学マス世界にTS転生した一般人のアイドル奮闘記   作:おすとろもふ

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9話『気づくこと』

 

「……莉種さん」

 

「……」

 

「歌、投稿してますよね?」

 

「……シ、シテナイデス」

 

「だったらこっちを向いてください……」

 

 

 学園生活にもようやく慣れてきたこの頃。日曜日を中学生のときと同じ様に過ごし、今日からまたレッスンだ!ヤッター!と俺は弾むような気分だった。

 

 しかし、廊下を歩いていると不意に後ろからプロデューサーに声を掛けられ、事務所に連行。そして冒頭のやり取りである。

 

……なぜバレた!?

 

 この広いネットの海で、矮小な俺の歌ってみた投稿が見つかるわけがない。それに、俺のアカウント名は「たねまる」だ。絶対にバレないし、俺とは結び付かないはず。

 

 そんな思考をした結果、俺の現在の状況はプロデューサーから顔どころか身体ごと逸らして壁を見ている。

 

 

「……仮にこれが私だとして、なんでそう思ったの?」

 

「フィーリングです」

 

「答えになってないっ!」

 

 

 そう言いながらプロデューサーは、俺の歌ってみた動画を再生し始めた。プロデューサーがいつも使っているノートPCから、俺の歌声が流れる。

 

……今再生されているのは、昨日上げた動画なのだが思いの外反響が大きく、一日で再生数が2万を超えていた。そして、その影響もあってか、沢山の応援コメントや感想が送られ、エゴサが止まらなかった。

 

……しかし、だ。プロデューサーが今もずっと動画を再生しているのは、何の辱めだろうか?なにか恨みでもあるのか……?

 

 

「……いつまで流してるの」

 

「……っあ。すいません、つい……やはり莉種さんは歌が凄く上手いですね」

 

「褒めたって許さないよ?」

 

 

 俺はプロデューサーのノートPCのマウスを握ると、動画の再生を止める。そして、その拍子に再生数を目に入れる。

 

……じ、10万!?俺が知らない間にすっごい伸びてる……!

 

 こんなに反響が出るなら、今後も活動していこうかな。そろそろ収益化申請通りそうだし。

 

 俺が動画のコメント欄を、カーソルでスクロールしながら色々と考えを巡らせていると、いつの間にか隣に来ていたプロデューサーが話し始める。

 

 

「それはそうと莉種さん、真面目なお話です。一旦コメント欄を見るのを止めてください」

 

「……?りょーかい……一応言うけどプロデューサー、動画投稿はやめたくないよ?楽しいし」

 

「……あぁ、いえそちらの方は続けていただいていいですよ。むしろ、花海莉種名義で活動をしてくれるなら、知名度も付くので」

 

「それは、もう少し自信がついたらかな〜」

 

 

 プロデューサーが真面目な話というので、話の流れで俺の活動が制限されるのかと思った。ようやく伸びてきたこのタイミングで、そんなことをされたら自室に閉じ篭もる自信がある。

 

 

「その話は一旦置いておきましょうか。……突然ですが莉種さん。莉種さんは凄まじく可愛いです。さらに、歌も上手い。技術面の課題は多々あれど、このままいけば試験も突破できます」

 

「おぉ……ベタ褒め」

 

「……しかし、まだ解決できていない問題も山積みになっている。ダンスはまだまだですし、魅力もまだまだ底が見えません。メンタル面でも成長が足りません」

 

「ふむふむ」

 

「ですので、まず最初に解決してもらいたい課題に取り組んでいただきます」

 

「はい」

 

「……自分の魅力を理解してください……」

 

 

 

 

 

……え?

 

 

 

 

⭐︎

 

 

 

 そんなプロデューサーの発言から、約2時間後。

 

 俺は都会の往来で、ビラを配っていた。どうやら、今日の夜に近くのショッピングモールでアイドルのイベントがあるらしい。それも、チケット制ではなくインストアイベントなので、ビラを配ってお客さんを呼ぼうという魂胆だそうだ。

 

……しかし、逆に言えば俺がこの100枚も用意されたビラを配りきれなかった場合、そのイベントも転けてしまう可能性がある。

 

 プロデューサーは、そうならならないように準備されていますが、集客数を増やせば増やすほどイベントは盛り上がるので、頑張って全部配ってくださいと言っていた。

 

……そんな仕事をこんなアイドル見習いに任せるなッ!?

