アサシンクリード 実績「示す役目」獲得   作:Calく

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教団の見習い候補

ファームと呼ばれるその場所で、ホリスは見習いたちに稽古をつけていた。

乾いた土の匂い、汗と鉄の気配が混じる空気。簡素な訓練場には、まだ幼さの抜けきらない顔立ちの少年少女たちが並んでいる。その瞳には恐怖よりも期待が勝っており、未来という言葉を疑いなく信じている光が宿っていた。

 

互いに距離を取り、短い合図と同時に見習いが動く。

アサシンブレードを許されていない彼らの手にあるのは、剣身を潰した短剣だ。切れはしないが、当たれば痛みは確かに残る。実戦を模した稽古であることを、身体に教え込むための配慮だった。

 

先に踏み込んできたのは、まだ背の低い少年だった。緊張で呼吸が浅い。だが恐れを押し殺し、ホリスの小手調べの動きを掻い潜って懐へ飛び込もうとする――その心意気だけは、評価に値した。

 

――だが、甘い。

 

踏み込みの瞬間、重心が僅かに前へ流れている。視線が上ずり、相手の腰ではなく肩を見ていた。

ホリスは一歩、半身でかわすと同時に、少年の肘に触れる程度の力で押し、足元を払った。技と呼ぶには簡単すぎる動作だ。だが結果は明白だった。

 

少年は短い呻きを漏らし、地面に転がる。

受け身は取れている。骨も折れていない。ホリスはそれを確認してから、短剣を踏み止めた。

 

「今のままでは、敵に抱きつく前に殺される」

 

声は低く、叱責でも嘲りでもない。ただ事実を告げるだけの響きだった。

倒れた少年は歯を食いしばり、すぐに起き上がる。その表情に悔しさが滲んでいるのを、ホリスは見逃さなかった。

 

手負いの獣を殺すよりも、生け捕りにする方が難しい――教団で語り継がれる言葉だ。

未熟な見習いたちを相手取るこの稽古は、まさにそれだった。力を抜きすぎれば侮られ、力を入れすぎれば心を折る。絶妙な加減で刃を振るうことこそ、指導者としての資質が問われる。

 

ホリスは見習いたちを一瞥する。

怯え、悔しさ、闘志、期待――様々な感情が入り混じった顔。かつての自分も、同じ場所に立っていたことを思い出す。

 

「次だ」

 

短い言葉とともに、彼は再び構えた。

未来を信じる者たちに、その未来がどれほど過酷かを教えるために。

 

ホリスのマスターアサシンとしての職務は、多岐に渡っていた。

見習いたちに刃の振るい方と身の引き方を教え、情報網の綻びを修復し、必要とあらば自ら影に紛れて標的を消す。時には捕らわれた同胞を救い出すため、敵地の奥深くへ単独で踏み込むこともあった。

 

本来であれば、こうした雑務の多くは見習いや下位のアサシンが担うべき仕事だ。だが、大粛清によって教団の数は激減した。かつて「組織」と呼べたものは、今や辛うじて「団」と名乗れる程度の規模にまで縮んでいる。熟練のアサシンは失われ、経験を持つ者ほど前線で命を落とした。その穴を埋めるため、マスターアサシンであるホリスが動かざるを得なかった。

 

彼はそれを不満とは思わなかった。

むしろ、現場に立ち続けることでしか、教団は再生しないと理解していた。机上で命令を下すだけでは、失われた信頼も技も戻らない。自ら刃を振るい、血の匂いを知り、背中で示すこと――それが今の教団に必要な指導だった。

 

結果として、ホリスの一日は常に分断されている。朝は訓練場で見習いを転がし、昼には情報屋と接触し、夜には名も知られぬ標的を始末する。休息は短く、眠りは浅い。

 

古来よりアサシン教団は、血統だけに依存して人員を補ってきたわけではない。

確かに、代々信条を受け継ぐ家系は存在する。だが、それだけでは時代の変化に耐えられないことを、教団は歴史の中で学んできた。ゆえに外部からの勧誘――才能、資質、そして何より「世界に対する違和感」を抱く者を迎え入れるという手段が、常に用意されていた。

 

今回、ホリスが呼び出されたのも、その系譜に連なる案件だった。

 

加入者、あるいは見習い候補の名は、クレイ・カズマレク。

提出された簡潔な経歴に、英雄譚の類は一切ない。ハロルド・カズマレクとその妻の間に生まれた一人息子。家業は職人仕事で、代々「腕」を誇りにしてきた家系だった。クレイもまた、生まれた時から家を継ぐことを前提に育てられたらしい。

 

だが、成長とともに亀裂が生じた。

父の期待は重く、明確で、逃げ場がなかった。手に職をつけ、黙々と働き、家を守る。それ以外の未来を、父は想定していなかった。クレイはその枠に息苦しさを覚え、自分が何を望んでいるのか分からないまま反発するようになった。

 

二〇〇七年以前のある時期、彼は大学の工学部に合格する。だが、それは父にとって誇れるものではなかった。

失望は露骨で、言葉にせずとも伝わったという。クレイは初めて、自分の選択が誰かを満足させるためのものだったのだと理解した。

 

やがて、精神科医に通い始める。逃げではなく、整理のためだった。

その過程で、彼はウィリアム・マイルズと接触する。偶然を装った必然――教団が長年用いてきた、最も穏やかな勧誘の形だ。世界の裏側、歴史の歪み、力を持つ者の傲慢。それらを語られた時、クレイは否定しなかった。ただ、静かに耳を傾けた。

 

父には告げず、彼は教団に足を踏み入れた。

それは反抗ではなく、自立でもなく、「選択」だった。少なくとも、本人はそう思っている。

 

ホリスは資料を閉じる。

この青年が刃を持つに値するかどうか――それを決めるのは紙ではない。

直接会い、その目を見る必要があった。

 

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