森の中を歩くことは極めて危険です。
専門知識がなければあっという間に迷いますし、都会では遭遇しない動物や虫とも鉢合わせます。熊なんかも致命的ですが、もっと手近でやばいのはスズメバチですね。森の中なんかで襲われたら最悪助かりません。
それをオーク族は熟知しています。狩猟民族なので。
トラップだ。
こういうのは知っている。だから、必死に皆散開して逃げる。思い切り引っかかったレットは、顔面を丸太に砕かれて。
更に落とし穴に落ちていた。
肉が貫かれるいやな音。
おそらく、埋められていた槍とか鋭くとがらせた木の枝とかに串刺しにされたのだろう。
皆も慣れてきた。
だから、レットが死んだかどうかとか、確認はしない。
案の定、落とし穴が凄まじい炎に包まれて。
それで、無傷のレットが這い出してくる。
「舐めやがって、舐めやがって! エロ同人でオークに犯されるのが定番のクソ雑魚種族の分際でよ!」
「えろどうじんとは何でしょうか」
「黙ってろ脳タリン!」
わめき散らすレット。
バルハラントは黙る。
今、此奴を刺激するわけにはいかない。
転生者はどうしてかオーク族やゴブリン族、エルフ族のことは知っている。それは理解していたのだが。
今の発言を聞く限り、やはりそれらに対する知識は偏っている。
それでいい。
正しい知識を得られないまま、戦闘に赴けば。
どれだけ図体がでかい奴でもひとたまりもない。
大きな熊を何回も倒したことがあるバルハラントだが。
熊と真正面からやりあうつもりはないし、単騎で勝てるとも思っていない。
あれは人数をそろえ、槍などの武器や毒矢をそろえ、ゴブリン族やコボルト族、場合によっては人間から買った猟犬も用い。
それで少しずつ追い詰め、足跡などを使った狡猾な罠などにも気をつけながら倒していく相手だ。
熊ですらそれである。
エルフ族なんて、オーク族で倒せる相手ではない。
どこから得た知識か知らないが、今レットが口にしていたえろなんとかという書物は、レットが幼い頃にでも読んでいた学術書か何かだろうか。
だとするとそれを書いた奴はアホだ。
そんなものを読んでいたから、此奴はアホになったのだろう。
それだけは同情する。
だが、それ以外は、一つ足りとて同情できないが。
更に言うと、レットは気づいていない。
今まで罠に引っかかったのはレットだけだ。
これはつまり、レットがまともな森の中の歩き方や、罠への警戒の仕方も知らないということだ。
実戦に対する知識もないし。
恐らくはこういった罠の恐ろしさもわかっていない。
もう、バルハラントにも見えてきている。
エルフ族はレットの存在にとっくに気づいていて。
何ができるか、手札を一枚ずつ暴いている。
「なんか木の枝の上にいたぞ!」
「猿にございます」
「いや、その割には大きかった!」
「猿の中には、人間より大きくなるものもおります。 オーク族の先祖になったと言われる赤猩々は、素手限定なら人間などたやすく引き裂いてしまうほどで」
それを聞いて、舌打ちするレット。
いくぞと、大股で歩く。
蛇を見て、有無を言わさず焼き殺す。
虫がいたら、雷を放って全部まとめて殺す。
歩くたびに死体が増えていく。
本当に気にくわない相手は殺すことしか考えていないんだな。それらも、見ていて理解できる。
「だからいやなんだよ。 蛇とか虫とか、下等生物に存在する何の意味があるんだよ」
「いずれも頂点捕食者を支えるために必要な存在にございます。 生物は小さなものをより大きなものが食べていきますが、それは極めて微細なバランスで成り立っている難しいものです。 最初にある栄養を細かい生物が分解して栄養にし、それを少しずつ集めて大きな生物に行き渡りますが。 干ばつなどが起きると、大きな生物から倒れていく。 それは、そういった生物の命の流れが、うまくいかないからにございます」
「うぜえ! そんな理屈はどうでもいいんだよ! 俺がきめえと思ったら、全部死ねばいい! 俺が聖剣士で、世界のルールだ! 俺がいらねえと思った生物は、全部いらねえんだよ!」
「左様にございますか」
此奴、気づけていない。
先ほどから聖剣士レット様と呼ばなくなっていることに。
此奴のどこが聖なのかとは、最初から思っていたが。どんどんそんな敬称を使うに値しない相手であることはわかってきているし。
何よりも、気づいていないのならそれでいい。
こんな奴を様付けするだけでも反吐が出る。
此奴と心中することになるのも癪だが。
すべては一族の皆を守るためだ。
