学マス世界にTS転生した一般人のアイドル奮闘記   作:おすとろもふ

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4話 『原石』

 

「〜〜〜♪〜〜〜!!〜〜ー♪」

 

 

 入学して早三日が経った。

 

 その間にあった出来事といえば、てまりんがクラスメイトに本格的に宣戦布告をして浮き始めたり、街中でバイト戦士ことねとバッタリ出会したり、最近友達になった紫雲清夏ちゃんと葛城リーリヤちゃんと一緒にお昼ご飯を食べたり……改めて考えてみればとてつもなく濃い三日間だった。

 

 そして、現在の俺は初星学園学生寮の自室でボーカルトレーニングを行っている。勿論、部屋の防音設備はしっかりしている。そうでないと、寮長に怒られてしまうのだ。

 

 

「〜〜〜ッ!!〜〜ー♪〜〜!!」

 

 

 しっかりと初星学園の顔とも呼べる曲、『初』を歌い終えると同時に、ビデオモードになっているスマホの画面を停止させた。

 

 こんな寮の個室で踊るのは、隣室の迷惑になってしまうので歌だけに済ませている。しかし、ただ歌うだけがアイドルではない。

歌って踊る以上に、表情や仕草を完璧にしてこそアイドルだ。

 

 持論なのだが、歌ならば歌手でいいし、踊るならばダンサーでいい。ならば、どこで両者に勝ればいいのか。

 

 そう、ビジュアルだ。

 

 アイドルは、究極的にビジュアルが求められると思っている。しかし、歌手やダンサーのビジュアルが悪いのかといえばそうではない。

 

 ただ、表情や仕草、振り付けからファンサ。こういった類のビジュアルは、アイドルならではのものだ。

 

 だからこそ、相手からどう見えるのか、どう聞こえるのかは重要である。

 

 

「……んー。ちょっと表情固いなー」

 

 

 俺は、自室の地面に座りながらさっきまで歌っていた『初』のフィードバックを始める。

 

 しかし、最初の間奏部分から表情が固いので、全体的にぎこちなく見えるのが辛い。こんな苦笑いのファンサ受けても相手は嬉しくないだろうな。

 

 

「うーん……。まずは笑顔の練習からだなぁ。今まで歌の練習しかしてこなかったのが、今になって刺さるとは……」

 

 

 思わず溜め息と共に項垂れてしまう。人生に於いて上手くいくことなんてあんまりない。

 

 知っていたはずだ。前世もそうだったのだから。

 

……上手くいかないことは、諦める理由にはならない。それでも、やらなくなる理由にはなる。

 

 

「いや……壁を越えるのが怖かったんだろうな」

 

 

 今になって思うのは、結局辛いことから逃げ続けたということ。難題を一つクリアすれば、次の難題がすぐに訪れる。そして、超えられない壁のような難題が来たとき、俺は諦めたのだ。

 

……でも、失敗は前世で学んだ。

 

 前世の今までも、今世の今までも確かに繋がっている。最近になって、思うようになった。自分は、才能があると信じることがどれだけ難しいのかを。

 

 そして、そんな難しいことをやり続けている怪物達がここには山程いる。だから俺は、そんな怪物達に負けていられない。

 

 

「……よーしやるぞー!今日も私は成長するんだー!!」

 

 

 今はまだ発芽していない種のような存在でも、水を吸って空気を吸っていつか宇宙の星まで手を伸ばしたい。

 

 

目指すは『一番星』。アイドルの頂点だ。

 

 

 

 

  ☆

_⤴︎

 

 

 

 

 私は、初星学園プロデューサー科一年の生徒だ。と言っても、数々のアイドルをプロデュースしたこともない一生徒と思ってもらっていい。

 

 初星学園は、中高一貫校であり国内最大級のアイドル養成所である。そして、その中にはアイドル科やプロデューサー科という学科が存在している。

 

 当然、私はプロデューサー科なのだが、最近になって注目株と呼ばれているアイドル科の生徒が何人も現れたのだ。

 

 勿論のことだが、私達のようなプロデューサー科の生徒はそういった情報を直ぐに収集する。将来有望なダイヤの原石を見つけることも大事な役目だ。そして、そんなアイドルを磨きに磨き上げて、星のように輝かせるのもまた一つの仕事である。

 

 最近になって、特に注目されているのはやはり花海咲季さん、月村手毬さんの二人だ。

 

 もはやこの二人は、取り合いのような形になっているはずだ。しかし、未だにプロデューサーを付けないあたり、それ相応の事情があるのだろう。現に、数々の専属契約を蹴っているらしい。

 

 ちなみにだが、私が個人的に注目しているのは藤田ことねさんである。恐らくだが、この初星学園の中でもトップクラスの逸材だ。

 

 一目見て、理解した。彼女の輝きは『一番星』にも届き得ると。

 

 しかし、だからこそ彼女の不調の原因であるアルバイトは、非常に重要な課題の一つだろう。

 

 どの業界でも言えることではあるが、才能がある人が必ず上手くいくほど簡単な業界ではない。一つのことに尖っていたとしても、別なことが足枷になった場合、平凡と変わらないのだ。

 

 才能が有ったとしても、環境がなければ腐れる。反対に、環境が有っても才能がなければ何も活かせない。

 

 どんな才能でもいい。その力を見出して支えてあげることこそが、プロデューサーの仕事だ。

 

 

「とは言っても、藤田ことねさんをプロデュースするには、まず金銭面をどうにかする必要がありますね」

 

