ν名探偵コナン Returns   作:アサシン・零

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名探偵コナンの裏事情第3話「公安・諜報技術の問題」

「……オレたちって、実は結構フィクションだから何でも許されてきたけど、『実は読者』にはまだまだそういう不満が溜まってたんだな……」

 

灰原も、手元の紅茶が冷めるのを眺めながら自嘲気味に呟く。

 

「確かに……ちょっと長すぎたわね。それに、今のスペック差のままだと、蘭さんが確実に私に負ける未来しか見えないわ。ヒロインの交代劇なんて、現実的じゃないけれど……」

 

すると、大人の新一がニヤリと笑って、衝撃のワードを口にした。

 

「オレは『黒鉄の魚影』を見てきたが……」

 

「ちょっと、工藤君。私は19歳じゃないわ、18歳よ」

 

志保の鋭い訂正に、コナンと灰原は雷に打たれたような衝撃を受けた。

 

((そういえば……そうだった……!! 飛び級した可能性もあるけど、普通はあんな幼い子供(組織時代の志保)に飛び級なんてさせないはず……! 設定のガバが漏れてる!!))

 

「オレたちを描いている原作者も脚本家も、みんな70代から40代くらいだ。全員、長寿連載のプレッシャーと加齢で疲れてるんだよ。だから、整合性よりも『その場のエモさ』を優先しちまうのさ」

 

新一の言葉に、志保も冷たく同意する。

 

「他にもおかしいところ、矛盾したところは山ほどあったわよ? 例えば……」

 

「まずは**『人工呼吸を返した意味』**だ」

 

新一がズバリと切り込む。あの映画のラスト、灰原が蘭にキスをして「返した」あのシーン。コナンと灰原にとって、最も繊細で、語るのを避けてきた聖域だ。

「普通なら……映画を見た視聴者は『あぁ、灰原さんは蘭さんに(唇を)返したんだな』って感動する。けど、本当の理由は違う」

 

「ええ……。原作者が『幼馴染が最強すぎる設定』にしちゃったから、そのままじゃ私の恋心が物語を壊しちゃうのよ。だから無理やり清算させられたの」

 

新一が叫ぶようにトドメを刺した。

「全部、原作者が幼馴染強すぎる設定にしてしまったからだーーー!! 帳尻を合わせるために、お前の決死の想いまでシステム的に処理されたんだよ!」

 

((((((((遂に、最もメタすぎる理由が来たーーーーー!!))))))))

 

コナンと灰原は、もはや絶句するしかなかった。

 

自分たちの情熱も、切ない恋心も、すべては「幼馴染至上主義」という強固なシステムを維持するためのパーツに過ぎなかったというのか。

 

大人の新一は、放心状態のコナンを哀れむように見つめ、一言。

 

「……さて、メタ推理はこの辺にして、そろそろ本当の『事件』を解決しに行くか。1巻からずっと放置されてる、あの組織の『真の目的』ってやつをよ」

 

「おや、珍しい。工藤新一君が二人……それに、宮野志保まで……。これは一体どういう事件だい?」

 

安室透が探るような視線を向けると、大人新一はコーヒーを一口啜り、溜息まじりに言い放った。

 

「事件も何もねーよ。安室さん……いや、降谷さん。そもそも、アンタはただの『バーボン役』、つまりコナンを追い詰めるガチの悪役で終わるはずだったんだ」

 

「……そうなのかい?」

 安室が微かに眉を動かす。すると、隣の志保が憐れむような目で彼を見つめた。

 

「ところが原作者先生は、貴方を描いてしまった……。描いてしまったのだけど、そのイケメンな顔と、※¹あの伝説のガンダムパイロットを彷彿とさせる声優の起用で……状況が変わったのよ」

 

新一がさらに畳みかける。

 

「『黒の組織に入りたい!』なんて言い出す子供たちがリアルワールドに現れちまったんだ。最近はリアルでも詐欺が組織化されて社会問題になってる……。

 

これはマズイと思った先生が、慌ててアンタを『警察庁警備局警備企画課』の『公安警察官』に設定変更したんだよ!」

「そもそも、それが『全ての悪夢』の始まりだった……先生にとってはね」

 

志保が淡々と付け加える。

 

「安室さん、アンタが正義の味方になっちまったせいで、組織のパワーバランスはガタガタだ。警察庁という官僚は重要人物すぎて無下には扱えない……。特にリアルワールドの『警察庁』が最も国民に知ってほしかった、あのカラオケボックスで反省会をやるような実直な組織(公安)の姿を、アンタ一人に背負わせすぎたんだ!」

 

((リアルワールドって何……!?))

