自分を後藤ひとりと思い込んだ一般ぼっち大学生が、川崎でガールズバンドを組む話   作:淵岳 月夫

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誤字報告本当に助かります…!
何度も見返してるのにこんなにも誤字が多いのか…!


05.From Noon Till Dawn

「はい、ニーナ」

「あ、ありがとう。いくらだった?」

「いいよ、ついでに買っただけだし。気にするならまた今度奢って」

「うん」

 

 休憩中に部屋の外でぼけっとしていると、すばるちゃんがお水を買ってきてくれた。

 ライブを終えて少し。私たちはカラオケスタジオに来ていた。

 動画サイトにアップする用に曲のレコーディングをするためだ。

 貰った水は冷えていて、歌うことで熱がこもった体を冷やしてくれるのが気持ちいい。

 

「ねぇ、すばるちゃん」

「ん?」

 

 口を潤して、私はすばるちゃんにさっきから気になっていたことを聞いてみた。

 

「桃香さんは意識してるのかな。今のダイダスのこと」

「ダイダスって、ダイヤモンドダスト?」

「うん。検索してた。やっぱり意識してるんだよ」

 

 桃香さんのスマホには音楽サイトで検索している画面が映っていた。

 のぞき見みたいで嫌だけど、目に入ってしまったら気になってしまう。

 あと、スマホ画面がバキバキなのが悪い。あんなヒビだらけの画面のままのスマホを使う人、人生で初めて見た。

 

「ていっても、向こうはバリバリメジャーでしょ?

 もし本気で意識していたら、こんな素人二人とは組まないって」

「でも……」

 

 そのとき、部屋の中からギュイーンという音が響いてきて、少しびくっとした。

 誰かがギターを弾き始めたみたいだ。

 

「あの二人、またか」

「まただね」

 

 言うまでもなく桃香さんとぼっちさんだった。

 今までのスタジオ練でも、二人は休憩時間もお構いなしにギターを弾いていた。

 しかも、休憩自体は二人が言い出すんだからたちが悪い。

 

「ぼっちさんだけだよね。桃香さんが自分から相談するの」

「まあ、明らかに上手いからね」

 

 桃香さんは私たちに対しては歌や演奏に細かいアドバイスを何度もくれる。

 一方でぼっちさんには、自分の演奏について相談したり、ぼっちさんがした演奏の意図を聞いたりしているところがよく見られた。

 メロディは弄るところはないって言っていたけど、細かい弾き方については凝り性と言えるくらい二人で話し合っていた。

 よくわからないけど、こういうのを編曲(アレンジ)っていうらしい。

 

「凄いんだね、ぼっちさんって」

「プロレベルっていうか、本当はプロの中でも上澄みの方なんじゃないかな、あの人。

 普段の言動からじゃ想像つかないけど」

 

 確かに、普段の言動とはかけ離れてる。

 いつも猫背で目は髪に隠れてるし、声も小さいかうるさいかのどっちかだし、最近はずっとピンクのジャージしか着てないし。

 とてつもなくギターが上手いはずなのに、なぜかいつも自分を卑下していて。

 そういうのを見てると、なんだか無性に腹が立つ。

 

「すばるちゃんはどうして、ぼっちさんとバンドを組むことになったの?

 知り合ったばっかなんだよね」

「あー、誘導したというか、罠にはめたというか。……ん?」

 

 私の質問に口ごもったと思うと、すばるちゃんのスマホからL〇NEの通知音が鳴る。

 すばるちゃんはスマホを取り出して画面を見ると、慌てて部屋に入っていった。

 

「ごめん、今日は帰る~!」

 

 バッグをかついだすばるちゃんがすぐ部屋から出てきたかと思うと、そう言って早足で帰っていく。

 その慌てように、私は部屋から顔をのぞかせた桃香さんたちと見つめあうことしかできなかった。

 


 

05.From Noon Till Dawn

 


 

「お、落ち着くぅ」

 

 家に帰って真っ先にわたしは着替えもせずに布団にもぐりこんだ。

 こういう時のジャージっていいな。なぜか罪悪感が薄まる気がする。

 外に出て汗臭いのは変わらないのにね。

 

「もう今日は人と話せない……」

 

 信じられないかもしれないけど、ぼっちには人と話すときに疲労がたまる。肉体ではなく精神の疲労だ。

 ぼっちには個々人ごとに一日の疲労を溜められる許容量があり、それを超えて会話することはできない。

 人間の会話のように複雑なものをぼっちが再現するのはすごく大変だ。どれくらい大変かというと、その能力を覚えてしまうと他の能力(ギター)を使えなくなるくらい。

 わたしはそれを「容量(メモリ)が足りなくなる」と表現している。

 

「わたしの敗因は容量(メモリ)のムダ遣い♥」

 

 ドオオオオオン

 

「ひとりちゃん、もうすぐご飯できるわよ。あら、ごっこ遊び? 懐かしいわねぇ、幼稚園ぶりくらいかしら」

「ラ、ライブパフォーマンスの練習をしてただけだからぁ!

