Little Gold, Little Light   作:のらもこ

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オリキャラが多数でます。
途中の歌は本作オリジナルです。


リアム・ホーソーン
魔女の母とマグルの父の間に生まれた。人の輪を保つことが上手い。

サイラス・ペニントン
純血貴族。マグル蔑視や軽視はしない。礼儀正しいがちょっと抜けている。

フィービー・リーヴス
マグル生まれの魔女。社交的で、おっとりした空気を持つ。

2026/8/7改稿しました。


第3話 ギルド・テゾーロ/同じ列車に乗る者

 

 

 

 

 ポー、と鳴り響いた音にきょろりと辺りを見回した。目の前には木で出来た通路が伸び、閉ざされた扉と開いたままの扉が入り交じるように並んでいた。

 テゾーロはトランクを持ち直し、空いているコンパートメントを探すため手早く中を覗き込んでいった。

 

 

 

 テゾーロはマクゴナガルと入学準備をした際に購入した、ストライプのYシャツと黒のジャケットを羽織った姿で駅へと入った。

 9と3/4にあるキングス・クロス駅から汽車が出ることは知っていたが、多くの荷物を押して壁に突進するのは、ほんのわずかに覚悟を決める必要があった。

 入口を過ぎてしまえば、もうそこは新たな魔法使い達を送り出す人でごった返したホームだ。荷物を運ぶ子供たちと手を振る大人たちでぎゅうぎゅうで、ホームには汽車から溢れる煙が白く広がっていた。

 

 多くの子供達が家族と別れの挨拶をしている中、見送りなどないテゾーロはさっさと搭乗口へと足を進める。

 荷物を乗務員に預けて、手提げのトランクだけを持ち、さあ乗り込もうとタラップに足をかけた時だった。

 

 ――後ろからぐんっと服を引っ張られた。

 

「うわっ!?」

 

 タラップから落ちるようにたたらを踏んで、慌てて背後を振り返った。

 そこには同じ顔をした赤毛のひょろりとした男の子2人が、にんまり笑ってテゾーロの服を掴んでいた。

 

「何だよ!」

「何と言われれば」「見ての通り」

「「君を引き止めたのさ!」」

 

 交互に喋ったと思ったら、一言一句タイミングも一緒に声を合わせる。見た目の通り彼らは双子だろう。

 

(なんだこいつらは!)

 

 テゾーロは手を振りほどこうとした。無理矢理引っ張られて下ろされたことでも腹が立つのに、独特の喋り方に此方を馬鹿にしているのかと怒りに目を吊り上げる。そんな様子に気がついたのか、双子はぱっと裾を離して両手を上げた。

 

「おっと、そんなに怒らないでくれよ」

「僕らは君と話がしたかったのさ」

「話? 俺はお前等のことなんて知らない」

「おいおい! つれないな!」

「僕らは一度出会ってるだろう?」

「あの日ダイアゴン横丁で!!」

「ダイアゴン横丁……?」

 

 双子はこの喋り方がデフォルトらしい。ダイアゴン横丁で出会ったという話に、テゾーロはまじまじと2人の顔を見つめた。

 

「……あっ! お前らあの時居座ろうとした……」

「「そう! それさ!!」」

 

 思い出した。数日前、ダイアゴン横丁の路上で歌っていたら、何処からともなく現れた双子だ。

 

 

 

 

 

 支給金を受け取り、テゾーロの生活は一変した。

 

 必死に走り回ってお金をかき集める必要がなくなり、寝る場所も確保され、食べ物だって買える。すると、生きる以外のことを考える余裕ができた。

 購入した教科書を開いてみたり、真新しい杖をまじまじと触ったり、これからに思いを馳せてみたりした。

 

 ――そして、ずっと胸にあった歌いたいという思いが体を動かした。

 