 

 コナンと灰原は、もはや恐怖すら感じていた。自分たちの生きる世界が、外部の「道徳心」や「大人の事情」で書き換えられた結果、この男は「トリプルフェイス」という過酷な労働環境に叩き込まれたというのか。

 

「……なるほど。僕がこれほどまでに働かされているのは、ファンの熱量と、日本の治安維持に対する作者の責任感のせいというわけか」

 

安室は地声に戻り、自嘲気味に笑った。

 

「ああ、そうだ。おかげで物語は終わらねえし、伏線は増える一方だ。1巻から寝坊してたオレですら、アンタの過労死を心配してるぜ?」

 

「しかも……安室さんが登場するにあたって、リアルワールドの公安警察官には激震が走ったんだ」

 

 新一の言葉に、安室は鋭い眼光を向けた。「……と言うと?」

 

志保が冷めた紅茶を一口飲み、安室の顔を真っ直ぐに見据える。

 

「公安が『偽名』を使い分けて運用されているという事実が、間接的に社会的にバラされたのよ。あなたの存在を通じてね」

 

「降谷零が本名のアンタは、偽名が安室透。風見裕也さんは飛騨三六。伊織無我にいたっては偽名が榊原だ。殉職した親友の諸伏景光は……まだ偽名が明かされてないが、構造は同じだ」

 

新一が指を立てて数え上げる。

「つまり、リアルワールドの警視庁公安部が『実は私たち、偽名を使っています!』と全世界に宣伝しているのと同じことなんだよ。……さて、そこで困ったリアルワールドの公安警察官たちがどうしたと思う?」

 

安室は微かに息を呑んだ。「……どうしたのかい?」

 

「※²本名を入れ替えて偽名にするっていう、逆にややこしい対策を始めたらしいぜ。オレなら『新藤工一』、志保なら『宮保志乃』ってな」

 

「!!」

 

コナンと灰原は戦慄した。自分たちの名前をもじった偽名のセンスにではなく、フィクションが現実を侵食し、現実がそれに対応せざるを得なくなっている異常事態にだ。

 

新一はさらに、安室の「プロとしての動き」にもダメ出しを始める。

 

「おまけにアンタ……公安のくせに、ちっとも組織的な尾行をしないだろ? いつも探偵として単独で目立つ動きをしてるから、『公安は一人で動くものだ』っていう誤解をリアルワールドに広めちまったんだ」

 

安室は降谷零の顔になり、深く頷いた。

 

「確かに……本来、我々公安警察は『協力者(エス)』を動かしたり、複数人のチームで死角を作って行動する。※³しかも遠距離から、対象に気づかれないようジワジワとね……。僕のように、派手なカーチェイスをしたり、相手の目の前で不敵に笑うなんてことは、本来の秘匿捜査ではあり得ない」

 

安室は自分の手を見つめ、静かに呟いた。

「僕は……ヒーローになりすぎたせいで、本物の『影の仕事』をファンタジーに変えてしまったというわけか」

((リアルワールドへの風評被害が凄すぎる……!!))

 

コナンは、目の前の「大人新一」たちが、単なる偽物ではなく、この物語を「客観的、かつ残酷に俯瞰している神の視点」を持っていることを確信した。

 

「公安警察なんですもの。本来は、存在そのものが闇に溶けていなきゃいけないのよ。目立って脚光を浴びるなんて、プロ失格だわ」

 

「あ……!」

 安室と風見が同時に声を上げた。自分たちの「国民的人気」が、スパイとしては致命的な欠陥であることを改めて突きつけられたのだ。

 

「しかもアンタら、コナンと協力して事件を解決してるつもりだろうが……その裏で、とんでもない『二次災害』を生んでるぞ」

 

「二次災害……?」

 

安室が怪訝な顔をする。志保はため息をつきながら、あの忌まわしき事件の名を挙げた。

 