 勝手に入ってこないでよ!」

「ふふっ、ごめんね~」

 

 は、恥ずかしすぎる!

 親にだけは見られたくなかった、漫画の真似してるの!

 一年足らずで大学も卒業するのにいまだに現実と空想の区別がついてない子供だと思われた……!*1

 下に降りるのが億劫だ、しばらく顔見られたくない……。

 

「……いや、降りよう。ジミヘンが怒るし」

 

 ふたりならともかく、お母さんだったら生暖かく見られるだけだし。

 あと、お腹すいたし。

 そうして、わたしは部屋を出て階段を降りる。

 

「ワンッ!」

「ごめん、すぐ手洗うから」

 

 リビングに入るとジミヘンが遅いとわたしに吠えてきた。

 ジミヘンにせかされてすこし急いで洗面所に向かう。

 

「お姉ちゃん、今日凄いよ」

「えっ、今日も?」

「ひとりちゃん、ふたり、ちょうど今できました~。今日はからあげと……」

 

 手を洗って洗面所から出ると、机にはもう八割がたの夕飯が並んでいた。

 ふたりはもう席についていたので、わたしもいつも通り隣に座る。

 ふたりの言葉に聞き返していると、お父さんたちがメインを運んできた。

 

「はい、お父さん特製パイシチュー」

「と、特製パイシチュー……」

 

 父の料理が凝りすぎている……。

 熱いから気を付けてね、とお父さんとお母さんがミトンで耐熱皿を並べた。

 お父さん、リモートワークが増えてからやけに料理に熱を上げてるんだよなぁ。

 美味しいけど、ちゃんと仕事してるのか心配になってくる。

 

「ひとりちゃん、手は洗った?」

「うん」

「じゃあ、みんな揃ったし、いただきます」

「ワンッ!」

 

 全員が席に座ると、お父さんの合図で手を合わせて、いただきますを言った。

 いつもはまずからあげに手を伸ばすところだけど、流石にこんな凝った料理をだされたら無視できない。

 恐る恐るといった形でパイシチューに口を付ける。

 

「どう、ひとりちゃん?」

「……おいしい」

「作った甲斐があるな~! ふたりも食べたら感想教えてね」

「はーい」

 

 うーん、美味い。

 ここまで美味しいと外食に挑戦するモチベーションが著しく下がっちゃうな。

 お父さんはわたしをひきこもりにしたいに違いない。

 

「でね、その子のタブレットが壊れちゃって」

「あら、大変ねぇ」

「お父さんが見てみようか? 中のデータなら取り出せるかもしれないし」

「今はいーよ、じごーじとくだし。ちゃんとこりたらお願い」

 

 ご飯を食べている間はあまりテレビを付けない、というより付けても見えない位置にあるから、必然会話が多くなる。

 家族の中でも、友達の多いふたりはいつも話題に事欠かない。

 おかげでわたしも小学校内での流行には敏感になってしまった。

 

 あ、からあげ少なくなってきちゃった。

 三角食べできないんだよなぁ。好きなものから食べる癖付いちゃってるし。

 

「ひとりちゃんは今日のバンド楽しかった?」

「うん。ライブでやった曲のレコーディングしてて、帰るの遅くなっちゃった」

「へー、お姉ちゃんなんか凄そう」

「そのままお友達とご飯食べに行っても良かったんだよ?」

 

 ……今日がからあげの日だったから早く帰ってきたとは、この父には言えない。

 絶対調子に乗ってうざくなるから。

 

「途中ですばるちゃんが帰っちゃったから、終わったら解散みたいな感じで……」

「もしかして喧嘩とか?」

「ううん。でもなんでかはわかんない」

「心配ね。季節の変わり目だし」

 

