セラフィエルの憂鬱   作:笑顔猫

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学園編
第22話 同居人


 

 

 馬車で駆けること二時間。ようやく学園に到着した。

 ソロンは毎日これで通っていたのか。やつの尻の肉の心配をする程だな。

 

「さて、じゃあ姉さんまたね。入園式で会おうね」

 

 笑顔でそう言うアルベール。

 姉離れするかと思いきや、そんな事もなかったな。

 子供の成長は早い。ねえさま、と言いながらてとてと付いてきたあの幼いアルベールは影も形も無い。

 

 離れられていないのは私の方か。

 

「あぁ。上下関係に気をつけろよ」

 

 主にアルベールが上になれと言う意味だが。

 まぁ、心配ないだろう。王族なのだから、そもそも上だ。

 

 私たちはそれぞれの寮に向かった。

 男子寮と女子寮で別れており、アルベールと同室という希望は叶えられなかった。

 

 ……私はうら若き女子生徒と相部屋になるのだ。何とも言えない気持ちになるが、まぁ仕方ない。

 この辺りは王宮にいる頃から諦めている。

 

 女子寮は三つほど建物があり、学年別で分かれているようだ。私は一学年になるため、一年と二年が住む寮に住み込むことになる。

 

 私の寮は第一学園寮。第二学園寮は三〜四年の生徒が、第三学園寮は五〜六年までの最終学年の生徒が暮らす寮だ。

 

 学年が上がると移動するという訳ではなく、そのままその寮で卒業まで暮らすことになる。

 

 第一学園寮の三階の五号室が私の部屋だ。

 

 む、魔法錠か。魔力を流すことで鍵が開けられる仕様だ。もちろん開けられる人は制限されており、寮を担当する者と少数の教師、部屋の住人のみ開けられるようになっている。

 

 魔法錠にゆっくり魔力を流し込む。

 

 ガチャ、と鍵が開く音がした。

 先程から中にいる人の気配がする。ドアを開け、挨拶をしようと思い、ドアノブに手をかけた。

 

「おや?」

 

「うっそでしょ…………」

 

 そこにいたのはセラフィエルを讃えていたティナ嬢だった。

 

 

 

◇◇

 

 

 

「私ツイてない……ツイてないわ……」

 

「ははは、まぁそう落ち込むな。前は少し行き違いがあったが、今は私の言った通り学友になったじゃないか。仲良くしていこう」

 

 ティナ嬢は暗い目をして自分の荷物を抱えて蹲ってしまった。

 全くもって私のせいなのだが、なんとか元気づけてやりたい。まだ将来有望な女子生徒なんだ。

 

「ティナ嬢。まずは自己紹介から始めようか」

 

 そう言うと、貴族の娘という事を思い出したのか顔を上げてこちらを見てきた。

 そうだ。ちゃんと名乗る事は貴族家として当然のことだろう。プライドの高そうなティナにしてみれば、名乗らないなど恥さらしもいい所だ。

 

 名乗れるほど立派な家じゃないと思われても仕方がないからな。

 

「私はイザベラ・ルシアン・アストリア。アストリア王家第一王女である。偉大なる我が父、国王ユリウス・ルシアン・アストリア唯一の娘でもある。我が弟アルベールと同時に今日から入寮してきた次第、お前と再開する事ができた。ではティナ、名乗れ」

 

 仕方が無いとばかりに吐息を挟み、目を閉じて立ち上がった後、私に対し片膝をついて口を開いた。

 

「……お会いできて光栄です。私の名はヴァレンティーナ・オルシュでございます。王宮でその名を馳せるあの双子の先導、若き獅子姫と同室である事は替え難い幸運であると感じております」

 

 貴族の娘という事を強く感じさせる綺麗な礼だ。侯爵家というのは伊達ではない。

 しかし、替え難い幸運……?さっきツイてないなどと独り言を言っていなかったか?

 

「……まぁなんだ、そこまで畏まる事は無い。楽にしてもらって構わん」

 

 仮にも私が王族だからだろうか、先程とは、いや以前とは打って変わった態度だ。

 まぁ、貴族の娘が王族に楯突くなんざ、本当にお家取り潰しになってもおかしくないからな。首が物理的に飛ぶだけで済むならまだマシなのかもしれない。

 

 いや、そんな事しないが。

 

 それに。

 

「獅子姫?」

 

「はい。殿下はその獅子奮迅の活躍に美しい金髪、整ったお顔立ちにより、獅子姫と呼ばれています。殿下のお顔を知らぬ者が多いため、憶測や噂などが独り歩きして様々な呼び名が存在していますが、最近は獅子姫と呼ばれることが多いです」

 

 獅子奮迅の活躍……?何かしたか?