「連載20周年記念の『純黒の悪夢』よ。あの時、キュラソーを死なせてしまったこと……あれが最大の失態ね」

「それは……FBIとライ(赤井)が、観覧車の上で無意味な格闘戦を仕掛けてきたからで……!」

 

安室が反射的に言い訳をするが、新一はそれを一喝した。

「言い訳すんな! 警察官なら、あの時何が何でも彼女を確保・保護して逮捕しなきゃいけなかったんだ。キュラソーの記憶力があれば、組織の全容はおろか、No.2のラムにまで一気に王手がかかったはずだ。それを、私情のケンカと派手な爆発ショーで台無しにしやがって……」

 

((そういえばそうだ……!! 組織壊滅の最大のチャンスを、あの男たちは格闘ゲームのノリで潰したんだ!!))

 

コナンと灰原は、あまりにも真っ当な指摘に「やらかしてる

 

ーー!」と心の中で絶叫した。

「他にもあるぜ、安室さん。アンタ『ゼロの執行人』では、コナンを協力者にするためにわざわざ無実の毛利の小五郎さんをハメて、挙句の果てには衛星を日本に落としかけたよな? 最終的にコナンが何とかしなかったら、守りたいはずの日本国民が何万人死んでたと思ってんだ」

 

「…………」

 

安室はぐうの音も出ず、風見にいたってはあまりの申し訳なさに直立不動で震えだした。

 

「アンタの言う『僕の日本』は、アンタ自身のマッチポンプ(自作自演)で更地になるところだったんだよ。……これがリアルワールドなら、アンタは英雄どころか、国家転覆罪で終身刑だぜ」

 

新一の言葉に、阿笠邸には重苦しい沈黙が流れた。正義の味方として振る舞っていた安室透の「ガバガバな作戦」が、メタ的な視点ですべて「失態」として断罪されていく。

 

戻ってきた赤井秀一――沖矢昴の姿のままの彼に対し、大人新一は手に持ったスマホの計算機画面を見せつけながら、容赦なく「弾道計算」の結果を突きつけた。

 

「そういえば……赤井さん。アンタにも色々と、まず聞きたいことがあるんだが」

 

「……何だ?」

 赤井はいつになく防戦一方の気配を感じ、ポーカーフェイスを崩さないように努めた。

「アンタ『緋色の弾丸』では、リニアの事件を止めるために、山梨県から静岡県まで銀色の弾丸を撃ち抜いたよな。だがな……※⁴あの距離は天文学的な数字なんだよ」

 

隣で志保が冷たく補足を加える。

「普通、銃火器に詳しい専門家や、二次創作で有名な作者『アサシン・零』氏ですら、PMGヘカートⅡ(超高性能狙撃銃・対物狙撃銃)を使って1701ヤードから1921ヤード……せいぜい1.7km程度が限界なのよ。山梨から静岡までなんて、もはや狙撃じゃなくてミサイルかレールガンの領域だわ」

 

「「あ……」」

 コナンと灰原は、あの時感じた「かっこいいからヨシ!」という高揚感が、科学的な現実の前に霧散していくのを感じた。

 

「しかも……アンタ、初登場時はただの不審者(モブキャラ)だったよな?」

 

新一の指摘に、赤井の眉がピクリと動く。

 

「FBI捜査官が任務中にバスに乗って移動するなんて、普通はあり得ないわ。つまり……原作者が当時、アンタ専用の自動車を用意してなかった。あるいは、バスジャック事件というプロットにアンタを無理やりねじ込んだ、メタ的な大人の事情ね」

 

志保の追い打ちに、赤井はついに沈黙した。さらに新一は、物語の核心である「RUM(ラム)」との関連性にまで踏み込む。

 

「しかも……アンタ、正体がラムにバレかけてる、いや、もうバレてたんだぞ。ラムが言っていた『髪の長い女のような男』……あれは潜入捜査時代にロングヘアーにしていたアンタのことだ。

 

アンタの執着心と、当時のビジュアルが仇となって、組織のNo.2にずっとマークされてたんだよ!」

 

新一は呆れたように首を振った。

 

「FBIのエースが、自分の髪型ひとつで身元を特定されるなんて……。アンタも安室さんも、かっこつけすぎて本来の『隠密(スパイ)』としての基本を忘れちまってるんだ」

 

((((((((((((FBIと公安のエースが揃いも揃って全否定されたーーーーーー!!))))))))))))

