またも遅れてしまいました、申し訳ございません
ザンとの顔合わせから、丸一日が経った。
SARUに呼ばれた俺は、紫の案内で再び彼の部屋へと足を運んでいた。部屋に入ると、SARUはいつものように微笑みを浮かべて出迎えてくれる。
「やあ、来て早々で申し訳ないんだけど……君の仲間、天馬くんたちのことについて報告があるんだ。良い知らせと悪い知らせがあるんだけど、どっちから先に聞きたいかい?」
「……っ!」
SARUの思わせぶりな切り出し方に、胸騒ぎが走る。俺は思わず眉をひそめ、少し不安を覚えながらも口を開いた。
「……まずは『良い知らせ』から頼む」
「良い知らせはね、天馬くんたちの時空最強イレブン集めも、ついに最後の一人まで辿り着いたみたいだよ」
「本当か!?」
別れた後の仲間たちの奮闘を思い、俺は思わず顔をほころばせた。だが、SARUは静かに首を振り、表情を引き締める。
「そして……『悪い知らせ』だ。天馬くんたち雷門イレブンが、全員エルドラド本部に連れて行かれてしまった」
「なっ……何だって!? 連れて行かれたって……天馬たちは無事なのか!?」
跳ね上がるように詰め寄る俺に対し、SARUは困ったように肩をすくめて見せた。
「今はまだ分からないけれど、ある程度予想はできるよ。……僕たちフェーダはね、今から三日後にエルドラドへ全面戦争を仕掛けるんだ。エルドラドはきっと、僕たちと戦うための駒として天馬くんたちを使おうとしているんだろうね」
「ぜ、全面戦争……!? なんでそんな物騒なことをすんだよ!?」
予想外すぎる規模の話に俺が目を剥くと、SARUは「安心してよ」と優しく手を振った。
「戦争とは言っても、決着は『サッカー』でつけるのさ。それにね、エルドラドは僕たちセカンドステージチルドレンの力を恐れて、僕らの存在そのものを消し去ろうとしている。黙ってやられるわけにはいかないだろう?」
SARUの言いたいことは理解できた。自分たちの存在を守るための戦いなら、引き下がるわけにはいかないのも分かる。だが、どうしても納得いかない部分が残る。
「……事情は分かった。だけど、天馬たちがエルドラドに協力して、お前たちと戦うなんて思えねぇぞ! あいつらはサッカーを利用する奴らが嫌いなんだ!」
俺の反論に対し、SARUは冷ややかな瞳で、当然のように淡々と言い放った。
「……洗脳でもすれば関係ないさ。君もよく知っているだろう? 心を書き換えて手先にするなんて、彼らエルドラドが一番得意とする手段じゃないか」
「っ……!!」
ゴッドエデンやこれまでのタイムジャンプ先で見てきた、エルドラドの卑劣なやり口が脳裏をよぎる。天馬たちがそんな目に遭わされているかもしれないと思うと、背中に冷や汗が吹き出し、激しい焦燥感が全身を駆け巡った。
俺がここにいる間にも、みんながそんな危険な状況に陥っているなんて——!
「くっ……今すぐ天馬たちの所へ……!」
今にも飛び出そうとする俺の肩を、紫が黙ってそっと制する。そしてSARUもまた、穏やかだが拒絶を許さないトーンで言った。
「焦っても仕方ないよ。今の君にできるのは、来るべきエルドラドとの最終決戦……『ラグナロク』に備えることだけだ」
「ラグナロク……」
*
SARUの部屋を後にし、無機質な廊下を自室に向かって歩く。次々と突きつけられた予想外の情報の重さに、俺の頭の中はまだ混乱で収まりきっていなかった。
「……コウ、大丈夫?」
隣を歩く紫が、戸惑いを隠せない面持ちで覗き込んできた。
「……今は気持ちを切り替えて、今後のことを考えるしかないわ」
「……まあ、そうだよな」
俺は一度深呼吸をして、両頬を軽く叩いた。
「エルドラドに勝つことが、結果的にあいつらを救う一番の近道になるわけだしな。やるっきゃねえよ」
無理やりにでも頭を切り替えた俺を見て、紫はホッとしたように息を吐いた。そして、表情を少し引き締めて本題を口にする。
「それと……今考えるべき問題は、あなたが所属する『ザン』よ。もう分かってるでしょうけど、彼らはまともにサッカーなんてしてくれないわ」
「……だな」
昨日の「歓迎会」を思い出し、苦笑いが漏れる。あいつらは勝つためなら相手を痛めつけることも厭わないラフプレイ主体のチームだろう。本番の試合となれば、相手を傷つけるような激しいプレイを平気で仕掛けるはずだ。