また罠に引っかかった。
左右から飛び出してきた槍に、全身をズタズタに貫かれるレット。それどころか、今度は岩も転がってきた。
左右に跳べ。
叫んで、バルハラントも横っ飛び。
大岩はレットを挽きつぶしながら転がっていく。
森の中の起伏を、完璧にエルフ族は把握している。
こういう罠は、事前に作られていたものだ。そして何よりも、見ていて理解できるのだが。
対転生者対策だ。
他の存在なんかは、それこそうるさいようなら最初に森に入った時点で得意の射撃で貫いてしまうのだろう。
それができるだけの能力がエルフにはある。
此奴が提案していた火攻めなんて、おそらく乾期でも通用しない。
転生者の防御を簡単に貫通してくるのである。
いきなり大雨を降らせて乾期にあるまじき天候にするくらい、エルフ族ならやりかねないし。
何よりそれ以上の強烈な魔法で。
火なんか一瞬で消し飛ばしてもおかしくはなかった。
潰れたレットは、原型がないくらいの無残な姿になっていたが。
やがて肉が寄り集まり、すぐに人の形に戻っていく。
全裸だったが、別に筋肉がついているわけでもなんでもない。
スキルだとかステータスだとか言っていたが。
それら頼りの強さなのだと、一目でわかる。
やがて鎧やら衣服やらも回復する。
しばらく意味もなさない言葉をがなり立てていたので、近づかないように皆に促す。それで、地団駄踏んでいるレットに、しばししてから歩み寄った。
「無事にございましたか」
「この程度で死ぬかよ! おまえら、何してやがった!」
「我らのような非力な存在は、逃げ惑うだけで精一杯にございます」
「はっ、まあそうだよな。 おまえらなんぞ、俺たちの経験値になるだけの存在でしかねえもんな! エロ同人での竿役くらいしかてめえらには存在意義もねえしな!」
なんか馬鹿にされているようだが。
そもそも知らない単語だらけなので、どう馬鹿にされているのかさえわからない。だから痛くも痒くもない。
ただ恐縮してみせる。
そうすると、機嫌がよくなったレットは、いくぞとわめき散らした。
ちなみに歴戦を経た戦士のような威圧はまるでない。
破落戸のような相手を威嚇する技術を持っているわけでもない。
ただ癇癪を起こしているだけだと一発でわかる。
森の中を当てもなく歩き回り始めて、すでに一日。
オーク族は体内に厚めに脂肪を蓄えているため、二三日は食べなくても平気だ。
それはそれとして、レットは今までに十四回罠に引っかかり、そのたびに周囲に癇癪をぶつけている。
生物はどれもこれも見かけ次第殺しながら進んで。
邪魔な木も茂みも、まるごと切り裂いて焼き払っている。
そんなレットに時々攻撃が飛んでくる。
そのいずれも、レットは回避することなどかなわなかった。いずれもすべて直撃し、そのたびに再生していた。
学習能力に著しく欠ける。
それは見ていてわかる。
オーク族でも、図体がでかいだけでは族長になれない。
だから、失敗を若い頃からさせる。
そうして学習させる。
痛い思いをして、それでやっと学べる者も少なくない。バルハラントも、若い頃はそうだった。
だから左手の指はいくつか欠損しているし。
腹にも胸にも一生ものの傷がついている。
甘やかすとだめになる。
特に酒と女を与え続けておくと、あっという間に駄目になる。
厳しくしすぎても駄目になるが。
若い頃から快楽漬けにすると、それだけでどんな種族もあっという間に堕落する。
それは伝わっていることで。
バルハラントも身にしみて知っていることだ。
こういった面倒な伝承にはなんの根拠もないことも多いのだが。
少なくともこれに関しては事実だ。
レットの学習能力のなさ加減を見ていると、それはよくわかる。
見ていてなんとなくわかってきたが。
エルフ族は、すでにレットの力を看破したとみていい。
確実に仕留めるために、どんどん誘導している。
怒らせればそれでいい。
ただでさえ何度罠に引っかかっても、おかしいと思わないような奴だ。
その様子をエルフ族が見ていれば。
ただのカモだとしか認識しないだろう。
森をめちゃくちゃにしながら進んでいることもあって、でたらめに動いていても、森の中をぐるぐる行ったり来たりだけはしていない。
一応バルハラントは森の木々を覚えているので、オークだけで逃げることは不可能ではないのだが。
今レットを確実に仕留めないと。
最悪生き残った此奴が、一族のところに復讐に来る。
それだけは許されなかった。
バルハラントは此奴が死ぬところを見届けなければならない。
