学マス世界にTS転生した一般人のアイドル奮闘記 作:おすとろもふ
『休まないプロデューサー』
ガラララ
とある4月の昼下がり。俺は今日のレッスンがないことを知るや否や、プロデューサーのいる事務所に向かった。
……というのも、今日はある相談を持ち込むつもりだ。これに対するプロデューサーの返答次第では、俺のアイドル人生が大幅に変化することになる。
「やっほー」
そんな気持ちで事務所のドアを開けると、椅子に座りながら仕事をしていたプロデューサーが、こちらに顔を向けた。
そして、その顔はまさしく死んでいた。寝不足を顕著に感じさせる目元の隈。さらに、仕事をしていたのであろうプロデューサーの机には、食べかけのカロリーメイトとゼリー飲料があった。
……えぇ。
「……あぁ、莉種さんですか。どうかされましたか?」
「……プロデューサー眠そうだね」
「……そんなに出てます?」
「隈に、声のトーン、態度……全部出てるよ」
「まじですか」
今も眠たげなプロデューサーと軽い雑談をするが、明らかに頭が働いていない。一体何徹をしているのかは知らないが、流石にこれはやばいだろう。
亜紗里先生あたりが止めてくれなかったのだろうか?いや、そもそも最近教室や職員室に顔を出していないのかもしれない。
「プロデューサー……寝ようよ」
「……いえ、まだ眠れませんよ。凄く大事な時期ですから」
「ふーん?Re;IRISのやつ?」
「はい。最近認知されたにも関わらず、人気がどんどんと上がっていっていますから。それに、人気が出始めているならその波に乗らなければ。ここが正念場です」
「……何徹目?」
「……3徹目です」
「……寝ようよ」
「寝れません……」
プロデューサーって頑固だな〜と常々思っていたが、まさかここまでとは。
言ったことは基本曲げない人であり、真面目さの塊のような人だ。
この間も俺の体調が悪いことを知ると、すぐに薬局に行って様々な物を買ってきた挙句、家に押し込んで帰って行った。
あの時の俺は、間違いなくポカーンとした顔をしていたことだろう。
しかし、アイドルに体調管理の大切さやコンディションのなんやかんやを語っておきながら、自分の状態はまともに管理できていないとは。
「……なんたる体たらく」
「莉種さん……!?な、なにか気に障りましたか!?」
「ふむ……"プロデューサーくん。担当アイドルの前では、頼れる超人になってください"」
「……ッ!?!?何故それを!?」
「プロデューサーの基本だったよね。……自分の体調管理だってプロデュースの一環。正直言って、今のプロデューサーにプロデュースしてもらっても失敗しそうだよ……」
俺はプロデューサーの目を見ながら、しっかりと言葉を伝える。
たしか、今さっきの言葉は亜紗里先生がプロデューサーに言っていた言葉だ。サポートカードのイベントで見て、偶然覚えていたので使わせてもらった。
プロデューサーに休んでもらうために、敢えて強い言葉を選んで使ったが、半分ほどは本心でもある。自分の管理もできない人に、果たして他の人の管理ができるのだろうか?
