街がスペースゴジラシティと化したけど今日もわたしは学校に行く   作:よよよーよ・だーだだ

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7、エピローグ:それからのこと ~All's right with the world!~

時は春、日は(あした)

(あした)は七時、

片岡(かたをか)に露みちて、

揚雲雀(あげひばり)なのりいで、

蝸牛(かたつむり)枝に()ひ、

神、そらに知ろしめす。

すべて世は事も無し

――ロバート=ブラウニング『春の朝(Pippa's Song)』

 

 

翌年、4月7日(月)晴れ

 

 今日から中3。

 朝、家を出たとき、空気が違った。

 春の匂い。土の匂いと、草の匂いと、少し甘い花の匂いが混ざってる。

 自転車を押しながら校門に近づいたら、目に入った。

 桜。

 校門のところの桜。満開だった。

 立ち止まって、自転車のスタンドを立てて見上げた。

 枝という枝に、花がついてる。薄いピンクで、白に近い花が、枝が見えないくらいびっしりと咲いていた。風が吹くとゆらゆらと枝が揺れ、散った花びらがひらひらと舞いながら落ちてきた。

 花びらが、散る。

 地面を見たら、花びらがいっぱい落ちてた。アスファルトの上に、ピンクの点々。風で集まって、小さな山になってる場所もある。ピンクの絨毯みたいだ。

 去年はこんなに咲かなかった。スペースゴジラの電磁波の影響で、木が弱っていたらしい。

 

 立ち止まって、見上げた。

 青い空に、ピンクの花。

 きれい。

 でも、なんか変な感じがした。

 何が変なのか、うまく言えない。

 きれいなんだけど、なんか、違和感がある。

 

 去年の春を思い出す。

 桜は咲かなくて、でもスペースゴジラの結晶が光ってた。

 白い光。静かな光。何もかもがおかしかったけど、それがわたしの春だった。

 今年の桜は、普通だ。ちゃんと咲いて、ちゃんと散って普通の春。

 でも、その普通が、なんか、違和感がある。

 ……わたしは、何を期待してたんだろう。

 

 しばらく見てたら、ユイが来た。

「おー、咲いたね」

「うん」

「去年は咲かなかったもんね」

「うん」

 ユイは、スマホで写真を撮った。いろんな角度から撮った。しゃがんで下から撮ったり、腕を伸ばして上から撮ったり。

「インスタに上げよ」

 わたしは、また桜を見上げた。

 風が吹いて、花びらが落ちてくる。

 一枚、手のひらに乗った。

 薄いピンク色。繊細な花びら。

 すぐに飛んでいった。

 

 新しいクラス発表。

 掲示板に名前が並んでる。

 3年2組。

 わたしの名前がある。

 ユイの名前も、ある。

 アオイの名前も、ある。

 リンの名前も、ある。

「よっしゃー」ってユイが言った。

 今年も4人とも同じクラスだった。

 

 教室に入った。窓際、前から3番目の席。窓の外からは、立入禁止区域だった場所が見える。

 もうフェンスはない。新しいビルが建ってる。まだ骨組みだけだけど。クレーンが動いてる。

 

 ホームルームが始まった。

 新しい担任の先生が入ってきた。竹野内(たけのうち)先生、40代くらいの男の先生。眼鏡をかけてて紺色のスーツ。

「おはようございます」

 竹野内先生の声は、落ち着いてる。

 みんなが「おはようございます」って答えた。

 先生が出席を取り始めた。名前を呼ばれて、「はい」って答える声が続く。

 わたしの名前も呼ばれた。

「はい」

 声を出した。自分の声が、教室に響く。

 授業が始まった。

 数学。

 先生が、黒板に数式を書いてる。

 チョークが、カツカツって音を立てる。

 白い粉が、少しずつ落ちる。

 

 昼休み、4人で屋上に行った。

 フェンスのところに立って、街を見下ろした。

 結晶は、もうない。道路も継ぎ接ぎだらけだけど、なんとか綺麗に舗装されてる。

「変わったね」ってユイが言った。

「うん」

「なんだか去年まで怪獣がいたって感じがしない」

「そうだね」

 ふと、リンがぼそっと言った。

「……このあいだ、お兄ちゃんの葬儀があった」

「……!」

 わたしたちはリンの方へと振り返った。リンは、遠くを見てた。

「遺体は見つからなかったけど、死亡認定された。小さい葬儀だった。家族と親戚だけ。写真だけ飾って。骨壺は空っぽ」

 リンの声は平坦だった。感情がない感じ。でも、無理してるわけじゃない。本当に、平坦なんだと思う。

 リンの髪が、揺れた。

「でも、やっと終わった気がする」

 リンが、わたしたちの方を向いた。

「ずっと、待ってた感じだったから。これで、前に進めるかなって」

 わたしは、何も言えなかった。ユイも、アオイも、黙ってた。

 前に進む。どこに進むんだろう。

 わからない。

 でも、それでいいのかもしれないとも思った。

 