 ベッドから跳ね起きると、細かい物を入れていたペンキ缶をひっくり返して中身をぶちまけた。空っぽになった缶を手にして、街へと飛び出していく。

 場所はダイアゴン横丁近くがいい。ノクターン横丁では、悪目立ちするだけで聞いてもらえない。テゾーロは薄暗い路地を走った。

 

 ガヤガヤと人が行き交う通り近くまで来ると、地面に空き缶を置いた。

 

 ――聞いて、くれるだろうか。「くだらない」と吐き捨てられないだろうか。

 

 汗ばむ手でズボンを握りしめる。喉が乾きごくりと唾を飲み込む。

 でも、ここで進まなければいつまでもたどり着けない。

 

 テゾーロは大きく息を吸って、口を開いた。

 

 

In a busy street of wonders,(不思議が行き交うこの街で)

 Where the lanterns softly glow,(灯りがそっと揺れる夜)

 I lift my voice to the sky above,(高く空へ声をあげる)

 Hoping someone sees me grow(誰かが僕の成長を見てくれるように)――」

 

 

 少年特有の高い声が、喧騒の間を通り抜けていく。

 突然聞こえてきた歌に、通りを行く人々は買い物の足を緩め、首を巡らせた。

 

 

「――So I sing for stars that never fall,(落ちない星へ届けたい歌)

 For tomorrow no one owns at all,(誰のものでもない明日へ響け)

 Let the chorus carry far and free(この声が自由に飛べるなら)

 This is where I'm meant to be.(ここが僕の居場所になる)

 

 

 テゾーロは徐々に声を大きくしていった。

 ちらほらと、足を止めて此方を眺める人が出てきた。

 

(楽しい! もっと聞いてくれ!)

 

 目を瞑って、伸びやかに歌い続ける。

 始めに感じていた不安など忘れて、晴れやかな笑顔で喉を震わせた。

 

 一曲歌い終わって、覗き込むと空き缶の中には3枚の硬貨があった。

 

 それを見つめたままテゾーロはしばらく動けなかった。ゆっくりと頬が熱を持ち、抑えていた笑みが滲み出る。

 伴奏も、演出も無い。拙い歌だった。それでも、硬貨を入れてくれる人がいる。

 

 

 

 心が浮つき、テゾーロは続けて2曲歌った。

 

 辺りが薄暗くなり、店先に明かりが灯り始めた。

 最後だと決めて伸ばした音が、空気に溶けるように消えた。静寂が戻ったのを感じてから、テゾーロは目を開いた。

 

 ――すぐそこに、同じ顔をした子供が2人しゃがみこんでいた。

 

 びくりと思わず体が震えた。

 

(一体、いつから……?)

 

 目を輝かせた子供たちがテゾーロを見上げ口を開きかけた、その瞬間路地に女性の声が響いた。

 慌てて振り返る子供たちのもとへ、女性が足音を鳴らしてやってくる。何かを言う前に、子供たちは女性に引っ張られて去っていった。

 

 テゾーロは、ぽかんと一連の流れを眺めるしかなかった。

 

 

 

 

 

 あの日と同じ、輝いた瞳が目の前にある。

 

「あの日、ダイアゴン横丁へ買い物に行ったら」

「君が道で歌っているところを見つけて、興味が湧いたんだ!」

「なんで、ダイアゴン横丁で歌っているんだ?」

「いつからあそこで歌ってるの?」

 

 矢継ぎ早に言葉が飛んできて、答える間もなく今度はテゾーロの頭に視線が向いた。

 

「その髪は染めているのかい?」「緑ってクールだね!」

「お、おい!」

 

 眼前に同じ顔が迫り、仰け反る。きらきらとした、好奇心に染まった瞳がテゾーロを見つめた。

 こんな人に寄られるのは始めてだ。あるとすれば、金を奪おうとしたスリとの争いか、酔っぱらいに絡まれたときくらいしかない。

 

