オーク族と言えば今や色々な創作で花形の雑魚キャラですね。
いつの間にかゴブリンが淫乱で残虐な子鬼にされたりしている中(元はただの妖精なんだが……)、オーク族はすっかり豚顔の亜人として、主にウス=イ本などで活躍しているようですね。ハハハ。
そんなオーク族の集落に、最強無敵の転生者が現れました。
そうなればどうなるかおわかりですね。
蹂躙です。
オーク族と言われる者達がいる。それらは人間に比べれば体格は優れているものの、その世界では決して強い存在ではなかった。
魔法を使う生物がいくらでもいる世界である。
多少人間より屈強、という程度では全く通用しない世界だったからだ。
知能については、衣服をまとい、簡単な武器を使うことくらいは出来る。
だけれども、人間によく顔が似ていると揶揄される豚ほど強靱ではない。
豚は場合によっては熊ほどまで体格が大きくなり、その突進力は凄まじい。顎の力も凄まじく、噛み付かれでもしたら腕ぐらいは平気で噛みおられてしまう。何より雑食な上に、何を食べても腹を下すこともないし。どんな毒蛇にかまれてもけろっとしている。
イノシシはさらに凶暴性が強い。
このため、オーク族は、豚の方が強いことを認識して。
狩るときには、戦士達が数を集めて対処しなければならないのだった。
豚くらいの生命力があったら、どれくらい楽だっただろう。
人間はよく言う。
人間の女を襲って孕ませるとか。
冗談じゃない。
人間の中にも、それは豚に欲情する物好きがいるかもしれないが。オーク族にも、人間に欲情する物好きがいるかもしれない、程度の話である。
ましてや強欲の化身だとか暴虐だとか。
人間に言われるのは迷惑極まりない。
そう考えるオーク族は多い。
おまえにだけは言われたくない。
そういうことである。
人間とはどうしても縄張りなどで争いが生じることはある。少数の相手だったら勝てることもある。
だけれども仮に勝ってもすぐに何倍もの規模で攻め込んできて、あっという間にめちゃくちゃにされてしまう。
魔法を使う人間なんていた場合は、もはや戦うどころではない。
だから他の猛獣がそうするように。
オーク族も人間相手には、基本的に距離をとるのが当たり前だった。
人間こそ、オーク族を言葉が通じる獣程度にしか考えていない節がある。
奴らの都市だとか言う場所に連れて行かれたオーク族が、どれほど残虐に見世物にされて殺されるか。
想像も出来ないほどだ。
そして今も。
オーク族の一つ、赤牙族の村は、人間に襲われ。
まるでオモチャのように蹴散らされ。
女子供を逃がす暇すらなく。
屈強な戦士達も為す術がなく。
へらへらと笑っているらしい(表情どころか、男女すら見た目ではよくわからないのだが)滑稽な銀を中心とした色味の鎧を着込んだ人間に、土下座をして許しを請うしかなかった。
「降参いたしますお強い人間のお方!」
「なんだ手応えがないな。 でかい図体で情けなくないのかよ」
そう言って、人間は近くの地面を蹴りつける。
それだけで、地面がぐわんと揺れた。
気絶している女もいる。
赤牙族の長であるバルハラントは、ひたすら這いつくばるしかなかった。
人間にたまに同族が襲われることがある。
同じように、ゴブリン族も襲われることがあるらしい。
たまにとんでもなく強い奴が、一人もしくは数人でやってきて、生活しているところに襲ってくる。
その場合は、勝てないからさっさと頭を下げて、全面降伏しろ。
それが既に鉄則として知られていた。
バルハラントだって頭なんか下げるのはいやに決まっている。
だが、一族を守るためである。
ましてやこいつは明らかに力が常軌を逸している。
とてもではないが、戦って勝てる相手ではないのだ。
やはりたまに姿を現す輩だとみて良かった。
「ほんの少しだけしかスキルを使っていないのにな。 弱すぎて話にならねえんだけれどよ」
「お見それいたしました。 大変お強いお方」
「ハ、わかってるじゃねえか。 あの転生神の奴、転生特典は一丁前のものをくれたようだな。 ステータスオープン!」