「なんだよ、こんだけ歩いてもまだエルフの村に着かないのかよ!」
「エルフ族の村は、森の深奥にございます。 森を育てるため、それが都合がいいためにございます」
「こんなくっせえ森の一番奥に引きこもってやがるのか! まずは風呂にぶち込んで洗うところからだな!」
「そうでございますな」
とにかく思い出したかのように話しかけてくるので、そのたびに愛想を作る。
愛想くらいは作れる。
これでもかなり分が悪い駆け引きとかはしてきている。
そういう相手には、相手がコボルト族だろうがゴブリン族だろうが、愛想は作らなければならない。
殺すことなんて簡単な相手はいる。
だが、殺してはすべて元も子もなくなるのだ。
人間が奴隷だのに同じ人間をしていたり、玩具動物としてコボルト族の女子供をもてあそぶ話は聞いたことがあるが。
そんなのと一緒にされては困る。
「まったく、いつまで歩かせるんだよ! エルフの連中は、どうやって森から出るんだよ!」
「我々も姿は知っていますが、それだけです。 まず表に出てきませんので」
「そうかよ」
「……」
レットもさすがに疲れてきたようだな。
殺気がこもった目で部下が視線を送ってくるが、首を横に振る。
多少疲れた程度で、此奴は手に負える相手ではない。
今までも四肢十指を粉みじんにされても生き返ってきている。普通に殺したところで死なないのだ。
今まで、この手の転生者は世界に様々な災厄をもたらした。
人間の集落に現れた場合、異性を全部独占することもあったらしく。散々快楽を満たしたあと、寝ているところを刺されたこともあったようだが。
首を落とされようと心臓を突かれようと。
その程度で殺すことはできなかったという伝承すらある。
レットの様子を見ていると、それは誇張された伝承ではなかったのだとわかる。
現実だったのだ。
だから、今は待つしかない。
程なくして、小高い丘みたいなのに出た。
これは危ないな。
丘を上がりきった瞬間に仕掛けてくる可能性が高そうだ。
レットは疲れてきているが。
いや、それ以上に飽きてきている。
帰ろうかとか言い出されたら厄介だ。
さて、どうやってエルフ族のところに誘導するか。
そう思案していた瞬間、レットの首が吹っ飛ばされていた。
罠ではないな。狙撃だ。
即座に丘に張り付いて、身を低くする。
これはひょっとすると、冗談抜きに本当にかなりエルフ族の集落が近いのかもしれない。だとすると、幼児をあやすように宥めるのもそろそろ終わりか。
皆に目配せをしておく。
レットは今回は再生に手間取っているようだが。
それでも首なしで動き回っている。
もう完全に人間じゃないな。
いろいろな伝承に出てくる化け物を集めたような存在だ。
生物ですらない。
強いていうなら、邪神の下僕達が近いだろう。
これも古い伝承にしか出てこないが、生物としてのあらゆる法則が通じない化け物の群れ。
これらに対してだけは、人間を中心に、あらゆる種族が結束して立ち向かったという話だが。
レットは気づけていないのだろう。
聖剣士などと名乗るほどだ。
自分がどちらかと言えば邪神の下僕に近いことは、理解できていなくても不思議ではない。
「畜生! ステータスはカンストしてるんだぞ! どんな卑劣な手段で俺の防御を抜いてきているんだ! 防御力だってカンストしてる! 畜生! 畜生っ!」
そうわめくレットは、自分の首を抱えてうろうろと歩き回っている。
それで、やっと首を頭に乗せた。
やはりな。
回復が遅くなってきている。
邪神の下僕達も、倒されると少しずつ力が弱っていったという伝承がある。共通点が多い。
「俺の右手の人差し指がねえ!」
「これにございますか」
「ああん? ああ、これだ! やるじゃねえか!」
「恐縮にございます」
多少手助けして、それで警戒を解けるなら安いものだ。
そのまま、指をくっつけて回復させるレット。皆、そろそろ此奴の底が見えてきているようだが。
視線を送っておく。
油断するのはまだ早い。
絶対に勝ったことが確定するまでは、とにかく腰を低くしろ。それがどれだけ屈辱的であってもだ。
ともかく、丘の上に上がる。
どうやら当たりらしい。
「どうやらそろそろのようですな」
「ほう?」
「あの辺りは、明らかに普通の森と状態が違っておりまする。 人か、それに近い存在の手が入っておりますな。 エルフ族は森と暮らす種族ではありますが、森と一体化しているわけではございません。 生活のために、森の一部を自分たちの都合がいいように変えているとみていいでしょう」
