街がスペースゴジラシティと化したけど今日もわたしは学校に行く   作:よよよーよ・だーだだ

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2、あの日のこと

2年8カ月前、8月15日(火)

 あの日は小5の夏休みだった。

 朝は普通だった。お母さんが「宿題やりなさい」って言って、わたしは「後で」って言って、ケンジとゲームしてた。

 午後2時くらい。最初は地震かと思った。

 家が揺れて、窓ガラスがガタガタ音を立てて。でも違った。

 お母さんが「外!」って叫んで、窓の外を指差した。

 

 空が、白く光ってた。

 真っ白。まぶしいくらい。

 

 やがて空からそいつが降りてきた。いや、落ちてきた。隕石みたいに。でも隕石じゃなくて、生き物だった。

 最初に見た時、「恐竜だ」って思った。でも恐竜じゃない。背中に結晶みたいなのがいっぱい生えてて、肩にも大きいのが2本。

 キラキラしてた。

 白く、光ってた。

 そう思った瞬間、光が強くなった。

 白い光が、街に降り注いだ。

 音がした。すごい音。耳が痛くなるくらい。

 ケンジが泣き始めた。

 お母さんがわたしたちを抱きしめた。「大丈夫、大丈夫よ」って言ってたけど、お母さんの手が震えてた。

 

 宇宙怪獣スペースゴジラは、街の中心部に着地した。市役所があった辺りだ。

 

 そこから、破壊が始まった。

 

 

8月15日(夜)

 

 電気が消えた。

 テレビも消えた。スマホも繋がらなくなった。

 外から、ずっと音がしてた。ドーンって音と、キーンって音と、人の声。

 窓から見たら、街が燃えてた。

 お父さんが帰ってこなかった。

 お母さんは「大丈夫、お父さんは大丈夫」って言ってたけど、顔が真っ白だった。

 ケンジはずっと泣いてた。

 

 わたしは、なんか、よくわからなかった。

 これが本当に起きてることなのか、夢なのか、区別がつかなかった。

 夜中、また光った。

 白い光が、空を染めた。真夜中なのに、昼間みたいに明るくなった。

 そのあと、大きな音。

 家が揺れて、窓ガラスが割れた。

 お母さんがわたしたちを押し倒した。ガラスの破片が飛んできた。

「動かないで!」

 お母さんの悲鳴が聞こえた。

 

 

8月16日(水)

 

 朝になった。外に出たら、世界が変わってた。

 

 家の前の道路に、ひび割れができてた。

 隣の家は、半分潰れてた。鈴木さんちだ。鈴木さんちには、おじいちゃんとおばあちゃんが住んでた。

 お母さんが「見ちゃダメ」って言って、わたしの目を塞いだ。

 でも、見えた。

 血が、道路に流れてた。

 それが何なのか、すぐにはわからなかった。

 わかった時、吐いた。

 

 お昼ごろ、お父さんが帰ってきた。

 お母さんが泣きながらお父さんに抱きついた。お父さんの顔に、血がついてた。怪我してた。

「避難しろって」ってお父さんが言った。「スペースゴジラが、また動くかもしれない」

 でも、どこに避難すればいいのか、誰もわからなかった。

 

 その日の午後、スペースゴジラがまた動いた。

 さっきまでじっとしてたのに、急に立ち上がった。

 そして、歩いた。

 一歩、歩くたびに、地面が揺れた。

 ビルが壊れた。

 人が逃げ惑ってた。

 わたしたちも逃げた。

 お父さんが「こっちだ!」って叫んで、わたしたちは走った。

 ケンジの手を握って、走った。

 後ろから、音がした。

 振り返ったら、わたしたちの家があった場所に、スペースゴジラのグラビトルネードの流れ弾が飛んできた。

「あ」って声が出た。

 わたしたちの家が、潰れた。

 一瞬だった。

 

 

8月17日(木)

 

 避難所にいた。

 小学校の体育館。

 電気がつかなくて、床に段ボールが敷いてあって、毛布があって、人がいっぱいいた。

 赤ちゃんが泣いてた。

 おばあさんが「水、水」って言ってた。

 男の人が「政府は何をやってるんだ!」って怒鳴ってた。

 お母さんとお父さんは、ずっと何か話してた。ケンジはわたしにくっついて、震えてた。

 わたしは、ぼーっとしてた。

 

 夜、スペースゴジラがまた光った。

 体育館の窓から見えた。白い光が、空を染めた。

 夜なのに、空が真っ白になった。

 みんなが悲鳴を上げた。

 

 でも、光っただけだった。何も壊れなかった。

「なんだったんだ」って誰かが言った。

 わからない。

 スペースゴジラが何を考えてるのか、誰にもわからない。

 そもそも、考えてるのかもわからない。

 

 

8月18日(金)

 

