街がスペースゴジラシティと化したけど今日もわたしは学校に行く   作:よよよーよ・だーだだ

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4、スペースゴジラのこと

4月21日(日)晴れ

 

 朝ごはんを食べていたら、ケンジが「スペースゴジラを見に行こう」って言い出した。

「危ないよ」

「立入禁止区域の外から見るだけだってば」

 ケンジは、最近スペースゴジラに興味津々だ。学校で友達と、スペースゴジラの話ばかりしてるらしい。

 お母さんに聞いたら、「気をつけてね」って言われた。昔だったら絶対ダメって言われただろうに、お母さんも変わった。危機感が麻痺してるのかもしれない。

 お父さんは相変わらず、日曜日も仕事。

 

 立入禁止区域まで、自転車で30分。久しぶりに遠出した気がする。

 近くに着いただけで、もう人がいっぱいいた。驚くほど。50人くらい? もっといたかも。

 観光客みたいな人たち。カメラを持って、街の写真を撮ってる。中には一眼レフを持ってる人もいた。本格的。

「すごいな」ってケンジが言った。

「うん」

 こんなに人が来るんだ。わたしは知らなかった。

 

 もっと近くに行こうとしたら人だかりができてた。10人くらい、観光客っぽい人たちも混ざってる。

 何だろうと思って、近づいてみるとおじさんが一人座り込んでた。

 50代くらいで、汚れた作業服を着てる。ブルーシート敷いて、その上に段ボール箱を置いて。

 段ボール箱の中に、何か入ってる。透明な、白い、キラキラした――

 

 気づいた。

 これは結晶だ。

 

 スペースゴジラの結晶、手のひらサイズの小さい奴。いや、もっと小さいのもある。親指サイズのも。

 表面がツルツルで、きれいに磨かれてる。 

 段ボール箱に、手書きの値札。

 

「スペースゴジラ結晶 お土産に!」

「小 500円」

「中 1500円」

「大 3000円」

 

 観光客が、一つ手に取ってた。光にかざして、見てる。

「わあ、きれい」って女性の声。

「本物?」って男性の声。

 おじさんが答えた。

「本物ですよ。生えてる結晶を削って、磨いたんです」

「削っていいの?」って観光客が聞いた。

「大丈夫ですよ、道に生えてるもんなんだから。警察も何も言わないし……」

 

 わたしは、少し離れたところから見てた。

 おじさんの隣に、工具が置いてある。ノコギリ、やすり、電動ドリル。結晶を削るための道具かもしれない。

 わたしはおじさんの手を見た。傷だらけだった。包帯を巻いてる指もある。結晶を削って怪我したんだろうか。

 

 観光客が「買う」って言った。中サイズを2個。

「3000円です」

 お金を払って、観光客は嬉しそうにスマホで写真撮りながら去っていった。

 

 わたしは近づいて、結晶を近くで見た。

 本当に、きれいだった。透明で、白くて、中に(かす)かに虹色の光が見える。

 触りたくなったけど、触らなかった。

 おじさんから声をかけられた。

「お嬢ちゃん、買うかい?」

「……いいです」

「学生さんは、小サイズがお手頃だよ。500円」

「大丈夫です」

 わたしが断るとおじさんは、肩をすくめた。

「そうかい」

 わたしは、聞いた。

「これ、儲かるんですか?」

 おじさんは、少し驚いた顔をした。

 そして、笑った。

「まあ、日銭は稼げるよ」

 おじさんは、結晶を一つ手に取った。

「一個削るのに、3時間かかる。手作業だからね」

 おじさんの手を見せた。傷だらけの手を。

「結晶は硬いんだ。ダイヤモンドみたいに」

「痛そう」

「痛いよ。でもね、これしかないんだ」

 おじさんは、結晶を箱に戻しながらこんなことを言った。

「……俺、元は工場勤めだったんだ」

 おじさんは、空を見上げた。曇り空を。

「スペースゴジラが来て、工場が潰れた。仕事がなくなった」

「そうなんですか」

「配給だけじゃ、食えない。闇市で物を買う金もない」

 おじさんは、わたしを見た。

「だから、これを売ってる。観光客は、喜んで買ってくれるよ」

 おじさんは、また笑った。

「スペースゴジラの結晶、記念になるって。俺たちにとっては、ただの邪魔な石なのにね」

 また観光客が来た。若いカップル。

「わあ、これ本物?」

  おじさんは、また営業の笑顔になった。

「本物ですよ。スペースゴジラの結晶を――」

 「行こう」とケンジに言われて、わたしはその場を離れた。

 

