学マス世界にTS転生した一般人のアイドル奮闘記   作:おすとろもふ

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5話 『雨はまだ上がらない』

 

 初星学園に入学して一週間。

 

 昨日、ベンチにいたプロデューサー科の人が、てまりんと咲季ねえとことねで3人のユニットを作ろうとしてたから、Re;IRISがこの世界で見れるのか!?と思って声を掛けてみたのだ。

 

 そしたら、プロデュースの矛先が何故か俺に向いて俺までプロデュースされることになってしまった。

 

 その時はいきなりの展開に驚いたが、今は素直に凄く嬉しいという気持ちが溢れている。

 

 まさか、自分にプロデューサーが付くとは思わなかった。

 

 

「うひぃー!今日は雨降っててじめじめしてるから髪がァー!」

 

「どうせことねはいつもと変わんないでしょ」

 

「はぁーー!?んだと手毬ぃ!」

 

「ほらほら!二人とも喧嘩しないの!」

 

 

 俺が教室のドアを開けると、いつも通りの3人が集まって騒いでいた。最早、うちの教室の名物となったそれは日常の一コマとして処理されている。

 

 まあ、友達の少ない二人(ことね抜いて)のことだから内心喜んでいるのかもしれない。特に、咲季ねえは同い年の友達は初めてなこともあり、最近は機嫌が良さそうなのだ。

 

 俺はそんな3人を流し見した後、近くにいた清夏とリーリヤに挨拶をする。

 

 

「おはよ二人とも」

 

「おっはー!今日も莉種は可愛いねえー!」

 

「あはは……おはよ!莉種ちゃん!」

 

「うんうん。今日も二人は仲良きことだね。実によい」

 

「お、おじさんみたいになってるよ」

 

 

 二人とは最近になって仲良くなったこともあり、気軽な挨拶もできるくらい話せるようになった。というか、お世辞にもコミュニケーション能力が高いとはいえない俺が、二人と早々に仲良くなれる訳ないだろ!

 

 少し前に、俺が休憩時間中にちらちらリーリヤを見ていたらそれに気付いて、小さく手を振ってきたのがファーストコンタクトだ。そして、それに気が付いた清夏が、リーリヤを連れ立って声を掛けてきた。

 

 これが二人との最初の縁だというのが少し恥ずかしい。ちらちら見てるのに気付かれるのがまず想定外だったのだ。やはり俺は陽の者にはなれないようだ。

 

 というか、今にして思えばリーリヤがかなりの勇気を出して手を振ってくれたのかもしれないと気付いてしまった。

 

 リーリヤ本当にいい子!そしてそんなリーリヤをサポートする清夏もいい子!

 

 そんないい子の二人に、昨日あった俺のプロデュース事変について話すと、想像以上の声量で驚かれた。というか声を出して驚いたのは清夏の方だ。

 

 

「えぇぇ!!莉種にプロデューサーがついたの!?ど、どんな人!?」

 

「ちょ、声でか。普通にプロデューサー科の人」

 

「お、男の人、ですか?」

 

「……?うん。そうだよ」

 

「……ま、まじ?」

 

 

 俺のプロデューサーについて興味津々な様子の清夏と、どこか戸惑ったような表情を浮かべるリーリヤ。興味津々なのは分かるが、リーリヤの方はなんで戸惑ってるんだ?

 

 

「……リーリヤ?どしたの」

 

「い、いや。大したことじゃないんだけど、笑わない……?」

 

「うん」

 

 

 リーリヤが伏目がちにそう聞いてきたので、反射的に頷く。その隣では、清夏が笑いを堪えるように顔を逸らしていた。

 

……なんだろう?

 

 

「そ、その、ね。わたし、莉種ちゃんに男の人のプロデューサーが付くの、ちょっと嫌かも……」

 

「っぶ!?あははは!」

 

「……ユニコーン?」

 

「ッ!!わ、あわわわ!」

 

 

 リーリヤが頬を赤くしながら、こちらを伏し目がちに見つめる。そして、そんなリーリヤの発言に清夏が吹き出し、その横でリーリヤが目を回し始めた。

 

 

「あちゃー。リーリヤのキャパがオーバーしちゃった。ちょっと保健室連れてくね〜!」

 

「う、うん。お大事に……?」

 

「りょー!リーリヤにも伝えとくねー!」

 

 

 そう言いながら、顔を真っ赤にして頭から煙を出しているリーリヤを清夏が運んで行った。

 