「だけど……俺はフェアなサッカーがしたい。仲間を殴り倒すような真似をして勝ったって、ちっとも面白くねぇからな」
「なら……練習試合をしてみるのはどうかしら?」
「練習試合?」
俺が聞き返すと、紫はまっすぐに俺の目を見つめて言った。
「ええ。試合を通じて、あなたがサッカーでザンの連中を変えるのよ」
「……さらっと無茶言ってくれるなぁ」
思わず大きなため息をつくと、紫はふっと柔らかく微笑み、俺の肩をぽんと叩いた。
「あなたなら、きっとできるわ」
その迷いのない言葉と信頼の眼差しに、俺は参ったなというように頭を掻いた。
「ハハッ、そこまで言われたら断れねぇじゃんか。……よし、やれるだけやってみるぜ!」
運命の決戦「ラグナロク」まであと3日。俺はザンを、そして自分たちのサッカーを変えるために動き出すことを決意した。
*
「……で、紫。今日の練習試合の相手って、一体どんなチームなんだ?」
あの後、練習試合の相手を見繕ったという紫に連れられ、無機質な廊下を歩きながら俺が尋ねると、紫は前を見据えたまま静かに答えた。
「『ギル』というチームよ。フェーダ随一の頭脳派集団で、戦術や連携に長けているわ。暴力的で力押しのザンとは、まさに水と油のような仲の悪い関係ね」
「頭脳派ねぇ……ザンとは真逆ってわけか」
辿り着いた重厚な扉が開くと、そこには壁一面が本棚で埋め尽くされた、どこか豪華で落ち着いた空間が広がっていた。その中央に置かれた上質なソファには、二人の人物が並んで腰掛けている。ラベンダー色の髪の少女と、癖っ毛の白髪が特徴的な少年だ。
「メイア、ギリス。今日は時間を取ってもらって悪いわね」
紫が声をかけると、メイアと呼ばれた少女が上品に微笑んだ。
「あなたの頼みだもの、別にいいわ。さあ、お掛けになって」
促されるまま、俺と紫は向かい側のソファへと腰を下ろす。すると紫は前置きもそこそこに、まっすぐ本題を切り出した。
「早速で悪いけれど、本題に入らせてもらうわ。あなたたちギルにザンと練習試合をして欲しいの」
「練習試合……?」
ギリスは少し眉をひそめ、興味薄そうに肩をすくめた。
「わざわざそんなことをする必要があるのかな?」
「ええ、そうね」
メイアも優雅に紅茶のカップに手を伸ばしながら賛同する。
「そんなことしなくたって、私達ギルがエルドラドなんかに負けるはずないもの」
「その通りさ、メイア。君と僕がいるんだからね」
そう言いながら、ギリスはごく自然な動作でメイアの手をそっと取り、見つめ合い始める。次の瞬間、二人の周りだけピンクオーラでも飛んでいそうな、謎のラブラブな空間が形成され始めた。
(マイペースだな……)
目の前で繰り広げられる強烈な光景に、俺は思わず引きつった顔で紫の袖を引っ張った。
「おい紫……あれ、平常運転なのか……?」
「……コウ、気にしたら負けよ」
紫はわざとらしい咳払いをひとつ挟み、二人の世界を強引に現実へと引き戻した。
「話を戻すけれど、この練習試合の目的はチームを強くするためとか、そういうんじゃないわ。……ザンを変えるためよ」
「ザンを……?」
メイアが少しだけ瞳を輝かせ、興味深そうに身体を乗り出してきた。
「それは興味深いわね。続けて?」
「今のザンは、相手を傷つけることばかりに夢中になっているわ。このままじゃ、チームとしての本当のまとまりなんて生まれない」
紫の言葉を受け、ギリスが腕を組みながら冷静に指摘する。
「だが、あいつらは『それでも勝てる』と思っているんだろう?」
「……ああ」
俺はギリスの目をまっすぐ見据えて頷いた。
「実際、あいつらは一人ひとりがめちゃくちゃ強い。でも……俺はもっとみんなで協力して、サッカーとして勝ちたいんだ」
「なるほどね」
メイアはクスッと口元を綻ばせ、俺の表情をじっくりと観察するように見つめてきた。
「あなたはザンを、もう少し『まともなチーム』にしたいのね?」
「まあ……ぶっちゃけそういうことだ」
俺がそう答えると、紫がすかさず言葉を補足する。
「だからこそ、あなたたちにお願いしたいの。頭脳派のギルが相手になれば、力押しだけじゃ勝てないってことを知る良い機会になる。ザンの相手をして、チームとして戦うことの重要性を教えてあげてほしいのよ」
「ふふっ……」
メイアは楽しそうに声を立てて笑うと、隣のギリスを見つめた。
「面白いわね。いいわ、協力してあげる」
「メイア!?」
驚くギリスに対し、メイアは悪戯っぽく微笑んでみせる。
