Little Gold, Little Light   作:のらもこ

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テゾーロinハリポタ世界です。
ノクターン横丁の店名など、設定は全て捏造です。

2026/8/6改稿しました。


プロローグ
第1話 ギルド・テゾーロ/始まりの手紙


 

 

 

 

『君はどれほど強大な相手でも立ち向かえる勇気と、目的のためならどんな手段も使ってでも成し遂げる執念を持っている。君にはグリフィンドールかスリザリンが合っているだろう』

「どっちでもいい。歌をうたえるなら」

『ふーむ、なるほどなるほど……では』

 

 

『グリフィンドール!!』

 

 

 かぶっていたボロボロの帽子が高らかに叫んだ。その声が響き渡った途端、内側が赤色をしたローブを着ている集団が大きな拍手を上げた。

 テゾーロは頭から帽子を外して椅子の上に戻すと、拍手の上がったテーブルへと向かう。小綺麗なローブはいささか大きく、着慣れない裾が翻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テゾーロが暮らしているのは、ノクターン横丁という後ろ暗い人ばかりが集まる影のような町だ。両親がどういった経緯でこの町にたどり着いたのかは知らない。物心つく頃には、この町の外れ近くにある薄汚く寂れた酒場がテゾーロの家だった。

 

 こじんまりとした酒場は、カウンター席とテーブル席を2つほど置いてあるだけの狭い店だ。どこもかしこもボロボロで、床板は歩くたびにきしみをあげた。いつ抜けるかもわからない。

 店の奥には、これまた今にも割れそうな木板の階段が手すりもなしに2階の暗闇へと続いている。

 この2階こそがテゾーロの生活する場所だった。といっても部屋が1つと物置のような小部屋があるだけで、テゾーロの居場所はその狭い物置部屋だ。

 

 当たり前だが、自分のものなどほとんど何もない。ボロボロのタンクトップをずっと着回しているし、おもちゃや本などという贅沢品は1つもなかった。掃除用具やよくわからないガラクタと一緒にテゾーロは押し込められていた。

 かろうじて幸いだったのは、この物置部屋の壁には窓があり、天井にはランプが吊り下がっていたことぐらいだ。おかげで昼も夜も、それなりの明るさだけは確保されていた。

 

 父はよくわからない散財をしていたようで、家に金が貯まることはなかった。気づいたときには病気にかかってベッドの住人となり、治療することも叶わず死んでいった。

 母はそんな父でも愛していたのか、父が亡くなってからは昼間から酒をあおるようになった。ただでさえ客の少なかった酒場だが、店主が注文も取らずにカウンター席で管を巻いているため、さらに人が遠のいて閑古鳥が鳴いた。それでいて「金がない」などと文句を言うので滑稽だ。

 

 テゾーロはこの家が大嫌いだった。

 

 お金がなくろくに物を買ってもらえないことも、見窄らしい格好のせいで向けられる周囲の蔑んだ視線も、酒浸りの母にストレスのはけ口として当たられることも、勿論嫌だった。

 だが、何よりも嫌だったのは――テゾーロの歌を否定されることだった。

 

 

 

 

 

 幼い頃、何故か1度だけ父にマグルの街に連れて行かれた。病気になる少し前のことだ。街は明るい光に彩られ、耳が痛くなるような音楽と喧騒で溢れかえっていた。

 

 父は喧騒に満ちた街には似つかわしくない、物音も遠い薄暗い路地へと向かった。腕を引かれ、テゾーロは辺りをきょろきょろ見回しながら、震えそうになる足で必死に父の背中を追った。

 どこかの家屋へと入り、そのまま1室の中に連れて行かれた。握られていた手が離れ、「部屋から勝手に出るな」と言い渡されたかと思うと、振り返る前に扉はバタンと閉められた。

 

 部屋にはベッドと小さなサイドラックが置かれていた。あとはやたらと大きな、格子の嵌められた窓だけがそびえていた。

 窓から覗く景色は相変わらずギラギラとしていて、薄暗い路地ばかりを見てきたテゾーロにとっては目新しかった。しかし、数分も経てば見飽きてしまい、ベッドに腰掛けてただ父の帰りを待った。

 

 窓から差し込む光がテゾーロの足元に落ちていた。

 