だから、なんでもできて他の人に心配されない……そんな超人になってほしい。
「……本当に、返す言葉もありませんね。俺はいつの間にか基本さえ忘れていたんですか……」
「……よーし。それじゃちゃんと今日は寝てね」
「分かりました」
「……あとついでに、普段から頑張ってるプロデューサーにマッサージしてあげる」
「……え?」
俺は普段から、プロデューサーに色々なことをしてもらっている。プロデュースされ始めてからそれほど時間は経っていないが、多大な恩を感じるくらいにはよくしてもらっているのだ。
しかし、そんなプロデューサーに現時点で俺は何も返せていない。この前も何か返したいと言ったが、「あなたが『
そんなわけで、いい機会だからプロデューサーには俺のマッサージをお見舞いしてやろう。ちなみにだが、前に咲季ねえや佑芽ねえにしたら自分以外にしないでと懇願された。
俺はプロデューサーをソファまで移動させ、うつ伏せにする。
こういう時にソファベッドだと便利だ。
「そんじゃー……いくよ〜。まずは、背中から〜」
「……?……!?う、うぉぉお!?」
「ほらあ、どー?気持ちいいでしょ〜」
「や、やめっ、なんか流れ込んできてる気がッ!?」
「……?まあいいや、ほら次は脚行くよ〜?」
「ちょっ!?まってくだsーーー!?ぐぁあ……」
俺はプロデューサーを精一杯癒すように、ゆっくりと揉みほぐしていく。たまに程よく体重を乗せながら、押し込んだりする。
そうしてマッサージをしていると、安心したかのような寝息が聞こえ始めた。どうやらプロデューサーは寝てしまったらしい。
「……まぁゆっくり休みなよ。そんな姿で働かれても嬉しくないからね」
それに、俺が何か言わなくても、Re;IRISの3人がどんな形であれ注意していただろう。だから、これはただのお節介だ。
「さて……私も寝よ」
俺はアラームをセットして、クッションを枕にしながら机に頭を乗せる。最近はこうして寝ることも少なくなったが、前までは勉強をしている間に寝落ちなんてことも珍しくなかった。
だからか、たまにこうして寝ると落ち着くのだ。
「ふぁ〜ぁ……うにゃ。おちつく」
そのまま俺の意識は深く沈んでいった。
…………⭐︎
「……はっ!?今何時ですか!?」
「……夜の21時ですよ?……プロデューサーくん?」
「え……?あ、亜紗里、先生?」
「……はい!先生ですよ?ところでプロデューサーくん。お説教と注意、どちらがいいですか?」
「……スゥー。ご容赦いただけませんか?」
「いただけませんよ?……プロデューサーくん、無理をして担当アイドルにお叱りを受けたらしいですね」
「……はい、反省しています」
「そうですね。それじゃあ、とても反省しているプロデューサーくんには特別にお説教と注意、どちらもしてあげます!」
「…………………いりません」
その後日、プロデューサーは職員室にて2時間ほどのお説教を受けたという。
『ダンスレッスンが終わった後』
新学期に入って初めてのダンスレッスンが終わると、あたしは早々に手毬に話しかけに行く。
というのも、先程自分にとって気になる会話が聞こえてきたからだ。ダンスを踊りながら聞いてたから、会話は途切れ途切れだったけど手毬が莉種ちゃんに突っかかってた気がする。
それから、ちょっと気になって二人の様子を観察していたが、二人ともいつもと同じ自然体だったので尚のこと何を話したか気になった。
「おーい手毬ー!ちょっと話したいことあんだけド」
「……はぁ?私にはないから」
「あたしにはあんだよ!てか、そこまで時間かかんねえから」
「ふーん?まあいいけど。それでなに?」
あたしが話しかけると、相変わらずの無愛想な言葉を返してくる。こいつはそんなだから友達が未だにできねえんだよ……!
おそらくクールキャラの定義を履き違えてる。
「……さっきさ、莉種ちゃんとなんか話してたよな?何の話してたん?」
「べつに関係ないと思うけど」
「まあそうだけどサー……あたしのこと見ながら話してたから、気になるでしょ」
「……莉種があんたのこと見て羨ましそうにしてたから。ちょっと助言しただけだよ」
「……ほぇ?」
莉種ちゃんが羨ましそうに見てた?あたしを?なんで……!?
いや、確かにダンスレッスンで初めてトレーナーに褒めてもらえたから超絶嬉しかったけど。それを見て、莉種ちゃんが羨ましそうにするというのがよくわからない。
……というか、羨ましいのはこっちの方だ。
莉種ちゃんは、個人的に存在自体が可愛いの権化だと思っている。というのも、あたしは可愛い容姿と性格を持っているけど、それはキャルルン★とした方向の可愛さだ。
そして、莉種ちゃんの可愛さはあたしとはベクトルが違う。
あたしのが熱狂だとすれば、莉種ちゃんは絶叫に近いかもしれない。まあ、殺傷性が高いって言い方をすればいいのだろうか。
いや、んなことはどうでもいい。今聞きたいのは、手毬がなんて助言したのかだ。
「そんで、手毬はなんて助言したん?」
「べつに、大したことは言ってないよ。ただ、ちゃんと自分を見てって言っただけ」
「へー。手毬にしてはいいこと言うじゃん」
「……は?バカにしてる?」
「そっんなわけないじゃーん★」
「……あっそ」
それにしても、手毬が他の人に自らアドバイスするなんて珍しいこともあるもんだな。中等部の頃から知ってるけど、悪い噂しか聞かなかったし誰かにアドバイスするなんてことも一切聞かなかった。
一体どんな心境の変化があったんだ。
「手毬がアドバイスなんて随分丸くなったナー?」
「……違うよ」
「んー?何が違うんだよー?」
「……莉種は、才能を持ってるのにそれを全く自覚してない。それにムカついただけ」
「へぇ。手毬が人のこと褒めるなんて、今日は珍しいこと続きで雪でも降るんじゃね?」
「……さっきからバカにしてる?」
「いや全然」
たしかに、莉種ちゃんには時々目を奪われるようなナニカがある気がする。それがアイドルの才能というならば、手毬が言っているのはそれかもしれない。いや、もしかすると他にもあたし達が気付けていない才能が眠っているんじゃないか?