「別に悪い話ではないでしょう? それに……あの荒くれ者のザンが、少しでも協調性を身につけるというのなら、ちょっと見てみたいじゃない」
メイアのその言葉に、ギリスも苦笑いを浮かべながら首を縦に振ってくれた。
「……分かった、引き受けよう」
「本当か! 助かった、ありがとな二人とも!」
俺が深く礼を言うと、ギルとの練習試合という大きな第一歩が、ついに決まったのだった。
*
そして翌日——ザンとギルの練習試合の日がやってきた。
場所は以前俺とザナークが勝負を行った訓練場。デバイスによって生成されたピッチの周囲には、双方の火花散る気配が充満している。
「ハッ! あのインテリどもを叩き潰せるってんならおもしろいぜ!」
ザンのメンバーたちは、日頃から水と油の関係であるギルを直接痛めつけられるとあってやる気満々だ。キャプテンであるザナークも久しぶりの試合に豪快な笑みを浮かべている。
対するギルの面々は、メイアやギリスを筆頭に「野蛮人が……」と言いたげな余裕の笑みを崩さない。
紫がホイッスルを口にくわえ、甲高い音を鳴らした。
ピーーーッ!!
キックオフはギルから。
ボールを持ったギリスが、華麗な足さばきでスムーズに前線へと上がっていく。
「やれ! ブレイクアタックだ!!」
ガロの容赦ない合図が飛んだ。その瞬間、ザンのメンバー3人が暴力的な殺気を撒き散らしながら同時にギリスへ突撃。激しい身体の衝突音が響き、力任せにボールを奪い取った。あまりにも荒々しい強奪プレイに、俺は思わず声を張り上げる。
「おいっ、やりすぎだろ! 普通にサッカーしろよ!」
「はッ、勝てりゃいいんだよ! それに敵を痛めつけて弱らせられて俺たちは楽しめる……一石二鳥だろがよ!」
FWのトームがニヤニヤと下劣な笑みを浮かべ、抗議したコウめがけて至近距離からパス……という名の痛烈なシュートを打ち込んだ!
「ぐあっ……!?」
正面からボールを受けたコウは、そのまま吹き飛ばされてピッチへと倒れ込む。
その隙を見逃さず、こぼれ球を拾ったのはガロだ。ギルのディフェンス陣が阻止しようと立ちふさがるが、ガロは肘打ちや足引っかけスレスレの悪質なタックルで強引に敵をなぎ倒しながら突き進んでいく。
「どけぇぇッ!!」
一気にゴール前まで侵入したガロは、背後に黒い影を広げた。
「来い……『黒き翼レイブン』!!」
邪悪なオーラを纏い、空中で激しく爪を振り下ろす!
「『レイジングクロウ』ーーーッ!!」
ギルのゴールキーパー・ブーフウが必死に手を伸ばすも、暴力的な重みを乗せたシュートはグローブを弾き飛ばし、豪快にゴールネットを揺らした。
1-0
先制点を奪ったガロたちは品のない大歓声を上げる。しかし、ラフプレイで味方であるはずの自分まで攻撃されたコウは、痛む身体を起こしながら怒りに瞳を燃え上がらせていた。
*
1点を取り、勝ち誇るガロたちとは対照的に、ギルの陣形が静かに変化していた。
試合再開の笛が鳴ると、ギルはそれまでの攻撃的な配置から、中盤の層を急激に厚くしたフォーメーションへと変更してボールを回し始める。
「へっ、パス回しで逃げ切れると思ってんのか!? お前ら、もう一度ブレイクアタックだ!」
ガロの指示で、再びザンの3人が中盤でボールを持つギルの選手へ怒涛の勢いで襲いかかる。だが——ギルはそれすらも織り込み済みだった。
「ふふ、バカね。力しか頭にないから、そうやって簡単に釣られるのよ」
ザンの3人が強引にプレスへ飛び出した瞬間、その背後にポッカリと広大なスペースが生まれた。ギルの中盤は流れるようなワンタッチパスでタックルを完璧にかわし、そのガラ空きになったスペースへ絶妙なスルーパスを通す。
そこに走り込んできたのは、メイアだ。
「させるかよっ!」
俺はすぐさまコースを塞ぐようにメイアの前へ立ち塞がった。しかし、メイアは不敵に目を細めると、軽やかなステップとともに立ち上る暴風を纏う。
「『風神の舞』!!」
「くっ……!?」
激しい竜巻に視界と体勢を完全に狂わされ、俺は一瞬で翻弄されて抜き去られてしまった。力任せのザンとは根本的に違う、洗練された戦術と個人の技術。
一気にフリーでゴール前へと侵入したメイアは、背後に華やかな、しかし圧倒的なオーラを放つ化身を咲かせる。
「出でよ……『情熱のラヴァーズ♀』!!」
空中で優雅に翻身し、細剣のような眩い光の束をゴールへと放ち叩きつける!
