学マス世界にTS転生した一般人のアイドル奮闘記   作:おすとろもふ

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1.5話

 

 

『体力測定』

 

 

 俺の通っている中学校は、前世と比べてもあまり変わらない。授業内容も、基本の5教科に加えて美術や家庭科、音楽。そして、体育が存在する。

 

 何故、体育だけ別枠のように言っているかって?うちのクラスには咲季ねえと佑芽ねえがいるからだ。

 

 ぶっちゃけ、体育の授業はこの二人の独壇場になる。しかも、他の人達は一瞬で蹴散らされるのだ。

 

 例えば、ドッジボールでは敵同士になった花海姉妹の猛烈な攻撃に巻き込まれ、周囲の人達は阿鼻叫喚といった様子で逃げ惑う。

 

※莉種は、佑芽の放った破壊光線投球で鳩尾を貫かれ撃沈。

 

 バスケでは、PG(ポイントガード)の咲季ねえとSG(シューティングガード)の佑芽ねえがバチバチにやり合った結果、得点は両陣のチームで30点を超えた。

 

※莉種は、持ち前の身長を活かしてちょこまかと撹乱していたが、あまりの可愛さに積極的にマークされ動かせてもらえなくなった。

 

 バレーでは、スパイクを決めまくる花海姉妹に3枚ブロックをしたが、圧倒的なコンビネーションにより突破されボロ負け。

 

※莉種は、前世の感覚でスパイクに飛び無事にネットに引っかかって、轟沈。

 

 

 こういったことが多々起きるので、周囲のクラスメイト達は体育の授業が来るたびに、ガクガクと震えている。

 

 しかし、今日行われるのは対戦するような競技ではなく、体力測定。個人技能の暴力に曝される訳でもなければ、鳩尾にボールが飛んでこないという比較的安全な授業だ。

 

 正直、楽しいのか?といえば楽しくはない。やはり、レジャーな雰囲気ではないのでワクワクはないのだ。

 

……二人の姉は目を爛々と輝かせ、始まるのを今か今かと待っているが。

 

 今日の朝に行われた俺の身体の取り合いは、本日行われる身体測定の結果次第で決着がつくらしい。当然のように俺の人権は存在しないが、いつものことなので諦めが強い。

 

 それに、この世界でこんなにも伸び伸びと生きられるのは、二人が俺に一切容赦しないからだ。

 

 そういった面でも、今の生活は悪くないどころかむしろ幸せだ。

 

 

「今日は握力25を超えたいところ……!」

 

「莉種ちゃんにはキツいんじゃないかな……?」

 

「そんなことない。今日のために入念にイメージトレーニングを積んできた」

 

「それは何もしてないのと同じだよ……」

 

 

 俺が珍しく身体測定に気合を入れていると、隣にいたクラスメイトの友達が渋々といった感じで話しかけてくる。

 

 黒髪をおさげにした子で、丸眼鏡が本人のキャラを引き立てている。ちなみに、名前は新田円香(にったまどか)ちゃんだ。

 

 クラスでは委員長をしているのだが、物怖じしない性格からかクラスメイトの信頼は厚い。この前、美術で描いた絵で賞を取っていた。

 

 

「あら?何の話をしてるの?」

 

「アッ……さ、咲季さん」

 

 

 円香ちゃんと体育館の隅っこで会話をしていると、こちらに気付いた咲季ねえが歩いてきた。そして、それに気付いた円香ちゃんは、一気に挙動不審になり始めた。

 

 実は、この新田円香という女。花海咲季の大ファンである。

 

 わざわざ学校にカメラを持ってきて、隠し撮りしているくらいのやばい子だ。一応最近は辞めたらしいが、俺の中の認識は前科持ちになっている。

 

 そんな挙動不審の円香ちゃんに訝しげな表情を向けた後、俺に向かって花が咲いたような笑みを向けながら、こちらに指を指す決めポーズをとる。

 

 このポーズは、学マスをプレイしている時に何回も画面越しに見たやつだ。今の気持ちは端的に言って「感動」。

 

 

「……どうしたの?まあそれよりも、莉種!今日の勝負で勝って来るから土曜日の予定は空けておきなさいっ!」

 

「わ、わかった」

 

「な゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ーー!!お姉ちゃんッ!!今のは聞き捨てならないよぉー!!」

 

「なら全力で掛かってきなさい!全力で叩き潰してあげるわっ!!」

 

「望むところおー!!」

 

 

 今日も二人はバチバチに火花を散らしながら、切磋琢磨している。そして、そんな二人を見ながら円香ちゃんは涎を垂らしていた。

 

 

 

 

『佑芽ねえの漫画』

 

 

 

 こちらの世界に転生してきてから約14年が経った。しかし、こちらの世界といっても特段前世と変わっていることはない。

 

 当然のように前の世界にあったものは存在しているし、むしろポピュラーなものが沢山あるくらいだ。例えば、アニメでは「らき☆すた」があったし、曲でも「小さな恋のうた」がカラオケのランキングに常に食い込んでいる。

 

 そのように、前の世界との乖離は少ないのだが、俺個人の生活に関していえば話は違ってくる。

 

 男から女に変わるというのは、想像以上に難しいことだった。特に、最初にスカートを履くときは抵抗感が強かった。今ではその抵抗感も薄れたので、休日に出かけるときはたまにワンピースを着たりする。

