人類滅亡まであと365日…   作:ムジカ

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第16話 見えざる脅威

 

これは…血…?

周りにはみんながいる。

泣いて…くれてる。

あったかいなぁ…

みんなの気持ちが、涙が…

 

でも私は大海原のど真ん中でひっそりと沈みゆく。

 

 

海は大きくて冷たい。

 

たとえ10000tの艦だろうと、64000tの巨艦だろうと関係なく呑み込めるほどに。

 

そしてそこにいたたくさんの水兵さんも…

 

深く沈むほど海は暗くなっていく。

 

 

深海…日光というエネルギー源のないこの場所でどうやって深海棲艦は過ごしているのか…

 

そもそも本当に深海に棲んでるのかすらわかんないけど…

 

でも、これが夢でよかった。

夢じゃなければ耐えられない。

 

 

鈴谷はどこまでも続く暗闇の中で一際明るく輝く星…その光に吸い寄せられるように近づく。

 

艤装…大きなオレンジ色の光が一つ。

 

『ヤマト、こんなところで何してんの?』

 

その光の主は答えない。

 

『なんとか言ってよ…ここ寒くてすごく寂しいよ』

 

だが答えない。

それどころかどんどんと離れていく。

 

深海の暗闇はいつしかヤマトという希望の光を遮断した。

 

別れ

 

孤独

 

死

 

そして…

 

もっと、暗くて冷たい…

 

 

 

 

 

ハッ

 

 

 

 

『知ってる、天井じゃん』

 

ここは呉、医務室だ。

右足は既に治っていた、恐らく高速修理剤を使ったのだろう。

今は夕方の5時、西日が影帽子を作っている。

 

横にはパイプ椅子…その上にはヤマト。

眠っている、口にはよだれの跡ができている。

なんだかこうも静かだと…

 

『可愛いじゃん?』

 

つい本音を言ってしまう。

起きる様子がなさそうで助かったと、鈴谷は思った。

 

しかしこうも静かだと暇だ。

 

鈴谷はそこにいる艦隊司令…ヤマトを起こすことにした。

 

『どうせならいたずらしよっかな…』

 

鈴谷は何かないかと、探し始める。

 

『これは…』

 

鈴谷の目に留まったのは信号ラッパである。

『これを耳元で吹けば…たしかこっちから吹くんだよね』

鈴谷はラッパを構える。

そして息を入れる。

 

 

 

 

だが、息が入っただけだった。

その息は管を伝ってヤマトの耳に吹きかかっただけだったのである。

そしてそれはヤマトを起こすに至った。

 

『……ん?鈴谷、気がついたのか…?』

寝ぼけていたが、ヤマトは真田さん譲りのその天才的な頭脳で状況を理解した。

 

『なるほど…差し詰め俺を驚かせるためそれを吹こうとしたが、音が出なかったわけか』

 

『…そうだけど?』

 

『貸してみろ、それはこーやって吹くんだ』

ラッパを吹けない鈴谷を少しからかおうと、ヤマトは奪ったラッパを高らかに吹き鳴らす。

 

『コツがいるんだ、ただ息を入れただけじゃあ音は………』

ヤマトは鈴谷の視線に気づく…が時既に遅し。

 

『ヤマトのバカっ!』

頬にはもみじ型の跡…

ヤマトは完全に目が覚めた。

 

『それあれじゃん、キモい男子が女子のリコーダー舐める的なさ!』

 

『誤解だ…俺はただ少しだけ鈴谷をからかおうと…』

 

『セクハラ…セクハラだよ! 』

 

『セクハラって…てかそもそもそっちが先にいたずら仕掛けてきたんだろ?』

 

『…うっさいし!もうぜぇぇったい執務手伝わないからね!』

そう言うと鈴谷は医務室を後にした。

ヤマトの天才的な頭脳は、あまり役に立たなかったようだ。

 

 

勢い任せに飛び出していった鈴谷だったが特にやることがあるわけではない。

なぜなら艤装が修理中で使えないからだ。

 

『あんなこと言った手前、執務室へはいけないし…』

 

艤装があれば…

 

『修理終わってたりしないかなぁ』

 

鈴谷は艤装を受け取りに工廠へと向かった。

 

 

『ちぃぃぃっす!明石いるぅ?』

 

『げっ、鈴谷…どうせ来るならヤマトを連れてきて欲しかったなぁ…』

 

『あんなやつ知らないし!』

 

『んなっ!我らがヤマト様をあんなやつ呼ばわりとは、いい度胸ね…』

 

『えっ…ヤマト様って…』

鈴谷は少し引いた。

 

『そりゃ、工廠にくれば一瞬で仕事を終わらせてくれる…もう神様仏様ヤマト様ってかんじよね』

 

『それで、鈴谷の艤装はどう?』

 

『貴女の艤装はここにはないわよ…たしか執務室にあったはず』

さっさと帰った、とでも言わんばかりに明石は言う。

 

『まじ?』

 

『まじ…というか忙しいから早く帰って、最近は艦娘も増えてブラック度合いに拍車がかかってて…あぁぁぁぁもぅ!提督は私をなんだと思って…』

 

 

『わかった、邪魔してごめんね?』

 

明石の心からの叫びを聞き鈴谷は工廠を後にした。

 

『艤装がないとなにもできないしなぁ…でも執務室…行きたくないなぁ…』

 

だってヤマトがいるってことじゃん?