なんかよくわかないことを言っているが。
その中で、聞き覚えのある言葉があった。
転生。
それは確か、異常な力を振るう人間が、そろって口にする言葉らしい。
それを口にして、ステータスだとかスキルだとか言い出したら、もうそれは災害にあったと思え。
逆らったら文字通りなで切りにされる。
だが、逆らわずに、従っていればいい。
とにかく褒めろ持ち上げろ。
それが生き残るために必須だ。
それはバルハラントも知っていた。
他のオーク族達よりもだいぶ体格が優れているバルハラントだが、それでもイノシシや熊を単独で相手にする力はないし。
生きるために他の種族と交易しながら、情報を集めてもいる。
顔を上げても人間は怒らなくなった。
それで、他の者達に、軽く言う。
逆らうな。
とにかく従っていろ。
そう言うと、他の者達も、頷いていた。
まあ恐怖で身動きできない者も多いのだが。
「ヒャハハ! おまえらレベル5とかかよ! 俺のレベルは9999だぞ!」
「はあ、すばらしゅうございますな」
レベルとはなんだかわからないが、ともかくすごいらしい。
その人間は、素直に従ったことで気が良くなったのか、飯を用意しろとか言い出した。そして、昨日苦労して仕留めた交易用の鹿の皮に座り込むと、なんだか変な道具を使って涼み始める。
同族の者が耳打ちする。
「毒でも盛りましょうか」
「やめておけ。 どうせ通じぬ。 あれはさっき聞いていたが、おそらくは転生者だ」
「あの、災厄と言われる」
「そうだ。 だから、今はとにかく従っておけ。 そうするしかない。 逆らうそぶりは絶対に見せるなよ」
もし逆らいでもしたら、蹴り一発で地面を揺るがしたあの力が皆に振るわれるのだ。そうなったら、一瞬で肉袋としてはぜるだけである。
そのまま、女達に一番いい肉を調理させて、出させる。
これは病人などのためにとってある干し肉なのだが、それでも出させる。皆の安全の方が大事だ。
「出来ました。 粗末なものですが」
「お、焼いた肉か? なんだ、意外といいもの出してくるじゃねえか。 ナイフとフォークは?」
「申し訳ありません。 そういうものはわかりません」
「ちっ、つかえねえ。 まあいい。 確かこうやって、アイテムボックスを使って……いや、インベントリだったか」
訳がわからないことを言いながら、何やら空間を触っていたが。そこから道具を取り出す人間。
それを使って食べ始める。
うまいうまいと食べているが。
それを作るのに苦労したし。
何より緊急時に力をつけるための非常食だ。
悔しくないはずがない。
ともかく、機嫌が良くなったのはいいことだ。この存在が、見た目とは違い、人間とはかけ離れていることはわかりきっていた。
幸いと言うべきか。
この転生者と名乗る人間とその同類は、オークの女子供には興味を見せないという話である。
ゴブリン族の場合は文字通り見た瞬間殺しにかかってくることも多く、そういう場合はバラバラに散って逃げるしかない。
コボルト族の女子供はさらに悲惨で、彼らが好む容姿をしているらしいので。
それこそ、誰もが目を背けるような仕打ちを受けることも多いらしい。
「はー、うまかったぜ。 それにしてもむさ苦しいな。 いい女いねえか。 猫耳生えた種族とかいねえの?」
「猫の耳が生えた種族ですか? 人間に近い姿をした?」
「そうそう。 そういう奴」
「聞いたこともございません」
舌打ちされる。
そもそも猫の耳がついている人間とは何か。
オーク族にしても豚に似ているとは言われるが、生物的には全く豚とは違う存在である。
人間の耳だけ猫になっている種族がいるのか。
この人間の世界には。
人間の機嫌を損ねないように、一番いい寝床を用意する。戦士達は相当いらだっているようだが、なんとかなだめる。
「お強い方、どうお呼びすればよろしいでしょうか」
「そうだな。 転生神に剣聖と大賢者のスキルをもらったからな。 聖剣士レット様と呼べや」
「聖剣士レット様でございますね」
馬鹿かこいつ。
そう思ったが、素直に褒めておく。
何が聖剣士だ。
