アサシンクリード 実績「示す役目」獲得   作:Calく

6 / 9
同胞との会話②

ホリスは短く呟き、壁から視線を外した。

鷹の目で拾い上げた情報は、すでに脳裏で整理されている。

移送経路、日時、関与する企業名、そして曖昧にぼかされた“鍵”という単語。どれも偶然ではない。

テンプル騎士団がその言葉を使う時、それは人であることが多かった。

 

「救出対象の可能性は?」

低く問うと、ジェイムズは顎に手をやり、少しだけ表情を曇らせた。

「五分五分だね。表向きは採用、実態は拘束。アブスターゴの子会社が噛んでる。名目は研究協力だが……まあ、ろくな扱いじゃない」

 

その言葉に、ホリスの中でいくつかの記憶が重なる。

大粛清の混乱の中で消えた名。

保護が間に合わなかった若い候補生たち。

救われた者より、救えなかった者の方が、今も数は多い。

 

「……場所は?」

「港湾地区の再開発ビルだ。監視は厚いが、完全じゃない。夜明け前に動くなら、まだ隙はある」

 

ホリスは頷いた。

それだけで十分だった。

「情報は受け取った。報酬はいつもの口座に」

「毎度あり。……なあ、ホリス」

 

背を向けかけた彼に、ジェイムズが珍しく声をかける。

「深入りしすぎるなよ」

 

フードの影で、ホリスの表情は変わらない。

「深入りするかどうかは、現場で決める」

 

そう言い残し、彼は雑踏へと溶けていった。

高層ビルの谷間を吹き抜ける風がローブの裾を揺らす。

赤い帯も革のベルトも、今は都市の影に紛れ、ただの布切れにしか見えない。

だがその下には、確かな刃と、選び続けてきた意志があった。

 

大抵、救助対象の多くは苛烈な拷問や長期拘束によって精神の均衡を失っている。

言葉は通じず、視線は定まらず、刃を向けられたと錯覚して暴れる者も少なくない。

救出は終わりではなく、そこからが始まりなのだ――それがホリスの経験則だった。

 

だが、今回の救助者は違った。

保護された直後こそ疲労と警戒の色を隠せなかったものの、状況を把握する速度は早く、質問にも的確に応じた。

無駄な感情を挟まず、まず生存を優先する判断ができる。

中堅のアサシンとして、十分な修羅場を潜ってきたのだろう。

呼吸を整え、身体の可動域を確かめ、武器の有無を確認する一連の動作には、教え込まれた基礎が確かに残っていた。

 

「……助かった。礼は後で言う」

そう短く告げた声には、恐怖よりも悔恨が滲んでいた。

捕縛された事実を恥じる感情だ。

ホリスはそれを咎めない。生き延び、戻ってきた。

それだけで十分だった。

彼は簡潔に次の行動を指示し、退路と合流地点を示す。

救助は迅速に、痕跡は最小限に――現代の戦場では、それが何より重要だった。

 

 

 

背後で扉が閉じ、足音が遠ざかる。

ホリスは一瞬だけ振り返り、無事を確認すると視線を前に戻した。

今回は“当たり”だ。

立て直しは早い。

戦力として再編できる。

そう判断し、彼は次の任務へと意識を切り替えた。

救える者を救い、失うべきではない命を次へ繋ぐ――それが、今の教団に課された現実だった。

 

 

 

アヴスターゴ社がアサシン教団のアサシンを攫い、利用している実験はアニムスによる同期実験であった。

アニムス。

アブスターゴ社が再発見し、再定義し、完成させたヴァーチャルリアリティ・マシーンだ。

被験体の遺伝子に刻まれた記憶――祖先が見た光景、歩いた都市、振るった刃――それらを読み取り、三次元情報として外部モニターに出力する。

過去はもはや曖昧な神話ではない。

座標を持ち、再生可能な「データ」へと堕とされた。

 

その原型は、超古代文明――人類以前の支配者が遺した技術に由来する。

人の脳と記憶を媒介とし、時間そのものを探索する装置。

アブスターゴ社はそれを洗練させ、起動可能な段階にまで引き上げた。だが、その目的は学術でも医療でもない。

テンプル騎士団の悲願――秩序ある世界の構築、そのための“鍵”を探し出すことにあった。

 

被験体は人間でありながら、装置の一部として扱われる。

記憶に潜るたび、現実との乖離は深まり、人格は削れ、身体感覚は曖昧になる。

だが騎士団は意に介さない。

壊れれば次を用意すればいい。

重要なのは、過去に埋もれた遺物の在処と、それを扱う資格を示す血統だけだ。

 

ウィリアムが入手した設計図を基に、アサシン教団でもアニムスの製作は進められた。

だが、それは模倣であって、再現ではない。

超古代文明の理屈を完全に理解できている者など、誰一人として存在しなかった。

回路は組める。

起動もする。

だが“安定”という一点だけが、どうしても手中に収まらない。

 

アブスターゴ社が抱えている問題と、状況はほぼ同じだった。

被験体の精神への負荷、記憶と現実の境界が曖昧になる剥離症状、長時間使用による人格侵食。

どれも理論上は把握しているが、完全な解決には至っていない。

教団のアニムスは、より簡素で、より危うい。

安全装置は最低限、使う者の自己制御に多くを委ねる設計だった。

 

それでも、使わないという選択肢はない。

過去の記憶は武器であり、情報であり、未来を切り開く鍵だ。

テンプル騎士団がそれを利用するなら、こちらも同じ刃を握るしかない。

ウィリアムはそう判断し、ホリスもまた異論はなかった。

 





  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。