学マス世界にTS転生した一般人のアイドル奮闘記 作:おすとろもふ
「はっ……ふっ……!」
まだ日も出ていない早朝。
もうすぐ春が終わり、梅雨が来る。俺は、朝特有の独特な空気感を肌で感じながら、ランニングを行っていた。
というのも、昨日のダンストレーニングでの走り込み、あれが想像以上にキツかった。それに、周囲から何歩も出遅れていることに気付かされた。
……有体に言えば、悔しかったのだ。
「ふぅ、はー!」
丁度、走り始めてから5kmの地点に着いたので、一旦休憩を挟むことにする。といっても、スポーツドリンクを飲んで少し息を整えたらまた走るのだが。
現在の時刻は、4時50分なのだが早朝だというのに走り込んでいる人達がちらほらいる。やはり、早朝のランニングは初星学園においてマストらしい。
そんなこんなで、休憩を1分ほどとってからまた再スタートを切った。
「……しゃー、やるぞー」
……★
初星学園の学生寮には、食堂が存在している。美味しい料理が多く、健康に良い物も豊富だ。
しかし難点もあり、決まった時間にしか提供されないので、食堂内はいつも学生でごった返している。
しかし、食堂と逆に寮内に設置されているカフェテラスは、早朝ということもあり静かだ。このカフェテラスは、勉強をしたり一緒にご飯を食べたりと、様々な用途で使われることが多い。
……俺は人の輪に基本入れないので、生徒で賑わっている夕方には一切寄り付かないのだが。
そんなわけで、俺は朝の支度を終えてから自分で作った朝ご飯をテーブルに広げる。
……ん?何故自室で食べないのか?……そんなの決まっているじゃないか。
願わくば誰かと話しながら食べたいからだよ!
コミュ障で一人部屋の俺は、昼はともかく朝と夜共にぼっち飯だ。
……最初は、気が楽だな〜とか思っていた。
しかし、一週間近く経つと段々寂しくなってくるのだ。周りのみんなは、楽しくお喋りしながら食べているのに俺一人だけ黙々とぼっち飯。
「……悲しくなってきた」
昔から姉妹揃ってご飯を食べていたので、その弊害かもしれない。前世はそんなことなかったのだが、こちらの世界での15年という月日は想像以上に長かったようだ。
俺はご飯に向き合い、両手を合わせて「いただきます」と挨拶をする。そして、いざ食べ始めようとした瞬間、カフェテラスの入り口が騒がしく開いた。
「今日もわたしの特製弁当を食べてもらうわ!」
「いや、いいけどよ〜。毎朝大変じゃねえの?」
「小さい頃から毎日してるから平気よ?」
「へぇ〜さっすがお姉ちゃんだなー」
「えへへぇ〜……まぁ、それ程でもあるけどぉ〜♪」
「……早くご飯食べよ。ご飯も私を待ってるよ」
「お前そんな食いしん坊キャラだっけ……?」
静かなカフェテラスの雰囲気を、見事に破壊したRe;IRISの3人が、和やかな雰囲気のままこちらにやってくる。
そのまま3人が歩いてくるが、俺はそちらに目を向けず黙々とご飯を食べる。何故かって?あのRe;IRISの生会話だぞ!?混ざるわけねぇだろうがいい加減にしろ!
それ抜きにしても、あんな仲良しグループの会話に入れる訳ないだろいい加減にしろ(泣
そして、テーブルを一個挟んだ向こうに3人が座ると、咲季ねえの作った料理が姿を現した。まあ、俺の席からだと遠くて見えないが、昔から献立は変わらないだろう。
……おそらく、サラダチキン、ブロッコリー、サプリメント、野菜ペースト、謎ペーストといった感じだ。
いや、どこの施設の料理だよと最初は思っていた。むしろ今でも思っている。しかし、身体にはこれ以上ないほど良いし、味も全然美味しい。
だというのに、見た目が無機質で且つ献立が一生無限ループしている。咲季ねえが昔、『変える必要あるのかしら?身体にいいわよ?』と言っていた。
そして、その意見に佑芽ねえも賛同していたのだから、俺は同調圧力に負ける他なかった。
俺がそんなことを考えながら、自分で作ったサンドイッチを食べていると、こちらに気付いたのか3人が驚きの声を上げる。
……俺の存在感どうなってんだよ。
「……!?莉種ちゃんじゃん!全っ然気付かなかったんだけど!?」
「わ、わたしでも存在に気が付かないなんて……やるじゃない!」
「……え?なにあのサンドイッチ。超美味しそう」
俺を発見するや否や、こちらに押し寄せてくる3人。その勢いに、俺は思わず身を引く。
というか……まずい。
「……あら?莉種?なに食べてるの?」
「ぁ……えっと、自作のサンドイッチ……」
「え、いいな。私に分けてよ」
「うるさいぞー手毬」
咲季ねえがこちらに歩いてくるのと同時に、俺の手元に広がっているサンドイッチに目を向ける。
その瞬間、咲季ねえの瞳から光が消えた。
比喩でもなんでもなく、咲季ねえの瞳に入っていたはずのハイライトが瞬きをする合間に消えていた。
そのまま俺の隣の席に座り、何を食べているのか聞いてくる。
し、知ってるのに聞いてくるあたり、咲季ねえがガチギレモードに入っている。
「ねぇ?何が入っているのかしら?」
「ポテトサラダと、卵焼きです……」
「え、美味しそう!?食べていい??」
「手毬だまれ」
「……ポテトサラダと卵焼き。……調味料は?」
「二つともにマヨネーズを入れました……」
俺が素直に白状すると、咲季ねえが真顔のまま瞼を閉じた。
……あっ、これやばいやつーーー
「……ふ、ふふふ!!ふふふふ!!!なんでよ!!??莉種はわたしの料理だけ食べてればいいのよッ!!そ、それにマヨネーズ?マヨネーズって言ったかしら?ありえないわッ!!!莉種の身体にマヨネーズが入ったの!?ダメよ……!!許せない!早く吐き出させてわたしの料理を食べさせないと!浄化するわよっ!さあ莉種、お姉ちゃん特製のお弁当を早く食べなさい!早くっ!!」
「ヒィ……!」
「や、やべー。あいつあたしらと同じユニットなん?」
「……!!美味しい!!もう一個貰ってもいい!?」
「お前盗み食いしてんじゃねえよ!あとあたしも食べたいんだけど!」
これはやばいと思ったのも束の間。目を瞑った咲季ねえが次に目を開けた瞬間、ドロドロと濁った瞳で俺を見ながら壊れた。
普段の活発で可愛らしい咲季ねえは、彼方へと飛んでいってまるで人が変わったように俺に迫ってくる。
……あれ?咲季ねえってこんなキャラだっけ?