「バァーン!『ハートレイピア』ーーーッ!!」
「舐めんなぁッ!!」
ザンのゴールキーパーファダムが背後から巨体の化身『深淵のアギラウス』を顕現させ、シュートをねじ伏せようと迎え撃つ。
だが、メイアのシュートはあまりにも鋭く、重い。アギラウスの防御を強引に破り、豪快にゴールネットを揺らした。
「な……なにっ!?」
同点に追いつかれ、ガロたちが信じられないといった様子で目を見張る。力任せのラフプレイだけでは、頭脳と連携を駆使する本物の強者には通用しない——その現実が、ピッチ上に突きつけられた瞬間だった。
*
「調子に乗りやがって……っ!」
同点弾を浴びたことでプライドをズタズタにされたトームが、怒りに任せて荒いドリブルで一気に前線へと駆け上がる。
目の前に立ち塞がったメイアに対し、トームは手荒く吹き飛ばしてやろうとラフなタックルを仕掛けた。
だが、メイアは冷ややかな笑みを浮かべ、その突撃をまるで羽毛でもかわすようにヒラリとかわす。
「動きが単調ね。そんなもので私たちが捕まえられると思って?」
すれ違いざま、メイアは鮮やかにボールを掠め取り、そのままボールを仲間へ渡した。
「よし、一気に畳み掛けるわよ!」
ギルの面々は無駄のない洗練されたパス回しでザンの守備陣形をあざ笑うかのように翻弄し、あっという間に守備が整う前のゴール前へとボールを運ぶ。
ペナルティエリア手前、完璧なタイミングでボールを受け取ったギリスは、隣に駆け上がってきたメイアと視線を交わした。
「行こうか、メイア」
「ええ、私たちの愛を見せつける時よ!」
二人は禍々しくも美しいオーラをボールに纏わせ、極上のコンビネーション技が解き放たれる!
「「『デッド・フューチャ』ーーーッ!!」」
放たれたシュートは凄まじいスピードでザンのゴールへと突き進む。キーパーが必死に手を伸ばすも、打ち破られボールは容赦なくネットを揺らした。
直後、前半戦終了を告げるホイッスルが冷たく鳴り響いた。
1-2
個人技と暴力的な力だけで勝ち上がってきたザンは、完全無欠の頭脳派チーム『ギル』を前に、前半だけで逆転を許してしまうのだった。
*
ベンチに戻ったザンのメンバーたちは、荒い息を吐きながら苛立ちを隠せずにいた。
「チッ……あいつら、チョコマカとパス回しばかりしやがって……!」
「後半はもっと痛烈にお見舞いしてやる。足をへし折ってでもボールを奪ってやるぜ!」
吐き捨てられる殺伐とした言葉。そんな悪循環の中、俺はメンバーの真ん中に立ち、冷ややかに、だがはっきりと問いかけた。
「おい……相手を傷つけて勝つことが、本当に『強い』と思ってんのか?」
「……はぁあ!?」
ガロが眉間にしわを寄せ、噛みつきそうな勢いで前に出た。
「勝てばいいんだろうが! どんな手段を使おうが、勝った奴が強いんだよ!」
「違うね」
俺はガロの威圧的な視線を真っ向から受け止め、一切引かずに言い放った。
「相手を傷つけなきゃ勝てないなんて……そんなの、腰抜けのやることだ」
「テメッ……!!」
ガロの頭の導火線が弾け飛んだ。激昂したガロが俺の胸ぐらをガシッと掴み上げ、今にも殴りかからんばかりに拳を振り上げる。だが、俺は睨み返したまま言葉を続けた。