こいつのどこに聖の要素がある。賢者とか言っていたが、こいつほど賢者とほど遠い人間もいないだろうに。
とにかく、伝承通りに対応していくしかない。
「そうそう、わかってるな。 お前容姿からしてオークだろ。 もっと頭が悪くて要領も悪いかと思ったら、使えるじゃねえか。 バイト先のクソ店長とは偉い違いだぜ。 しばらくは俺の第一の弟子にしてやる。 泣いて喜べ、ええと」
「バルハラントにございます」
「じゃ、バルハと呼ぶからそれでいいな。 じゃあ俺は寝るから、誰も近づけるんじゃねえぞ」
「承知いたしました」
寝に入るレットとやら。洞穴の中だから、音も入りにくい。
洞穴から外に出ると、皆を集める。
キレそうになっている戦士も多い。
それはそうだ。
押し込み強盗に加えて、好き勝手に飲み食いまでしている奴を、何が悲しくて歓待しなければならないのか。
「いきなり人の集落に押しかけてきて、なんだあいつは」
「人間ですら暴力をここまで一方的に振るってくることはないぞ」
「皆、不満はわかるが抑えろ。 奴は間違いなく転生者だ。 逆らったら確定で殺される。 今は怒りを飲み込め」
「しかし族長。 あいつがさっき食い散らかした肉は」
わかっていると、バルハラントはなだめる。
それに伝承通りなら、これからどうにか出来るかもしれない。
「ヒスナ」
「はい」
前に出たのは、赤牙族の若者の一人だ。バルハラントより二回り小さいが、オーク族は年をとるだけ大きくなる。
いずれ族長になるかもしれない者だ。
「伝言だ。 とくに東のコボルト族に伝えてこい。 転生者が出た。 できる限り離れろ、とな」
「はっ」
「エルフ族はどうします」
「考えがある」
エルフ族。
東の森に住んでいる種族だ。
人間から見て美しいらしいが、オーク族の目からは細すぎて枯れ木のようにしか見えない。
人間はエルフ族をオーク族が捕まえて孕ませるとか信じているらしいが、はっきり言って冗談じゃない。
それに、あいつらは曰く付きだ。
絶対に関わらないことが、皆の間で鉄則になっている。
人間ですら、たまにエルフ族の各地にある集落に仕掛けては、手痛く反撃を受けて逃げ帰っているのである。
数でも技術でも人間に及ばないオーク族が勝てる相手ではない。
「コバルラ」
「はい」
返事をしたのは、オーク族の戦士の一人コバルラ。
バルハラントの娘婿であり、次の族長だ。
コバルラには、何があっても生き残ってもらう必要がある。
「俺はどうにかレットをエルフ族に興味を持つように誘導する」
「しょ、正気ですか」
「転生者は災害だ。 放っておけば際限なく災厄をまき散らす。 誰かが食い止めなければならないんだ」
うめき声が上がる。
気持ちはわかるが。
ここでどうにかしておかなければならないのだ。
奴は気分次第で殺戮を行うような輩であり、このままでは他の種族達も餌食になる。
勿論種族が違えば縄張り争いなどは起きる。
それはわかりきっている。
それでも、越えてはいけない一線がある。
人間側もそれはわかっていて、絶対のタブーは犯さないようにしている。そうしないと、絶滅するまでの殺し合いになるからだ。
それだけは、どの種族も望んでいない。
それを平気で破るのは、転生者だけだ。
「コバルラ、お前はどうあっても生き残れ。 俺はエルフ族に殺される可能性が高い。 だが、それは一族を守るためだ。 必ず生き残り、俺がやったことを伝えろ。 それで次の転生者に備えろ」
「わかりました……」
「それにしても転生者ってなんなんでしょうね」
「さあな。 災厄としかわからん。 いろいろな肩書きを名乗るらしいが、いずれも実態と乖離しているのが特徴だそうだ」
バルハラントの妻は既に死んだ。
それもあって、娘と娘婿が生きていれば、それでいい。
一族を守るためだ。
族長としての役割を果たすために死ぬのであれば、バルハラントはそれで良かった。
翌日。
起き出してきたレットは、大あくびをしながら飯、とのたまう。
とりあえず、仕留めてあったイノシシの肉を出す。がつがつとむさぼり食いながら、ああだこうだ文句を言うレット。