 な、なんだったんだろうか。というか、リーリヤがユニコーン化してるかもしれない。どうしよう……。

 

 俺は二人が出て行った教室の扉から視線を外すと、自分の席に荷物を置くために向かおうとする。

 

……あれ?なんか教室が静かになっーーー

 

 

「ねぇ……どういうことかしら?莉種」

 

「だよナー。あたしたちに相談もせずに男のプロデューサーだもんナー」

 

「……莉種にプロデューサーなんて100年早いでしょ」

 

 

 気が付くと、俺の後ろに先程まで喧嘩していた3人が立っていた。そして、咲季ねえの手が俺の肩に触れた瞬間、全身から警報が発せられる。

 

 まるで、死神の鎌を首に当てられているかのような……そんな感覚だった。

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

「……ダメよ。わたしの莉種なのにッ……!許せないわッ!!」

 

「咲季のやつ完全にブチギレモード入ってるじゃん……」

 

「はぁ……取り乱しすぎ」

 

「まぁ気持ちは分かるけどナー」

 

「……そんなことよりも、莉種がプロデュースされることの方が驚きなんだけど」

 

「何言ってるのよ手毬。莉種は最強で最高に可愛いのよ?むしろプロデュースされない方がおかしいわ」

 

「いや……まあ、そうかも……?」

 

 

 気分は針の筵である。咲季ねえとことねと手毬に捕まった後、何故か教室の隅で正座させられているのだが、全くもって状況が分からない。

 

 俺が3人を見て??マークを浮かべている間にも、3人で俺のプロデューサーについて話を進めている。

 

 つい先程まで、憤怒の表情をした咲季ねえが殴り込みをしようとしていた。当然の如く、ことねにそれを却下されていたが、今度はいつもはキリッとした宝石のような瞳を濁らせながらぶつぶつと独り言を言い始めたのだ。

 

 これには、流石のことねもお手上げ状態。てまりんに関しては、学食の一件を思い出したのか身体を小刻みに震えさせていた。

 

 しかし、現在の咲季ねえの状態は通常時に戻っている。表情も笑顔を浮かべているし、何よりいつもよりもトーンが少し高い。何故かは分からないが、気分がいいようだ。

 

……これなら大丈夫そうだな!

 

 

「……そうね。とりあえず、そのプロデューサーの情報を全て調べ尽くして個人情報を盾にすれば、莉種をどうこうしようとも思わないでしょ?」

 

「おー!ここまでで一番いい案じゃね?」

 

 

……ちょっと大丈夫じゃないな!

 

 

 いやいやいやいや、流石に怖いよ!?人のプライバシー完全に無視だし、なんで脅そうとしてるの!?それに、ことねも同調し始めてる。おのれは唯一調和をとれる存在じゃないのか!

 

 このままでは、俺の計画に支障が出てしまう。かくなる上は、単刀直入に用件を伝えた方が良さそうだな。

 

……そろそろ先生も来そうだし。

 

 

「あの、伝言があるんだけど」

 

「んー?なんだー?お姉ちゃん達はちょーと今作戦会議で忙しいんだぞー?」

 

「……今日の放課後にプロデューサーが3人に用事あるって言ってたよ?だから、放課後にプロデューサーの事務所に行ってね」

 

「……は?なんで私達が呼ばれるの?」

 

「あたし達が呼ばれる理由ってなんかあったっけ?」

 

「お姉ちゃんだからよ!!」

 

「理由になってねえー……」

 

 

 俺の言った発言に対して、3人が各々の反応を見せた。てまりんは若干呆けながら、本気で意味が分からなそうにしている。咲季ねえに関しては、平常運転だ。原作の時点で妹狂いだったが、俺が介入したせいかそのシスコン具合に拍車が掛かっている。

 

 ちなみに、佑芽ねえもシスコンだ。これも原作から変わっていない。なので、原作改変ではない……ヨシッ!

 

 

「う〜ん。まぁ敵の本拠地に乗り込むのには賛成って感じ」

 

「それはわたしも同意見よ!莉種を誑かした人の顔を拝んでやるわ!」

 

「……話について行けない」

 

「大丈夫よ手毬!わたし達が集まれば今回の事件も解決できるわ!」

 

「そうだぞー……。……?事件……?」

 

 

 しかし、3人のこの反応を見るに、プロデューサーが敵認定されている気がする。特に、咲季ねえとことねの反応はそれに近い。

 

 このままでは両者の溝が深まる結果になりそうだ。やはり、中間にいる俺がどうにかするべきなのか……?