 朝、役場の人が来た。

 「安全な場所に移動してください」って言われた。

 でも、安全な場所ってどこなのか、誰も教えてくれなかった。

 配給があった。

 おにぎりと水。

 おにぎりは小さかった。でも、すごく美味しかった。

 お腹が空いてたからかな。

 

 スペースゴジラは、動かなかった。

 市役所跡地に座って、じっとしてた。

「死んだのか?」って誰かが言った。「いや、呼吸してる」って誰かが答えた。

 本当だった。スペースゴジラの体は、ゆっくり上下してた。

 生きてる。まだ、生きてるんだ。

 

 お父さんが「家を見に行ってくる」って言いだした。お母さんが「危ない」と引き留めた。

 でもお父さんは行った。

 夕方、お父さんが戻ってきた。顔色が悪かった。

「何も残ってない」ってお父さんが言った。

 それから、しばらく黙ってた。

「それと……」

「何?」ってお母さんが聞いた。

「結晶が、生えてた」

「結晶?」

「スペースゴジラの背中にあるような、あの結晶だ。街のあちこちに」

 

 

8月19日(土)

 

 電気がつくようになった。テレビも、スマホも。

 スペースゴジラの電磁波のせいだったらしい。よく知らないけど。

 

 朝、避難所がざわついてた。

「結晶が増えてる」

「駅前に大きいのが生えた」

「公園にも」

「学校にも」

 お昼前、お父さんが「見てくる」って言って、また外に出た。

 今度はお母さんも一緒に行った。わたしとケンジは避難所で待ってた。

 夕方、二人が戻ってきた。

 お母さんが、ぼそっと言った。

「すごかったわ」

「何が?」

「結晶。街中、結晶だらけよ」

 一緒に避難した前田さんが、ポータブルテレビでニュースの映像を見せてくれた。

 避難所の壁に、プロジェクターで映した。

 レポーターが叫んでた。

 

〈いまや、わたしたちの街は想像したこともなかった恐ろしい世界へと変貌しています!〉

 

 わたしの街が映っていた。

 でも、わたしの知ってる街じゃなかった。

 

〈ああっ、マンションが空中で破壊されていますっ!〉

〈スペースゴジラが今、天に向かって吼えました! 聞こえますでしょうか、まるで魔神の叫びです!〉

 

 ビルの間に、結晶が生えてる。

 道路から、結晶が生えてる。

 公園は、結晶の森になってる。

 駅前には、スペースゴジラの背中にあるのと同じ、巨大な結晶が突き立っている。

 

〈激しいそのエネルギーは結晶体の方へみるみる流れておりますっ、次々と流れていますっ!〉

〈凄まじい光です! まさに街はスペースゴジラの要塞のようです……!〉

 

 その中央でスペースゴジラが街を壊しながら、自慢げに雄叫びを上げている。

 白く光ってた。

 きれいだった。

 でも、怖かった。

「これは……もう、わたしたちの街じゃない」って誰かが言った。

 

 避難所で、おばさんたちが話してるのが聞こえた。

「隣の市に避難するらしいわよ」

「バスが出るって」

「でも人数制限があるんですって」

「わたしたち、行ける?」

「わからない。抽選だって」

 お母さんが、その話を聞いてた。

 

 

8月21日(月)

 

 テレビのニュースで、専門家が言ってた。

「スペースゴジラは、結晶を植え付けることで、その土地を自分の領域としてマーキングしているものと思われます。結晶からは微弱な宇宙エネルギー反応が検出されており、おそらくスペースゴジラと何らかの繋がりがあると考えられます」

「結晶を除去することは可能ですか?」ってアナウンサーが聞いた。

「現段階では推奨されません。結晶に刺激を与えた場合、スペースゴジラが反応する可能性があります」

「つまり、この結晶がある限り、その地域はスペースゴジラの領域である、ということですか」

「その通りです」

 

 その日の夕方、お父さんとお母さんが喧嘩してた。

「避難しよう」ってお母さんが言った。

「どこに行くんだ」ってお父さんが言った。

「親戚の家とか」

「お前の実家か?あそこは狭いだろう。4人も厄介になれるか」

「じゃあ、どうするの。ここはもう、人間の街じゃないのよ。スペースゴジラに占領されているのよ」

「だから何だ」

「え?」

「領地だろうがなんだろうが、ここは俺たちの街だ」

「何言ってるの」

「俺は残る」ってお父さんが言った。

「誰かが残って、復旧作業をしなきゃならない。それに、街を離れたら、仕事も何もなくなる」

「命の方が大事でしょう!」

「命は大事だ。だから稼がなきゃならないんだ。避難した先で、俺たちはどうやって生きていくんだ?」

 お母さんは何も言わなくなった。

 

 

8月23日(水)

 

