アルタイルシティセンタービルの屋上で、冷徹な法執行が行われた。
「毛利小五郎。お前をアドラステア帝国法に基づき、逮捕する」
梶谷の声が夜風に響く。
「な、何を言ってるんだ!? 私は何も……!」
困惑し、叫ぶ小五郎に、梶谷は感情を殺した声で告げた。
「この国ではテロ・反逆罪に関与した者の三親等以内の親族は、共犯とみなされ罪に問われる。……君の妻、妃英理も既に国際手配の手続きに入った。ブルー・ラグーンという怪物を育てた罪、あの世へ行く前にこの国で償ってもらう」
小五郎は力なく膝をつき、そのままアドラステア公安の手によって連行されていった。
アンクトラル・ブレイヴ・エルデンリ国際空港。
喧騒の中、解毒薬によって一時的に本来の姿を取り戻した工藤新一と宮野志保は、搭乗ゲートの前に立っていた。
「……毛利のおじさんも、妃先生も。結局、蘭に巻き込まれる形になっちまったな」
新一が呟く。その表情に迷いはない。
「この国の法がそうである以上、私たちができることはもうないわ。……それよりも、あの子たちのことを見なきゃ」
志保の視線の先には、泣き疲れてベンチで眠る歩美、元太、光彦の姿があった。引率者であった蘭も、頼みの小五郎も消えた今、彼らを日本へ連れ帰れるのは新一と志保しかいない。
「アドラステア航空265便、成田行き。搭乗を開始します」
アナウンスが響く。新一は帽子を深く被り直し、少年探偵団の荷物を手に取った。
「行こう。……江戸川コナンと灰原哀は、もういない。これからは『工藤新一』と『宮野志保』として、この子たちを守りながら、日本で組織の息の根を止めなきゃならねぇからな」
「アドラステア航空265便」の機内。
雲海を突き抜け、機体は東へ向かう。
新一と志保は、眠る子供たちの横で静かに座っていた。窓の外に見えるアドラステアの地は、遠く離れていくにつれ、まるで悪い夢だったかのように小さくなっていく。
「……後悔してる?」
志保が小声で尋ねる。
「いや……。これでよかったんだ。あのまま嘘を抱えて生きるより、ずっと。……これからは、俺の隣にお前がいてくれるんだろ?」
志保は少し驚いたように目を見開き、やがて優しく微笑んで新一の肩に頭を預けた。
「ええ……。共犯者でしょ、私たち」
朝焼けの光が機内に差し込み、二人の横顔を照らす。
それは、過去のしがらみをすべて焼き尽くし、新たな運命へと踏み出した二人の、希望と覚悟の光だった。
激動のアルタイル州を離れ、梶谷朝陽は自身の愛車「ルルーシュ」のアクセルを踏み込んでいた。漆黒のボディが帝国のハイウェイを滑るように進み、夜の闇に溶けていく。
不意に、コンソールに置かれた黒色のスマートフォンが震えた。
梶谷は片手でそれを取り、耳に当てる。
『梶谷君……。君の任務は、すべて完了した』
スピーカーから響いたのは、アドラステア帝国警察庁公安部局長、寺井 黄之助の低く重厚な声だった。軍務省の粛清、ブルー・ラグーンの排除、そして工藤家への「警告」。すべての糸を引いていた男からの、終わりの合図。
「……了」
梶谷が発した言葉は、それだけだった。
それ以上の感情も、報告も必要ない。ただ、任務を完遂した一人の「猟犬」としての短い応諾。
車内には再び、エンジンの低音と風を切る音だけが支配する。
左眼の眼帯の下で、かつて優作と共に戦場を駆けた記憶が、静かに眠りにつこうとしていた。
工藤新一と宮野志保を乗せた265便が、アドラステアの空を越えていく。
梶谷はバックミラーに映る遠ざかる空港を一瞥すると、迷いなく夜の深淵へと「ルルーシュ」を加速させた。