Little Gold, Little Light   作:のらもこ

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二年生編始まりです。


一つの星あかり
第13話 ギルド・テゾーロ/新学期


 

 

「はあ……」

 

 コンパートメントでローブを着込みながら、テゾーロは溜息を吐いた。すぐ傍にいたサイラスが首を傾げたが、なんでもないと首を振った。

 夏休みも終わり、乗り込んだホグワーツ特急では、サイラスと手紙の内容について議論が白熱した。

 

 夏休み中でのサイラスとの出来事は、関係を悪化させることもなく終わり、胸を撫で下ろした。だが、夏休みの課題は大いにテゾーロの頭を悩ませた。

 通常の課題に加えて、罰則として出された読み書きの課題。後者は夏休み始め遅々として進まなかったが、サイラスと手紙を交わすようになってからは目覚ましい進歩を遂げ、無事終わらせることができた。

 しかし、課題に時間を取られすぎて路上で歌うことができなかった。せっかく1年ぶりに遠慮なく歌える機会だったというのに。

 

 

 

 

 

 ホームへと降りると、ハグリットが「イッチ年生! イッチ年生はこっちだ!」とカンテラを掲げて大きく叫んでいた。

 テゾーロとサイラスは並んで在校生が流れについて行った。相変わらず、赤と緑の裏地のローブが並ぶ姿に視線がちらちらと向けられる。

 

 木々に挟まれた舗装されていない道に出ると、黒い馬車が一列に並んでいた。しかし、御者も牽引する馬の姿もない。

 

「?」

 

 訝しげに眉を寄せるテゾーロの前で、4人乗り込んだ馬車がふわりと浮かび上がった。そのままホグワーツへと向かい、姿が小さくなっていく。思わず、感嘆の声が漏れた。

 同じように馬車を見送ったサイラスが、腕を組んで口を開いた。

 

「多分、セストラルじゃないかな」

「セストラル?」

「魔法生物さ。……死を見たものにしか見えないと言われている」

 

 じっと馬車の前方を見つめる。テゾーロは父が病死する姿を見ている。だが、テゾーロの視界にはセストラルはいなかった。

 

(幼かったから? それとも病死は条件に入らないのか?)

 

 何もいない空間に気を取られながらも、サイラスと共に馬車へと乗り込む。後から、背の高い見知らぬ生徒が2人乗り込む。4人揃うと、馬車は振動もなく空へと浮かび上がった。眼下には森の木々が一面に広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 グリフィンドールの食卓へとつき、組分けの儀式が始まるまで居並ぶ1年生をそれとなく眺める。緊張した様子で、背筋をガチガチに伸ばして立っている者が殆どだ。自分たちもああだったのかもしれない。

 去年と同じく、マクゴナガルがボロボロの組分け帽を椅子の上へと置いた。帽子が割れ目を開いて歌い始めた。

 

 

「ほら集まれ、新しき子らよ

 杖もローブも まだ馴染まぬままに

 君たちの胸を 私は見通す

 誰にも言えぬ 心の声まで

 

 剣も杖も 振るわぬけれど

 頭にのせれば わかるだろう

 隠した望みも 怖れもすべて

 私は逃がさぬ 逃がさない

 被れば 君に教えよう

 君が行くべき 寮の名を――」

 

 

 帽子は伸び伸びと大広間に声を響かせる。……羨ましい、などと思うのはお門違いだ。わかっている。

 

「――、――、――」

 

 テゾーロは誰にも聞こえないほどの小声で後を追った。

 

 

 

 新入生の組分けも、組分け迷子が出ることもなく無事終わり、現れた豪華な食事に舌鼓を打った。

 地獄の校歌の時間は、1年生が目を白黒させる中、テゾーロは耳を塞いでやり過ごした。

 

 

 

 

 

 満杯になったお腹を抱えて食堂を出た。久しぶりのホグワーツの料理には、どうしても手が止まらなかった。

 テゾーロはいつも通り、集団の最後尾辺りを歩く。ガヤガヤと生徒のざわめく声を聞きながら、壁に立てつけられた絵画へ目を向けた。古めかしい礼服を着込んだ紳士淑女が集まって、新入生を指差しては何事か囁き杯を重ねていた。

 そんな絵画達を流し見していると、前方から名前を呼ばれた。顔を上げるとフレッドとジョージが振り返っていた。

 

「テゾーロ、お前もクィディッチチームに入るよな!」

「はあ?」

 