「お、お前たちに何の関係があるんだ!」

「関係がなくたって、僕らには興味がある!」

「興味があることを知りたいと思って、何がおかしいんだい!」

「うっ……」

 

 勢いに飲まれ、言葉が喉に詰まる。

 

 どうにか逃げられないかと、視線をあちこちに彷徨わせる。いつの間にか周囲の人影が減っていた。テゾーロ達が入口を塞いでいたせいで、別の乗車口から乗り込んでいたようだ。今も迷惑そうな顔をした女の子が踵を返していった。

 

 二人をどうにか押し返そうとしていると、以前と同じように女性の声が割って入ってきた。

 

「ジョージ! フレッド!」

「「げっ」」

「そんなところで何をしているの! 早く荷物を積み込みなさい!」

「「母さん、ちょっと待ってくれよ!!」」

 

 恰幅のいい女性が、眉をつりあげながら近寄ってくる。

 双子の意識が離れた隙に、背中を向けて汽車の入口へと滑り込んだ。後ろから「「あっ」」と声が聞こえたが無視して、扉を閉じる。

 

「ふう……」

 

 外の喧騒が途切れて息を吐く。……なんだか、どっと疲れた気がする。

 

 改めて、乗り込んだ車両の中に視線を向けると、ざわざわと小さく話し声が聞こえた。

 入口で足を止めている内に、多くの生徒が乗り込んだようで殆どのコンパートメントは埋まっていた。

 

(あいつらのせいだ……)

 

 テゾーロは唇をひん曲げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 開かれっぱなしの扉からコンパートメントを覗き見る。

 中では2人の男の子が向かい合って座り、会話に夢中になっていた。座席にはまだゆとりがある。

 

「ここ、座っていいか」

「「!」」

 

 通路から声を掛けると、ぱっと視線が向けられた。

 くるくるとブラウン色の癖っ毛を持った男の子が笑顔で答えた。

 

「うん、いいよ!」

 

 テゾーロはコンパートメントに入ると、トランクを網棚へと持ち上げた。

 

「わあ……! 君、髪の毛が緑なんだね」

「ん、ああ……母さんが同じ色だったから、気にしたことがなかった」

「へえ! お母さんと一緒ってことは、家族的なものかな」

 

 手が空き、黒髪をひとつに纏めた男の子の隣へと腰掛ける。隣でぱちりと目があった男の子は、気品ある微笑みを浮かべた。

 

「御機嫌よう。僕は、サイラス・ペニントン」

「……テゾーロ・ギルドだ」

「僕、リアム・ホーソーン! テゾーロは1年生?」

「ああ」

「なら僕達と一緒だ!」

 

 自己紹介され一瞬言葉が詰まるが、どうにか名乗れた。

 明るく笑うリアムも、落ち着きある雰囲気のサイラスも、ノクターン横丁にはいないタイプの人間だ。

 

「僕、ママが魔法使いなんだけど田舎暮らししててさ。こんなに沢山の魔法使いを見るの初めてだよ」

「? 人が少ないのか?」

「うーん、確かに村の住民は50人くらいしかいないけど、そもそも村にいる魔法使いがママとお隣のマギーおばさんぐらいだったんだよね」

「そんなマグルの多い村に住んでいたのか!?」

 

 ぎょっと目を見開く。

 

「あはは、やっぱり驚く? さっきサイラスにもびっくりされたんだよね」

「魔法使いがマグルに扮して過ごすのは不便だろう」

「マグルの生活もそんなに悪くないんだけどねー」

 

 リアムはおかしそうに身体を揺らして笑う。ちらりと横目でサイラスを覗き見る。背筋を伸ばして座席に座る彼の顔に侮蔑の色は浮かんでいない。

 

(純血貴族かと思ったんだが、違うのか?)

