セラフィエルの憂鬱   作:笑顔猫

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第17話 ソロンとアルベール

 

 

 やはり頼りになるのは我らが兄上様であるソロンだろう。

 

「ソロン兄様の部下が村の惨状を発見した事にして報告してくださいよ」

 

 うわ、めちゃくちゃ嫌そうな顔だ。

 

「やだよ」

 

 嫌そうに断られた。

 

「私たちの脱走がバレたらそれに加担してたソロン兄様も大目玉くらいますよ?」

 

「……はぁ〜。何で俺が管理監督責任を問われるんだよ……」

 

 下手に悪事に協力するからこうなるんだ。また一つ賢くなったなソロン。

 

「兄さん、悪いことばっかりじゃないと思うよ」

 

 にこにこしながらアルベールが言った。

 私たちは双子だ。協力すれば怖いものなど一つもない。

 ソロンごとき、圧倒的な舌三寸でこねくり回してやろう。

 主にアルベールが。

 

「俺に協力を依頼するならば、俺にメリットがあるのは当然の事だ。とりあえず提示できるメリットを言ってみろ」

 

「今回の件、僕たちの手から完全に離れる訳だからね。全てが解決したら、その功績はソロン兄さんの物になるよ」

 

 その通りだ。いけいけ!

 

「そんな事は当然だ。お前達が俺に任せると言うならばこの件は俺のものだ。次」

 

 ははは。普通の子供であるアルベールに容赦ないな。やはりソロンはとことん()()()()()

 

「そして、ソロン兄さんが解決すれば、ひょっとしたら姉さんは気に入るかもね」

 

「……何を?」

 

「ミネルヴァ様をさ」

 

「!!」

 

 にこにこのアルベールと対照的に、ソロンは大きく目を見開いた。

 どういう事だ?

 私は元々ミネルヴァの存在は嫌いではないぞ。口喧嘩で勝てるビジョンが見えないだけで。

 

「……いつから気づいてたんだ?」

 

「最初からだよ。僕たちの力、ミネルヴァ様のために使おうとしてたでしょ?ソロン兄さんに武力は必要無い。なのにあんなに喜んでいたのは、ソロン兄さん以外の人に何かが起こる可能性があるって思ったんだ」

 

 要は、ソロンはまたしてもミネルヴァの為に動いてたって事か?

 ……なんでだ?

 

「……俺の母上は、劣等感を抱いている。誰に対してだと思う?」

 

 前置きに「俺の」と言っている以上、答えは決まってる。

 

「母様?」

 

「そうだ。アナスタシア妃、お前達の母親にご執心だ」

 

 ふむ、疲れているからか考えがまとまらん。ミネルヴァが劣等感を抱くほど母上が何かしたのか?

 

「お前たちの母は、最近よく父上の視線を奪っているらしい。ルベリオの女が偉そうに、とお怒りだ。一体何をしたんだ?」

 

 ルベリオとは、隣国のルベリオ王国だ。

 アナスタシア、我らが母上はなんとルベリオ王国の第二王女様なのである。

 アストリア王国より少々、いやかなり格落ちだが、それでも一国の姫君を貰い受けるとは中々王様らしい父上だ。

 

「何か、と言われても私たちも母上とそんなに会っている訳ではありませんので特に思いつきませんね。アル、心当たりはあるか?」

 

「そうだね……ここ数日は生き生きとしているけど、特段何かがあった訳ではないと思うよ。ミネルヴァ様が危機感を持つ程の何かは僕目線では無かったよ」

 

 正直何も思いつかんな。

 だが、生き生きしている?そうだったか?

 

「ふむ、そうか。だが俺の母上の嗅覚は本物だ。近日中に何かが起こる予感がする。その時、お前たちには母上に駆けつけられるようにしろ。俺は父上の近くに居ざるを得ないからな」

 

 なるほどな。事は単純、ミネルヴァを守れとそういう訳だな。

 なら最初からそう言えばいいのに、頭の良いやつ同士の会話ほど疲れるものは無い。

 

「イジー。母上は気難しい所があり、お前にも厳しく当たることがある。だが、それは陛下や俺を守ろうとしているからだ。あまり虐めないでやってくれよ」

 

 私がミネルヴァを虐める?逆じゃなくてか?

 しかし、そう言ったソロンの顔つきは昔のお馬鹿だったソロンからは考えられない程精悍な表情だ。

 

 王太子であるソロンは、現在国王ユリウスに付いて、宰相と共に政務を学んでいる。ユリウスは若いからまだ大丈夫だろうが、ユリウスの父は若くして病に倒れている。

 いつ不幸があるとも分からないから今のうちからできる事をしているのだろうな。

 

 それに、間もなくソロンは正式な結婚の時期だろう。詳しくは知らないが、婚約者共々忙しくなるのは目に見えている。

 

 

 ………………婚約者?

