学マス世界にTS転生した一般人のアイドル奮闘記 作:おすとろもふ
突然だが、学園アイドルマスターには育成システムがある。
この育成というモードでは、自分の好きなアイドルを育成し共に試験を勝ち上がっていくことで、自身の育てたアイドルが最終的にステージで歌って踊ってくれるのだ。
プレイヤーの人達にも、自分の育てた好きなアイドルがステージで輝いているのを見て感動した人もいるはずだ。
斯く言う俺も、最初に選んだアイドルは花海咲季だったのだが、初めてステージに立って踊り舞っている花海咲季というアイドルを見て、感動した。
特に、カメラワークを活かしたカッコいい演出の数々には、思わず「うわぁぁあ!かっけぇぇえ!!」と声を上げてしまったほどだ。
……話を戻そう。
そんな学園アイドルマスターの育成システムなのだが、アイドルのステータスを決める項目が存在する。
それが、
各々のパラメータは、基本的にスタミナを消費してレッスンを行うことで増加する。それ以外にも上げる方法はあるのだが、ここでは割愛しよう。
しかし、そんな三つのパラメータシステムにある仕掛けが存在している。それは、各アイドルによってパラメータの伸び率が違うのだ。
例えば、花海咲季はVoの伸び率が低い。実際、ゲーム内の試験でも他の二つのパラメータを伸ばして突破することがほとんどで、大抵Voを伸ばした場合、上手くいかない。
逆に、DaとViの伸び率が高い。特に、Viの伸び率が高いのだが、これは咲季のViが優れていることが理由になっている。
言ってしまえば、アイドルとしての魅せ方が咲季は飛び抜けているということだ。
他に例を挙げるならば、藤田ことねだ。ことねに関しては、咲季とパラメータが似ているが、反対になっている。
Voの伸び率が低い代わりに、DaとViの伸び率が高い。そして、ことねの場合はDaの伸び率が特に高くなっている。これは、ことね自身の才能がダンスという方向に振り切っているのが理由だ。
しかし、それだけではない。ことねと言ったら可愛いが代名詞だが、実際にことねは可愛いのでViの数値が高い。
そう、ことねというキャラはDaの才能に引けを取らないほど、可愛いというViの才能を持っている。
まあしかし、これはあくまでデータ上の話だ。当然、才能というのは残酷なほどに存在しているが、努力で伸ばせる上に、それだけで勝てるほどアイドルというのは甘くはない。
アイドルには、より良い環境が必要で、歌って踊るためのスタミナも必須なのだ。
……結局のところ、才能というのは目標を達成する為の要因の一つであって、それが全てではない。
「……大丈夫?」
「きゅー……」
「……うーん、これは運んだ方が良さそうだ」
桜のカーペットには、人が一人倒れていた。
……これだけ聞くと、ミステリー物の小説の冒頭みたいだな。しかし、小説は小説、現実は現実だ。
道端に転がっているのは見知った生徒であり、現在はおそらく体力が底をついて気絶しているのだろう。先程、念のために脈を測ったが大丈夫ではないけど大丈夫だった。
特に命に関わるほどではなさそうなので、心配は要らなそうだ。
……それはともかく、このまま放置していくのは心が痛むので、保健室まで運ぶことにする。
「おーい、おんぶするから手回して」
「……う〜ん……」
「それじゃいくよ」
無事に背負ったことを確認すると、初星学園の校舎に向けて歩き出す。背中で未だ気絶している少女の表情は、先程よりも和らいでいた。
……はぁ。今日はこのまま休んで駄目かな?
→⭐︎
桜が散り始め、道端には風に吹かれた花弁が、絨毯のように敷かれているこの頃。
入学から一週間が経ち、ようやく授業でのレッスンが開始された。そして、レッスンの開始というお知らせに、アイドル科の生徒が舞い上がって喜んだ。
斯くいう俺も、やっとみんなでレッスンができるんだ!と内心で喜びが爆発していた。
……レッスンが始まるまでは。
当然、知っていたさ。学園アイドルマスターをプレイしている時、たまにストーリーに出てきたレッスン風景。その中では、アイドル達がランニングをしていた。
……それも、準備運動でだ。
そんなことを忘れていた俺は、レッスン開始早々やる気が軽やかな春風に攫われ、体力は桜の様に散っていった。
そして、俺の隣にいた咲季ねえとてまりんは、オーラが可視化できるほどのやる気を纏っていた。これには流石のことねも怖気付くほどである。
ここでさらに、補習組と呼ばれている3人組がこちらに絡んできた。
やる気をキラキラとしたオーラに変えて、こちらに歩んでくる様はまさに一人の天使の如く。
そんな佑芽ねえの横に、顔面を蒼白にして並びついてくる様はまさに幽者の如く。
冗談はさておき、それはそれは酷い温度差が生まれている。横に並んでいる二人は、今にも溶けてしまいそうだ。
……それにしても、今日の佑芽ねえはテンションが上に振り切っている。
まあ、おそらく理由は一つだろう。
佑芽ねえは初星学園に入学してから座学の授業だけということに、不満を漏らしていた。そんな時に、レッスンの解禁……それも最初からハードなランニングである。
それはもう、元気という名の太陽光フレアを周囲に撒き散らしている。
しかし、そんな佑芽ねえとは対照的な二人がいる。その名も、篠澤広と倉本千奈だ。
この二人は、まぁなんというか劣等生というやつである。