正直すっごく気まずい…

でも行かなきゃなにもできないよね?

 

鈴谷は執務室の扉の前で足を止めていた。

しかし鈴谷の内心を知ってか知らずか扉は開く。

『す…鈴谷、ちょうど呼ぼうと思っていたんだ…』

 

『ヤマト、さっきはごめん…鈴谷も4割くらいは悪かったよね』

 

『俺が6割悪いのか?』

 

『問答無用じゃん?それより鈴谷の艤装、あるんでしょ?』

 

『あぁ、入れ』

ヤマトに連れられ鈴谷は地下ドックへと向かう。

 

『ねぇ、ここ暗闇で何も見えないよ?』

鈴谷はキョロキョロと周りを見渡している。

 

『待て、今明かりをつける』

 

ヤマトがスイッチを押すと艤装が姿を現す。

 

『これは…鈴谷改?』

 

『半分正解で半分不正解だ…ただの鈴谷改なら俺が作るまでもないだろ?』

 

『あ、航空艤装が普通と違う?』

 

『2200年代の技術で作った…俺の艦載機も使える…というかそれが一番の目的だ』

 

『てかこれヤマトが作ったの?すご…それはそれとして門数が減るのはちょっち問題じゃない?』

 

『鈴谷の射撃の腕は神がかっている…門数が減っても問題ないだろ?』

 

『買い被りすぎだし…大体艦載機だって初めて使うし…』

 

『不安か?』

 

『うん…射撃と艦載機の運用を同時に行うなんて自信ないよ』

 

『案外簡単だぞ?割とパイロット側に任せっぱなしにできるし』

 

『いったね、これで上手くいかなかったらヤマトの責任だからね?』

 

『その意気だ、何か困ったことがあったら言ってくれ、航空戦艦的な運用なら俺もよくやるから』

かくして、鈴谷の特訓の日々が幕を開けるのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

その頃、大本営では緊急会議が開かれていた。

 

『みなさん、資料をご覧ください』

 

『これはオーストラリアの深海基地で発見されたものです』

 

『こないだの基地は艦砲射撃で全損…お宝は何もなかったですからね』

 

『ポートモレスビーか…二度とあんな過ちを繰り返してはならんとわしは思うよ』

沖田の言葉は重々しく響いた。

 

『だからこそ、今回の出撃はあなたの艦隊…ヤマト艦隊に任せたのですよ…沖田元帥閣下』

 

『閣下はよせ…その時代は終わった』

 

『そんなことを仰るとは…元帥閣下には愛国心が足らんのでは?』

 

『いいか、すでに新たな世の幕が上がっておる…わしらにできるのはただ潔く幕引きを迎えることだけだよ…』

 

『それでは本題に戻りましょう…見つかった資料"被験体No.1コードネーム:ヤマト"についてですが』

 

会議は踊る。

その資料は確かに、ヤマトが深海を出自に持つことを示していた。

『渚コウジ…コードネーム"テイトク"のクローン、それがヤマトの正体か』

 

『彼がスパイである…そういう可能性もあるということか』

 

『ヤマト…これまで功績が大きい分、扱いには苦労しますねぇ』

 

『なるほど…厄介なものだ』

 

『疑わしきは罰せよ…とも言いますし、新興勢力である彼をよく思わないものも多いでしょう?』

 

沖田を置き去りにして、会議は進む。

 

 

元帥とはいえ、沖田派の人間は数えるほどしかいない。

沖田は海軍の中でも浮いた存在なのだ。

現在の日本海軍の主流派は栄光ある海軍の復活…それに囚われている。

 

それを諦め、身の丈にあった選択を…沖田はそう考える。

 

というのも現在、海軍の主流派はもっぱら対米開戦論者である。

艦娘という兵器の有用性に、活路を見出したのだ。

 

 

だからこそ、沖田はそれに賛同できない。

内惑星戦争…新兵器を投入した火星側は圧倒的な生産能力をもつ地球に敗北を喫した。

 

アメリカの底力はすごい。

その気になれば自力で艦娘の大量建造に着手し始めるだろう。

我々にできて、彼らにできないはずがないのだ。そしてその後の歴史は悲惨の一言に尽きるだろう。日本は、火星と同じ立場に立たされているのだ。

 

『同じ轍を踏むわけにはいかない…か、そのためにもヤマト…彼の力が必要かな』

 

会議は沖田を置き去りにした、だが沖田もただ見ているだけではない。

 

『報告します!大英帝国が深海棲艦に包囲されました!』

 

『国内に敵が多いのなら、国外に味方をつければいい…か』

336000光年の旅を完遂した男の頭脳は諦めるという言葉を知らない。

 

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