学マス世界にTS転生した一般人のアイドル奮闘記 作:おすとろもふ
「……ねえ」
突然だが、俺は悩んでいる。何に悩んでいるかと言えば、そこまで複雑なことではない。
しかし、それでも悩んでいるのだ。
……何にって?
「……ねえ、ちょっと話しかけてるんだけど?」
そう、最近ソシャゲが全くできていない!
「いい加減反応してくれる!?私が話しかけてるんだけど!?無視しないでよ!!」
「……?てまりん。どしたの?」
「まず、てまりん呼びを許可した覚えはないんだけど。それよりも、なんで遅刻したのか聞いてもいい?」
な、なんだ?入学して早々にてまりんに難癖をつけられそうなんだけど。いやまあ、月村手毬といえばストイックの権化のような存在だ。(食事除く)
だから、俺が入学早々に遅刻して且つ何も反省しないことが気になるのかもしれない。
「……んー。昨日まで色々忙しかったから夜更かしした」
「ふっ。自分の寝る時間もコントロールできないの?アイドル向いてないんじゃない?」
「そだね〜」
俺が言った言葉に対して、嘲笑を浮かべるようにして煽り始めるてまりん。月村手毬といえばマウント!月村手毬といえばチワワ!月村手毬といえばラーメン、肉、スイーツ!
まあだいぶ偏見が入ったが、月村手毬という人物はとにかく人との付き合い方が下手である。それこそ、初対面で相手を煽り始めるほどだ。
まあしかし、内面はいつも自分の言ったことを後悔しているというツンデレキャラであったりもする。
そういうところが可愛い。
だけど、今の現状で無理に張り合う必要がなさすぎる。それこそ、何を言っても結果が出ていないのであれば全て同じことだ。
目の前であからさまに呆けた顔をしたてまりんは、一体何を考えているのだろうか。ゲームのようにテキストで内面が描かれないので、チワワになっているのかが判別できない。
俺が呆けたてまりんから視線を外し、パンフレットを読み始める。……学食が割引なのか。え、やっす!誰か誘って行こうかな。
まず咲季ねえは……駄目だな。特製弁当を作って「こっちを食べなさーい!」とか言い出しそう。
佑芽ねえは、そもそも2組で別クラスだし友達と一緒に食べるだろう。初星学園に来てまで無理に俺に構う必要もないからな〜。
ってなると、てまりんとことねとかかな?
……でも、そうなると咲季ねえは一人で食べることになってしまう。咲季ねえも友達付き合いが苦手なのだ。現に、今も一人で黙々と勉強をしている。
ストイックなところが咲季ねえのいいところなんだよな。中学校の時から一緒にいたから、みんなが咲季ねえのストイックさに付いていけなくなって離れていってしまうのだ。
それでも告白とかはされていたが、全て断っていた。多分フィーリングで合っていないと感じるそうだ。
「ねえてまりん。お昼一緒にご飯食べない?」
「……っ!?な、なんであんたと食べなきゃいけないの」
「ふーん。ならいいや」
「ぇ……ちょ、もうちょっと粘ってよ!」
「……やっぱり、てまりんって最高にツンデレしてるよね」
「は、はぁッ!?ツンデレじゃないし!」
やはり、月村手毬……おもしれぇ女。
ーー⭐︎
現在、俺は食堂の席の一角に座っている。
周囲には、お昼を楽しみにしていた学生達の喧騒が広がっていた。よほど楽しみにしていたのか、瞳を輝かせながらメニューと睨めっこしている女子生徒もいる。
……あ、あれ佑芽ねえだ。
まあそんなことはさておき、現在目の前では山盛りのステーキ肉とご飯を前に戦闘態勢に入ろうとしている月村手毬。何処となく気まずそうな顔をする藤田ことね。俺を膝の上に乗せて満面の笑みを浮かべる花海咲季。
この上記3人が同じテーブルに着いて、話していない。
俺からしてみれば、ずっとゲームでしか拝めなかったRe;IRISの3人をこんな近くで見ることができて感動ものだ。しかし、そんな俺の心情なんぞ目の前のみんなには伝わらない。
それどころか、ことねは今すぐにこのテーブルを離れようとしている程だ。
まあ逃さないけどな。
「……ことね。置いてかないよね」
「ギクゥッ!!お、置いてかないって〜!あ、安心しろよー」
「あら?移動するの?」
「し、しないって……」
「……ねえ!どうでもいいから早く食べよ!」
俺達が謎の攻防を繰り広げている間、ずっとご飯の前で待っていたてまりんが痺れをきらした。
……まあ確かに、お腹が空いた。こんな何の得にもならない心理戦をするくらいならば、さっさと食事を開始したほうが有意義である。
「そうね!早く食べましょ!」
「ういーす。そんじゃ、いただきまーす」
『いただきます!』
ことねのいただきますの挨拶と後に、他の3人も手を合わせていただきますと挨拶をする。
その瞬間に、物凄い勢いで肉を食べ始めるてまりん。多分まだ、食事制限は開始していないのだろう。今は好き放題食べるといい。痛い目を見るのは自分だがな!