 床に落ちる光の先は暗闇に沈んでいた……恐ろしい怪物が這い出てくる姿を、テゾーロは思い浮かべた。少しでも距離を取りたくて、窓の方へ身を寄せる。光は、ちっとも暖かくなんてなかった。

 父さんはいつ戻ってくるんだろう。あの人はたまに帰ってきても、怒鳴ったり殴ったりで最悪だったし、大嫌いだった。それでも今は、すぐにでも顔を見せてほしかった。

 

 

 

 

 

 そんな時だった。窓の外から爆発するように音楽が鳴り響いた。

 

 テゾーロはベッドの上で跳ね上がった。

 目を白黒させながら、窓際へと近づき、格子をぎゅっと握った。

 

 ――そこからは夢のような時間だった。

 

「わあ……!」

 

 くすんだガラスの向こうでは、色とりどりの明るい光が溢れるように広がっていた。

 一際明るい、スポットライトの中心に小さな人影が見える。片手で天を指さしていた。

 

 ドンッ――と響いた音が心臓を揺らした。

 

 音に合わせて人影が動いた。低く響く声が、弾けるように歌を紡ぎ出した。赤、青、緑と点滅するように色が交錯する。

 人影はリズムに合わせて腕を、足を、振り上げた。

 テゾーロはその動きから目が離せなかった。音が鳴る、人影が動く。人影が動く、音が鳴る。歌声に合わせ、くるりと回る。

 

 これは何だろう――もっとよく見えないかと、テゾーロは格子の隙間に目を寄せ、窓の前を右左と行き来した。

 パーンッと弾ける音、シャンシャンとなる鈴のような音、滑らかに紡ぎ出されるメロディー……どんな楽器が鳴っているのかはさっぱりわからなかった。

 

 それでも、テゾーロは音楽に合わせて身を揺らした。同じフレーズの歌詞が流れると、後を追うように口ずさんだ。

 

 やがて音楽が小さくなっていき、溢れていた光が消えて人影が去ってしまうまで、テゾーロは食い入るように見つめ続けた。

 ただの喧騒だけが戻ってきても、テゾーロの心はふわふわと浮ついたまま、先程の光景を何度も思い返した。

 

(凄かった。あんなにも素晴らしいものが、この世にあるんだ)

 

 部屋の中でひとり、テゾーロはうろ覚えながらも歌の一部を口ずさんだ。歌詞を覚えていない場所は鼻歌で補ってメロディーを繋ぐ。

 姿や顔をよく見ることは叶わなかった。それでも、名前もわからない人影はテゾーロの憧れとなった。

 

 

 

 浮ついた気分は、酒の匂いをさせた父が「なんであそこで賭けちまったんだ」「ちくしょう」と毒づきながら戻ってくるまでだった。

 苛ついていた父は、八つ当たりにテゾーロをぶっ叩くとベッドに転がっていびきをかき始めた。

 さっきまでの胸の高鳴りは一気に地に落ち、最悪な現実へと引き戻される。早く帰ってきてほしいなんて願わなければよかった。

 

 部屋にひとつしかないベッドを父に占領され、テゾーロは冷たい床の上、暗い部屋の隅に膝を抱えて座り込んだ。

 理不尽な暴力と男のせいで気分は萎んでいたが、それでも脳裏にあの歌と音楽を思い浮かべると、胸の奥が弾んだ。

 

 テゾーロは男を起こさないよう、息を潜めて小さく鼻歌を歌った。

 そうすると、恐ろしかったはずの暗闇は怖くなくなっていた。

 

 

 

 

 

 そうして夢と憧れを見つけたテゾーロは、時間があれば歌をうたうようになった。

 しかし酒に浸かる母にはそれが鬱陶しかったらしく、テゾーロが歌う姿を見るたびに「そのくだらない歌をやめろ」「くだらない」と唾を吐き散らして怒鳴りつけた。

 ときには酒瓶を投げつけてでも歌を止めようとするので、テゾーロは苛立ちと不満を募らせていった。

 

 とうとう我慢の限界がきたテゾーロは、持つものも何もなく家を飛び出した。

 11歳になったばかりの冬のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 子供1人町を彷徨っても、仕事など早々に見つかるはずもない。路上でゴミを漁り、誰かが落としたコインを拾い、時には店の売り物をこっそり掠め取りながら、テゾーロはどうにか生き延びた。

