出撃前日、ヤマトは大本営の命令を見て憤慨した。
いや、命令というよりも脅迫の方が近いだろう。
"次回ノ出撃ニオイテ大和型ノ艤装ヲ使用シ、データ収集にニ協力セヨ…協力シナイ場合ハ元帥殿二シカルベキ処分ガ下ルダロウ"
『軍上層部はやはり俺のことを快くは思っていないのだろうか…』
先のフィリピン解放以降、深海棲艦の動きはより活発になっている。
上層部はそんな中であまり規模の大きな艦隊とは言えないヤマト艦隊の戦力をさらに減らせと言っているわけなのだ。
『せめて武功をあげねば、更に立場がなくなる…か』
作戦当日、ヤマト艦隊は執務室へと集まっていた。
『今日は初の哨戒任務、国防に直結する重要任務だ…前回のような痴態は許されない!』
『なお、今回はヤマト級の艤装は使えん…最新兵器の技術試験も兼ねている…総員、気を引き締め臨んでくれ!』
出撃ドックへ向かうと艦隊は艤装を展開、出撃準備を進める。
『それ、懐かしい艤装ね』
矢矧が聞くとヤマトは歯切れ悪そうに答える。
『そうかな…一応試作の最新兵器なんだがな…作るの大変だったんだからな!』
ヤマトは工廠での出来事を思い出し思わず感情的になる。
『ふふっ、宇宙戦艦ヤマトよりも戦艦大和の方が馴染み深いからかしら、なんだかいつもより親しみやすい気がするわ』
『そうか…今日は前衛の指揮、頼むぞ』
『わかってるわ、華の二水戦の実力…見せてあげるんだから』
『よし…第一独立遊撃艦隊、出撃』
ヤマトに続き艦隊は2度目の航海へと漕ぎ出した。
『龍驤は爆撃機隊を発艦、偵察を行い見つけ次第攻撃してくれ』
『了解、航空隊発艦や!』
次々と爆装した艦爆が飛び立って行くと龍驤は航空隊の指揮に専念した。
『ねぇねぇ、これって哨戒ってよりも』
『明らかにこっちから攻めてるね…』
実際、本来よりも深海棲艦の勢力圏に近い位置を航行しているので響と雷がこういうのも無理はない。
『こないだあれだけやらかしちゃったんたんだし、ヤマトも焦ってるんじゃ…』
『それなら私たちもレディとして…もっと気を引き締めないとね!』
『まぁまぁ、敵艦隊まだ見つかってないし、張り切りすぎてもよくないじゃん?』
『鈴谷はいつもそうね、もっとちゃんとした方がいいわ!』
『鈴谷だって頑張ってるし!』
『そんなこと言ったって…』
『2人ともそこまでよ!作戦中に喧嘩しないで!』
『はい…』
矢矧が制止すると2人は静かになった。
『ごめんな矢矧…こんな先輩たちしかいなくて…』
ヤマトは申し訳なさそうにいうが矢矧はあまり気にしていないようだ。
『そう、私は結構楽しいわよ?この間はこんな軽口を挟む余裕もなかったし…』
矢矧が話し終わる前に空気が変わる。
『航空隊が一時の方向に敵艦隊を発見!空母1、戦艦2、巡洋艦2、駆逐艦3…ヤマトさん、やるんか?』
『よし、これより"実弾演習"を行う…総員、砲雷撃戦用意!航空隊は巡洋艦以下の補助艦艇を優先的に攻撃せよ!』
『矢矧水雷戦隊、行きます!死中に活を見出すのよ!』
矢矧以下の水雷戦隊は敵艦隊に突撃する…。
敵艦隊の砲撃が集中するが、回避に専念し弾幕の中を潜り抜ける。
『前より避けられるようになったのです』
『もっと頼ってもらえるようになれたかな?』
『はらしょー』
『すごいな…鈴谷、いったい何を教えたんだ?』
『大したことじゃないよ…ここまで練り上げられたのはみんなの頑張りあってのものだし、もっともこの短期間でここまでできるようになるとは思わなかったけど…とにかく私たちも撃ち始めるとしようじゃん?』
『だな…』
すると砲煙とともに敵艦隊の目の前に巨大な水柱ができる。
『ちっ…こんなに当たらないものだったかな』
『ヤマトが初撃を外すなんて珍しいじゃん?』
『うるさい…まだ慣れきってないだけだ』
