ!!」
「そうか……俺はあのSARUって野郎に誘われて乗ってやっただけだ!」
「SARUに……やっぱりお前が使ってたあの常識外れのパワーも、セカンドステージチルドレンの力だったんだな……」
ザナークの圧倒的な怪力やオーラを思い出し、俺は思わず納得して頷いた。
するとザナークは、ニヤリと不敵で凶暴な笑みをその厳つい顔に浮かべ、ガラリと雰囲気を変えた。
「フン……まあいい。それよりコウ、お前……自分の中の力を手なずけたらしいじゃねぇか。ちゃんと化身もアームドもこなせるようになったんだろうな?」
「もちろんだ!暴走どころか、完璧に俺の力として使いこなしてやったぜ! なんなら、今ここで見せてやってもいいくらいだ!」
自信満々に胸を張って言い返すと、ザナークは「ハハハッ!」と豪快に胸を叩いて笑い声を上げた。
「そう言うと思ってたぜ! 向こうの区画に、自由に使える広い訓練場がある。来い、そこで白黒つけようじゃねぇか!」
「望むところだ!『ダークフェニックス』、たっぷり拝ませてやるよ!」
俺たちは互いに不敵なニヤリ顔を交わすと、火花を散らしながら訓練場へと向かって足を進めた。
*
広々とした訓練場の真ん中で、俺とザナークは対峙した。
ザナークが壁際のデバイスを軽く操作すると、周囲の床がせり上がり、瞬く間に本格的なサッカーコートへと姿を変える。
「さあ、早速始めようじゃねえか。行くぜぇッ!!」
ザナークが中央に転がっていたボールを強烈に蹴り出し、爆風のような猛スピードで突き進んでくる。
速い。幕末でやり合った時とは比べものにならないスピードだ。ザナークの野郎、あの時からもさらに牙を研いでいたのだ。
(だが、成長したのはお前だけじゃねぇ!)
俺は迫るザナークの重心の位置、膝の向き、視線の微かな揺らぎを冷静に見極める。ザナークが加速して一気に俺を抜き去ろうと踏み込んだ——まさにその一瞬の隙!
「甘ぇよっ!」
すれ違いざま、身体を滑り込ませて鮮やかにボールを奪い取る。
「なっ……!?」
驚愕するザナークを置き去りに、俺は一気に前線へと攻め上がった。闇の炎を纏い飛び上がってシュードを放つ。
「『ダークトルネード』!!」
漆黒の炎を纏ったシュートが一直線にゴールを襲う。
だが、ザナークもただ指をくわえて見ている男じゃなかった。
「ハハッ! そう易々と入れさせねぇよ!!『魔界王ゾディアク』!!」
背後から禍々しいオーラが爆発し、顕現したのは『魔界王ゾディアク』! ザナークはその化身の力で、そのまま身体全体で俺のダークトルネードを真っ正面から受け止めた。
激しい火花と衝撃波が吹き荒れた後、ザナークは泥臭く胸トラップでボールの勢いを殺し、なんとかそのシュートをねじ伏せてみせた。
「へっ……ウォーミングアップは終わりだ。今度は本気で行こうぜ!」
「望むところだ!来いっ!『獄炎鳥ダークフェニックス』!!」
ザナークの呼びかけに応えるように、俺の背中から黒き炎が燃え上がる。顕現させた『獄炎鳥ダークフェニックス』をその身に宿し、化身アームドを完了させる!
