学マス世界にTS転生した一般人のアイドル奮闘記   作:おすとろもふ

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1話 『The world doesn't know her yet』

 

 爽やかな朝。

 

 空気が澄んでいて、風が湿った肌を吹き抜けたと同時に少し涼しく感じる。

 まだ夏の真っ只中ということもあり、朝でもそれなりに暑い。

 

 

「はぁ……!はぁ……!!」

 

 

 そんな夏の真っ只中だというのに、俺は朝4時起きで準備をさせられて走らされている。より正確に言えば、二人の姉に半ば強引に起こされ巻き込まれる形でランニングをさせられている。

 

……しかし、これも必要なことだと考えれば辛いなんて言ってはいられない。将来的にアイドルになるであろう二人と共にいるのであれば、こんなトレーニングなんて毎日して当然なのだ。

 

 辛いけど。

 

 

 俺が考え事をしながら走っていると、突然前を走っていた二人がペースを落として止まった。

 

 

「ふぅ〜。一旦ここで休憩しましょ」

 

「そうだねー!水分ほきゅーー!!」

 

 

 俺が来たことを確認すると、二人の姉がスポーツドリンクを飲み始める。そんなまだまだ余裕がありそうな二人を見ながら、俺もスポーツドリンクに口を付ける。

 

……あ゛ぁ゛ー!生き返る!

 

 じわっとした不快な暑さを纏っていた身体を、内側から冷やしてくれるスポーツドリンク大先生。運動した後に飲む大先生の味は、筆舌にし難い。強いて言うならば、生きてるって感じがする。

 

 

「……あら?そんなに飲んで大丈夫?」

 

 

 俺が大先生に感謝しながら飲み続けていると、いつの間にか隣にいた"咲季(さき)ねえ"が心配そうに声を掛けてくる。

 

 

「ぷはぁっ!大丈夫、身体に必要な分だけ飲んだから」

 

「そう?もし足りなかったら言ってちょうだい!」

 

「おー、結構減っちゃってるねー?あたしの分から少し入れておくね〜」

 

「え、いいの?」

 

「もっちろーん!」

 

 

 咲季ねえと会話をしていると、横で俺の持つドリンクを見て"佑芽(うめ)ねえ"が自分のドリンクを分けてくれる。

 

 先程心配してくれた咲季ねえも、明るく快活な笑顔で優しい佑芽ねえも二人とも俺の自慢の家族だ。

 

 まあしかし、俺はこの二人をこの世界に生まれ落ちる以前から知っていた。何故ならば、学園アイドルマスターというソシャゲに"花海咲季(はなみさき)"と"花海佑芽(はなみうめ)"が存在していたから。

 

 学園アイドルマスターは、アイドルを育成するゲームなのだが、その実ストーリーも中々に深い。色々なキャラの葛藤を知ったり、キャラ同士の関係性を楽しめるのが面白いのだ。

 

 しかし、今や俺はそのゲームの中である。本当に寝て起きたら母親の腕の中だった。しかも、俺の前世は男なのに今世の体は女。

 

 そう。まさかのTS転生だ。

 

 そりゃあもう困惑に困惑を重ねたのだが、一番大事なのはそこではない。正直な話、後々になって考えてみればむしろラッキーである。

 

 重要なのは、俺が生まれた家が花海家というゲームキャラの家系だったことだ。それも、花海咲季と花海佑芽の妹として。

 まあ、幸いなことに二人と同学年だから一安心だったが、二人と歳の離れた姉妹だった場合、学マスキャラの活躍を傍で見れなかった可能性がある。

 

 それだけは断じてNOだ。

 

 折角この世界に生まれたのだから、自分のやりたいことをとことんやりたい。それに、最近気付いたことだがゲームキャラはゲームキャラであって、現実の人とは違う。

 

 現実の咲季ねえと佑芽ねえとの会話には、巻き戻し機能もスキップ機能も存在しない。勿論、ログというのも存在しないのだ。

 

 俺が放った言葉で、展開も行動も変わっていく。それが、現実ということなのだ。

 

 だからこそ、俺は自重しないことに決めた。どっちにしても俺がいることで変わってしまうのならば、俺の好きに生きたい。

 

 手始めに高校生になったら初星学園に通う。二人の姉がアイドルになりたいと思うのは、おそらくだが絶対だろう。

 

 ならば、俺は最初からアイドルになるつもりで努力するのだ。そうでもしないと、天才の二人にあっという間に置いていかれるのは明白である。当然、他にも歌唱力最強の月村手毬(つきむらてまり)や、ダンスにおいて圧倒的な才能がある藤田(ふじた)ことねなど、努力しなければ絶対に勝てない存在が跋扈(ばっこ)しているのが初星学園という場所だ。

 

 正直、自分がどれだけやれるのかは分からないが、努力だけで『一番星(プリマステラ)』を取れるのだろうか?