 

 それに、花海咲季さん、月村手毬さん、藤田ことねさんの3人でユニットを組ませた場合のシナジーもありそうで面白いです。

 

 チグハグなアンバランスさを、別なアンバランスで噛み合わせることのできそうな3人なので、是非ともプロデュースしてみたいですね。

 

 

「……ふ〜ん?いいじゃん。やろうよそれ」

 

「……ッ!?」

 

 

 考え事をしながらベンチに座っていると、前から可愛らしい声が聴こえた。それも、私の心の中を見透かすような発言だ。

 

 

「え、えっと、口に出ていましたか?」

 

「出てたねー」

 

「これは……お恥ずかしい姿をお見せしました」

 

「おー……礼儀正しい」

 

 

 どうやら、私の心の中の発言は全て外に出ていたらしい。恥ずかしいという気持ちが胸の中を満たすが、そんなことよりも今は目の前にいる彼女である。

 

 たしか、花海莉種さんといったでしょうか?とても可愛らしいですね。

 

 陽に照らされ少し赤みがかった茶髪には、所々に黒のメッシュが入っていて、その特徴的な髪の毛はサラサラ。そして、それに合わせたレイヤーカットが彼女の可愛さを更に引き立てている。

 

 しかし、髪の毛よりもより印象に残るのは、長いまつ毛と幼い顔立ちとギャップを作る小悪魔のようなジト目だ。

 

 この瞳で上目遣いをされれば、どんな強い精神を持った人でも一撃で堕とせてしまうのではないだろうか?

 

 そんな疑問が湧き出るほどの、彼女の魅力。

 

……正直な話ですが、私は先程の醜態よりも遥かに恥ずかしい思いをしている。

 

 何故私は、花海莉種という存在をノーマークにしていたのか……。

 

 

「……んー?私をジッと見て考えごと〜?」

 

 

 いや、彼女の存在が何故話題になっていなかったのか。心当たりはある。

 

 まず一つに、おそらく彼女は入学式に出席していない。この一週間で、アイドル科の生徒と接触できる機会は、入学式と集会の二つだけ。

 

 そして、そのどちらにも彼女は出席していない。よって、プロデューサー科の生徒が彼女という原石を見つけられなかったのは当然といえば当然だ。

 

 特に、花海咲季さんという強い光の裏にこんな逸材が眠っているとは考えないだろう。

 

 

「ふぁぁ……眠いから隣で寝る」

 

 

 二つ目は、彼女は中等部からいた内部進学組ではない。これによって、月村手毬さんや、藤田ことねさんのように実力の片鱗を外に見せる機会がなかったのだ。

 

……これは、チャンスだ。まだ誰からも見つかっていない花海莉種というビジュアルの化身。

 

 勿論、注目株の3人をプロデュースしたいが、それと並行して花海莉種さんをプロデュースしたい。自分でも欲張りだとは感じるが、一人のプロデューサーとして譲れない。

 

 

「花海莉種さん」

 

「……んぁ?あー、やっと思考から帰ってきた?」

 

「えぇ、大変失礼をおかけしました……。まさか、話している最中に考えごとをしてしまうとは。私もまだまだですね」

 

「いーよー。元々話しかけたのは私だからね。それで?3人をプロデュースするんだっけ?」

 

 

 目の前の莉種さんは、その愛らしいジト目をこちらに向けて悪戯っ子のような笑顔を向けてくる。

 

……これは、少々面と向かって話すことが難しくなりそうですね。

 

 これが天性の愛らしさと可愛さの権化ですか。末恐ろしい。

 

 

「えぇ、まあ。ですがその前に、私からあなたに提案したいことがあります」

 

「おー?提案?」

 

「私にあなたをプロデュースさせてくださいませんか?」

 

「……んぇ?え?わたし?……なんで?」

 

「先程一目見て、あなたの才能を……『一番星』に届く才能をプロデュースしてみたくなりました」

 

 

 正直、自分でもこの感覚は分からない。たまに、極光のような眩い輝きを放つ存在がいる。そういった人は、往々にして強い才能を持っている。それこそカリスマとでも呼べるものだ。

 

 しかし、莉種さんのものはそんな程度のものではない。もっと強く、下手をすれば相手を狂わせてしまうようなそんな光。

 

 そんな凶星ともよべる魅力には、未だ底が見えない。完成した彼女の魅力は、一体どこまでになるのだろうか?

 

 そう、彼女を一言で言い表すならば、「無限の可能性を持つ種」でしょうか?

 

 私は、見てみたい。その無限の可能性の先に、花開く彼女の姿を。

 

 

「私に、あなたが目標とする場所までお供する権利をくれませんか?」

 

「……」

 

 

 目の前の莉種さんは、顔を俯かせる。その長い髪が彼女の表情を覆い隠し、私からは完全に見えなくなった。

 

 

「いやー……ゲームで起こってたことが実際に起こると混乱するな〜」

 

 

 そう言いながら顔を再び上げてこちらを向いた彼女は、日光に照らされ眩く輝く。その表情は、私の今後の人生において、忘れることはできないかもしれない。

 

 

「いいよプロデューサー。私を……プロデュースしてみせてよ」

 

 

 そう言いながら笑顔を見せた彼女は、まるでゲームに出た一枚のスチルのように幻想的で、その破壊力は私の脳を瞬く間に焼き焦がしたのだった。

 

 

 

 

……私は、とんでもない存在に魅了されてしまったのかもしれない。

 

 






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