対するザナークも全身にゾディアクを纏い、化身アームド状態へ。凄まじいプレッシャーを纏った二人が、ピッチ中央で正面衝突する。
ボールを挟んで激しく拮抗する力と力。火花が散る至近距離で、ザナークは獰猛な笑みを浮かべながら叫んだ。
「いいぞ……っ! お前は俺の最高のライバルだぁッ!!」
そこからはもう、言葉通りの死闘だった。アームド同士の異次元のプレッシャーが訓練場全体を揺らし、互いの意地とプライドが激しくぶつかり合う。
——その時だった。
激しい衝突音を聞きつけたのか、訓練場の重厚な扉がプシューッと音を立てて開いた。
入ってきたのは、揃いの『ザン』のユニフォームを着た集団。異様な圧を纏った奴らの登場に、俺とザナークは一旦足を止め、勝負を中断した。
集団の先頭に立つ強面の白髪の男が、俺たちを見下しながら不敵に鼻で笑う。
「何の騒ぎかと思って来てみれば……随分と楽しそうじゃねえか」
俺は額の汗をぐっと拭い、集団に向かって言い放った。
「お前らがザンのメンバーか? 俺は今日からここに来た、不知火恒陽だ」
俺の挨拶を聞いたガロは、「チッ……また生意気な奴が入ってきたな」と忌々しそうにつぶやいた後、ニヤリと底意地の悪い笑みを浮かべた。
「俺はガロだ。話はSARUから聞いてるぜ。……早速だが、歓迎会と行こうじゃねえか。遊んでやるよ」
ガロの合図とともに、ザンのメンバーたちが一斉に俺とザナークをぐるりと取り囲む。刺すような殺気と剣呑な空気。この後何が起きるか、俺は一瞬で察して身構えた。
一方のザナークは、興奮気味に首を鳴らした。
「ハッ!ちょうどいい!お前らとは元々馬が合わないと思ってたんだ。ここで鬱憤を晴らさせてもらうぜ!ミキシトランス『曹操』!!」
ザナークが霸気のオーラを纏い、一気にパワーアップ! 俺も間髪入れずにミキシマックスの力を解放する。
「ミキシトランス『ケツァルコアトルス』!!」
翼竜の野生のオーラが全身を駆け巡る。
「ブレイクアタックだ!!」
ガロの号令とともに、3人のメンバーが凶器のような勢いで突撃してきた!
正面から迫る一撃を、ザナークが豪快に受け止める!
その背後、俺の死角を狙って別のメンバーが襲いかかってきたが、俺は鋭い野生の勘で身体を最小限にひねって回避。そのまま相手の勢いを利用し、ザナークへ向かっていた三人目の進路を塞ぐように誘導した。
そしてアイコンタクトを送った俺の意図を一瞬で理解したザナークが、身体をひねって突進をかわす。かわされた奴はそのまま勢いを殺しきれず、俺に突進しようとしていた三人目と正面から大激突した。
「ぐあぁっ!?」
「テメッ、どこ見てやがる!」
鮮やかな連携で囲みを打ち破り、俺とザナークは互いに背中を預ける形で立ちふさがった。
「チッ……調子に乗るなよ。本番はここからだ!」
顔を真っ赤にしたガロが噛みつきそうな勢いで叫び、背後から『黒き翼レイブン』を顕現させる。俺たちも化身で迎え撃とうとオーラを練り上げた——その時。
「——何をしてるのかな?」
訓練場の入り口から、静かだが妙に通り通る声が響いた。
その声を聞いた瞬間、荒れ狂っていたザンのメンバーたちの動きがピタリと止まった。あのイケイケだったガロですら顔を跳ね上げ、明らかに動揺して体を硬直させている。
振り返ると、そこには腕を組んで佇むSARUの姿があった。
「新人来たんで……ちょっと遊んでやってたんだよ」
ガロが冷や汗を流しながら口にする。それに対し、SARUは首をかしげて微笑んだ。
「へー……何をして遊んでたんだい?」
「サッカーだよ」
俺がすかさず割り込んで答えると、SARUはどこか呆れたように、でも嬉しそうに目を細めた。
「サッカーか……本当に好きなんだね、それ」
「ああ。なんなら、お前も一緒にやるか?」
俺がボールを足元で手際よく弄りながら誘うと、SARUは顎に手を当てて少し考え込む仕草を見せた。
「うーん……まあ、僕も忙しいからね。……少しだけだよ?」
*
コートの中心に、俺、ザナーク、そしてSARUの3人が集まった。
「せっかくだから、僕対君たち2人の2-1でやろうか」
SARUのその提案に、俺とザナークはニヤリと不敵な笑みを交わす。ガロの不機嫌そうな「……始め!」の合図とともに、勝負がスタートした。