「はっ、とんでもねえ偽善者どもだ。 どうせヴィーガンだったりするんだろ」
なんだそれは。
小首をかしげていると、植物しか食わない奴だとありがたくも教えてくださる。
恐縮しながら素晴らしい知識(棒読み)を教えていただいたことを感謝するが。
そうか。此奴の世界にはそんな馬鹿なことをしている奴がいるのか。
草食動物と言われる生物も、実は草だけ食べて生きている訳ではない。
草についている虫なども一緒に食べているし、栄養が偏ってくると普通に肉を食べることもある。
馬などが良い例だ。
たまに人間が人食い馬がどうのこうのと騒いでいるのを聞くが、馬鹿馬鹿しい話である。
栄養が不足すると馬の仲間はロバなどが特にそうなのだが、普通に肉を食う。それが人肉のこともある。
それを見て、人食い馬の伝承ができたのだろう。
逆に、普段は肉しか食わない動物も。
草食獣のはらわたをさいて、中にある未消化の草などを食ったりする。
これも栄養の不足を補うための行動である。
仮にレットの世界でヴィーガンとやらがいて、それが植物だけしか食べないのだとすれば。
おそらく体を壊すし。
人間なのだとしたら、長くは生きられないだろう。
そんな程度のこと、無学なバルハラントでも知っている。
ましてやエルフ族みたいな、それぞれが知識の塊だと伝承があるような種族が。そのような愚行に手を染めるとは考えにくい。
相手を舐めすぎだろう。
だが、それでいい。
レットは相手を際限なく舐めていればいい。
その方が、楽に負ける。
「いずれにしてももうすぐ先だ。 やる気も出てきた! 今までのこと、全部百倍にして返してやる!」
「その意気にございます」
「いくぞおまえら! 偽善者死すべし! 俺に続け!」
何か剣らしいのを構えると(半透明なのでよく見えない。 おそらく力が弱まって、見えるようになってきたのだろう)、レットは走り出す。
慣れない森の中で走る上に、力が有り余っているから、木の根やら地面やらを蹴り飛ばし、吹っ飛ばし、それで無様に駆け下りていく。
まあ、どうでもいい。
そもそもレットがスキルだのステータスだの頼りで、本人の能力は素人以下なのは今までもわかった。
頭の方もよいとは言いがたい。
学習しないし、相手を侮り続けているし、何より見透かされるくらい思考が単純だ。
ならば負けるまで、それを煽ればいい。
目配せ。
一定距離を保ってついて行く。
レットに不審がられるとまずい。
エルフ族に殺されるにしても、最終的にはバルハラントだけ残虐に殺されるように、どうにか懇願してみるつもりだ。
事情を説明すれば、バルハラントだけ、想像を絶するくらいの悲惨な殺され方をするだけで済むかもしれない。
走る。
明らかに、空気が変わった。
しんと音が消え。
辺りには、多数の熊が見張っているかのような、強烈な殺気が満ちた。
ああ、死ぬんだな。
それはわかっている。
足がすくみかけている者達に叱咤。
走れ。
そう叫んで、レットを追う。
無様に剣を振り回しながら、先に走って進んでいくレット。なんか火球を出して、それを前方にたたきつけようとする。
その火球が、かき消えていた。
まあ、おかしなことじゃない。
それだけじゃない。手にしている半透明の剣も、どんどん透明なのが薄れてきている。明確に力が弱まっているんだ。
ぜいぜいと肩で息をついている。明らかに速度が落ちてきているレット。
おいついた。
視線を多数感じる。
凄まじい殺気だ。
レットはそれにも気づけていない。さぞや安全な場所で暮らし続けていたのだろう。
転生者はどれもこれも、恐ろしく安全な土地から来たらしいという話もある。
此奴も例外ではなかった、ということだ。
「な、なんだ。 急に、つ、疲れて、来やがった! 体力自動回復のスキルだって転生特典にあったはずだ! な、なんで疲れるんだよ!」
「大丈夫にございますか」
「くそっ! インベントリだインベントリ! 力を回復するポーションを9999個用意させてる! くそっ、クソクソっ!」
わめきながら、レットは虚空を何度かえぐる。
どうしてか、前のように都合よく道具が出てくることはなかった。
「エリクサーはどうしたんだよ! インベントリ! アイテムボックス!」
「そんなものはここでは使えない。 というよりも、お前はもう何もできない」
おぞましいほどの殺気。
地面に、バルハラントは強引に跪かされていた。
歩いてくるのは、小柄な姿だ。
エルフ族は細い体に、それなりに長い耳を持っていると聞いたことがある。