 いきなり何なんだ、と考えて、そういえば2年生からはクィディッチチームに参加できることを思い出した。ダンブルドアからの諸注意が終わり、場が解散となると、双子はさっそくマダム・フーチに声を掛けていた。

 

「俺は入るつもりはねえよ」

「「何だって!?」」

 

 驚愕した顔が2つ並ぶ。響き渡った声に、前方に居たグリフィンドール生が数名振り返っていた。声を上げたのがウィーズリー双子だとわかると、いつものことかと、興味を失い再び前を向いた。

 双子は歩を緩めて、テゾーロを挟み込んだ。

 

「何でクィディッチをやらないんだ」

「魔法使いなら一度は憧れるだろう」

「俺は、別に」

 

 ふいっと視線を逸して呟く。

 クィディッチが人気なのはわかる。テゾーロはクィディッチの試合をホグワーツに来て初めて観戦した。繰り広げられる攻防に、手に汗を握り、声を上げて熱中した。

 

 しかし――憧れなら、既にある。

 

 だが、テゾーロの答えでは納得できなかったらしく、双子はさらにテゾーロに詰め寄ってきた。

 

「じゃあなんで箒を持ってきたんだ」

「君が個人の箒を持ってきていることは知っているんだからな」

「あ、あれはそのためじゃねえよ!」

「信じられない!」

「リーもやらないって言うし」

 

 唇を尖らせる双子に、慌てて首を振る。そこで前を歩いていたドレッドヘアーに視線を移した。

 

「ん? お前もチームに入らないのか?」

「まあね。僕は選手より別のことをしたいんだ」

「?」

「実況者さ! 去年、テゾーロのタイマン勝負でこれこそ僕の道だと確信した!」

 

 振り返ったリーは、胸を張って目を輝かせた。それどころか、拳を握り天高く突き上げてさえいる。

 

(こいつ、俺が大変な目にあっているときに何を確信しているんだ)

 

 ジト目をリーに向けた。睨まれた本人は、どこ吹く風で顎を上げている。

 深く溜息を吐きなら、足を進める。グリフィンドール寮の螺旋階段を上ると、上級生が1年生に合言葉を教える声が聞こえた。開かれた隠し扉に、列に続いてテゾーロ達もくぐり抜ける。

 

「クィディッチ選手になれば学園のスターだ!」

「それに将来、クィディッチのナショナルチームから声がかかるかもしれないんだぞ」

「……なんでこいつらは、こんなに必死なんだよ」

「あっははは!」

 

 談話室の柔らかい絨毯を踏みしめながら、双子は未だにクィディッチについて熱く語っている。確かにクィディッチは魔法界で一大競技だが。

 寮室は去年と変わらないままだ。騒ぐ双子とリーの背中を追う。

 

(スターになるなら、俺はやっぱりステージで歌いたい)

 

 夢は変わらない。

 入口を跨いで足を止める。部屋ではフレッドとジョージが荷物から取り出した箒を片手に、声を大きくしている。向かいのリーが大口を開けて笑っている。

 テゾーロを疎ましそうに見る目などない。

 

(ここでなら……)

 

 ――歌っても、いいのではないか。

 

 テゾーロが口を開こうとして、3人が振り返った。ぱっと口を噤む。

 

「テゾーロ?」

「どうかした?」

「……いや、何でもない」

 

 小さく首を振る。誤魔化した、自分の心を。

 拳を一度だけ強く握って、力を抜く。フレッド達の元へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Mr.ギルド」

 

 その声に反射的に背筋を伸ばすのは、1年で染み付いてしまった癖だろう。

 くるりと振り返ると、マクゴナガルが廊下の中央に立っていた。

 

「はい、マクゴナガル先生。何か御用ですか?」

「貴方が提出した夏休みの課題についてです」

 

 冷や汗がたらりと背中を伝う。最初はどうにも気が乗らず、拙い出来だったはずの課題だ。何かまずかったのだろうか。

 

「とても――」

「っ」

「――よく出来ていますね」

 

 肩から力が抜けた。心なしかマクゴナガルの表情も穏やかに見える。

 

「まさかこれほど完璧に仕上げるとは思ってもいませんでした」

「あぁ、いや……」

 

 思わず、目を逸らして後ろ頭をかく。サイラスとの手紙のやり取りがなければ、もっと杜撰なものになっていたはずだ。

 

「これが罰則での課題であることが惜しいくらいです。そうでなければグリフィンドールに点数を与えたのに……」

 