 

 いやまあ、それはともかく。

 

 

「……それじゃ放課後一緒に行こー」

 

『行く(わ)!!」

 

 

 

 

 

〜☆

 

 

 

 

 

「……それで、どういう状況ですか?」

 

「……見てわからない?」

 

「1ミリも分かりません」

 

 

 放課後、授業の終わった俺達は早速プロデューサーの待っている事務所に足を運ぶことにした。

 

……しかし何を思ったのか、咲季ねえが懐から手錠を取り出したのだ。

 

 

「念の為、莉種には手錠を付けてもらうわ」

 

「え……なんで!?」

 

「当たり前じゃない……わたしの莉種ってことを周りに知らしめるためよ!」

 

「……うわぁ」

 

 

 唐突に手錠を出した咲季ねえの発言とその理由に、てまりんは思わずといった様子で顔を青くさせる。

 

 ことねが「なるほどなー」とか言いながら頷いているが、おそらく普通の感性はてまりんの方だろう。今後の俺の安置は、てまりんの隣が安牌かもしれない。

 

 結局そんなことがあり、手錠をつけられながら俺は事務所に連行された。そして、そんな俺の状態を見たプロデューサーが怪訝な表情を見せながら、先程のセリフを放った。

 

……俺ですら状況が理解できてないんだから、一目見たプロデューサーはもっと理解できないだろう。

 

 

 閑話休題。

 

 

「それで?なんで私達が呼ばれたの?理由を説明して」

 

 

 手錠を外すために咲季ねえに手を握られている俺を尻目に、てまりんがプロデューサーに詰め始める。

 

 その表情は、こちらの角度からでは少ししか伺えないが、相当に怖い表情をしている。というか、雰囲気がいつもより3割増しくらいでピリピリしているのだ。

 

 そんなてまりんの圧を受けているプロデューサーは、たまったものじゃないだろう。

 

 

「……えぇ、分かりました。しかし、その前に一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

「……?なに?」

 

 

 しかし、プロデューサーが真剣な表情で視線を合わせ、姿勢を正したことによりてまりんの圧が少しだけ弱まった。

 

 そんな隙を見逃すプロデューサーではない。隙を見せたてまりんに、これ幸いと質問をしたいと切り返した。

 

……なんでこんなバチバチに戦ってるんだ?

 

 そんな俺の疑問は、戦場と化したこの部屋の中では意味を成さない。

 

 そんな戦場に、プロデューサーの声が響く。

 

 

「花海咲季さん、藤田ことねさん、月村手毬さん。3人は仲がよろしいですか?」

 

「……は?」

 

「い、いやいや、仲良くないですよー」

 

「え?何言ってるのよことね!わたし達は仲がいいわ!」

 

「はぁ!?全然仲良くねーだろ!まっじで鳥肌立つこと言うなって!」

 

「急に何の話ですか!?真面目な質問だと思って身構えてたんだけど!?」

 

「……真面目な質問なんですが」

 

 

 戦場のような空気は一瞬の静寂と共に、跡形もなく霧散した。ギャーギャーと喧嘩し始めた3人の様子に、プロデューサーがニヤリと笑った。恐らく、前にベンチで言っていたシナジーとやらを感じているらしい。

 

 あと、先程から感じていたことがある。

 

……俺、帰ってもいいかな。

 

 

「……あの、プロデューサー」

 

「はい。なんでしょう?」

 

 

 未だに喧嘩をしている3人を見ながら、俺はコソコソとプロデューサーに話し掛ける。そんな俺の様子を見て、何となく察した様子だが、敢えて続きを聞く姿勢に入った。

 

 

「今日はおそらくミーティングとかできないと思うから、一人でレッスン室行ってる」

 

「あー、確かにそうですね。分かりました。レッスン室の鍵を渡しますので、無くさないようにだけお願いします」

 

「りょー」

 

 

 俺はプロデューサーから鍵を貰うと、そのまま荷物を持って部屋を出る。

 

 3人の声は事務所の外にも聞こえていたが、雨の喧騒に早々に掻き消されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 その後、無事に3人のプロデュース契約が完了したらしく、新しいユニット"Re;IRIS"が結成された。

 

 更に、その情報は瞬く間に学園中に浸透し、初星学園で一番HOTな話題になったらしい。

 

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