 お父さんたちの気は逸らせたけど、それはそれとしてすばるちゃんのことは確かに気になる。

 スマホを見て出ていったって話だけど、誰かになにかあったのかな。

 すばるちゃんは困ったわたしに話しかけるくらいお節介焼きだし、ひとりで抱え込まないか心配だ。

 

「う゛ぅ゛……」

「ど、どうしたのお父さん?」

「ひとりがバンドを謳歌していると思うと涙が……!」

 

 そんなことを考えていると、お父さんが突然泣き出した。

 正直ちょっと引いてしまう。

 

「お父さん、てっきりもうひとりは米津⚪︎師か⚪︎タニタツヤ路線でいくものかと思ってたから!」

「お母さんも嬉しいわ~、楽しい話いっぱい聞けるもん。

 匿名の有名ミュージシャンだとご近所さんにも秘密にしないとだし」

「期待が重いよ……」

 

 この両親、わが子が有名になることに微塵も疑いを持っていない。

 小さい頃も天才だなんだとほめそやされてきたし。

 ふたりの育成方針が心配だ……。

 

「おねーちゃんたちのライブも凄かったもんね」

「えっ、見てたの!?」

「三階でね~、チラシも取ってあるのよ」

 

 初耳がすぎるっ!

 ラゾーナは二階の広場が吹き抜けになってるから三階からも見られるけど、まさか家族に見られているなんて。

 どうりで家を出た時にはみんないたのに、わたしより後に帰ってきてたのか……。

 

「もしかして嫌だった?」

「い、嫌じゃないけど……」

 

 正直恥ずかしい。

 みんなわたしより年下なのに、わたしだけ家族総出で応援されてたらちょっと顔を見れないかもしれない。

 

「せめてサイリウムはやめて頂けると……」

「はい、わかりました♥」

 

 うぅ、そこまで邪気のない笑顔をされると弱い。

 名前呼ばれても知らない振りしよう。それかドッペルゲンガーで押し通そう。

 

「あれ、でもおねーちゃん、シューカツはいいの?」

「グゲッ」

 

 心の一番弱いところをついてくるのは、いつもふたりだったね。

 お姉ちゃんが最近家でエントリーシートを書いていないことに気が付いたのかな?

 

「お姉ちゃんのバンド活動は音楽業界にリーチするための手段の一つでもあるの。

 つまりこれは広義の就職活動なんだよ? つまりわたしは就活をしているんだよ、わかる?」

「は、はい……。あれ、でもバンドで有名になったら会社に入る必要ないんだよね?」

「まあ、そう思うけど」

「じゃあ、おねーちゃんはもうシューカツしなくていいんじゃない?」

 

 妹よ、そんな甘美な誘惑をしてくれるな。

 ふたりまでそんなこと言い出したらわたしは落ちるところまで落ちちゃうから。

 

「有名になれるかは、別の話だし」

「うちは余裕あるから、あんまり無理しなくていいからね。ひとりちゃんはもう家にお金も入れてくれているし」

 

 たしかに、ギターヒーローの収入で家賃分は入れてはいる。

 弾いてみただからあんまり収益は出ないし、時期によって結構変わるけど……。

 いいの? そんなこと言われたら就活やめるよ、転生しても無職でいいの?

 

「お、お父さん……」

「うーん、ひとりとひとりのバンドがどうしたいかによるかな」

 

 藁に縋る気持ちでお父さんに話を振ると、そんな返答が返ってきた。

 正直意外だ。お父さんなら無職どころか引きこもりもオッケーなんて返してくるかもなんて思ってた。

 

「バンドを続けるのにバンドで収益を上げる必要はないしね。

 サラリーマンをしながら活動して有名になったバンド*2もあるし」

「えー、どっちもなんておねーちゃんにできるかな〜」

 

 そこはお姉ちゃんも不安です。

 

「それに、本当にやりたいことって自分でもよくわからなかったりするから。

 お父さんも入社したてはただの仕事だったけど、やってるうちに楽しくなってきたし」

「なるほど……」

 

 たしかに、あるかも。

 わたしの前世の仕事もそんな感じだった気がする。

 

「就活も真剣にやってるんだろう?」

「う、うん」

「なら、それ自体に価値があるとお父さんは思う。

 無理しない範囲でやってみていいんじゃないかな。今が一番挑戦しやすい時期だしね!」

「あっはい」

 

 親らしいことを言われて安心したような、止めて欲しかったような複雑な気分だ……。

 でも、みんなはバンドの将来についてどう思ってるんだろ。

 バンド活動自体に夢中で、そういうことは話してなかったな。

 

(ん?)