 避難バスが来た。

 体育館にいた人たちの半分くらいが乗った。

 前田さん一家も乗った。前田さんちは、お父さんが会社員で、親戚が県外にいるんだって。

「また会えるといいね」って前田さんちのアッちゃんが言った。「うん」ってわたしは答えたけど、多分会えないだろうなと思った。

 バスが出発する時、見送りに来た人たちが手を振ってた。

 乗った人たちも、窓から手を振ってた。

 泣いてる人もいた。

 わたしたちは、乗らなかった。

 バスが角を曲がる時、大きな結晶の前を通った。

 白く光る結晶。真っ白で、まぶしかった。

 

 

8月25日(金)

 

 お父さんが、復旧作業の仕事を見つけた。

「瓦礫の撤去だ」ってお父さんが言った。

「結晶は?」ってお母さんが聞いた。

「触るなって言われてる。結晶は避けて、それ以外を片付ける」

「それで、復旧になるの?」

「ならないよ」ってお父さんが答えた。「でも、やるしかない」

 

 お母さんも、配給センターで働くことになった。

「とりあえず、収入がないとどうしようもない」ってお母さんが言った。

「学校は?」ってわたしが聞いた。

「9月から再開するらしいわ」

「ここで?」

「ええ。この街で」

 お母さんがそう言った時、少し笑った。なんだか情けないような、笑うしかないような、そんな感じの笑い方だった。

 

 

8月28日(月)

 

 仮設住宅の抽選が当たった。狭いけど、屋根があるわたしたちの家だ。

 お父さんが「よかった」って言った。お母さんは泣いてた。嬉し泣きなのか、悲し泣きなのか、わからなかった。

 新しい家の窓からはスペースゴジラの結晶が見える。タケノコみたいな小さいやつが、道路の真ん中に生えてた。

 夜になると、ほんのり白く光っていた。

 

 

9月1日(金)

 

 学校が再開した。

 クラスの人数が、半分くらいになってた。

 先生も半分くらいしかいなかった。

「避難した人たちは、戻ってくるのかな」って誰かが言った。

「わかんない」って誰かが答えた。

 多分、戻ってこない。ここにいるのは、戻ってこれない人たちじゃなくて、出ていけない人たちだ。

 わたしたちみたいな。

 

 校庭に、結晶が生えてた。体育館の横に、人の背丈くらいの。

「触っちゃダメだからね」って先生が言った。

「はーい」ってみんなが答えた。

 でも休み時間、何人かが近づいて、スマホで写真撮ってた。

 わたしも撮った。

 きれいだった。

 透き通ってて、白くて。

 

 帰り道、ユイが言った。

「わたしたち、スペースゴジラの街に住んでるんだね」

「うん」ってわたしは答えた。

「変な感じ」

「うん」

 リンは何も言わなかった。

 でも、リンも結晶を見てた。ずっと、見てた。

 それを見て、わたしは思った。

 

 ああ、ここは、もう人間の街じゃないんだ。

 スペースゴジラの街なんだ。

 

 

 それから、2年8カ月。

 スペースゴジラは、ずっと市役所の跡地にいる。最初の頃はそれなりに暴れたらしいけど、今は時々同じところをぐるぐる歩き回るだけで遠くには行かない。

 大人たちは「今のスペースゴジラは死にかけている、もうすぐ死ぬ」と言っている。でも本当にそうかはわからない。むしろ、そうあってほしいってだけなんだと思う。

 結晶は増えなくなった。もう十分に領地を確保した、ってことなのかもしれない。

 死者は最終的に3,000人を超えたって、ニュースで言ってた。行方不明者はまだ数百人。リンのお兄ちゃんも、その中の一人。

 

 避難した人たちのことは、時々SNSで見る。

「新しい学校に慣れた」とか「友達ができた」とか。

 いいなって思う。

 

 お父さんは毎日、瓦礫を片付けてる。

 お母さんは毎日、配給の荷物を運んでる。

 ケンジとわたしは学校に通ってる。

 そして今日も、学校。

 スペースゴジラは、相変わらずあそこにいる。

 結晶は、相変わらず街中に生えている。

 白く、静かに光っている。

 わたしたちも、相変わらずここにいる。

 

 明日も学校。今日も皆元気。




短編の予定だったけど長くなったので中編にしました。

次に読みたい話

  • メカゴジラ機龍VSビオランテ
  • 魔法少女のバトラちゃん
  • モスラのディストピア
  • Gフォース基地のある街で
  • X星ふたたび
  • つぶやきSNSがX星人とコラボ
  • キラキラ怪獣黙示録
  • シン・カマキラス
  • ツンデレショタとガメラのお姉さん
  • アンギラスを飼いたいんですが
  • 死闘!バラゴン対クマ
  • モンスターX「星を継ぐもの」
  • ゴジラ「君の知らない物語」
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