250年ぶりに使う大和型の装備は、流石にヤマトでもまだまだ慣れないようだ。
とはいえ後衛のヤマトと鈴谷の援護もあってか、練度の高まった水雷戦隊を前に敵艦隊はなす術がなかった。
『ナンナノダ、コノウゴキハ!コチラノウゴキガワカッテイルノカ?』
『ワカラン…ショウジュンハアッテルハズナノニ、イトモカンタンニヨケラレル』
『コウクウコウゲキモアタラナイ!』
狙うは主力艦のみ…敵主力に肉薄する矢矧以下5隻の水雷戦隊は空母ヲ級へと魚雷を放つ。
『マズイ…コノママデハ…』
『ヲッ!!』
避けようとしても既に遅く、ヲ級は複数の被雷を受け海中へと没した。
しかし依然として敵戦艦は健在だ。ここまで肉薄したとなると装甲の貧弱な水雷戦隊では一撃一撃が致命打になりかねない。
『近すぎるわ!これでは避けるもクソもないわね…総員、散会!少しでも敵を翻弄する!』
矢矧の指示に従い敵の狙いがブレ始めたのはいいが誰がいつ大破するかわからない状況に追い込まれたことに変わりはない。
『航空隊の援護はまだなの?』
『無理だね…母艦が沈んだとはいえまだ敵航空機はまだ多数残存している』
響の一言に少しでも耐え抜かねばと全員の気が引き締まる。
しかしいつまで避け続けられるかわからない中、気力がすり減っていく。
『!! かすめた… これ以上は無理ってこと?』
既に限界に近い中、敵の攻撃が近づいてくる。
もうダメかもしれないと思わせるほどに。
すると轟音とともに一隻の艦が大破する。
戦艦の砲撃、その威力は絶大だ…
まともに食らえばどんな艦娘だってタダでは済まないだろう。
それは深海棲艦も同じことだ。
『ここまでよく耐え抜いた…あとは任せてくれ!』
そうだ、大和の主砲が敵戦艦を貫き大破へと至らしめたのだ。
するとトドメと言わんばかりに20.3cm砲が命中しまず一隻、戦艦が沈んだ。
『いやぁ、思ってたよりも補助艦艇に手間取ってねぇ…遅くなったけど、援護するよ』
鈴谷、そして龍驤も駆けつけると、残る一隻の戦艦はもはやこれまでと自らの死を悟った。
『ココデナニモセズニヤラレルクライナラ…』
敵戦艦は増速、ヤマトに急速接近する。
『まずいっ!離れろ!』
何かを察したのか、ヤマトは隣にいた鈴谷を突き飛ばす。
すると大和は閃光と煙の中へ消えた。
敵戦艦は大和に肉薄、弾薬庫を爆発させたのだ。
その威力は近くにいた鈴谷が一番理解していた。
『そんな…あんなの食らったら、いくらヤマトだって…』
煙の中から現れたのは大破したヤマトの姿だった。
『へへっ、よかった…やはり大和型は頑丈だな…なんとか浮いている…まだ機関も動く…よし、作戦を続ける、全艦…』
『よくないじゃん!早く撤退しよう!』
『そうやで!そんな状態で進むなんて自殺行為や!』
『しかし、この間の失敗を取り返さなくては…』
『もういいから、他の艦隊に任せときなさいよ!あなたが沈んだら元も子もないわ!』
『暁もこう言ってるのですし…無理は良くないのです…』
『そうそう…機関が動く今のうちに帰っとくべきじゃん?』
ヤマトはものすごい勢いで説得されたので流石に我に帰った。
『そうだな…すまない、どうやら張り切りすぎていたようだ』
『そ、やっぱり張り切りすぎはよくないじゃん』
『そうだな…反転180度、これより帰投する』
『しかし敵艦が自滅してまでこちらに向かってくるとは…』
何か引っ掛かるヤマトであったが帰投するためとりあえずは本土へ連絡、わかば型警備艦に哨戒任務を引き継ぐと、ヤマト艦隊は呉へと帰投した。
わかば型警備艦…史実の松型駆逐艦梨ですが、船体の量産性の高さから複数量産され、運用されています。運用が史実より早いですが深海棲艦の登場で戦力が必要になったため急造されました。