 立ち入り禁止区域のフェンスのところまで行くと、スペースゴジラは相変わらずじっと座ってた。市役所跡地でじっと動かない。

 背中の結晶が、太陽の光を反射してキラキラしてる。本当に、きれい。

「かっこいい」ってケンジが言った。

「そうだね」

 本当に、かっこいい。怪獣なのに、きれい。矛盾してるけど、そう思う。

 そう思ってたら、隣にいたおじさんが話しかけてきた。40代くらい。観光客っぽい格好。

「君たち、この街の子?」

「はい」

「大変だったね」

 おじさんは、同情するような顔をした。でも、目は笑ってた。

「まあ」

「でもさ、ある意味ラッキーだよ」

「え?」

 ラッキー? 何がラッキーなんだろう。

「だって、スペースゴジラを毎日見れるんだろ? こんな経験、普通できないよ!」

 ケンジが「そうですね」って答えた。ケンジは素直だ。

 おじさんは「写真一緒に撮ってもいい?」って聞いてきた。

「いいですよ」

 わたしは答えた。断る理由もない。

 おじさんのスマホで、3人で記念撮影した。バックには、スペースゴジラ。おじさんは、ピースサインしてた。

「ありがとう! SNSにあげるね!」

 おじさんは嬉しそうに去っていった。スキップしそうな勢いだった。

 帰り道、ケンジが言った。

「……なんか変だったね、あのおじさん」

「うん」

 変だった。でも、どう変なのか、うまく言えない。

「わたしたち、大変だったのに」

「うん」

「でも、楽しそうだった」

「そうだね」

 わたしたちにとっては、日常。でもあのおじさんにとっては、観光。変な感じ。

 

 わたしたちは、黙って自転車を漕いだ。風が気持ちよかった。

 明日も学校。

 

 

4月22日(月)晴れ

 

 校長先生が辞めた。朝礼で発表された。

「一身上の都合により」

 前の校長、平泉(ひらいずみ)先生は60代のおじいさん。真面目そうな人だった。スペースゴジラが来てから、ずっと疲れた顔してた。

 でも、噂によると『会』に入会してそっちに専念するために辞めたらしい。本当かどうかわからない。

 新しい校長先生は、副校長だった花森(はなもり)先生。50代の女の人。この人、前から『会』の会員だって噂があった。

 アオイが「良かった」って嬉しそうに言ってた。

「これで学校も変わるよ」

「どう変わるの?」

「もっと、真実を教えてくれる」

 真実って、何だろう。アオイの言う真実ってなに。聞いてみると、

「スペースゴジラの意味とか」

 スペースゴジラに意味なんてあるのかな。ただの怪獣じゃないの。

 わたしは「へー」としか言えなかった。

 

 放課後、職員室の前を通ったら先生たちが話してるのが聞こえた。ドアが少し開いてた。

「もう辞めたい」

「わたしも」

 女性の先生の声。疲れてる感じ。

「でも辞めても、仕事ないし」

「この街を出る?」

「出たいけど、行くあてがない」

「家族もいるし」

 ため息が聞こえた。

 わたしは、足音を立てずに通り過ぎた。聞いちゃいけない話だった気がする。

 先生たちも、大変なんだ。

 

 

4月24日(水)晴れ

 

 放課後、帰りに寄り道した。

 立入禁止区域のフェンスの近く。C区画。

 ここはこのあいだスペースゴジラが動いた場所。瓦礫がまだ片付いてない。建物の残骸。崩れたコンクリート。曲がった鉄骨。

 そして、結晶。大小様々な結晶が瓦礫の間から生えてて、なんだか墓場みたいだ。

 自転車を止めて、フェンスの隙間から中を覗いた。

 

 人がいた。

 二人。

 

 一人は、中年の男性。50代くらい? でももっと若いかもしれない。

 白衣を着てる。でも、泥がついてる。眼鏡をかけてる。髪は白髪混じりでぼさぼさ。

 もう一人は、若い女性。20代後半くらい?

