ここはイギリス、ポーツマス港。
戦艦ヴァンガード艦上では、深海棲艦による海上封鎖への対策会議が開かれていた。
紅茶の香りが漂う。
緊急事態といえどティータイムは忘れないのだ。
『しかしこれだけの艦隊となると、統率者として極東で確認されている姫級…最悪の場合テイトクがいるかもしれんな』
『たとえ国内の全ての艦娘を出撃させたとしても焼け石に水か…』
『しかし…なぜあんな大艦隊が』
『アジアで安全圏を拡大した結果、深海棲艦の戦力の大部分が欧州の島国に流れたのだろう』
『深海棲艦といえど生きるために必死なのか…』
紅茶を啜りながら1人の将校がため息混じりに呟く。
『シツレイ…シンシショクン、コウチャヲノンデルヒマハナイゾ?』
女?いやこの声は…
『深海棲……』
その将校は振り向く間もなく消し炭になった。
周りにいた高級将校たちもそれは変わりなく…
焦げた肉の匂いと血みどろの中、深海から来た少女は呟く。
『テキシレイブヲハカイ…ゼンカン、ゼンシンセヨ…』
号令とともに海岸線が黒く染まる。
絶望の火蓋が切って落とされたのだ。
そのころ、ヤマトは非常召集で東京へ…対策会議が開かれていた。
議題はイギリス救援に向かうべきか否かというものだった。
二時間前にロンドンは陥落、敵の手中に落ちた。
『事態は会議室で起きているんじゃない…現場で起きている!一刻も早く救援に向かうべきだ!』
ヤマトは声を上げる。
渚提督をはじめ、少数派ではあるが賛同するものもいたのだが…
『そうだが…勝手な行動をして万が一にも女王の身に危害が及んだらどう責任を取るんだ?』
『ヤマト准将殿、軍には体裁というものがある…仕方ないんだよ』
ヤマトは二人の将校に制止される…賛同者が多いのを見るとどうやら部が悪いようだ。
するとさらにもう一人制止する人物が増えた。
しかしその意味合いは少し違う。
『ヤマト、あとはわしに任せてくれんか?』
『沖田艦長…』
"お飾りのトップ"などと揶揄される沖田だったが、その影響力は決して小さくない。
『何かあったらこのわし…沖田十三が責任をとって腹を切ろう』
『沖田艦長!そんな…』
『わしは覚悟を決めたよ…それにあのヤマトがそこまで言うんだ、無策ではないんだろ?』
死中に活を見出す…沖田はイギリスとの縁を作ることで深海棲艦との戦い、さらには戦後の主導権を握るためにもここを正念場としたのである。
『もちろん、策はある』
艦娘を航空機に乗せ夜の闇に紛れ上空から降下させる。
前代未聞の作戦だが、それしかないとヤマトは踏んでいた。
『本作戦は第一独立遊撃艦隊が執り行うが異論はないか?』
こんな無謀とも言える作戦を進んでやりたいものはここにはいなかった。
『ではこれで』
ヤマトは会議室を去った。
さて、問題はイギリスまでの足だが当てがない。
俺一人でいくなら問題ないがそういうわけにもいかないし…
『ヤマト君、悩み事かい?』
『ええ、航空機の伝手がなくて…』
『それなら…』
渚提督に一つ貸しができそうだ。
ヤマトが向かったのは川西航空機…
『それではこれ、借りていきますね!』
『おい!それは…』
試作司令部用超大型飛行艇である、名前はまだない。
航続距離に優れ爆装も可能な本機しか、この作戦を成功させられないと言うわけなのだ。
そのペイロードは莫大で、"どんな爆弾"でも積むことができる…艦娘の艤装も載せることができるほどだ。
ヤマトはコックピットへ乗り込むと呉へと向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
『降下作戦!?』
『そうだ、燃料弾薬を積み込み次第離水するから出撃準備を…』
『無茶だよ!こんなの前代未聞じゃん!』
『それならここで待ってるか?』
『それもやだけど…』
『今回の作戦はこれまでとは毛色が違い救出作戦であり王族の命もかかっている、特殊部隊さながらの身のこなしが必要になるだろうが君たちならできると…そう信じている』
ヤマトは一人一人の目を見ながら言った。