 残念そうな表情を浮かべるマクゴナガルに、今度ははっきりと耳が熱くなった。

 

「この調子で2年生の授業も頑張って下さいね」

「は、はい」

 

 マクゴナガルは背中を向けて廊下の角を曲がっていった。姿が見えなくなってから、テゾーロは「よし!」と小さく握り拳を作った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ウィンガーディアム・レヴィオーサ」

 

 厚さ20センチはありそうな本が、ふわりと浮かび上がる。「おお」と小さく周囲から声があがった。

 

 今年度入って初の呪文学は、1年生の振り返りから始まった。1年生の頃と異なるのは、浮かび上がらせるのが軽い羽ではなくなった点だ。

 宙に浮いた本は、ぴたりとその場で動きを止めている。フリットウィックは笑顔で2、3度拍手をした。

 

「いいね。君の呪文はやはりよく響く。グリフィンドールに1点追加しよう」

 

 テゾーロの様子を見ていた他の生徒達も、杖を片手に「ウィンガーディアム・レヴィオーサ」と唱え始める。

 テゾーロは杖先をそっと下げて、本を机の上へと着地させる。かすかな埃が舞って煌めいた。

 

(よく響く?)

 

 瞬きを1つして、手に持った杖をまじまじと見つめる。特段変わったところはない。

 顔を上げると、フリットウィックは、互いの本をぶつけあって遊び始めたウィーズリー双子を注意していた。

 

(授業後にでも聞いてみるか)

 

 

 

「『響く』って、どういう意味ですか?」

「ん?」

 

 テゾーロが声を掛けると、大量の本を教室の隅へと積み上げていたフリットウィックが振り返った。

 

「ああ、簡単に言えば、君の声と杖が互いに反響しているということだね」

「反響……」

「杖との相性はとても重要なんだ。合えば合うほど、魔法は無理なく、強くなる」

 

 手元の杖に視線を落とす。初めて杖を握ったあの日、確かに『これだ』と感じた。1年経って、既にこの杖はまるで一緒に育ったかのように馴染んでいる。

 

「君の場合は――そうだな。命令しているというより、呼びかけている。まるで一緒に歌っているみたいだ。珍しいことだよ、だから大事にしなさい」

「はい。……あの、先生。音って魔法に関係ありますか?」

「勿論、あるとも」

 

 フリットウィックは即答して、にこりと笑った。

 

「一説ではね、音楽こそが魔法の始まりだった、なんて話もあるくらいだ」

「始まり?」

「もっとも、確立した理論というわけじゃない。今も研究途中さ。興味があるなら、図書室を覗いてみるといい」

 

 テゾーロはこくりと小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 魔法と音楽。テゾーロにとっては、どちらも人生を変えたものだ。関わりがあるというのなら、興味がある。

 

 もし、2つを掛け合わせることが出来たら――

 

 教科書を抱えて、踏み出す足が少し大きくなる。その時、視界の端、左の廊下から柔らかい何かが伸び縮みしながら飛び出してきた。

 テゾーロは咄嗟に身を引かせて、後ろに数歩下がる。バチン!と音を立ててそれは壁へと貼り付いた。

 

「どこに飛ばしてるんだよ!」

「すげー! 向こうの壁まで飛んだぞ!」

 

 高いトーンの話し声に廊下の角から顔を覗かせる。居たのは、赤い裏地のローブを着たグリフィンドール生だ。3人ほどで集まって、肩を叩いて笑い合っている。

 

「こらー! 何をしているんだ!!」

「げっフィルチ!」

「逃げろ!」

 

 蜘蛛の子を散らすように、グリフィンドール生が走り去っていく。テゾーロもやばいと、来た道を少し戻って柱の影に隠れた。

 テゾーロは全く関係がない。だが、いることがバレれば、フィルチはこれ幸いと片付けと罰則を言い渡してくるに違いない。

 

「全く……どいつも、こいつも馬鹿げた真似ばかり……」

 

 ぶつぶつと呟きながら、フィルチは壁に貼り付いたものを見上げた。

 

「またか。くそ、最近これと同じやつを3度も片付けたぞ! 3度もだ! その前は動き回る泥団子を捕まえる羽目になった!! 今年に入ってからこんなことばかりだ!!」

 

 フィルチは、壁に貼り付いたものを掴んで引き剥がそうとした。だが、伸びるばかりで一向に壁から離れない。

 

 フィルチが足の裏を壁に押しつけて、顔を真っ赤にさせている背後で、テゾーロはそういえばと最近のことを思い返した。

 談話室や廊下、果てには授業中にもおかしな魔法道具が飛び交っている光景を何度も見た。フィルチの言うように、新学期になって間もないというのに、既に両手で数える回数に上っている。

 

(まさか、あいつらじゃねえよな……?)