 やっぱり白衣を着てる。こっちは比較的きれいで、ノートパソコンとタブレットを持ってる。

 時々、二人で何か話してる。専門用語が多くて、わたしにはわからない。

 男性が、結晶に何か機械を当てる。四角い機械。モニターがついてて数字が表示されてる。

「……やはり、宇宙エネルギー反応が残存している」と男性が言った。

「本体から3キロも離れているのに?」と女性が聞いた。驚いたような声。

「ああ。スペースゴジラの結晶は、本体とある種のネットワークを形成している可能性がある」

「つまり……」

「この結晶一つ一つが、スペースゴジラの延長なのかもしれない。形態はゴジラに似ているが、実態はどちらかというと菌類に近い生物なのかもしれないな……ん?」

 じっと見ていたら、男性がわたしに気づいた。顔を上げて、わたしを見た。

 

「おい、君」

 

 わたしは、少しびっくりして逃げ出しそうになった。

 男性は立ち上がった。フェンスの方に歩いてきた。

 女性も、後ろからついてくる。

「……君、この街の子か?」

「はい」

 男性は、フェンスの前に立った。

 わたしと、フェンス越しに向かい合う。

「僕はマキ=ゴロウ。モナークの研究員だ。こちらは助手のオクムラ」 

 モナーク、聞いたことある。怪獣を研究してる組織だっけ。

 マキ博士は、眼鏡を直した。

「君、スペースゴジラをどう思う?」

 突然の質問。わたしは、少し考えて答えた。

「……わかりません」

 マキ博士は、少し笑った。

「正直だな」

 オクムラさんが、口を挟んだ。

「先生、この子を質問攻めにするのはやめてください」

「いや、地元の人間の意見は重要だ」

 マキ博士は、また結晶の方を見た。

「我々は、世界中の怪獣を研究している。ゴジラ、モスラ、ラドン、キングギドラ……そして、スペースゴジラ」

 マキ博士の声が、少し重くなった。

「スペースゴジラは特殊だ。他の怪獣とは、根本的に何かが違う。この結晶もそうだ。これは、ただの排泄物ではない」

 オクムラさんが、タブレットを操作した。

「先生、エネルギーパターンの解析が終わりました」

「見せてくれ」 

 マキ博士が、タブレットの画面を見て、何か唸ってた。

「これは……」

「何かわかりましたか、先生」

「まだ仮説の段階だが」

 オクムラさんに問われて、マキ博士はまた結晶に機械を当てた。

「スペースゴジラは、この星を……いや、この地域を、何らかの目的のために改造している可能性がある」

「改造?」

「テラフォーミングだ」

 テラフォーミング。SF映画で聞いたことがある。惑星を住めるように改造することだっけ。

 オクムラさんが訊ねた。

「つまり……スペースゴジラは、この街を、自分が住みやすいように変えていると?」

「その可能性がある」

 マキ博士は、立ち上がって遠くを見た。スペースゴジラがいる方を。

「もしそうなら、スペースゴジラはここを去るつもりはない。そしてこの街は、スペースゴジラの街になる」

 わたしは、息を飲んだ。スペースゴジラは、ずっとここにいるつもりなんだ。

 オクムラさんが、博士に言った。

「……でも、それは仮説ですよね?」

「ああ、仮説だ」

 マキ博士は、眼鏡を外して、レンズを拭いた。

「しかし、データは、その可能性を示唆している」

 マキ博士は、また眼鏡をかけた。

 そして、わたしを見た。

「君は、この街に残るつもりか?」

 わたしは、少し考えて答えた。

「……わかりません」

「そうか」

 そしてマキ博士たちは、また結晶の方に向き直ってまた作業に戻った。

 

 帰り道、わたしはマキ博士の言葉を考えた。

 テラフォーミング。スペースゴジラは、自分が住みやすいようにこの街を改造してるらしい。

 ということは、人間には住みにくくなる? それとももう住みにくくなってて、わたしたちが未練がましく居残ってるだけなんだろうか。

 わからない。

 