 

 と、盗み見ていたサイラスと目が合い、身を固くした。サイラスはくすりと笑った。

 

「もしかして、純血貴族だと思ってる? 正解だよ」

「!」

 

 目を見開いたテゾーロに、サイラスは少しだけ身を乗り出すようにして、小声で続けた。

 

「でも、僕は純血主義ではないんだ」

「……そうなのか?」

「うん。この話はここだけにしてくれ」

 

 身を起こしたサイラスはまた綺麗に微笑んだ。

 

「びっくりするよね。僕も最初身構えちゃったけど、サイラスは全然違うんだよ!」

「あまり、そういった人たちと関わりがあるわけじゃないけど……珍しいのはわかる」

 

 それからハッとして、慌てて入ってきた扉を閉じた。2人はきょとりと同じ顔をした。

 

「内緒話をするなら、こんな開けっ放しにしてたら駄目だろ!」

「ああーそっか! ごめん、全然気にしてなかった!」

「いや、僕も気づいてなかった」

「迂闊過ぎる……」

 

 リアムと一緒に呑気なことを言うサイラスを見て、テゾーロは不安になった。

 大人っぽく見えていたサイラスも、まだ子供だということなのか。それとも、割と抜けている性格なのかもしれない。

 

「おいそれと話してよかったのか? 俺とは初対面なのに」

「? テゾーロは純血貴族じゃないだろう? ギルドなんて聞いたことがない」

「俺が純血貴族じゃないからといって、危険がないわけじゃないだろ。もし、今の話を利用しようとしたらどうするんだ」

「利用……?」

 

(……貴族はこういったことに対して、しっかり教育を施しているんじゃないのか)

 

「俺が話さない代わりにって、脅したらどうするつもりなんだよ」

 

 眉を寄せて言うと、サイラスははっと目を見開いた。

 

「サイラスがマグルを嫌ってないのは分かった。けどな、そういう隙を見せると騙されるぞ。マグルだって魔法使いだって、悪い奴はいくらでもいる」

「え! みんなはそんなことしないよ!」

 

 リアムが思わずといった風に立ち上がる。テゾーロは静かに目を合わせた。

 

「お前……いい奴らばっかりの村で育ったんだな。世の中、そんな優しい大人ばかりじゃない」

「それは、そう、かもしれないけど……」

 

 肩を落として、リアムが座席に腰を落とす。

 

(ここで反発せず受け止めるあたり、素直な奴だな)

 

 村で育ったという割には、リアムは狭い世界に拘泥しないようだ。

 

「わかっていると思うが、サイラスの考えを純血主義者に聞かれたら面倒だ。周りと異なることをするのは別にいいが、もっと警戒しろ」

「……テゾーロはよく考えているんだな。僕は両親の教えに反発するばかりで、そこまで思い至ってなかったよ」

「サイラス……」

 

 サイラスは目を伏せて項垂れた。その様子に、少し罪悪感が湧く。

 

(言い過ぎたか……?)

 

 3人共口を閉ざしてしまい、コンパートメントに気まずい空気が流れる。テゾーロは失敗したと、目線を迷わせた。

 

 ――と、突然リアムがパンッと、手を叩いた。その音にサイラスとテゾーロはビクリと肩を震わせた。

 

「よし、わかった! これからは気をつけよう! ねっサイラス」

「え、ああ、うん……」

「テゾーロも、サイラスが注意するって言ったからいいよね?」

「あ、ああ……」

「じゃあ一旦この話は終わり! ホグワーツに着いたら、何を食べるか話そう!」

「なんで食べ物の話なんだ。そこはどの寮に行くかとか、何の魔法を学びたいかとかじゃないのか」

「えーだってホグワーツだよ。絶対に美味しい料理いっぱい出るって!」

 

 明るい空気が戻ったことに、ほっと安堵の息をつく。

 ホグワーツを目指す列車の中、3人は話し続けた。

 

 

 

 

 

 

「イッチ年生! イッチ年生はこっちだ!」

 