「お前らは一人一人の力は間違いなく強い。だけど、前半はそれをただ自分勝手に使っていただけだ。……自分の力だけじゃなく、仲間と力を合わせれば、お前らはもっと強くなれるはずなんだよ!」
「口だけで生意気言ってんじゃねえぞ、新人が——!」
ガロが怒りに任せて腕を振り下ろそうとした、その時。
横から伸びてきた丸太のような太い腕が、ガロの手首をガシッと掴み、強烈な力で強引に振り払った。
「テメぇ……ザナーク!」
よろめいたガロが信じられないといった顔で振り返り、激怒して叫ぶ。
「お前……こいつの味方をするつもりか!?」
ザナークは腕を組み、心底退屈そうにフンと鼻で笑った。
「ハッ! 味方だぁ? 勘違いするな。弱らせた相手と戦うのなんざ、反吐が出るほどごめんなだけだ。相手が万全の状態で、正面から叩き潰してこそ勝利だろうが!」
ザナークはそう吐き捨てると、ギラギラとした凶暴な闘志が宿る瞳を俺へと向けた。
「なあ、コウ。お前の言いたいこと、少しは分かってやったぜ。……だがな、口だけで終わらせるんじゃねぇぞ?」
「……言われなくてもな!」
俺が不敵に口元を緩めると、ハーフタイム終了を告げる紫のホイッスルが訓練場に響き渡った。
俺たちはピッチへと戻っていく。ザンの連中の瞳には、単なる苛立ちとは違う、新しい火種が灯り始めていた。
*
後半戦がスタートした。
「ハッ! 連携だの仲間だの、青臭いこと言ってんじゃねえ!」
ガロは開始の笛と同時に、俺のアドバイスを無視して強引なドリブルで中央を突き突破しようとする。だが、ギルのディフェンダーは冷静だった。突進してくるガロの勢いをいなし、身体をうまく入れ替えてあっさりと体勢を崩させ、鮮やかにボールを掠め取った。
「ちっ……またかよ!」
ガロが地を蹴って毒づく中、ギルは前半とまったく同じように、無駄のない美しいワンタッチパスで流れるようにボールを展開していく。
(……パスコースは、そこだ!)
俺は相手の目線と体の向きから一瞬先の展開を読み切ると、溢れ出す翼竜のオーラを解放した。
「ミキシトランス……『ケツァルコアトルス』!!」
驚異的な爆発力とスピードで一気に加速し、ギルの絶妙なスルーパスの軌道上に割り込んで見事にボールをカット。
「なにっ!?」
驚愕するギルの選手を置き去りに、コウは前線へ鋭い視線を送る。
「ザナーク!!」
「ハハッ! 任せろぉ!!」
絶妙なタイミングで出されたパスをザナークがしっかりと収めると、圧倒的なフィジカルと豪快な足さばきでギルのDF陣を次々と力強く抜き去り、一気にペナルティエリア前へと侵入する。
そして、併走するように全力で駆け上がってきたコウと視線を交わした。
「行くぞ、コウ!」
「おうっ!!」
二人の身体から溢れ出す漆黒と雷光のオーラが交差し、ピッチ全体を激しく揺らす。息の合った跳躍から、空中で同時にボールへ強烈な蹴りを叩き込んだ!
「「『ジョーカーレインズ』ーーーッ!!!」」
降り注ぐ破壊の雨のようなシュート軌道が、ギルのゴールキーパーを完全に置き去りにし、豪快にゴールネットへと突き刺さった!