 放課後、4人で旧市街の映画館跡に行った。久しぶりに、あそこに行こうって話になった。

 自転車で15分、旧市街に向かういつもの道を通って行った。

 道路は、綺麗に舗装されてて走りやすくなっていた。前は、結晶を避けるためにジグザグに走らなきゃいけなかったのに。

 でも今は、まっすぐ走れる。スムーズでらくちん。

 

 でも、着いたら、入れなかった。

 工事用の、オレンジ色のフェンスが立っていて、中には入れないようになっていた。

 フェンスの向こうで、重機が動いてた。

 黄色いショベルカー。アームが伸びて、建物を壊していた。

「あー……取り壊されるんだ」ってユイが呟いた。

「みたいだね」

 フェンスの隙間から、中を覗いた。

 座席は、もう見えない。あの、布が破れてて、スポンジが見えてた座席。わたしたちが何度も座った座席はもうなくて、瓦礫の山になっていた。コンクリートの塊。曲がった鉄骨。

 わたしたちの居場所が、なくなっていた。

「残念だね」ってユイが言った。

「うん」

「でも、仕方ないか」

「うん」

 しばらくそこに立って、4人でフェンス越しに工事現場を見てた。

 重機が動く音。

 作業員の声。

 崩れる音。

 全部、変わっていく。

 街が、元に戻っていく。

 怪獣がいた(あと)が、消えていく。

 

「どこ行く?」ってユイが聞いた。

「公園?」

「いいよ」

 

 公園に行った。結晶の森があった場所。

 でも今は、芝生が植えられてる。まだ小さい芝生。木も植えられてて、細い苗木が並木道を作っていた。

 新しいベンチに座り、そこで何をするでもなく4人で喋った。

 たわいもない話。誰かが言ったこと。テレビで見たこと。夏休みの予定とか。

「夏休み、どうする?」

「わかんない」

「海、行きたいな」

「いいね」

「泳げるかな」

「わたし、泳げないけど」

 ユイが笑った。アオイも笑った。リンは笑わなかったけど、口元が少しだけ緩んだ。わたしも笑った。

 普通の会話。普通の時間。

 アオイが笑った。前より、自然な笑い方。前のアオイとは違うけど、でもたしかに笑ってる。

 リンも、少しだけ笑った。ほんの少しだけ。でも確かに笑った。

 

 日が傾いてきた。夕方の光が公園を照らしてる。

「そろそろ帰ろうか」ってユイが言った。

「うん」

 自転車に乗った。4人で、並んで走った。

「じゃあね」

「また明日」

「バイバイ」

 一人の帰り道、前にスペースゴジラが立っていた場所の近くを通った。

 市役所跡地には、まだ骨組みだけだけどもう新しいビルが建ち始めてる。鉄骨が組まれてて、クレーンが動いてて、作業員が働いていた。

 わたしは、ペダルを漕ぎながら、そこを見た。

 あそこに、スペースゴジラがいた。

 あいつは2年9ヶ月、ずっとあそこにいた。

 でも、もういない。

 

 家に帰ったら、お母さんが夕飯を作ってた。

 いい匂いがする。

 お父さんは、まだ仕事から帰ってない。

 ケンジは、リビングでゲームしてる。

 

「おかえり」ってお母さんが言った。

「ただいま」

 自分の部屋に入った。

 鞄を置いて、窓を開けた。風が入ってくる。

 外を見た。もう、結晶の光はない。街灯の光だけ。普通の夜景だ。

 空を見上げた。いくつも星が見える。きれい。

 

 でも、なんか、寂しい。

 

 変だな。

 何が寂しいんだろう。

 スペースゴジラは、怖かったのに。

 結晶は、邪魔だったのに。

 人が死んだのに。

 でも、なくなってしまうと思うと、なんだか寂しかった。

 この感じはずっと残るんだろう。一生忘れないと思う。

 あの光を。

 あの街を。

 あの日々を。

 

「ごはんよー」

 お母さんの声が聞こえた。はーい、と応える。

 

 今年から受験生。今日も皆元気。明日も学校。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モナーク特別調査報告:

スペースゴジラシティのその後についての省察

 

報告書番号:GOD-20xx-0847

作成日:20xx年8月15日

分類:機密Ⅲ類

 