 子どもたちの2倍はありそうな、もじゃもじゃと髭を生やした男がカンテラを掲げながら叫ぶ。新品の制服に着替えた3人は、汽車から降りてその声に視線を向けた。

 

「あれ、ハグリットだよね。うわー本当におっきい」

「ハグリット?」

「知らない? ホグワーツの森番だよ。禁じられた森を管理している人なんだって」

 

 へえ、とテゾーロは顔を戻して、遠くに立っている大きな影を見た。

 

 ハグリットが先導するのに従って、1年生達がぞろぞろと歩き出す。テゾーロ達も列に加わって、暗い森の道へと進んでいった。

 テゾーロが木の根を避けて歩いていると、リアムを挟んで反対側にいるサイラスが地面の盛り上げている部分に足を引っ掛けた。

 

「うわっ」

「っと、大丈夫?」

「あ、ありがとう」

「この道、子供に歩かせるようなところじゃないだろ」

 

 道は凸凹で不安定だ。暗さも手伝い、転んでもおかしくない。現にサイラスはリアムに支えられたが、前方では人影が転んで倒れているのが見えた。

 

「2人とも、よく普通に歩けるね」

「僕は舗装されていない道になれているから」

「俺は……暗い場所でも結構見えるから、か?」

「凄いな……」

 

 遠い目をしているサイラスをリアムが肩を叩いて励ました。

 

 暗い木々の合間を抜けると、視界が開け、銀色に光る湖面が月明かりを反射して揺れていた。

 

 その奥には、悠然とそびえるホグワーツの城が見えた。石造りの壁は暗く、闇に沈んでいるかのようだ。しかし、窓から漏れる明かりがぽつぽつと灯り、城全体を優しく包み込んでいた。

 幻想的で圧倒される風景に、そこに立つ1年生全員が息を飲んだ。やがて、抑えていた歓声が一斉に湧き起こった。

 

「あれが、ホグワーツ……」

 

 これから7年間、あの城で暮らすことになる。

 

 

 

 

 

「こっからボートに乗って城を目指すぞ! 1つのボートに4人までだ!」

 

 ハグリットの声に、子どもたちが次々とボートへ乗り込む。テゾーロ達も空いているボートへ向かった。

 

「あと1人乗れるけど、誰か乗るかな?」

 

 リアムはあたりを見回すと、立ち止まって戸惑っている女の子を見つけた。

 

「あ、おーい! こっち空いてるよ!」

 

 大きく手を振るリアムの声に、女の子は顔を上げ、小走りでボートへ近づく。

 「こっちこっち」と誘う声に、少し息を切らしながら、女の子はボートへと乗り込んだ。

 

「ありがとう。1人だったから、どこに乗ればいいのかわからなくって」

「どういたしまして。僕はリアム! こっちがサイラスとテゾーロ!」

「フィービー・リーヴスよ。ママとパパは私のことをフィーフィって呼ぶの」

「フィーフィだね。宜しく!」

 

 既にフィービーと笑顔で会話をし始めたリアムのコミュケーション能力が恐ろしい。テゾーロとサイラスは、フィービーが乗り込んでから貝のように、むっつりと口を噤んだ。女の子との会話の仕方など知らなかったのだ。

 フィービーも社交的な性格らしく、恐れることなくサイラスに話しかけた。

 

「サイラスは、綺麗な黒髪をしているのね」

「え、僕……?」

「うん。私は見ての通り、酷く広がった髪でしょ? サイラスみたいな真っ直ぐな髪が羨ましいわ」

 

 そう言ってフィービーは自身の薄いベージュ色の髪を撫でた。確かにふわふわと広がっているが、テゾーロには何が駄目なのかよくわからない。

 

「えー、僕はフィーフィの髪の毛もふわふわして可愛いと思うけどなあ」

「えっ! あ、ありがとう……」

 

 赤くなった頬を、フィービーは髪で隠すように前に寄せた。

 