 

 

 あぁ、そうか。

 

 

「私に本当に婚約者ができたようですね」

 

「「えっ」」

 

 あまり考えたくなかったが、恐らくそれだろう。

 

 

◇◇

 

 

 ソロンには、ミネルヴァを守る事に関しては任せろと言っておいた。だが、恐らくミネルヴァが反応していた危機はそれじゃあない。

 

 私だ。

 私に婚約者が本当にいたようだ。

 

 アナスタシアは私に婚約者を見繕っている、と言っていたが婚約まではしてなかったハズだ。

 私がウルネラ村に行く前段階から母上はウキウキで婚約者を決めたのだろう。その笑顔たるや、父ユリウスをドキドキさせる程だったらしい。

 

 なんとも間抜けな話だ。気が抜けた。

 

 だが、婚約者ができた事そのものはまずい。私は前世から考えると六十を過ぎたおじいさんだ。

 孫もいた。そんな私に若い男と交わる趣味は無い。

 

 どうにかして回避したいが、なんとも難しい。そもそも、王族の親が決めた婚約話など破棄できるほどの大きな理由を作る事は難しい。

 どう転がっても母上の顔を潰す結果になる。

 

 気が進まないが、そやつ(婚約者)はボコボコにして上下関係を作ったあと、適当な女と子供を作らせてそれを私の子供として育てることにしよう。

 

 ミネルヴァが恐れているのは、婚約によって私の力が増大することだろう。私の力が増えることは、アルベールの力が増すことと同義だ。

 それは、警戒するに値する。少し臆病過ぎるきらいもあるが……まぁ、そこもまた彼女の美しさだ。

 

 強気に振る舞う、臆病な美女。

 いやはや、たまらんものがある。

 

「姉さん、何で鼻の穴大きくしてるの……」

 

 してる訳ないだろ!

 

 

 

 そんなこんなで色々とあったが、この後にひとまず片付いた事はある。

 

 まず、ミネルヴァとの確執だ。我々は王位継承権を破棄すると約束したが、アルベールの継承権破棄は国王であるユリウスの許可が降りなかった件。

 

 これは話し合いにより和解した。

 

 具体的には、ソロンが王位についた()、継承権を捨てると言うものに変更したのだ。

 これにより王位簒奪が不可能になった。戴冠する前にソロンを暗殺する事で擬似的に王位を継承する事が可能だが、ソロンは強いし、する意味もない。

 ミネルヴァはソロンの強さと私たちの行動を信じることにしてくれた。

 

 ついでにちょっと口説いたが、袖にされてしまった。アルベールに肘で突かれたがそんなに悪いことはしてないだろう。お茶に誘っただけだ。断られたが。

 

 

 あとはエヴァンだ。私から直接協力させた事もあって、すでに魔術への理解度は私を超えている部分もある。

 今はアルベールと魔術の研鑽をしている。現状の私の身体強化術式の甘さを指摘され、指導を受けたばかりだ。

 私が教えたのだが……。やはり私に教鞭は向いてないな。

 

 

 それと、学園の入学試験だ。勉強は順調でこのままいけばアルベールの首位入学は確実だろう。

 これも当然だな。術式への理解が凄まじく早いアルベールにとって筆記試験などただのお遊びだ。

 私は適当に真ん中くらいを目指している。これも難易度が高いんだ。勉強し、内容を熟知した上でどの程度間違えれば高過ぎない成績を残るのか考えなくてはならない。

 決して勉学を放棄して怠けている訳ではないと主張したい。

 

 

 最後にウルネラ村の毒の件だ。

 ソロンに調査を約束させたが、結果は芳しくない。ディアサーペントが現れた場所を捜索し見つけたが、なにか新しい発見があった訳では無さそうだった。

 毒の痕跡なども見つからず、新種の魔物の可能性が高いと結論出された。

 

 ただ、その奥に誰かが魔物に食い散らかされた痕跡があったらしい。血の着いた黒い布が発見された。

 これも謎だ。狩人はこの人を追いかけていったわけではない。つまり、その黒い布の持ち主は()()()()()()

 

 不可解だ。

 まだ判明していないことは多いが、アルベールの聖域があの村を守るだろう。

 

 

 

 あぁ、忘れていた。

 私の婚約者のことだが……。

 

 

「あ、僕の愛しいイジーちゃ〜ん!見つけたよー!」

 

 

 ()()だ。

 

 

 

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