 私がやったことと言えばアルベールを超強化したくらいだが。

 

「活躍とは?」

 

「学園へ忍び込んだ腕の立つ敵を一方的に捕え、殺さずに騎士団に明け渡したとお聞きしました。顔も知らない王女が率先して受験生を守った活躍は、市井の者たちの中で大変噂になっております」

 

 あぁ、あれか。

 腕の立つ敵、ね。

 

 そんな事はなかった。

 これは謙遜ではなく、本当に大した事が無かったのだ。国外の侵略者が、名高い学園に忍び込み、国として厳重保管している禁書を盗み出すのは大仕事だ。

 魔神の力を使わなければ、今の私でも苦戦するような奴らが複数人居てもおかしくはなかった。

 だが実際には、十二歳のアルベールにすら片手間で抑えられてしまう始末。

 

 それに、奴らに与えられた情報と異なる解錠魔法。

 

 ルベリオの凶行疑惑は唐突だった。

 

 そしてエイルの登場と無知。

 

 母上の別れ際の言葉。

 

 しつこいまでのソロンの監視。

 

 何かが起きている。いや、誰かが何かを起こしている。それは国家の思惑を超えているのか、無視しているのか。

 

 母上の裏切りを疑う訳じゃないが、関連はありそうだと思ってしまうな。

 

「その恥ずかしい呼び名で私を呼ぶのは辞めろ」

 

「はい、殿下」

 

 くすぐったいな。

 

「その殿下もやめろ。口調も元に戻せ。やりづらくて仕方が無いだろ。以前アルベールが脅したが、私は繊細な人間ではない。それに、学園生として共に学ぶ学友だと言っただろう。あの場にいた友にそのような口調で話すのか?」

 

 十二歳の子供に傅かれて喜ぶ趣味は無い。

 

「でも、周りは……」

 

 困ったようにティナが眉を下げる。

 そうか。私が王族だと周りの視線が気になるよな。

 でも安心してくれ。ティナを悪いようにはしない。

 

「そも、私は王族という事は隠しておきたい。内緒でやりたい事があるんだ。アルベールには最大限目立てと命令してあるから隠れ蓑にしたい。協力してくれ」

 

「へ?か、隠す?」

 

 今までで一番困った顔だ。すまんなティナよ。

 

「あぁ。あの侵入者達のこともそうだが、調べたい事が山ほどあるんだ。私が王族だと気取られるとこの立場は邪魔になる。協力してくれ」

 

 頼む。私一人では難しいだろう。必ず協力者が必要だ。

 

「そ、そんなのバレるに決まってるわよ……」

 

 お、いつもの口調に戻してくれたな。でも困った眉は下がったままだ。

 

「いいや、ティナ。お前に頼むんだ。現状、お前以上に頼りになる者はいない。そうだな、私に光神教の教えを説いてもいいぞ。興味が無い訳でもない」

 

「えぇと……」

 

 まだ混乱してるな。

 交渉は苦手だ。頭の良い奴のやり方を真似ることもできない。ただ、私の持つカードは分かっている。

 

「私の強さの理由、知りたくないか?」

 

「!!」

 

 やはり反応したな。耳がついていたらピンと上に向いているに違いない。

 

 ティナは強さを求めている節があった。

 あの時、私の詠唱に対して突っかかったのは、あんな適当な詠唱でそこそこの火力を出してしまっていたからだろう。

 

 詠唱を知らず、まともな魔法を撃てていないなら試験に落ちるだろうから無視するハズだった。

 

 しかし、私はあんな適当な詠唱で、カカシを燃やした。

 光神教徒として無視できないのもあったが、あの程度の信仰心と詠唱で力を示してしまった。

 突っかかった真因はそれだろう。

 

 なぜ、アレで力が出るのか。

 その根源を知りたいはずだ。

 

 私は、こやつに魔術を教えることにする。

 その信仰を超えうる好奇心と知識欲。才能だ。本人も気づいていない。

 

 生粋の光神教徒が魔術を使うとどうなるのか、知りたくないか?我が兄エヴァンよ。

 

「これも秘密だが、アルベールは詠唱破棄をした訳じゃない。これがどういう事か、お前には分かるだろう」

 

「う、嘘でしょ……」

 

 残念だが本当だ。

 ティナは信じられないという顔をしながらも、口元は笑っている。その秘密に迫れるチャンスなんだ。そりゃあ喜びで笑いもする。

 

「手を組めヴァレンティーナ。悪いようにはしない。我が父上に誓って約束する」

 

 ごくりと唾を飲み、この私の悪魔の手を、綺麗な白い手で取ったのだった。

 

 

 

──────────────

 

 

 

「お前は僕の姉さんの為に生き、姉さんの為に死ぬんだ。役に立てなければ僕がお前の皮を剥いで大好きなママに食わしてやる。あぁ、その時が楽しみだ。お前はいつ裏切ってくれるんだ?」

 

「そ、そんな事しません……!元より殿下に一生お仕えする所存であります!」

 

「そんなものは当然だ。無能に仕えられても困ると言ってるんだよ。君はとても頭が悪いから、言われたことをきちんとこなすだけでいい。分かったね? 」

 

「はい……どうかお慈悲を」

 

「あぁ、勘違いしてはいけない。僕はとても慈悲深いんだ。君みたいな何の役にも立たなさそうなゴミを同居人のままにしてあげるんだからね。あはは」

 

 

 

 

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