跪いて必死に顔を上げると、そこにいたのは小柄な人間くらいの背丈の奴だ。
多分、エルフ族だろう。
身にまとっているのは、あんまり人間と変わらない服。レットが着ている滑稽な鎧よりもずっと簡素だ。
手には杖とかは持っていない。
魔法媒体として有名らしいのだが。
体の凹凸からして、成人しているのかどうかもちょっとわからない。いずれにしても、レットが言っていたようなえろなんとかとかいう書物では、オーク族がこのような姿の相手に欲情するとされていたのか。
大嘘しか書いていないな。
あきれかえってしまう。
それはそれとして、ちょっとまずい。今まで倒した一番巨大な熊が、子ネズミに思えるほどの凄まじい威圧感だ。
だらだらと冷や汗が出る。
わめきながら飛びかかろうとするレットだが、ふっとエルフが息を吹きかけるだけ。
それで鎧も最強らしい剣も全部粉々に砕け、全裸同然の姿で這いつくばるしかなかった。
「お前の力はお前が転生神と呼んでいる存在由来のものだ。 生憎だが我々はそもそもとしてお前のような輩を引きつけて、駆除するために世界に作られた存在でな」
「な、なんだよそれ」
「転生特典だとかなんだとか言われて力を渡されたのだろう。 それも言うままにあらゆる力をくれたのだろう。 残念だったな。 それらはそもそもその自称転生神が遊ぶために与えた力だ。 この世界に嫌がらせをするのが一つ。 もう一つはお前みたいな屑が、力を得たときどんな風に滑稽に踊るかを、見て楽しむ。 それだけのためにな」
エルフ族は他にもたくさんいるらしいが。
この小柄な奴は、簡素な足履きで地面を蹴って。それだけでも、皆が首をすくめていた。
「オーク族の者達よ」
「は、ははっ!」
「この愚か者を連れてきたのは、我々なら対処できることを知っていたからか」
「は。 その通りにございます。 この者、力を振るうことになんらためらいなく、何をしても正しいと思い込み、傷つけることに躊躇なく、踏みにじることを喜ぶ手合いでありました。 我らの間でも転生者の伝承は伝わっており、中には世界を焼き尽くした輩の話も」
頷くエルフ族。それで多少、威圧が収まったように思う。
事情を理解していないレットだけが、ぽかんとして様子を見守っていた。ただ、身動きできる様子もなく、すでに化けの皮はすべて剥がされていたが。
「儂はナーフェkalshdfhaddfhquefhlfuhfゲルルト。 まあ聞き取れない音声もあるだろうから、ナーフェと呼ぶが良い」
「ははっ、ナーフェ様。 私は赤牙族のバルハラント。 この者をここに連れ込むために、森を傷つけること甚だしく、その罪万死に値いたします。 私はどれだけの罰を受けてもかまいません。 しかし、このものを誘導するために疑いを持たせぬよう、同行させた一族の者達は、是非斬首程度の罰でお許しいただきたく」
「立派な覚悟だ。 案ずるではない。 すべてはこの者と、この者を使って遊んだ邪神……ソク=ウロナによる災厄だ。 そなた達には、軽く真実を教えておこう。 それでオーク族に語り継げ。 それを誓うのであれば、無事に皆返してやろう」
「ははっ! 末代まで語り継ぎまする!」
それで、ようやく悟ったらしい。
レットが、わめき散らした。
「て、てめえっ! 裏切りやがったな! くっせえデブを弟子にまでしてやった恩を忘れやがったな! 所詮はオークかよ、このゲスが!」
「黙れ。 勝手に弟子とか言っていたが、貴様に教わったことなど一つもない。 ああ、ヴィーガンとかいう者が貴様の世界にいることだけは教わったな。 そのことだけは礼を言っておこう。 そういう愚か者が転生者の世界にいることは知ることができた」
「くそっ! ぶっ殺し……」
べしゃりと、半裸のレットが地面にたたきつけられる。
気絶したらしい。
勿論ナーフェは手も動かしていない。
これはほとんど神の御技だ。
桶が浮いてきて、水をレットにぶっかける。
オーク達が唖然と様子を見ていた。レットの醜態は、今まで見てきている。だから、その正体が現れても別に驚くことはない。
だが、エルフ族の実力は想像を遙かに超えていた。それが恐ろしいのだ。
「では軽く話してやろう。 この世界のことをな」
ナーフェが言う。
それは、少し長い話だった。
はい最強転生者様陥落。
考えてもみてほしいんですが、長命種族が自分の住んでいる場所を徹底的に要塞化していないと思いますでしょうか。
そういうことです。
そして、エルフであるナーフェ様から、この世界の真実が語られることになります。