 

 同じ顔でニンマリ笑う、悪戯好き共の顔が思い浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、箒を抱えてテゾーロは屋外へと向かった。

 石造りの塀をくぐり抜けると、さくりと足元の草が潰れた。つい先程まで降っていた霧雨で、草むらはきらきらと光っている。

 ハグリットの暮らす小屋へが伺えるあたりでテゾーロは足を止めた。

 

 周囲に誰もいないことを確認すると、箒――シルヴァーラインを横に構えた。時間が空いたから、試しに乗ってみようと持ち出してきたのだ。

 

 灰褐色の柄に跨ると、とんと軽く地面を蹴った。滑らかに箒は高度を上げ、少しひんやりとした空気が頬を撫でていく。吸い込むと体の中で、冷たい空気が入れ替わる感覚がした。

 薄い雲がかかっている空はお世辞にも、鮮やかな景色とは言えない。しかし、広大な森と湖、そして荘厳なホグワーツ城の眺めは悪くなかった。遠くにはホグズミードの街並みが伺える。そこから彼方へ伸びる鉄道のレールは、まるで別世界へと続く一本道のようだった。

 

 テゾーロはさらに高度を上げると、しばらくその光景に見入っていた。

 

 それから、ぐるりと円を描くように辺りを回ってみる。速度はそこまで出なさそうだが、サイラスの評価通り安定していて飛びやすい。

 

(買ってよかったな)

 

 自然と口角があがる。灰褐色に一筋の銀が走る柄も、しっとりと手に馴染む。

 テゾーロはゆっくりと走行して、景色と通り過ぎる風を満喫していた。だが、突如背後から鋭い声が耳を裂いた。

 

「「テゾーロ!」」

 

 聞き覚えのある双子の慌てた声に顔を向ける。眼前にブラッジャーが迫っていた。

 

「!?」

 

 考える前に、体を伏せて箒の柄を下げた。びゅんっと激しい音を立てて、ブラッジャーは頭上を通り過ぎた。

 額に汗が垂れるのを感じながら、遠く小さくなっていくブラッジャーを見送る。振り返ると、同じように箒に跨ったフレッドとジョージが飛んでいた。

 

「いきなりなんなんだよ!」

「いやー危なかったね」

「危うくテゾーロの顔が平らになるところだった」

 

 こともなげに話す双子に、ジロリと視線を送る。

 一言を文句をいってやろう、そう口を開いたが、双子が棍棒を構えてテゾーロを追い越したことで閉じられた。釣られて視線を正面に戻して、ブラッジャーが、再びこちらに向かってきているのが目に入った。

 箒の柄を掴み方向をずらす前に、双子のどちらかの背中がテゾーロの前に躍り出た。

 

 ガンッっと音を立てて、ブラッジャーは遠く弾き返される。

 

「ナイスショット!」

 

 テゾーロの斜め前に残った片割れが声を上げる。振り返った、(恐らく)フレッドはへへんと顎を上げた。

 ブラッジャーは未だぐるぐると辺りを飛び回っている。

 

「……クィディッチの練習か?」

「「そう!」」

 

 双子は得意げに笑って、声を揃えた。深くつきたくなる溜息を飲み込んで、テゾーロは先に抗議した。

 

「こんなところでやってるんじゃねーよ。グラウンドいけ」

「今はスリザリンが使っていて、使えないんだよ」

「巻き込まれた俺の身にもなれ」

「いいじゃないか、上手く避けられたのだし」

 

 カチンと、額に青筋が浮いた。この野郎と文句を言おうとしたテゾーロの口はまたしても遮られた。

 

「ほら、テゾーロも!」

「は!?」

 

 ぽいっとなげられた棍棒を慌てて空中でキャッチする。

 

「おい!」

「ブラッジャーが来るぞ!」

 

 ジョージの声に慌てて棍棒を構える。ブラッジャーは諦めることなくテゾーロを箒から叩き落とそうと、勢いをつけて迫ってきていた。棍棒の中心に当たるよう狙いを定めて振りかぶる。

 2度目のガンッ!といい音を立ててブラッジャーは殴り返されていった。

 