俺は真っ先にボールをキープし、目の前で棒立ちしているSARUに向かってドリブルで突っ込む。一瞬のフェイントで横を抜き去ろうと足を出した——その瞬間。
「っ!?」
足元にあったはずのボールの感触が、忽然と消え失せた。
ハッとして振り向くと、いつの間にか俺の背後に回り込んでいたSARUが、何事もなかったかのように優雅にボールを踏みつけて立っていた。
「舐めやがって!」
すかさずザナークが怒涛の勢いでボールを奪いにかかる! だが、SARUは身体を微動だにさせず、最小限のステップだけでザナークの猛攻をことごとく悠々と受け流して見せた。
「くっ……一筋縄じゃいかねぇぞ、コウ!」
「ああ……最初から全開で行くぞッ!!」
俺とザナークは間合いを取ると、同時に己のオーラを限界まで爆発させた。俺の背後に踊り出る『獄炎鳥ダークフェニックス』、そしてザナークの『魔界王ゾディアク』! 2つの化身をそのままその身に纏い、一気にアームドを完了させる。
アームド状態の二人が放つ凄まじいプレッシャーを受け、SARUは「いいね」とパチパチ手を叩いて微笑んだ。
「素晴らしいよ。……でも、そろそろ終わりにさせてもらおうかな」
そう言った瞬間、SARUの全身から放たれた威圧感が、訓練場全体の空気を一変させた。
彼の背後に立ち昇る、神々しくも禍々しい白く巨大なゴリラのような化身——
「『超魔神エヴァース』!!」
「なっ……なんだこの圧は……ッ!?」
今まで出会ったどんな強者とも違う、底知れない圧倒的なエネルギー。思わず気圧されそうになるが、俺はぎゅっと歯を食いしばり、必死に意識を切り替えて脚を踏ん張った。
「行くよ——」
SARUがボールを蹴り上げると同時に、背後の超魔神エヴァースが巨大な拳を振り下ろす!
「『モータルスマッシュ』!!!」
放たれたシュートは、空間そのものを歪めるような凄まじい破壊力を伴って俺たちの元へ殺到する。
「させるかぁぁぁーーッ!!」
「押し返せぇぇッ!!」
俺とザナークはアームドの力を脚に集中させ、同時にそのシュートに向かって蹴りを叩き込んだ!
激しい火花と鼓膜を破らんばかりの衝撃音が爆発する。化身アームド2人分のパワーでねじ伏せようと拮抗するが——相手のパワーはあまりにも常軌を逸していた。
「ぐわぁぁぁッ!?」
競り負けた俺とザナークは、ボールの衝撃波に吹き飛ばされてピッチへと激しく打ち付けられた。ボールはそのまま豪快にゴールネットを揺らす。
「ふぅ……ここまでできるなんて、二人とも本当に才能があるね。期待しているよ」
静まり返ったコートの中、倒れた俺たちを見下ろして優しくそう告げると、SARUは何事もなかったかのようにすんなりと訓練場を後にしていった。
——流れる沈黙。
体に残る強烈な痺れと衝撃。だが、俺の胸の奥から湧き上がってきたのは、恐怖でも諦めでもなかった。
「……ははっ、すっげぇな……!」
俺は腕で顔を覆いながら、腹の底から湧き上がる興奮を抑えきれずに笑い出した。
「あんな圧倒的な力を見せつけられたら……またあいつとサッカーしたくなっちまうじゃねえかよ……ッ!」
「ハッ!……当たり前だ!」
隣で身体を起こしたザナークも、全身から凄まじい闘志のオーラをギラつかせながら起き上がった。
「この様が、あんな奴に勝ち逃げされたまま黙っていられるかよ! 次は絶対に……ぶっ潰して勝つ!!」
惨敗した直後だというのに、全く折れることなくむしろギラギラと輝く俺たちの姿を見て、ずっと固まっていたガロが心底驚いたように目を見張った。
「……おいおい、あの怪物みたいな力を見ても、まだアイツとやり合おうってのかよ……?」
その問いに、俺とザナークは顔を見合わせ、声を揃えて即答した。
「「当たり前だ!!」」
ガロは呆然と俺たちを見つめていたが、やがて呆れたようにフッと鼻で笑った。
「……ハッ、変な奴らだぜ、お前らは。……いいぜ、認めてやるよ。今日からお前らも、チーム・『ザン』のメンバーだ」
不愛想ながらも、ガロの言葉には確かなリスペクトが籠もっていた。周りのメンバーたちの刺々しかった空気も柔らかくなり、俺とザナークは正式にザンの仲間として迎え入れられたのだった。