才能のびっくり箱かよ!
それに、この前プロデューサーに聞いたけど、最初は莉種ちゃんをスカウトする気が全くなかったらしい。……それどころか、目に入ってすらなかったと言っていた。
しかし、目の前に来て話したことで初めて気付いたらしい。
……だとすれば、莉種ちゃんの才能の一つはその仕草や話し方、声。そういった雰囲気から滲み出ているのではないか?
今考えても仕方ないことではあるけど、それでも気になる。
……仮に、成長した莉種ちゃんを相手にした時、あたしに勝ち目はあるのだろうか。たしかに、あたしが世界で一番可愛い自覚はある。
でもそれは、アイドルの全てじゃないことくらい知っている。
プロデューサーが言っていたが、あたしにはダンスの才能があるらしい。それに加えて、ビジュアルという突出した武器もある。
一方で、莉種ちゃんの才能は?本当にあのビジュアルだけ……?
「……なんか、それだけじゃない気がするんだよナー……」
「ことね?何をブツブツ言ってるのよ?」
「……ん?あぁ咲季か」
あたしが独り言をこぼしながらレッスン室から出ると、ちょうど隣にいた咲季が反応してくる。
そのまま怪訝な顔をした咲季を見ながら、再び思考を回す。
……もしかしたら、咲季なら莉種ちゃんの才能に気付いているんじゃないか?
そう考えると、あたしは咲季に質問した。
「なぁ咲季。莉種ちゃんの才能ってなんだと思う?」
「……?そんなの愚問ね!全てよッ!!」
「オマエに聞いたあたしが間違いだったよ……」
本当に、こいつはいつもブレないな!
あたしの悩んでいることに対して、グーでパンチしてきたようなモンだぞ!
……まあ考えても仕方ない問題ってことか。それに、人と比べるものじゃないしな。
あたしはそう考えて思考を中断する。そして、咲季と適当に雑談する方向に切り替えようとした。
しかし、咲季は真剣な表情でこちらを見て口を開いた。
「……仮に……仮によ。もしも莉種が何かのキッカケで成長したとして……そしたら確実に、『
「……は、はぁ?確かに莉種ちゃんは可愛いけど、それだけじゃ流石に難しいでしょ」
「……それだけじゃないから困ってるのよ。たしかに、今のままじゃ脅威にはなり得ないわ。それこそ、佑芽の方が何倍も厄介ね。……でも、それは現段階での話」
「今のまま成長したらってことか」
「そう。そして、今のままじゃなくてそれこそ……覚醒みたいなことが起きたとするわ。そしたら、わたし達は誰一人莉種の才能に敵わない。佑芽でようやく互角かしら?」
それを語っている咲季は、まさに余裕のない姿だった。何かを恐れるような、はたまた何かを期待しているかのような。
……あたしにはわからないけど、咲季は莉種ちゃんの才能にある程度気付いている。そしてそのうえで、自分が負けると言っているのだ。
咲季には似合わない、弱気な態度。……若干その珍しさに驚く。
「……だけど、どんなに敵が強くなろうとも、わたしは負けないわ!だって、お姉ちゃんだものっ!!」
「そっすか。……まあそうだナー、どっちしろ勝つしかないんだよなぁ」
あたし達は、教室に向かいながら決意を新たにする。
……もしかしたら、近い将来、個人のアイドルとして一番厄介な相手は莉種ちゃんかもしれない。
才能でゲシュタルト崩壊が起きそうです。
皆さんは誰の曲が好きですか!?
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