 

 そんなことを考えていると、ポケットに入れっぱなしにしていたスマホが短く震えた。

 消音モードにしてるからなんの通知かはわからない。Y⚪︎uTubeかな。

 ちょっと気になるけど、ご飯中だから行儀悪いよね。

 

「ふたりは将来どんな仕事がしたいの?」

「リモートワーク! 楽そうだし、ジミヘンと遊べるし、ねー」

「ヴンッ」

「お、いいな〜! ふたり用のオフィスも家に作っちゃうか!」

「お父さん、ふたりにもっと社会の厳しさを教えてあげて?」

 

 そんなこんなで、我が家の団欒はいつも通りに過ぎていった。

 テレビを独占したいふたりとジミヘンが一番早く食べ終わって、その次はお父さんが席を立って皿洗いを始める。

 その後はわたしとお母さんがだいたい同じくらい。お母さんが皿洗いに入ると台所は定員になって、わたしができるお手伝いといえば早くお風呂に入るくらいしかない。

 こういうコツコツとした自堕落さがふたりの中の家庭ヒエラルキーを強固にしてるんだろうな。

 

「ひとりー、良かったらジミヘンのブラッシングしてくれない?」

「うん、わかったー」

 

 よかった、今日は仕事にありつけた。

 春先と秋頃はジミヘンも換毛期で抜け毛がすごい。

 放っておいたら家の中が毛まみれになるから、日に一回はブラッシングが必須だ。

 

「はい、ジミヘン回収業者ですよ〜」

「あー、連行された〜」

「クゥーン……」

 

 昨日の新聞紙を床に敷いて、ふたりから取り上げたジミヘンをその上に置く。

 ジミヘンは新聞紙の上でごろんと寝転がると、さっきの声はなんだったんだっていうくらいへっへっと尻尾を振っていた。

 

「お客様、痒いところはございませんか〜?」

「ゥン」

「うーん、わからん」

 

 こうして白髪混じりの毛をすいていると、ジミヘンも歳を取ったと実感する。

 人間で言うともう初老くらいじゃないだろうか。出来るだけ長く元気でいて欲しいものだ。

 

 あ、そういえば。夕食中にスマホに通知が来てたんだった。

 他のことに集中すると考えていたことを忘れちゃう、シングルタスクの悪いところが出てしまった。

 ブラシを小脇に置いて、少しスマホを確認してみる。

 なんだろ、新曲発表とかだったら嬉しいな。

 

『すばるちゃん? 大丈夫?』

『おーい、ひょっとして好きな人できた?』

 

 ……スマホが連絡ツールだということを忘れてた。

 あと、仁菜ちゃんはどういう経緯でその推測に行き着いたんだろう。

 女子高生だったら恋愛でもおかしくないのかな、すばるちゃんって明るいし、可愛いし。

 

「陰のものには蓬莱くらい縁遠すぎる……」

「ワンッ!」

「あっ、ごめんね」

 

 わたしはスマホを閉じてブラッシングを再開した。

 このとき、わたしも家族もつゆ知らなかった。

 

『バンドやめます、ごめんね!』

「ゲロゲロッ!」

 

 翌朝、変死体となった後藤ひとりが発見されることになるなんて。

 

  ◇

 

「ふぁ~、止めといた方がいいと思うけどな」

「どうしてですか! この四人でやっていこうって決めたじゃないですか!」

 

 これまでのあらすじ!

 仁菜ちゃんに呼び出された後藤ひとりたちは、すばるちゃんが通っているらしい演劇スクールの前にやってきた。

 すばるちゃんの脱退を止めようと仁菜ちゃんは憤ってるけど、桃香ちゃんはあんまり乗り気じゃないみたい。

 このまますばるちゃんが脱退したら、立ち直ることは難しいぞ!

 どうする、ひとり!?

 

「ぼっちさんなんて会ってからずっと壁に向かって独り言呟いてるんですよ!

