二つの影が闇夜に滲む。
その瞬間、獲物と狩人の立場は逆転した。
狩人――ホリス・モーガンは標的に向かって跳躍した。
標的が気付いた時、ホリスの刃は既に獲物を捉えていた。
標的の懐へ滑り込むと同時に、ホリスは身体の軸をずらし、関節を外す寸前の角度で相手を拘束した。
抵抗は一瞬。
次の刹那、彼の左手が静かに動く。
中指の紐が引かれた。
――カチリ。
乾いた機構音とともに、前腕の内側から刃が目覚める。
光を反射する暇すら与えず、アサシンブレードは最短距離を描いた。
刃は肋骨の隙間を正確に捉え、心臓の拍動と同期するように深く沈む。
ホリスは力を込めない。押すのではなく、置く。
それだけで十分だった。
標的の息が詰まり、声にならない音が喉で崩れる。
ホリスは刃を抜き、血が噴く前に半歩退く。
倒れる身体を受け止めることもなく、ただ静かに離した。
次の瞬間、ブレードは音もなく収まり、外套の裾が揺れる。
そこには誇示も余韻もない。
残ったのは、終わったという事実だけ。
ホリスの薄い唇から弔いの言葉が紡がれた――そしてそれは一つの任務を終えたことを意味した。
ホリスは視線を上げ、次の影へと歩き出す――これがホリス・モーガンの日常だった。
ホリスの父の命を奪った大粛清から三年。
ダニエル・クロスの裏切りを引き金に起こったその事件は、教団に致命的な爪痕を残した。
各地の支部は同時多発的に襲撃され、指導者は殺され、名簿は奪われ、信条は踏みにじられた。
影は暴かれ、沈黙は破られ、アサシン教団は一夜にして“狩られる側”へと転じた。
生き残った者たちは散り散りに逃げ、互いの存在すら疑うようになった――信頼という最も重要な武器が、奪われたのだ。
教団から騎士団に寝返る者も、姿を消す者もいた。
或いは復讐に取り憑かれ、修羅に堕ちた者もいた。
それでも、ホリスは死ななかった。
断片化した情報、逃げ延びた者の証言、途切れた連絡線。彼は導師的立場となったウィリアム・マイルズの命を受けながら各地を巡り、壊れた網を結び直していった。
必要なのは場所ではなく、流れだった。誰がどこにいて、何を知り、何を恐れているのか――それを把握するための、静かな回路。
大粛清による父の死――その日、正式なアサシンとなったホリスは、三年の月日を鍛錬に費やした。
周囲から見れば「遊び」がないと見なされるだろう日々も、ホリスからすれば強さを手に入れる為ならば苦には思わず。
十代と呼ばれるような年齢を過ぎた頃、ホリスは教団の最高階位の一つであるマスターアサシンとなった。
あまりに若いマスターアサシン――ホリスのような才能に溢れた若者に与えられたのは、実に珍しいことであった。
マスターアサシンとしての彼の仕事は、勝利をもたらすことではない。
敗北を未然に防ぐことだ。敵に知られぬ速度で判断し、噂よりも先に動き、戦いを起こさせない。
編まれた情報網は、“教団”と呼ばれるにはあまりに無形で、しかし確かに機能した。
ホリスは知っている。
父を奪った粛清も、
ダニエル・クロスの裏切りも、
テンプル騎士団との因縁も、
すべては終わっていない。
だからこそ、ホリスは今日も名を伏せ、影に徹する。
次に来る嵐を、誰よりも早く動くために。
――それが未来を知るモノとしての役目だと。
指導者としての立場にあるウィリアム・マイルズから下された指令をこなしながら、ホリスはアサシンマスターとして多くの弟子を指導してきた。
命令は簡潔で、目的だけが示される。
残りは現場の判断に委ねられた。
ホリスの教えは厳しいが、理不尽ではない。技を教える前に、選択を教える。刃の振り方より先に、引くべき時を叩き込む。
弟子たちは彼の背中を見て学び、時に恐れ、時に救われた。
褒め言葉は少なく、叱責も少ない。
だが任務の最中、誰かが追い詰められた時、必ずそこにいる――それだけで十分だった。
◇
「お呼びでしょうか、導師」
「きたか……ホリス」
名を呼ばれ、ホリスは一歩前に出た。背筋は伸び、無駄な動きはない。ある報せを受け、彼はウィリアム・マイルズに呼び出されていた。簡素な部屋に漂う沈黙は、私情を許さぬ場であることを雄弁に語っている。
告げられたのは、ウィリアムの息子――デズモンド・マイルズの脱走だった。
だが、追走の命令は下されない。
「監視のみでいい」
その言葉を受け、ホリスは即座に応じた。
「承知しました。追跡、捕縛は行わず、所在と動向の把握に専念します」
声音は硬く、感情の揺らぎは一切ない。
命令は命令として受け取り、余計な解釈を挟まない。
それが、アサシンとして叩き込まれた態度だった。
しかし内心では、この命が“導師として”ではなく、“父として”下されたものであることを、ホリスは理解していた。
あのウィリアム・マイルズが、露骨に情を滲ませる選択をしたことに、ホリスは内心で小さく驚いていた。常に合理を覚悟の上に置く男だ。
その彼が、追走を命じないとは――。
「しかし導師」
ホリスは一歩も引かず、淡々と続ける。
「我らの監視網を掻い潜った以上、御子息にテンプル騎士団の手が及ぶ可能性は否定できません。現時点での放置は、結果的に危険を増大させる恐れがあります」
進言の言葉は硬く、あくまで組織の利益を優先したものだった。個人的な感情は排し、アサシンとして当然の懸念を述べる。
その裏で、ホリスはウィリアムの反応を見極めていた。導師として答えるのか、それとも――父として、答えるのかを。
アニムスを通して出てくる過去キャラで好きなキャラは初代のアルタイルです。プロの暗殺者って感じで。
エツィオも優雅で良い、
でもアサシンブレードで好きなのはコナーのアサシンブレードがかっこよくて好きです。変形機構はかっこいい。