 

 今の俺には未だ未明である。

 

 そんな考えても答えの出ない問答を頭で繰り返していると、目の前の咲季ねえがこちらをチラッと見て呟いた。

 

 

「……ほんと可愛いわね。悩んでる姿にも後光が射してるなんて、天使の生まれ変わりかしら?多分そうよね」

 

「お姉ちゃん!莉種(りしゅ)ちゃんは超可愛い小悪魔なんだよ!見てよ……あのジト目。可愛すぎて気が狂いそうになってきたよ。お姉ちゃんSSD貰うね」

 

「……SSDは精神安定剤じゃないわよ?」

 

 

 咲季ねえが難しい顔をしながらブツブツと言っていた言葉に、佑芽ねえが反応し始めている。

 そんな光景を目に焼き付けながら、俺は二人を置いて走り始める。休憩をとったおかげで、また走る気力が湧いてきた。

 

……そうだ。俺には止まっている暇なんてないのだ。

 

 後ろに視線を流すと、猛スピードで追ってくる二人の姉の姿があった。

 

 

「……負けてられない」

 

 

 俺は風で掻き消されるような声量で呟くと、負けじとスピードを上げ始めた。

 

 

 

 

 

〜⭐︎

 

 

 

 

 

 現在、中学2年生の俺の容姿は控えめに言っても可愛いと思う。いや、花海姉妹の家に生まれているのだから遺伝が強いのかもしれない。

 

 今は朝の支度中だ。何年もしていることなので、無意識でもある程度はできるようになってきた。

 

 俺は、自分の鞄から手鏡を取り出し、自分の容姿を確認する。

 

 落ち着く茶色の髪には、所々に黒いメッシュが入っている。ちなみに、メッシュに関しては生まれつきだ。

 

 そして、長いまつ毛に幼く童顔な顔つき。端的に言えばロリだ。特に特徴的なのは、ジト目のような感じになっている俺の目だ。

 俺は、ジト目ロリ属性という中々に業が深い属性を得てしまった。

 

 身長も姉二人は伸び続けているのに対して、俺は143cmで完全に止まった。多分だが、あの二人に栄養を吸われた可能性がある。

 

 しかし、悲観してはいられない。この身長も、体型も顔も声も仕草も全てを活かさないと、アイドルになんてなれない。

 

 鏡を見ながら髪を軽く手先でいじって完璧に整える。

 

 

「……よしっ!完璧!」

 

 

 そう言いながら部屋の外に出ると、偶然咲季ねえと出会した。咲季ねえは、こちらを見た後にっこりと笑うと、途端にこちらに歩み寄ってくる。

 

 

「うん!莉種は今日も可愛いわね!ほら、こっちに来なさい?」

 

「えぇ、いつもの〜?」

 

「そうよ!!」

 

 

 咲季ねえは俺の名前を呼ぶと、こちらに向かって腕を広げて待ちの姿勢に入った。

 

 余談だが、俺の今世の名前は"花海莉種"だ。長女が花海咲季(はなみさき)、次女が花海佑芽(はなみうめ)、三女が花海莉種(はなみりしゅ)、そう俺である。

 

 咲季ねえが腕を広げてずっと待機しているので、仕方なくそちらに歩み寄る。すると、まるで食虫植物のように腕を閉じて俺の身体を捕らえる。

 

 

「さ、咲季ねえ……くるしいー」

 

「ハァッ……!ハァッ……!ほんと可愛いわね。それにいい匂い。あぁ……堪らないわ!このぷにぷにのほっぺも最高ねッ!!」

 

 

……あれ?こんなキャラだっけ?

 

 なんか凄まじい原作崩壊が起こってる気がする。佑芽ねえに対しても、原作ではこうだったのか?

 

 

「あー!!お姉ちゃんずるいーッ!!あたしが一番に抱こうと思ってたのにぃッ!!」

 

「うふふ!残念だったわね。今日はわたしが莉種ニウムを補給するわ!」

 

「ぐぬぬぅ〜!!」

 

 

 咲季ねえが俺の首に鼻を擦り付けて何かを吸引していると、階段を上がってきた佑芽ねえが叫びながら走ってくる。

 

 そのまま咲季ねえから俺を取り上げようとして、俺の身体を引っ張ってくる。その凄い腕力は、中学生とは思えない。

 

……俺?毎朝これだからもう慣れたよ。さながら、ぬいぐるみの気分だな。

 

 

「もうー!お姉ちゃんッ!!あたしは怒ったよー!!」

 

「あら、それじゃあどうするのかしら?」

 

「今日の体力測定で勝った方が莉種ちゃんを一日中独り占めする、でどう!?」

 

 

 また突拍子もなく佑芽が変な勝負事を持ちかけている。そして、当然のように俺の人権は消失したらしい。

 

 

「いいわね!わたしに勝てる訳ないけど、その勝負受けて立つわ!!」

 

「よぉーし!勝負だぁー!!」

 

「……私の拒否権」

 

 

 現在中学2年生、花海莉種。これが俺の日常だ(泣)

 

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