 コナンはもはや、この「大人新一」が自分自身の成長した姿だとは思えなかった。これは、30年分の整合性を一気に清算しに来た「物語の執行人」だ。

 

「さあ、赤井さん。肉じゃがを作ってる場合じゃないぜ。アンタのライフルで物理法則を無視する前に、まずはその『1巻から寝坊してない俺』が教える、最も効率的な組織の潰し方を聞いてくれ」

 

「そして……まずは、かなりメタイんだが……安室さん。アンタが赤井さんをこれほどまでに執拗に追い回して怒っている理由って……諸伏景光のことだよな? 完全なる『私怨』だろ?」

 

新一の直球すぎる問いに、安室は一瞬言葉に詰まったが、静かに頷いた。

 

「……ああ。そうだ。スコッチが死ぬ必要はなかった。赤井、君が彼を――」

 

「はぁー……! だから『ダメ』なんだよ、アンタらは!」

 新一が天を仰いで大きな溜息をついた。その横で、志保が冷徹な分析を付け加える。

 

「今この小説を書いて、名探偵コナンという作品を多角的に評価している作者『アサシン・零』氏はね……『純黒の悪夢』を観た当時、もっと別の高尚な理由を期待していたらしいわよ。

 

つまり、日本の公安警察官であるあなたが、※⁵土足で日本の主権を侵害し、不法に潜入捜査を続けるFBI捜査官に対して、国家のプライドをかけてブチ切れているんだと……。そう思っていたらしいわ」

 

新一がさらに畳みかける。

 

「それなのに蓋を開けてみれば、ただの『友達を死なせた相手への個人的な恨み』かよ! 国のトップエージェント同士が、観覧車の上で国家の威信も忘れて殴り合って……。それほどアンタらは、ただ個人的に戦いたいだけなのか!?」

 

安室も赤井も、返す言葉がなかった。

 

もしこれが「日本の主権を守るための公安vsFBI」という対立構造なら、国際問題に発展するほどの重厚な社会派サスペンスになったはずだ。だが、現実は「幼馴染の復讐」という、あまりにも個人的な感情が動機だった。

 

「しかも……格闘技のチョイスもそうよ」

 志保が安室のボクシングと、赤井のジークンドーを交互に指差す。

 

「その道のプロなのはわかるけれど、あなたたちは潜入捜査官(スパイ)なのよ? 派手にボクシングのステップを踏んだり、怪鳥音を上げてジークンドーを披露したりするより、せめて『CQC(近接格闘術)』……音もなく、確実に、一瞬で相手を制圧する実戦術を身につけておくべきだったわね。作者の『アサシン・零』氏なら、間違いなくそう指摘しているわ」

 

(((((((((((((((((もう、ぐうの音も出ないほどキャラクターの『中身』が解体されているーーー!!))))))))))))))))

 

コナンと灰原は、もはや自分の将来(新一と志保の姿)がこれほどまでに辛辣なリアリストであることに、誇りを感じるべきか絶望すべきか分からなくなっていた。

 

「さあ、私怨で遊ぶのは終わりだ。安室さん、赤井さん。アンタたちのその有り余る『かっこよすぎる無駄なスキル』を、1巻から寝坊してない俺たちが正しく導いてやるよ」




注釈

※¹当人は女性問題で既に降板している。

※²これは本当の話らしい。一説によると名探偵コナンのせいで公安警察官と公安検察官はこれ以降次々と偽名を変えるようになったとされている。

※³公安(公安警察)の尾行は、一般的に「点検」と呼ばれる探知行為を避けるため、対象者から約100m程度の長めの距離を取って行われるらしい。

※⁴約10万ヤード(約91km)です。真空トンネル内という空気抵抗がない環境を計算に入れ、銀の弾丸でこの超長距離狙撃を成功させましたが...狙撃仲間に聞いたら普通はあり得ないらしい...せいぜい1921ヤードから2000ヤードまでが限界らしい...

※⁵FBIの正式名称は米国連邦捜査局で...JPA(日本警察)とは捜査に当たって主権の侵害に当たる可能性がある。
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