そうでございますなと、とにかく機嫌を損ねないようにバルハラントは務める。
「聖剣士レット様は、どのようなことをなさりたいので」
「ありとあらゆる全てを手に入れたいな。 権力だろ、女だろ、それと名声な。 女は勿論、ポリコレがどうだの権利がどうだの言わない従順な奴に限る。 だから奴隷が一番だ。 奴隷の女を見繕いたいが、猫耳か何かのいねえかなあ」
「猫耳の人間はわかりませんが、エルフ族は人間から見て美しいと言われています」
「エルフがいるのか」
食いついた。
勿論、このときバルハラントは死ぬ覚悟を決めている。
だが、それは口には出さない。態度にも出さない。
散々修羅場はくぐってきたのだ。
この程度、屁でもない。
それに、バルハラントは見抜いていた。このレットという人間、異常な力を持っているだけだ。
戦闘経験は皆無に等しい。
それどころか、他の様々な経験もほとんど積んだことがないだろう。それが、言動の節々からわかる。
「東の森に集落を構築しています。 数百人ほどがいるはずです」
「いいないいな。 お前ら、森を焼けよ。 焼きだして、それでいいのを適当に俺が奴隷に見繕うからよ」
「今の時期は雨期で森が燃えにくく、多少放火したところでどうにもなりません。 少なくとも我らにそのような手立てはございません。 ここは聖剣士レット様が、手づから見本をお示しくだされ」
「ちっ、つかえねえな。 所詮はオークかよ」
エルフ族は森の守護者だ。
森に火をつけて焼き出すだって。
そんなこと、無理に決まっている。
火をつけたら即座に風向きを操作されて、火はこちらに襲いかかってくるとみていいだろう。
だいたいさっきも説明した通り、森なんて乾期でもなければそうそう燃えはしないのだ。
乾期に火をつけてすらも、おそらく相当成功の確率は低いだろう。
「面倒くせえ。 油はねえのかよ」
「油は貴重品です。 人間達ですら、そう大量に用意することは出来ません」
「なんでだよ。 たかが油だろ」
「まともな燃料になるような油は、どのみち簡単に大量には作れないのです」
これは本当だ。
転生者は基本的にまっとうな知識が著しく欠落していると聞いている。
だから驚くことはない。
とにかく褒めながら、出来ないことは出来ないと言っていくしかないのだ。
「小麦粉はねえのかよ。 粉塵爆発は出来ないか」
「小麦を粉に挽いたものですか。 人間の農村などにはあるとは聞いていますが、我らの集落にはありません。 乾燥した粉を空気中に舞わせて火をつける方法については聞いたことがありますが、その粉がよほど可燃性が強くない限り、たいした火力は出ないのが実情です」
「そうなのかよ」
「前に人間が小麦粉でその粉塵爆発?をやっているのを一度見たことがありますが、とても森を焼くような火力は出ません。 やはりここは聖剣士レット様のお力を持って御行動ください」
話していてわかる。
やはりこいつ、まっとうな知識が著しく欠落している。
人間の中にも、聞きかじった知識だけで賢人と思い込んで、実際に物を知っている人間を馬鹿にしてかかる輩が多数いるらしいが。
それと同じだ。
それに気づいていないのなら、この作戦はうまくいく。
こいつには、通用する手札がバルハラントにはない。
だが、エルフ族は違う。
あいつらは手を出してはいけない相手なのだ。
「火を吐く魔物とかはいないのか」
「遙か西の方にいるとは聞きますが、噂以上ではありません。 いるとしても、おそらくは神の下僕であって、とても我らで従えられる相手では……」
「ちっ。 たかが火をつけるのに、俺が出なければならねえのかよ。 くっそ面倒くせえ。 俺の世界にいた頃と同じだな。 どいつもこいつも使えやしねえ」
吐き捨てるレット。
おそらく、それはこいつ自身が一番鏡を見なければならない案件だろうなとバルハラントは思ったが。
ただへりくだって、今は機嫌をとるしかなかった。
裏話ー。
転生者の名前ですが な ん と 本 名 で す。
馬鹿な親がアクセサリ感覚でつけて、後で市役所で改名されるようなあれですねはい。