 そんな簡単にあきらめていいんですか!?」

「普段通りなのか判断に困るな……」

 

 はっ、いけない。

 ショックすぎて思考すらイマジナリーフレンドに任せていた。

 

「あきらめる訳じゃないんだよ。バンドが良ければ、男切って戻ってくる。

 下手に引き留めると逆に燃え上がるだけだぞ」

「えぇ……、そうなんですか」

「す、すばるちゃんって彼氏いたんですね……」

「あ、戻った」

 

 そっか、女の人って男の人と付き合うんだ。

 後藤ひとりがきらら出身だからか、彼氏とかの存在を無意識に除外していた。

 もしかしてこれから青春群像劇みたいな展開になるのかな。

 そうだとしたら、わたしは眩しさに焼かれることでひと時のサスペンスを提供することしかできない……。

 

「もしかして、二人とも男と付き合ったことないパターンか?」

「……桃香さんはあるんですか?」

「……」

 

 ……少なくとも、この二人には関係なさそう。

 

 施設の中に入ると、キレイなエントランスが広がっていた。

 高校っていうよりは大学のキャンパスみたいだ。

 エントランスの景色から意識を戻すと、ボクサーみたいなポーズで身構えた仁菜ちゃんを桃香ちゃんがたしなめていた。

 

「あと、ぼっちはなんで仁菜の腰をつかんで隠れてるんだ。獅子舞の中身みたいになってるぞ」

「あっはい。後ろ脚としての自覚を持ちます」

「ここでのすばるちゃんはムカつくキャラなので、怒らないように……」

「あら?」

 

 かみ合わない会話をしていると、聞きなれた声にわたしたちは振り返った。

 

「すばる……」

「ちゃん?」

「ふふっ」

 

 そこにはシックな私服を着た、いつもと違ったすばるちゃんが立っていた。

 いつもの制服と恰好からして違うけど、なんというか、オーラが違う。

 髪の毛ふぁさってしてるし。

 

「さあ、お祖母様。こちらへ」

 

 そんなすばるちゃんは、後ろに老齢の女性を連れていた。

 背筋がピンとしてて、和服を着こなしている。

 その女性は私たちをちらりと見ると、すばるちゃんに話しかけた。

 

「伝統舞踊かしら。精が出るわね」

「春先ですわね」

 

 すばるちゃんたちはそう話しながらしなしなと歩いてくる。

 老齢の女性がわたしたちを通り抜けて、すばるちゃんもそのまま通り抜けようとすると、仁菜ちゃんが身を乗り出して立ちふさがった。

 仁菜ちゃんをつかんでいたわたしは遠心力によって床に投げ出された。

 

「あがっ」

「……むぅ」

「なにかしら?」

「すば「あら、大変、人が倒れているわ! お祖母様、ちょっと救命活動をしてきます!」

 

 すばるちゃんは片手で仁菜ちゃんの口をふさいで、もう片手でわたしの首根っこをつかんで曲がり角までひきずっていく。

 老齢の女性の目に入らないところまで連れていかれると、わたしは体に浮遊感を感じた。

 

「へぶっ」

「大丈夫か?」

「なんでこんなとこに来てるのよ!」

「当たり前でしょ! いきなりあんなメール送ってきたら!」

「後で説明するから今は帰って!」

「そちらは?」

「っ、お祖母様!」

 

 わたしがダウンしている横ですばるちゃんと仁菜ちゃんが言い争っていると、いつのまにか老齢の女性が近づいてきた。

 

「お、お友達です、役者仲間の……」

「役者ぁ?」

「フンッ、……そうだよね~!」

「あはは……」

 

 わたしが起き上がろうとすると、背中に倒れてきた桃香ちゃんに潰されてしまう。

 後に残るのは、屍の群れ(わたしたち)を横目に見る仁菜ちゃんの乾いた笑い声だけだった。

*1
ついてません。

*2
(A)あらゆる世代を(K)これ以上なく盛り上げる(G)ゴッチさんがメインボーカルのバンドをよろしく!




・後藤ひとり(偽)
家族に対してはどもらずに話せる人。
それはそれとして後藤ふたり内家族ヒエラルキーは堂々の最下位。

・井芹仁菜
家族を振り切って高校中退して上京した人。
順調に学力が削れていっている。

・安和すばる
変死体を作った真犯人。
犯行動機は家族にあると思われる。

・河原木桃香
家族関係がよくわかってない人。

・後藤直樹
・後藤美智代
変人に見える人格者と人格者に見える狂人。

・後藤ふたり
狂人たちを反面教師にすくすくと成長中な人。

・ジミヘン
犬。

05.From Noon Till Dawn
ストレイテナー「From Noon Till Dawn」2012.
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