 でも、あの結晶がただの石じゃないってことは、わかった。

 スペースゴジラの一部。

 延長。

 街中に、スペースゴジラの一部が生えてる。

 わたしたちは、スペースゴジラの体の中で生きてるみたいなものなのかもしれない。

 

 変な感じ。

 

 

4月28日(日)曇り

 

 街の中心部、スペースゴジラがいる場所の近くに大きな像が建てられた。

 『会』が作ったらしい。隣の家の人が言っていた。

 「宇宙晶龍スペースゴジラの像」

 本物より小さいけど、それでも家の高さがある。3階建てくらい?

 お披露目式があって、『会』の人たちがいっぱい集まってた。

 アオイからも「一緒に来ない?」って誘われた。

「見に行く?」ってユイに聞かれたので「行く」と答えた。

「まあ、暇だし」

 暇、っていうのは嘘。別にやることもないけど、見に行きたいわけでもない。でも、ユイが行くなら、わたしも行こうと思った。

 わたしたちは自転車で見に行った。リンは来なかった。「興味ない」って。

 

 式では、『会』のリーダーである佐上さんが演説してた。

 スピーカーから声が響く。大音量。

「なぜ、この街だったのか。なぜ、私たちだったのか。偶然ではありません。私たちは選ばれたのです」

 佐上さんの声は、低くて、よく通る。

「古い世界は終わりました。お金、地位、学歴、そんなものに何の意味がありましたか? スペースゴジラは、そのすべてを平等に破壊しました……」

 拍手と歓声。すごい熱気。

 佐上さんは、40代くらいの男の人。痩せてて、眼鏡をかけてる。元ひきこもりには見えない。背広を着て、堂々としてる。マイクの持ち方も様になってる。

「……変わったね」ってユイが言った。

「なにが?」

「佐上さん。昔、見たことある。近所に住んでたから」

「へー」

 ユイは、じっと佐上さんを見てた。

「どんな人だったの?」

「ずっと家にいる感じ。コンビニに行くのも小走りだった。目も合わせなかった」

 ユイの声は、不思議そうだった。

「へー」

「今、あんなに喋れるんだ」

 確かに、佐上さんは流暢に喋ってた。その語り口は自信に満ちていた。

「そして今、私たちは新しい世界の最前線に立っています」

「調和。共存。受容……痛みには、意味があります」

「これは試練ではありません。これは、特権なのです」

「喪失には、意味があります。私たちの苦しみは、無駄ではなかったのです!……」

 周りの人たちは、熱心に聞いてた。目を輝かせて。アオイもいた。最前列で。手を叩いてた。

「受け入れるのです。歓迎するのです」

「スペースゴジラと共に、新しい人類として、生きるのです!……」

 わたしとユイは、その光景を少し離れたところから見てた。なんか入り込めなかった。

 

 帰り道、ユイが言った。

「……わたし、よくわかんなくなってきた」

「何が?」

「誰が正しいのか」

 ユイは、真剣な顔をしてた。珍しい。ユイはいつも飄々としてると思ってたのに。

「誰も正しくないんじゃない?」

「でも、みんな自分が正しいって思ってるよね」

「うん」

 佐上さんも、長谷川先生も、イオリさんも、みんな自分が正しいと思ってる。

「じゃあ、どうすればいいんだろうね?」

 わたしは考えた。ユイが、わたしに答えを求めてる。でも、わたしにも答えなんてない。

 また月並みなことを言った。

「……普通にしてればいいんじゃない?」

「それだけ?」

「うん」

 ユイは黙った。考えてる顔。

 でも、少し笑った。

「変だよ、それ」

 わたしたちは、自転車を漕いだ。夕日が、結晶を照らしてた。オレンジ色に光ってる。

 

 夜、窓から結晶が見える。

 白く光ってる。いつも通り。

 お父さんは、まだ帰ってこない。

 お母さんは、居間で編み物をしてる。何を編んでるんだろう。

 ケンジは、もう寝た。

 

 明日も学校。

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