##概要

 Gフォースによる討伐作戦から1年が経過した。当該個体の死骸は現在、モナーク極東支部の特殊収容施設に保管されている。本省察は、死骸および関連サンプルの長期観察結果をまとめたうえで、私個人の考察を加えたものである。

 

##死骸の状態

 メカゴジラ機龍の最終兵器アブソリュート・ゼロにより凍結・粉砕された死骸は、作戦後48時間以内に回収された。総重量約15,000トン。主要部位の80%以上が回収され、残りは微細な破片として市街地に散逸したものと推測される。

 回収された組織サンプルからは、当初の予想通り、宇宙エネルギー反応が検出された。しかし興味深いことに、このエネルギー反応は時間経過と共に減衰するどころか、一定の周期で微弱な「電磁パルス」を示している。

 これは何を意味するのか。

 

##結晶のネットワーク理論・続報

 以前の現地調査で推定した仮説――スペースゴジラの結晶が本体とネットワークを形成している――は、おおむね正しかったようだ。

 市街地から回収された結晶サンプル127個を継続観察したところ、本体の「死亡」後、99%の結晶は完全に不活性化した。エネルギー反応は消失し、ただの鉱物と化した。

 しかし。

 残り1%――正確には1.2%――の結晶は、依然として微弱なエネルギー反応を示し続けている。

 これらの「生きている」結晶を詳細に分析したところ、興味深い共通点が見つかった。すべてが地下3メートル以上の深さに根を張っていた結晶である。地表に近い結晶は死んだが、深く根を張った結晶は生き残っていた。

 まるで、地中深くに何かを残していったかのようだ。

 

 ここに市街地から回収された土壌サンプルがある。結晶が生えていた場所の、深さ5メートルの土壌である。

 顕微鏡で見ると、土の中に、繊維のような構造物が無数に走っていた。まるで菌糸のように。

 DNA解析の結果は、予想通りだった。

 

 スペースゴジラのものだ。

 

 スペースゴジラは、街の地下に、まるで植物が根を張るように自らの組織を広げていたのだ。結晶は地上に見えている部分に過ぎず、その下には、目に見えない巨大なネットワークが広がっていた。

 本体が死んでも、この地下組織は完全には死んでいない。

 代謝速度は極めて遅い。おそらく、1年に1ミリメートルも成長しないだろう。しかし、確実に、生きている。

 

##テラフォーミング仮説・再考

 改めて問わなければならない。

 スペースゴジラは、何をしようとしていたのか。

 当初、私はテラフォーミング――惑星改造――を疑った。しかし、今ではより正確な表現があると考えている。

 「播種」だ。

 スペースゴジラは種を蒔いていたのではないか。自らの遺伝情報を、この惑星の土壌に。

 宇宙を漂流する間に、スペースゴジラは学習したのかもしれない。短期的な破壊ではなく、長期的な定着を。自らが死んでも、その遺伝子が残る方法を。

 そして2年9ヶ月、この街でそれを実行したのだろう。

 

##市街地の現状

 現在、かつてスペースゴジラシティと呼ばれた街では、急速な復興が進んでいる。結晶は撤去され、建物が建ち、人々は日常を取り戻しつつある。

 しかし、地下には、誰も気づいていないネットワークが残っている。

 現時点では無害だ。成長速度は極めて遅く、人間の生活に影響を与える可能性は低い。おそらく、数百年、数千年単位の時間をかけて、ゆっくりと広がっていくだろう。

 あるいは、永遠に休眠したままやがて朽ちていくかもしれない。

 だが、可能性はゼロではない。

 何らかのトリガー――再び宇宙からのエネルギー、別の怪獣の出現、環境の劇的な変化――によって、この地下ネットワークが活性化する可能性が。

 そして、新しい結晶が芽吹く可能性が。

 

##提言

 当該地域スペースゴジラシティの地下組織について、継続的な監視を推奨する。

 ただし、住民への告知は推奨しない。不必要な不安を煽るだけであり、現時点での実害はないに等しい。

 彼らは、やっと日常を取り戻したのだ。それを奪う権利は、我々にはないのだから。

 

モナーク極東支部

主任研究員 (マキ) 吾郎(ゴロウ)

 

本報告書の内容は機密事項であり、

許可なく複製・配布することを禁じる




今年もこんな感じです。よろしくお願いします。

推奨BGM:水槽の街から、もうどうなってもいいや(機動戦士Gundam GQuuuuuuX)

次に読みたい話

  • メカゴジラ機龍VSビオランテ
  • 魔法少女のバトラちゃん
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