「「ナイスショット!!」」

「俺を巻き込むな!」

 

 テゾーロが声を張り上げるも、双子はケラケラと笑っている。

 結局、その後1時間は練習に巻き込まれる羽目となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 暴れまわっていたブラッジャーをどうにか鞄へと押し込み、箒を降ろして地面に足を付けた頃には既に空は橙色になっていた。

 散々巻き込んでくれた双子は「テゾーロもやっぱりクィディッチやろうぜ〜」と鬱陶しく肩を組もうとしてくるので、その度にテゾーロは身を躱した。

 校舎への道を辿りながら、ふと授業後の光景を思い出した。

 

「そういえば、最近あちこちで見かける魔法道具はお前達のか?」

「おっテゾーロも興味あるか!?」

「そうそう、僕達が作った悪戯グッズだよ!」

「テゾーロも一個買う?」

「友達価格で割り引きするぜ?」

 

 「別に興味はねえよ」と首を振りながら、予想が的中したことに呆れた溜息がでた。

 

(でも、魔法道具作りか)

 

 以前、双子と共にクリスマスパーティー用に一度作成してみたが、中々複雑だった。双子がどう手に入れたのか謎の指南書を元に、魔法を込めていき完成させたものだ。

 あれはよく出来ていたと自分でも思う。似たようなものをもう一度作れるのであれば、試してみたい。

 

 テゾーロが考え込んだのを興味があると受け取ったのか、双子はどこに隠し持っていたのか、次々と悪戯グッズを取り出してはオススメ点を挙げていった。

 

「――で、これは『伸び~るガム』! 噛むと1メートルぐらいに伸びる!」

「投げるとくねくね跳ねたりする! 相手や壁に貼り付けることもできるぜ」

「……それは、今日見たな」

 

 フィルチが格闘していたのはこれだったらしい。

 

(しかし、相手にも貼り付けられるか……上手く行けば行動を阻害することもできるか?)

 

 つい派手なものばかりを想像していたが、使い方次第では役立ちそうだ。ノクターン横丁でのイザコザを考えると、いざという時に使える手段は多いに越したことはない。

 

「……それ誰かが来たらわかるやつとかねーのか」

「! それいいね!」

「先生が近づいてきたらわかるじゃないか!」

「いや、ちが」

 

 キラキラとした目が迫ってきて身を引く。悪戯目的じゃない、そんなつもりはなかった、と焦って否定する前に双子が両側からがしりと腕を掴んできた。

 

「テゾーロ」

「な、なんだよ」

「君も悪戯グッズ開発に加わらないか!」

「はあ!?」

 

 ぎょっと目を丸くして、声を上げる。

 

「なんで俺が! 悪戯グッズに興味はねえよ!」

「いいだろ? テゾーロが一緒ならもっと色んなものを作れる」

「何も一緒に売るものが悪戯グッズに限らなくてもいい」

 

 ぐいぐいと迫ってくる双子を押しのけたいが、両腕はその本人達に抑え込まれてしまっている。そんなテゾーロを置いて、双子はアピールポイントを重ねていく。

 

「色んなアイテムが一挙に買える!」

「悪戯にも日々を賑やかすアイテムにも使える!」

「「素晴らしいじゃないか!」」

 

 漸く腕を離したと思うと、大きく胸を張った。

 テゾーロは眉を寄せて難しい顔をした。対象にフレッドが怪しい笑みを浮かべて、テゾーロの耳元に顔を寄せるとこそりと囁いた。

 

「それに、売上はちゃんと分けるから」

「売上……?」

 

 勢いよくフレッドの顔を振り返ってしまった。テゾーロの食いつきの良さに、フレッドはさらに笑みを深めた。

 

「……それってどれくらい儲かるんだ」

「うーん、と先月の儲けがこれくらい」

 

 ジョージがどこからか帳簿を取り出してくる。顔を覗き込ませたテゾーロは、思わず帳簿を掴んだ。バラバラとページを捲っていくと、これまでの売上が細かく記帳されている。

 

「こ、こんなに……!?」

「ふふふ、凄いだろ」

「僕達の悪戯グッズは人気だぜ」

「パーシーには怒られるけどな」

 

 テゾーロは帳簿から顔をあげる。双子と目を合わせて、がっしりと手を組んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




伸び~るガム:噛むと1メートルくらいまで伸びる。そのまま投げると、空中でくねくね跳ねたりくっついたりする。
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