今の咲季ねえは、端的に言えば怖い。だけど、たまにあることだし大丈夫ではあるはず。うん……。大丈夫大丈夫。
それに、最近咲季ねえがユニットを組んだ影響で、昼と夜の分しかなかったから自炊してたのに……!そしてあわよくば、これまで制限されていたものを食べようと思っていたのに……!
あと、てまりんとことねは俺のサンドイッチ食ってんじゃねえぞ。どうせこれ以上食べれないから食べてくれてありがたいけど!
しかし、目の前を見ればあ〜んを強要してくる咲季ねえに、俺のサンドイッチを奪い合っているてまりんとことね。何故毎回こうなってしまうのか。甚だ疑問だ。
ドンッ!!
「おねえちゃ〜〜〜〜〜ん!!!」
そんなことをしていると、本日二度目であるカフェテラスのムード破壊。ドアを勢いよく開けると、佑芽ねえがお姉ちゃんと連呼しながらこちらに向かって走ってくる。
……ここは公共の場なのだが、全員それを分かっていないようだ。
「お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん!!どういうことなの〜〜〜〜〜!?」
「……落ち着きなさい!」
「うっ……ご、ごめんなさい……」
「それで、どうしたのよ?」
「むー!!どうしたじゃないよー!!お姉ちゃんの部屋に遊びに行ったら空き部屋になってたんだけど!!」
「あら、言ってなかったかしら」
「聞いてないよ!」
佑芽ねえは、咲季ねえの部屋が変わったことに大層お怒りらしい。まあそれも、ユニットメンバーで同室になることを言っていなかった咲季ねえが悪い。
それに、佑芽ねえは咲季ねえと隣の部屋になったことを凄く喜んでいたのに、何も言わずにお引越しだ。
それは怒るよ……。
「はぁ……食事中なのに騒々しい」
「そうカッカすんなって。にしても、妹ちゃんすっごい怒ってんな〜」
「……あれは咲季ねえが悪い」
「それはそうなんだよな」
俺達が側から傍観していると、いつの間にか話は二転三転していて佑芽ねえにプロデューサーがついた話に変わっていた。
この姉妹はいつも話がローリン会話ボールしてるのだ。聞いていないと置いていかれるということが多々ある。
それにしても、プロデューサーか。……おそらく、原作と同じ人だろうな。
こちらがRe;IRISでユニットを組んだ以上、佑芽ねえもユニットを組んだのだろう。
「へぇ〜、十王星南会長がプロデュースしてるのね!」
「うん!生徒会と両立してのユニット活動なんだ〜」
「まじか……凄えなあの人」
「……佑芽ねえのユニット名ってなんていうの?」
「ふっふっふー!!聞いて驚け莉種ちゃんっ!……『Begrazia』だよ!!」
「……おー!!」
やはり予想通りか。いや、原作よりもユニットを組むのが遥かに早い。これはおそらく俺の介入があったからだろうが、そんなことは置いておこう。
……ついに、始まるのだ。バッチバチの姉妹対決にして、初星学園を巻き込むユニット対決。
学マスをやっていたPの一人として、この対決は是非とも生で見たい!
「……お姉ちゃん」
「どうしたのよ?佑芽」
「あたし、負けないから。あたしのすっごい仲間と、一緒にお姉ちゃん達を倒すよ!そして、莉種ちゃんと幸せな家庭を築いてやる!!」
「……!?ちょ、ちょちょちょ!?ちょっと待ちなさ〜〜〜い!!??」
佑芽ねえが咲季ねえに正面から宣戦布告をすると、そのままカフェテラスを出て行った。そんな佑芽ねえを慌てた様子で咲季ねえが追いかけて行った。
「幸せな家庭……?」
「莉種ちゃんはわりとマジで危機感持った方がいいぞ〜」
「……危機感ネキ?」
「ちげぇから!?」
「サンドイッチ美味しかった!また食べたい」
俺は、朝のカフェテラスは今後来ない方がいいかもしれないと、本気で思ったのだった。