 

 しかも先程から数枚は配れているが、100枚あるうちのたった数枚だ。このままではイベントが始まってしまう。

 

 俺の胃がキリキリと痛みを訴えてきた頃、ビラを配ろうと四苦八苦している俺を見兼ねたのか、背の高いボーイッシュなお姉さんが近づいてくる。

 

 

「……あ、あのこ、このイベントどうで、すか……?」

 

「ぷっ!!あっはっは!見事に目を回しているねぇ。大丈夫かい?」

 

「……っ!は、はい。なんとか……」

 

 

 俺が近づいてきたお姉さんにチラシを渡そうとすると、余程俺がてんてこ舞いになっていたのか、吹き出して笑い始める。そして、そんなお姉さんの様子を見て冷静さが戻ってきた。……それと同時に恥ずかしさも到来したけど。

 

 それにしても何の用だろうか?ただの冷やかしか?

 

 

「おっと、そんな『冷やかしに来たのか?』みたいな目で見ないでよ。ちゃんとそれはもらってくさ。……それよりも、君より少し先輩のボクがアドバイスをあげようと思ってね!」

 

「あ、アドバイス……?」

 

「そう!とっても、とっても大事なことだ」

 

 

 そう言いながら、お姉さんは少し屈みながら俺と目線を合わせる。

 

 その顔は、どこかで見たような……。

 

 吸い込まれそうな瞳に、端正な顔立ち。そして、近くで視線を揃えて始めて気がついたキラキラとしたオーラ。いや、ひょっとしたらもっと前からキラキラを振り撒いていたのかもしれない。

 

 そんな人が、圧といってもいい程のナニカを発しながら、まるで言い聞かせるように喋り始める。

 

 

「……どんな人にこのイベントを勧めたいのか。どんなところがいいのか。どんな表情、雰囲気ならこのビラを貰ってもらえるか。みんなが興味を示すのか……」

 

「……」

 

「……まあ要するに、配る人が楽しそうじゃないとねってことさ!」

 

 

 

……俺は、何をしているんだろう。

 

 ビラを如何にして減らすかしか考えていなかった。本当に、なにをしているんだろう。

 

 初めてだった。緊張していた。時間制限があった。それら全ての言い訳が、頭の中で霧散していく。俺は、自分がアイドルの卵だということを理解していながら理解していなかった。

 

……最近の俺は、自分の出来ないことに気付かされる毎日だ。そして、何故だか以前よりも生きてるって感じがする。

 

 

「ありがと、お姉さん。目が覚めた」

 

「……うん!いい顔だ!アイドルっていうのはそれでこそだよね!」

 

 

 俺の視界の靄が晴れると、視界に映っていた景色全てが鮮明に見える。通行人一人一人の顔や、周りで鳴っている音の数々。

 

 俺は、何も見えなくなっていた。

 

……それにしても、改めて見るとこの目の前のお姉さん、既視感がありすぎる。なんだこの違和感……。

 

 改めてお姉さんの顔を見た後に、考えるようにビラに視線を落とすと、頭に衝撃が降ってきた。

 

 俺の視界の中で、目の前のお姉さんとビラに写っているアイドルの姿が完全に重なる。

 

 

「……え、え?アイドル?」

 

「おっ!ついに気付いたか〜!結構時間掛かったね!」

 

「すいません……」

 

「いいよいいよ〜!まあ、初星学園の後輩ちゃんを助けるのは先輩の務めだからさ!だから、期待しておくよ?後輩ちゃん。

 

 

……是非、ボクのイベントを助けてくれよ?」

 

 

 目の前のアイドルは、背後の夕陽に重なり幻想的な姿に見えた。そして、そんなアイドルから対等な立場でお願いされたのだ。

 

 そんなのーーー

 

 

「……任せてよ。満員にするから」

 

「ふふっ!いいね君。ちょっと惚れそうになったよ……?」

 

 

 そう言いながら、お姉さんは人混みに紛れるように歩いて行った。……おそらく、最初から俺を助ける為だけに忙しい合間を縫って来たのだろう。

 

 

「よしっやるぞー!」

 

 

 最初よりもプレッシャーは増えた。でも不思議と、体も心も前より軽くなっていた。

 

 