(……なるほど、褒めれば良かったのか)

 

「皆乗ったな? よおし、進めえ!」

 

 ハグリットの掛け声とともに、ボートはゆっくりと湖を進みだした。漕ぎ手もいないのに、前へ進むのはボート自体に魔法がかかっているのだろうか。

 

「皆は魔法使いの家に生まれたの? 私は両親が魔法使いじゃなかったから、本当にびっくりしたわ」

「そうなんだ! 僕は、ママが魔法使いだよ。といっても、マグルの村に住んでいたから殆どマグルみたいなものだけど」

「マグル?」

「魔法を使えない非魔法族のことをマグルと言うんだ」

「へえ、そうなのね。サイラスとテゾーロは魔法使いの家? それともマグル?」

「俺は魔法使いの両親の元で生まれた」

 

 サイラスにマグルか問いかけるフィービーに、一瞬ヒヤリとする。

 ノクターン横丁にいたのは後ろ暗いことを目的とした貴族ばかりだ。その過激さもよく噂として囁かれていた。雑談でも誰かに聞かれたら、どうなるかわからない。サイラスは「僕もだ」と何も気にせず頷いているが。

 

「ということは、皆これまで魔法をつかってきたのね。いいなあ」

「杖がなければ、暴走か、ちょっとしたことしかできないさ」

「そうそう。僕もやっと杖を買ってもらえたから、これからじゃんじゃん使うつもりだよ」

「マグルの村で魔法を使うのは危ないだろ」

「えっへへ、勿論わかっているよ!」

「一応言っておくけど、ホグワーツの外で未成年が学校外で魔法を使うのは法律違反だよ。退学になってしまう」

「ええっ! た、退学!?」

「まあ、抜け道がないわけじゃねえけど……」

 

 子供は魔法で監視されていて、魔法を使えばバレてしまう。が、誰が魔法を使ったかまでは判別しない。つまり、近くに大人がいれば誤魔化せてしまう。

 テゾーロが拠点にしているノクターン横丁など、それこそ誰が魔法を使ったのかなどといちいち気にされない。以前酒場で、淀んだ目をした若者が『ここなら魔法でやらかしても見逃される。ま、流石に連発すればバレるけどな』と言っていた。

 

 

 

 気づけば、ボートは崖下の岸辺へと辿り着いた。

 

 まず始めに降りたリアムが振り返ってフィービーに手を差し伸べた。

 少し戸惑ったようだが、フィービーはリアムの手を取ってボートから降りた。

 

 それを後ろから見ていたテゾーロは、同じようにサイラスに手を差し出した。サイラスは『なぜ僕に……?』と言いたげに一瞬眉をひそめて仏頂面になったが、断るのも気まずかったのか、やがて黙って手を取った。

 サイラスの反応を不思議に思いつつ、手を引っ張って岸に降ろした。

 

「ぷっくくく」

「……ちょっと」

「? 何を笑っているんだ?」

 

 リアムはテゾーロ達の様子を見て、口に手を当てて肩を揺らしている。サイラスが憮然として、リアムをじとりと睨んだ。

 

(笑うようなことあったか?)

 

 不思議そうな顔をしたテゾーロに、リアムが半笑いのまま口から手を離した。

 

「あー、テゾーロって意外と天然?」

「?」

 

 リアムの言っている意味がわからず、テゾーロは瞬きをして首を傾げる。知識が偏っている自覚はあるが、これは一般魔法使いで通じる話なのだろうか。

 サイラスに背中をつつかれて、リアムは崖に沿うように延びている狭い階段に足をかけた。フィービーとテゾーロも後に続いて踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




サイラス「僕をエスコートしなくていい!」

テゾーロの髪色は、魔力影響で色素が変わる家系(という設定)。本人知らないけど。
性格については、777巻にある仏頂面した12歳の姿から想像しています。

次はいよいよ組分けです。寮は既に決まってますが。
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