「……咲季ねえ」
「ん?どうしたのよ莉種」
「下ろして」
「あら、そういえば下ろすの忘れてたわね。あまりにも自然にフィットするから下ろしたくなくなるのよね」
「へぇーそんな抱き心地いいのかー?」
「ことねも気になるの?でも、駄目よ!莉種を抱きしめるのはお姉ちゃんの特権なんだから!」
「ふーん?それなら問題ないな。あたしも莉種のお姉ちゃんだし」
「それ存在しない記憶でしょ……」
「……てまりん、口にソース付いてるよ」
俺は、咲季ねえとことねが言い合っている隙に隣の自分の席に座る。しかし、今回の学食ではとても残念なことが起きている。
……俺の頼もうとした日替わり定食を、咲季ねえにキャンセルされたのだ。それも、昏く淀んだ瞳をこちらに向けて笑いながら……。
正直怖かった。まじでトラウマになるレベルで怖かった。
隣にいたてまりんは、その瞳を見て一瞬で顔を青くしながら目を逸らした。後に問い詰めたら、命の危険を感じたらしい。
……いや助けろよ。
結果、学食は食べられず咲季ねえの特製手作り弁当が目の前に鎮座している。昔からいつも食べているので、慣れてはいるのだが見た目が本当にどうにかならないものか。
まあ、作ってもらっている立場なので言う権利はないのだ。それに、味は美味しいし、栄養も計算されているのでアイドルにとっては最高のご飯だろう。
しかし、日替わり定食の唐揚げが食べたかった!!この世界に来てから片手で数えられる回数しか食べれていない。
……考えてみれば、小学校からずっと咲季ねえに食事を管理されている気がする。俺がお菓子を買うとそれをいつの間にか捨てており、ファミレスに行こうとすると咲季ねえが現れて家に連行されていた。
あれ?咲季ねえって相当過保護じゃない?
15年間生きてきて、今初めて疑問に思った。な、なんかだいぶ子供扱いされてないか?
だが、俺は屈しないぞ!絶対にな!
「こ、ことね!唐揚げ一つ欲しい!」
「え?いいけど。そんじゃその代わり"ことねお姉ちゃん"って呼んでよ」
「ぐぅっ……こ、ことねお姉ちゃん……」
「がっはぁッ!?」
俺が上目遣いを使ってことねをお姉ちゃん呼びすると、ことねが吹っ飛んでいった。
今のうちに一つ貰おう。
「……あら。駄目よ?」
「さ、咲季ねえ?て、手を離してほしいんだけど……」
「なら唐揚げは食べちゃだめ」
「な、なんでーーー」
「だって他の人の作った物よ?わたしの作った物を食べるのならいいの。わたしが莉種の為に愛情を込めて作ってるんだから。でもその唐揚げは違うじゃない。莉種のことを想って作られてないわよね。それに、莉種の身体を形成してるのはわたしの料理じゃないと駄目なのよ。そうじゃないと他の人のものになってる気がして、頭がおかしくなりそうになるの。さっきもことねのことお姉ちゃんって呼んだわよね?しかも上目遣いまでして……。ずるいわよ!わたしの莉種なのに!わたしと佑芽の莉種なのに!……はぁ。とにかく他の人の作った物は食べてはだめよ。いいわね?」
「は、はひぃ……」
た、たすけてぇぇえ!?て、てまりん!なんで目を瞑って耳を塞いでるんだ!しかも子鹿のようにガクガク震えてるし!
ことねに関しては、地に伏したまま微動だにしないんだけど。
カオスか!これがカオスなのか!?
「さ、咲季ねえのお弁当美味しいなぁ……泣」
「あら!!すっごく嬉しいわ!にひひ〜!これからも死ぬまでわたしが作ってあげるから安心していいわよ!」
「……ぁ、安心出来ないでしょ。それ」
咲季ねえが物凄い笑顔で、もぐもぐと食べる俺を眺めていると、傍で震えながらなんとか言葉を出すてまりん。
チワワみたいで可愛いね。
「ふふ……手毬?余計なことは言わなくていいわよ?」
「ひっ……わ、わかった」
おいチワワ。屈するなよ。
そうして、その後も混沌に包まれた空間の中でお昼を終えるのだった。