アサシンクリード 実績「示す役目」獲得   作:Calく

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過去の奔流①

ホリスは、アニムスを通して先祖の記憶に潜る際、あえて「幸せな記憶」を選んだ。

血と死に彩られた戦場ではなく、家の中で交わされる穏やかな会話や、無条件に向けられる眼差し。

そうした場面を、彼は意図的に辿った。

 

その先祖が当然のように受け入れていた、両親の愛情というものが、ホリスには理解できなかった。

守られること、信じられること、何も疑わず名を呼ばれること。

 

だからこそ、彼は安心できた。理解できないからこそ、それは自分のものではないと分かる。

他人の人生、他人の記憶――アニムスが映すのは、あくまで過去の影だ。

そう自覚することで、ホリスは自分を保っていた。

もしそれを羨んでしまえば、きっと戻れなくなると、どこかで知っていたからだ。

 

ホリスが未来予知に目覚めたのは、大粛清が起こる数ヶ月前のことだった。

それは啓示のような劇的な瞬間ではなく、むしろ悪夢に近い。

眠りと覚醒の狭間で、意味を持たないはずの映像が、異様なほどの現実感を伴って流れ込んできた。知らない場所、知らないはずの死。目を覚ましても、その感触だけが消えずに残った。

 

当初、ホリスはそれを単なる想像や不安の投影だと切り捨てた。アサシン候補として鍛えられる日々の中で、そうした精神的揺らぎは珍しくない。

だが、映像は繰り返された。細部が一致し、後から現実がそれをなぞる。訓練中の事故、支部の小競り合い、名も知らぬ末端の死――見た通りに起きる。否定はできなかった。

――大粛清のあの日、ホリスは襲撃の場に居合わせていた。

偶然ではない。

己が見た未来予知に従い、そこに立っていた。

映像は断片的で、血と炎、刃が交錯する瞬間だけを切り取ったものだった。

敵の襲撃は局地的なものだと、そう判断していた。

だが、テンプル騎士団は彼の想定よりも遥かに狡猾で、老獪だった。

すでに情報が漏れていた事実までは、未来予知には映らない。

ただ「起こる」という結果だけが示され、過程は闇に沈んでいた。

 

故に、ホリスは驕った。

慢心とも言える。

間もなく正式なアサシンとして認められるだろうという期待が、無意識のうちに警戒を鈍らせた。

あるいは、テンプル騎士団の悪意を、致命的なまでに見誤ったのかもしれない。

敵の数は予想を遥かに超えていた。

味方が次々と倒れ、戦線が崩壊していく中で、ホリスは一瞬、判断を遅らせた。

背後から迫る殺意に気づいた時には、すでに遅かった。

 

気づいた刹那、視界が遮られる。

ホリスは、父に庇われていた。

刃が肉を裂く鈍い音と、息が詰まる感覚。目の前で崩れる背中を、彼はただ呆然と見つめることしかできなかった。

未来は見えていたはずだった。

だが、守られる側になる未来だけは、どこにも映っていなかった。

 

崩れ落ちながらも、父は鮮やかに敵を処理していた。

致命傷を負いながらも動きは冴え、刃は迷いなく急所を捉える。

まるで、自身の生死など最初から計算に含まれていないかのように。

ホリスはその背を支え、直ちに戦線から離脱した。

だが、戦況がようやく落ち着いた頃には、父の呼吸はすでに細く、途切れがちになっていた。

 

あの位置にいたのが自分であれば、たとえ刃を受けていたとしても、重傷には至らなかったはずだ。

判断も、回避も、できた。

だが、父は咄嗟に庇った。

その立ち位置は悪く、結果として致命傷となった。

優秀なアサシンである父なら、見捨てることもできたはずだ。

状況はそれを許していたし、教団の教えもまた、そう命じていた。

 

生まれながらにアサシンたれ。

信条に殉じろ――その言葉と動きを、ホリスは父から叩き込まれてきた。

一般的な親の情というものは乏しく、抱き寄せられた記憶も、甘い言葉もない。

褒められたのは、アサシンとしての実力が目に見えて伸び始めた時くらいだった。

冷静で、合理的で、常に正しい選択をする男。それが父のはずだった。

 

それでも、父は庇った。

なぜだ。

冷静なアサシンである父は、なぜ己を守る選択をしたのか。ホリスの胸に残ったのは、答えのない疑問と、血の匂いだけだった。

 

「すまない、ホリス」

掠れた声が、血の匂いに沈んだ空気を震わせた。父は息を吐くたびに胸を痛めながら、それでも視線を逸らさなかった。

「俺は……お前に、生きる術を与えたかった」

 

その言葉は、謝罪というより告白に近かった。

「妻……サリーが死んで、俺に残ったのは、アサシンとしての腕だけだった。優しさも、別の生き方も……もう、持っていなかった」

短く咳き込み、指先がホリスの衣を掴む。

「だから、俺はお前に教え込んだ。刃の扱いも、判断も、覚悟も……俺の全てを」

 

父の目は、薄れゆく光の中でもなお澄んでいた。

「……まだ半人前だと、思っていた」

言葉が途切れ、息が揺れる。

「だが……違った。お前は……もう……一人のアサシンだ、ホリス」

 

最後に、ほんのわずか、口角が動いた。

それは微笑みと呼ぶにはあまりに儚い、安堵の痕だった。

「生きろ」

 

その一言が落ちた瞬間、父の手から力が抜けた。

ホリスは何も言えなかった。

叫びも、否定も、感謝も、すべてが喉の奥で凍りついた。

ただ、命じられた言葉だけが、刃のように胸に残った。

――生きろ。

 

なぜ、今際の際に言ったのだ。

その言葉を聞いてしまえば、もう無かったことにはできない。もし父が最後まで冷酷なアサシンであったなら、ホリスは自分もそうあれと割り切れたはずだった。感情を切り捨て、死を結果として処理し、前に進むことができただろう。

 

だが、父は違った。

最後の瞬間に残された告白は、ホリスの胸を激しくかき乱す。

理解できなかった情。

与えられた覚えのない愛情。

それらが、否応なく心に流れ込んでくる。

怒りでも、悲嘆でも、後悔でもない、名付けようのない激情が、彼の内側で渦を巻いた。

 

そして、その時から、ホリスの胸に確かなものが生まれた。

――父の死。

――教団が「罪なきものを傷つけることなかれ」と掲げるのならば。

――己は、罪ある者を殺すアサシンになろう。

 

それは誓いというより、選択だった。感情を否定するのではなく、抱えたまま刃を振るう道。ホリスは理解した。

父が与えた「生きる術」とは、ただ生き延びることではない。

何を斬るかを、自分で決めることだったのだと。

 

 

 

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