『嬉しいこと言ってくれるやないか!』
『やってやろうじゃん…』
どうやら反応は悪くない。
各々やる気になってくれたようでヤマトは安心した。
『それでは作戦の説明に移る…』
作戦内容はこうだ。
晴空で何度か補給を受けながら地中海まで飛行し着水、再び離水しそこからロンドン上空を通過し落下傘で降下する。
あとはテムズ川を遡りバッキンガム宮殿へと向かう算段だ。
『イギリスを失えばヨーロッパ全土が危うい…各人気を引き締めて作戦に臨んでくれ!』
そして物資を積み終わると発動機が回り始める。
『全員いるな?』
『もちろん、ヤマト含め7人全員いるよ?』
『へいへい…アテンションプリーズ、間もなく離水します、シートベルトはないから踏ん張っててくれよ?』
間もなく飛行艇が離水する。
20時間のフライトだが、航空機を操縦できるのはヤマトだけである。
『すごいのです!』
『地図帳みたいだね…』
『みんなそんな子供っぽい感想でいいの?』
『可愛らしくていいと思うわよ、暁もまだまだお子様なんだし素直に子供っぽい感想で満足していいんじゃない?』
『私は大人のレディだもん!』
あっちは楽しそうだなと、操縦しながらヤマトは思った。
しかし今はここにいる全員の命を預かっているのだ…気は抜けない。
『ツンツン』
ツンツンしながらツンツンと言っている。
不覚にもかわいいと思ってしまった。
『やめてくれ鈴谷…気が散る、それと近い』
操縦の邪魔なので…横にある鈴谷の顔を押し退ける。
『なんで艤装広げてるの?』
『いくら航続距離に優れた二式大艇とは言え流石にイギリスまでは燃料が足りないから、今は俺の慣性航法システムを使い、落ちることなく滑空している』
『よくわかんないけど、なんかわかった!』
鈴谷はよくわかんないけどなんかわかったようだ。
『それと鈴谷、ほんと集中したいから話しかけないでくれ…』
『ちぇ、つまんないの』
紆余曲折ありながらもフライトは順調に進んだ。
19時間後、イギリス時間の2330には北海上空に到着していた。
『アテンションプリーズ…当機はこれよりロンドン上空を通過します』
ヤマトの合図により全員が落下傘を装着、降下準備を整える。
『ハッチ解放、エスコート部隊降下開始!』
夜のロンドンに六つの白い斑点が現れる。
対空砲火が無いのをみると、敵には気づかれていないことがわかる。
どうやら彼女達は無事に降りることができそうだ。
『さて、問題はこっちだ…』
燃料も残りわずか、テムズ川に着水するしかない。
"超大艇"と呼ばれるだけの巨大な飛行機だ、夜が明ければ深海棲艦に見つかってしまうだろう。
つまりは帰りの切符がなくなってしまう。
『必ず勝って、呉に帰る…』
着水と同時に、ヤマトは再び覚悟を決めた。
今回のヤマトの役目は陽動、そして殿である。
外で深海棲艦の注意を引き、その間に本命の
ヤマト以外の6人は王族の救出に城へ向かう。
『それじゃあ、派手にやるか!』
ショックカノンの一斉射と共に深海棲艦達は気づく…
『アクマノフネガキタ…ヤツヲヨベ!』
ヤマトは地上に降り立ち、姫級にショックカノンを突きつけながら口を開く。
『これはこれはご機嫌よう、深海から来たお姫様…"ヤツ"とは誰だ?』
『フッ…バカメ!ワレワレハ"エサ"ナノダヤマトヨ…キサマヲツルタメノナ!』
捨て台詞と共に姫級は自爆した。
しかし"大和"であった前とは違い、ヤマトには波動防壁があるので無傷だ。
『今回の騒動…俺が目的なのだとしたらむしろ好都合か…』
作戦目標は王族の救出、可能なら敵艦隊を殲滅すると言うもの…とすれば降りかかる火の粉を振り払うだけなのだ。
ヤマトの15門あるショックカノンは一斉射撃で敵を15隻沈められる。
何度も斉射を撃ち続けるが、なかなか敵は減らない。
『一体何隻いるんだよ…いつまでここを保たせられるか…』
おそらくこれは罠だ…敵は俺の足止めのために沈んでいく。
『まだか…まだなのか?』
ヤマトは待っていた…鈴谷達の報せを。