 

……大体はショートパンツに、ぶかぶかのパーカーを着ているけれども。

 

 しかし、前世とは明らかに変わった生活を送っているが、前世から変わらない行動も多々ある。

 

 一つはソシャゲだ。これまでの人生で様々なソシャゲをプレイしてきたが、やはりキャラの魅力やストーリーが優れているゲームはどれだけしても面白い。

 

 今世は、咲季ねえや佑芽ねえに言われてゲームは一日一時間しかできないが……。それでも、新しくリリースされたゲームはなるべくチェックするようにしている。

 

 もう一つは、漫画や小説だ。というか、漫画や小説に限らず、アニメを観たり映画を観たりといったことは続けている。

 

 というのも、推されるアイドルになるには、ファンの気持ちに寄り添うことも大事だと思っているからだ。

 

 孤高なアイドルというのは、どうも俺には合わない。

 

 そんな考えを抱えつつも、やはりサブカルチャーに触れるのはとても面白いのだ。

 

 

「ねぇー!莉種ちゃーん!入ってもいいー!?」

 

 

 そんな静寂が売りだった俺の部屋に、騒がしい太陽が転がってきた。

 

 ノックを律儀に3回した後、部屋の扉がゆっくり開き佑芽ねえが入ってきた。その表情は、いつ見ても快活な美少女といった感じだが、どことなく今日はソワソワしている。

 

 ちなみにだが、今日は咲季ねえが家にいない。昼からジムに行ったので、夕方あたりに帰ってくるはずだ。

 

 そんなわけで、本日は佑芽ねえと俺の二人きりなわけだが、退屈を嫌う佑芽ねえに一日静かに過ごすなんてことが出来るはずない。そして、そんな佑芽ねえが俺の部屋に転がり込んでくることは自明の理だったわけだ。

 

 俺は一旦読んでいた漫画から視線を外すと、ソワソワしている佑芽ねえを見る。

 

……何故か顔が赤いんだけど、なんだろう?

 

 

「いらっしゃい佑芽ねえ。どしたの?」

 

「う、うん!お邪魔します!……ってそれより、あたしのお願い聞いて欲しいんだけど、いい?」

 

 

 どうも、急を要するわけではないが、お願いがあるらしい。顔に紅を差しながら、上目遣いをしてくる佑芽ねえは間違いなく小悪魔だ。ひょっとして、サキュバスの生まれ変わりなんじゃないだろうか?

 

 

「私に出来ることだったらいいよ」

 

「そ、それじゃあ、ディープキスっていうのしてみたくてっ!!」

 

「うん。絶対にダメ」

 

「なんでぇッ!!??」

 

 

 衝撃の発言をした佑芽ねえのお願いを拒否すると、涙目になりながら縋り付いてくる。こういうときに、自分より力の強い姉というのは厄介だ。もうこうなってしまっては簡単に引き剥がせないので、仕方なくそのままで放置して真意を探ることにしよう。

 

 

「……佑芽ねえ、どこでそれ覚えてきたの?」

 

「え?ディープキスのこと?」

 

「うん」

 

「えーとー、ラブコメ漫画で好きな人同士がするやつって書いてあったから!」

 

「……そういうことかー」

 

 

 おいおい、普通のラブコメ漫画ってディープなキスしちゃうの?結構な深度の恋愛を描かれてらっしゃる。

 

……いや、というか何で俺にするんだよ。同性だし、妹だしツッコミどころがありすぎるだろ。

 

 今もなお抱きついて離れない佑芽ねえを一瞥し、念の為といった感じで聞く。

 

 

「あのさ、佑芽ねえ。私妹なんだけど……」

 

「……?知ってるよ!!」

 

「そうだよね。そして、ディープキスは好きな恋人ができた時にするやつだよ?」

 

「……?知ってるよ?だから莉種ちゃんにしたいなって思ったんだよ!!」

 

 

……え?ん?どゆこと?え?

 

 俺が満面の笑みを向けてくる佑芽ねえの発言を聞いて、頭を混乱させていると、佑芽ねえは俺の身体を抱いたままベッドに寝転がる。

 

 何故か佑芽ねえが耳元で息を吹きかけてきて、俺の意識がぼーっとし始めた。

 

 

「莉種ちゃんは、本当に力ないねー。そんなだから、こんなことされちゃうんだよー?」

 

「ふやぁあ……」

 

 

 佑芽ねえの暖かい体温と、うるさいくらいの心臓の鼓動。それを感じながら、身体に力が入らない俺はなす術もなく佑芽ねえのおもちゃにされる。

 

……やばい、意識がーーー

 

 

「ちょーと!!佑芽えッ!!何してるのよーッ!!!」

 

「えっ!?あっ!!お姉ちゃん!?」

 

「やけに静かだと思ったら〜ッ!やってくれたわねッ!」

 

「いやー……えへへ〜。お姉ちゃん帰ってくるの早くない……?」

 

「お姉ちゃんセンサーがビビッと来たわ!」

 

「えぇー……」

 

 

 突如として扉を開けた咲季ねえが、佑芽ねえと俺の状態を見てブチギレモードに突入し始めた。

 

 しかし、咲季ねえに怒られている最中も、佑芽ねえが俺を離すことはなくその温もりに埋まりながら、俺は意識を落とすのだった。

 





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