2-2
コウとザナークの見事な連携から生まれた同点弾に、力押ししか頭になかったガロたちザンのメンバーは、圧倒されて息を呑むのだった。
*
同点に追いつかれたギルは、すぐさまメイアとギリスを軸にした華麗なパス回しで猛反撃へと転じていた。
俺は前半の要領でパスコースを読み、ボールをカットしようと一歩踏み込んだが——
「甘い!」
ギリスが絶妙なタイミングでボールをわずかにずらし、俺のディフェンスをいなす。しまった、タイミングを外された! と思った瞬間、そのボールの先に素早く飛び出し、激しく掻っ攫っていった人物がいた。
「……ガロ!?」
ボールを足元に収めたガロは、苦い顔をしながらも、俺を鋭く一瞥して吐き捨てた。
「お前の言う通りにすんのは窶に触る! だがな……あのインテリどもに負けるのは、もっとごめんだッ!!」
続けて、ガロは後ろを走るザンのメンバーたちへ向かって野太い声を張り上げた。
「お前ら聞け!この試合、何が何でも勝ちに行くぞ!!」
「「応っ!!」」
そのガロの号令を皮切りに、チーム全員の意識がガラリと変わる。
これまで自分勝手に突っ走っていたザンのメンバーたちが、互いに声を掛け合い、鮮やかなパスワークでギルの緻密な守備網を次々と翻弄し、切り崩していく。
「見事だな……っ!」
ギルのディフェンダーを置き去りにし、ボールはついにゴール前へと運ばれ、待ち構えていたザナークの足元へ通された。
「逃がすか!」
ギルの守備陣がすかさず二人がかりでザナークへと立ちはだかる。だが、その瞬間に全速力で追いついた俺がザナークの傍らに並び立つ。
「行くぞ、ザナーク!」
「おうっ、一気に粉砕するぜ!!」
俺たちは息を合わせてボールへ強烈な一撃を叩き込む。
「『キラーフィールズ』!!」
放たれた衝撃は巨大なエネルギーの渦を巻き起こし、立ち塞がるギルの守備陣を吹き飛ばした。
そのまま俺がシュート体勢へと入る——が、相手キーパーの重心が完全に俺へと引きつけられたその瞬間、俺はあえてゴールとは別の方向へボールを流した。
「……っ!? なんだと!?」
キーパーが目を見開く。
そのボールの先、ぽっかりと空いたフリーのスペースに走り込んでいたのは――ガロだった。
ガロは背後から漆黒の化身を呼び覚ます。
「『黒き翼レイブン』!! アームドっ!!」
禍々しい黒き翼の鎧を全身に纏ったガロは、地面を蹴って跳ね上がり、ボールへ渾身の力を乗せて振り抜いた。
「『グングニル』ーーーッ!!!」
放たれた槍の如き鋭いシュートが、ゴールへと突き刺さる。
ピピッ――ピーーーッ!!
直後、試合終了を告げるホイッスルが高らかに鳴り響いた。
3-2
相手を傷つけることしか知らなかったザンが、ギルを相手に「相手を傷つけないチームワーク」で勝ち切った瞬間だった。
*
「逆転勝利だぜ!!」
試合終了のホイッスルが響いた直後、ピッチ上ではザンのメンバーたちが互いの肩を叩き合い、ハイタッチを交わしながら勝利の歓喜に沸いていた。さっきまでの殺伐とした空気は消え、そこには確かに「仲間と勝ち取った勝利」を喜ぶチームの姿があった。
俺は少し離れた場所から、汗を拭いながらそんな彼らの姿を静かに見つめていた。
「——あのザンの戦い方を、まさか本当に変えさせてしまうなんてね」
ふと横から声をかけられ振り返ると、メイアとギリスが歩み寄ってくるところだった。
ギリスはどこか呆れたような、けれどどこか感心したような苦笑いを浮かべている。メイアも腕を組みながら、フッと優雅な笑みを口元に漂わせた。
「ええ。まあ、相変わらず野蛮なところは全然変わっていないけれど……これは彼らにとって、重要な第一歩になったんじゃないかしら」
二人の言葉に、俺は胸のつかえが降りたような気がして、笑みを返した。
「ありがとな、二人とも。……また、サッカーしようぜ」
俺が手を差し伸べると、ギリスはその手をしっかりと握り返し、不敵に眉を上げた。
「ああ、もちろんだとも。今回は君たちの情熱に免じて花を持たせてあげたけれど、次に勝つのは僕たち『ギル』だ」
「ふふ、次は私たちも手加減なんてしないわよ?」
メイアも隣で楽しそうに目付けをする。頼もしいライバルたちの言葉に、俺の胸の奥で再び熱いものが燃え上がった。
「望むところだ! 次も絶対に負けねぇからな!」
ラグナロクまであとわずか。だが、俺は確かな手応えを感じていた。
新必殺技:『ジョーカーレインズ』
属性:林
使用者:不知火恒陽、ザナーク・アバロニク
詳細:
既存技。
ボールにチャージしたエネルギーが
冷たい雨のように 降り注ぐシュート。
新必殺技:『キラーフィールズ』
属性:林
使用者:不知火恒陽、ザナーク・アバロニク
詳細:
既存技。
ライバル同士が放つ必殺技