 初めの頃は何もかも上手くいかず苦しい日々を過ごしていた。だが、人間というものは環境に適応するのがうまいらしく、数ヶ月も経つ頃には飢えない程度に食糧を調達する術を身につけていた。

 

 住処も、冷たい石畳の上から雨風を凌げる物置小屋へと変わった。

 薬草の匂いがツンと漂う、壁に穴の空いた小屋は、とある薬店舗に放棄されていた元荷置き場だ。以前の家の物置部屋と大差ない狭さだったが、店主と交渉し、破棄されかけていた固いベッドと小さなテーブル、椅子を1脚譲り受けることに成功した。

 

 資金の稼ぎ方も覚えた。酒場の客が漏らす噂話を聞きつけ、自分を売り込んで雑用を請け負ったのだ。もらえるのは小遣い程度の銅貨だったが、真面目にこなして別の店を紹介してもらい、いくつかを渡り歩くことで、子供1人がどうにか生きていける分の収入を得た。

 だが、必死に働いても、小屋に居座るには店主に家賃を払わなければならない。生活に余裕など生まれるはずもなかった。

 

 すきま風が吹き込む薄暗い小屋の中、テゾーロはボロボロの布を体に巻き付け、ただ丸まって夜が明けるのを待った。

 

 

 

 

 早朝、日課の水くみに行こうとバケツを持って扉を開いた。薄暗い町並みは相も変わらず、影そのもののように光を飲み込む色をしている。

 店の角にピタリと背中をくっつけて、顔を少しだけ出す。石畳の通りには誰もいない。視線を動かして周囲も見渡す――人影一つない。この町で、不用意に人に出逢うことは避けたほうがいい。

 

 ふっと詰めていた息を静かに吐く。狭い通りが静まり返っていることを確認すると、角から身を乗り出す。バケツの錆びついた取手が、ぎしりと軋んだ。足を前へと進めようとして――

 

 

 バサリと羽ばたく音が、上空から聞こえた。

 

 

 はっと上を向く。テゾーロの顔に翼の広げた影がかかった――梟だ。影は一直線に、こちらへ降りてくる。

 梟は足で掴んでいた紙を、テゾーロに向かって投げ落とした。反射的に手を伸ばした。

 

「ホ……ホグ、ワーツ?」

 

 白い封筒に赤い封蝋がされた手紙だった。上部には、ホグワーツの名と盾のような紋章が描かれている。ひっくり返すと『テゾーロ・ギルド様 ノクターン横丁 《ブラックウッド薬舗》脇 旧荷置き場』と書かれていた。

 

================

Mr. Tesoro Guild

Side of Blackwood Apothecary

Old Storage Shed, Knockturn Alley

================

 

 梟が手紙を届けるところを初めて見た。手紙に心当たりはない。知り合いなどいないし、母がこんなきれいな手紙を自分に送ってくるとは到底思えない。

 封蝋を破いて手紙を取り出す。テゾーロは文字を追い、短い文を何度か読み返しながら、途切れ途切れに読み解いていった。

 

 手紙は、ホグワーツ魔法学校への入学について書かれているようだった。

 

 カサリと紙を鳴らし、首を傾げる。なぜこんなものが届いたのだろうか。なぞるようにもう1度読んで、ふと母が昔言っていたことを思い出した。

 珍しく機嫌のよかった母が杖を振って皿やコップを魔法で洗いながら、「魔法使いには魔法使いの通う学校があるのよ」と話していたことがあった。

 

 しかし……ポケットの中を探る。出てきたのは薄汚れた、たった3枚のガリオン金貨。

 

 手紙の最後には返事を送るように書いてあるが、ペンすら持っていない。返事を書くためにペンを買えば、数日は食べられなくなる。金貨を握りしめて、深く項垂れた。

 

 ……それでも、手紙を放り捨てることは出来なかった。ポケットの中に手紙を捻り込むと、バケツをもう一度握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




テゾーロの棲家:ブラックウッド薬舗脇 旧荷置き場

テゾーロの父親、かなりクズになっちゃいました。
怪しい滑り出しですがちゃんとホグワーツ入学できます。
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