 俺は、羽のように軽くなった身体で、こちらとサングラス越しに目が合った女性に駆け寄る。そして、ビラを両手で持ちながら一言。

 

 

「いつまで見てるの?咲季ねえ」

 

「ッ!!??ち、違うわよ!?わ、わたしは花海咲季ではないわっ!!いま、今井!りすよ!」

 

「初対面で本名名乗らないでくださいね。あと、このイベントおすすめですので、是非行ってみてください!」

 

「あ、え、ええ!もちろんよ!莉種のお願いだもの絶対に行くわ!」

 

 

 まず一人目にビラを渡し終わった。そして、今のでなんとなく感覚を掴めた気がする。……まあ実の姉だったが。

 

 しかし、笑顔も自然に出来たし身体の力もいい感じに抜けている。これなら、いけそうだ。

 

 

「あっ!このイベントどうですか?凄くイケメンなお姉さんアイドルのライブが見れますよ!」

 

「ぇ……え!?か、可愛い!!?な、何この子!」

 

「お!ほんとだー!なんかキラキラしてるねー!」

 

「……なんか、興味出て来たんでイベント行きたいんすけど、どこでやってるんすか?」

 

「あらぁ、可愛い女の子ねぇ。オネエさんとお茶しなぁい?」

 

「ふひっ。美少女の触れた紙ぃ。ふひひひ」

 

「花海莉種くん!息災かね?……おっと、このビラは貰っていくとしようかの!!」

 

「莉種ちゃんが可愛いし、頑張ってるし、キラキラしてるし!あたし我慢できなくなっちゃうよ!?」

 

「……え?イベント?……まぁ莉種がどうしてもって言うなら行くよ」

 

「ま、まりちゃんとの距離が近いですよ?まりちゃんは渡しませんから」

 

 

 そうして30分も経たないうちに、配るビラが無くなってしまった。それに、貰ってくれた人たちが揃ってショッピングモールの方に歩いて行ったので、あのお姉さんのライブもきっと盛り上がるだろう。

 

 俺はそう考えながら壁に寄りかかる。

 

 

「……少しは、アイドルらしかったかな」

 

「どっからどう見てもアイドルだったから安心しなって」

 

 

 独り空を見上げながら、黄昏ていると隣から聞き馴染みのある声が聞こえてきた。

 

 思わずそちらを見ると、ことねが右手にバイトのユニフォームが入っているであろうカバンを持って、壁に寄りかかっていた。

 

……やはりことねは、Re;IRISに入ってもプロデューサーが付いてもバイトを続けているらしい。

 

 

「またバイト?」

 

「まあナー。なんか癖になっちゃっててさ〜。働いてないと変な強迫観念みたいなのが出てきて……」

 

「……程々にね」

 

「心配ありがとナ。あ、それと、そのイベント今からだろー?一緒に見に行かない?」

 

「……うん!行こっ!」

 

「お、おぅ……(可愛すぎだろちくしょー!その弾けるような笑顔とキラキラオーラで焼かr)」

 

「ほら、はやく。始まっちゃう」

 

 

 

 

 

 次の日プロデューサーから聞いた話だが、ショッピングモールで行われたイベントは、人が人を呼び凄まじい集客数になったそうだ。そして、行われたライブも大好評で終わり、アイドルの知名度も跳ね上がったらしい。

 

……あと、密かにビラ配りの天使が話題になっていたとか……。

 




 少々こんがらがる設定がありましたので、ここに補足を書いておきます。

 佑芽と莉種は双子です。ですが、佑芽の方が早く産まれており佑芽を姉として慕っています。ちなみに一卵性ではないので、あまり似ていません。

 さらに、佑芽の方も莉種のことを完全に妹として見ているので、そこまで双子感は強くありません。

 しかし、初星学園に入ってからは、周囲に説明していない為、双子だと知っている人と知らない人がいます。ことねや広などは知っています。

皆さんは誰の曲が好きですか!?

  • 花海咲季
  • 月村手毬
  • 藤田ことね
  • Re;IRIS
  • 葛城リーリヤ
  • 紫雲清夏
  • 倉本千奈
  • 篠澤広
  • 有村麻央
  • 姫崎莉波
  • 花海佑芽
  • 秦谷美鈴
  • 十王星南
  • Begrazia
  • 雨夜燕
  • 十王邦夫
  • はつみちゃん
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