現状で言ったら佑芽ねえを含めた3人の状況は、かなりピンチなのだ。それも、とんでもなくまずい。
まず佑芽ねえなのだが、身体能力といったパラメーターは軒並み高い。これは、これまでの咲季ねえとの勝負や、日々の積み重ねで蓄積されたものだ。それに加え、佑芽ねえは本来大器晩成型である。
その伸び率は、誰にでも物怖じしない咲季ねえが恐れるほどだ。
しかし、それとは反対に座学に関してはてんで駄目なのだ。中学の時も、テストではよく赤点を取っていたが、初星学園の入試でも散々な点数だったという。
なんとか、他の面で優れていたので補欠入学という枠に収まったが、現状は超ギリギリだ。
次に、
初星学園において、主に評価されるのは学力とパフォーマンス力だ。運動能力という評価基準もあるらしいが、主なのは学力とパフォーマンス力の二つである。
そんな二つの基準の悉くを基準が下回っていた生徒こそ、入試最下位の倉本千奈というわけだ。
しかし、それとは別に実家が太く凄まじくお金持ちで、彼女の父が学園長である十王邦夫と仲がいい。このことから、そのうちプロデューサーを付けてもらえるはずだ。
……それに、俺から見ても愛嬌という才能はピカイチだと思う。
最後に、スーパー問題児の
どういった面で次元が違うかと言えば、まず志望動機だ。彼女は俗にいう天才である。それも、頭脳という面においておそらくこの学園一だ。
しかし、そんな彼女がアイドルを目指した理由は、「いちばんわたしに向いてなさそうだから」だ。
そして、それを肯定するかの如くただひたすらに運動能力が欠如している。それも、家から学園に着くまでが常に生死を行き来する苦行というレベルでだ。
そんな彼女だが、学園アイドルマスターのキャラの中でもかなりの人気を誇っている。SNSでは、ゲームのリリース当初彼女の絵が貼られまくったことがあるほどだ。
さらに、彼女の歌声は儚く、美しいという言葉が良く似合う。
……そうなのだ。3人は、それぞれにちゃんとした強みがある。しかし、それを活かすための土壌がないということや、そもそも基礎が付いていないということも要因の一つなのだろう。
実際、今も3人を見るてまりんの目は厳しい。
おそらく、この後に手厳しいことを口に出しそうなので、てまりんの口に俺の手を張り付けておく。
「あぶっ!?」
多分だが、何かを口に出そうとしたてまりんの方を塞いでしまった為、謎の鳴き声だけを残しててまりんのターンは終了した。
「……。まあ、手毬のことは置いといて、3人揃ってどしたん?あと確か、真ん中のは咲季の妹ちゃんだよなー?」
「そうです!!あたしは花海佑芽って言います!あと、こっちの二人は広ちゃんと千奈ちゃんです!」
変な声を出したてまりんを無視して、補習組の3人に向き直ったことねは、持ち前のコミュニケーション能力を活かして話し掛ける。
たしか、ことねは3人と初めましてだった気がするな。
……まぁ、佑芽ねえのことは、咲季ねえが自慢げに話をすることが多いので、仲良くしていれば一方的に知る機会がある。特に、最近の咲季ねえは機嫌がいいので、自分の妹のことを無限に話している。
そのおかげか、俺のプライベートは殆ど周りに筒抜けだ。泣いていい?
そして、流れるように広と千奈を紹介する佑芽ねえ。俺とは違って会話の流れがスムーズだ。こ、これが天性のコミュ強二人の会話か……!!
俺が二人に戦慄していると、紹介された広と千奈が挨拶をし始める。
「……篠澤広だよ。よろしく黄色い人」
「よ、よろしくお願いしますわ〜!」
「よ、よろしくナー?あと黄色い人ってなんだよ!?」
「……?髪が黄色いから黄色い人」
「藤田ことねな。あたしの名前ちゃんと覚えろよー?」
「分かった。ことね」
どうやらお互いに自己紹介が終わったようだ。こんな一幕でも、桜が舞っているせいか無駄にエモく見えてしまうのは何故だろう?
やはり、女子高生と桜という組み合わせにはシナジーがあるとしか思えない。まあ、制服ではなく運動服なので特段青春は感じないが。
……それにしても、常々思っているが俺のキャラと広のキャラが被っている気がする。お互いがダウナー系な喋り方をするためか、深刻なキャラ被りが起きているのだ。
しかし、そんなことを気にするのは俺だけだろう。かといって今更変えられるものでもないし、変えたら変えたで心配されるのがオチだ。
ならば、ことねの呼び方を変えればいい。実に単純明快である。
そう考えた俺は、ことねの肩をちょんちょんと突き、先程考えた呼び方を早速使った。
「んー?どしたの莉種ーーー」
「……ことねえ」
「……ッ!?ぐふぁあ゛ッ!?」
「え、え?莉種ちゃん!?今ことねちゃんのことお姉ちゃんみたいに呼んだ!?呼んだよね!?ちょっと、あたしとお話ししよう?ね?」
「……佑芽のこんな姿初めて見た。最高に挙動不審で怖いね」
「こ、怖くないよ?ねえ千奈ちゃん、あたし怖くないよね??」
「ひ、ひいぃ……こ、怖くないですわッ!!」
「……ことね、早く起きなさい。話があるわ」
「うわ……私別の所行くから」
阿鼻叫喚とはこのことを言うのだろうか?
ことねえ呼びをしてから一向に目を覚さないことねや、千奈と広に圧を掛けている佑芽ねえ。地面に倒れたことねを起こそうとしている咲季ねえ。
逃げたてまりん。
澄み渡った青天の空の下は、うるさいくらいの地獄だった。
……さて、どうやって収拾をつけようか。