セラフィエルの憂鬱   作:笑顔猫

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第23話 光神教

 

 

「はぁ。それで?どうやって隠していくのよ」

 

 随分と混乱していたティナだったが、握手をしてから落ち着き始め、私に敬語は無意味と判断していつもの口調に戻していった。

 

「何も考えていない。ティナ、良い案はあるか?」

 

 そう、隠れてコソコソやるための作戦は何も考えていない。

 どうしたものか。

 

「……オルシュ家の養子ってことにしておく?」

 

「じゃあそうしよう!」

 

 ナイスな提案だ。オルシュ家ならきちんとした身分すらも用意してくれるであろう。

 ティナは呆れた白い目を私に向けているが。

 

「でも教師はあなたの事知ってるはずよね?」

 

「顔は知らんだろう。受験の際も番号で呼ばれていたし。さすがに学園理事やその周辺の幹部は知っているかもしれないが、テストなども元々『イザベラ』としか名前に記載していない。意外と分からんのでは?」

 

 ティナは頭痛をこらえるように額に皺を寄せてしまった。

 

「はぁ。お父様に言って養子の出生を作ってもらうわ。仮にも王族に協力したという功績は欲しいはず。快諾いただけると思うわ」

 

「お、さすがだなティナ。早速お前と組んで良かったと思えたよ。ありがとう」

 

「ふん。あなたは早くまともな詠唱を覚えなさい」

 

 照れたように顔を背きながら嫌味を言うティナ。子供らしく可愛いな。頭を撫でてやろう。

 

「ちょっと、子供扱いしないで」

 

「何を言う。ティナはまだ子供だ。いい子の頭はいくら撫でてもいいんだよ」

 

 拒否の言葉を吐きながらも私の手を振り解く事はしない。やはり照れているのだろうな。全く可愛いなティナは。

 

「ではまずは荷解きをしよう。ティナ、手伝ってくれ」

 

「それくらい自分でやりなさいよ」

 

 目を細めて呆れたような怒ったような顔をされた。

 

「いいじゃないか。学友と一緒に何かを成し遂げるという経験はかけがいのないものだ。今から思い出を作ろう!」

 

「そういうのは困難に立ち向かう時に言うやつでしょ。荷解きでそんな事言ってる人初めて見たわよ」

 

 そんな事を言いつつ出来の悪い子を見る目でこちらに寄ってくるティナ。

 何だかんだ言って手伝ってくれる。やはりいい子だ!

 

 

 

◇◇

 

 

 

 光神教。セラフィエルを神とし、崇め奉る宗教だ。

 光神教徒で構成された宗教国家の名はミスティテラ神聖王国。その始まりは天啓を受けた聖女の存在からだったらしい。

 簡単に言うとその聖女の力を持って大地を育み、人を育み、社会を作ったとされているようだ。その聖女がセラフィエルを讃えていた事からセラフィエルという神の存在が信じられ、建国されることになる。

 

 思わず笑みがこぼれた。そんな訳が無いだろう。私の時代にミスティテラなどという国は存在していない。

 その聖女がこの世界の基礎を作ったなど眉唾が過ぎる。

 だが、この始祖と呼ばれる聖女の存在は数千年前からあるとティナは言っている。これは私のいた時代から考えると有り得ないことだ。

 

 いや、もしかしたら。

 私は今までこの時代を前世の数百年後の世界と考えていたが、もっと後の時代の可能性があるのか。

 

 今まで見てきた本の中にカストルム帝国という文字は()()()()()()()()()

 私の想像以上のはるか未来に転生したのかもしれない。だが、だとしたら発展性が無さ過ぎる。魔術に関してはもはや退化だ。

 

 セラフィエルが何かしたのか……?

 

「ちょっと、聞いてるの?」

 

「あぁ、すまん。考え事をしていた」

 

「…………」

 

 訝しげな目で見られてしまった。

 

 荷解きが終わり、初めての登園が始まる前日の夜にティナから光神教について聞いていたが、やはり不自然だ。

 宗教とは人が作るものだ。聖書なんてものは御伽噺の産物だと私は考えている。大地を育む聖女など存在しない。

 

 しかし、セラフィエルが関わる事となると話は別だ。

 

 聖書に載っている、大地を育んだ聖女はいない筈だ。

 だが、セラフィエルからの天啓があったのは本当かもしれない。セラフィエルの干渉があったのかもしれない。

 セラフィエルの存在を最も信じているのは私なのだ。だからこそ、私が一番セラフィエルを疑っている。

 

「ティナ、ありがとう。とても参考になった」

 

「参考?どういたしまして。……ねえ、イザベラ。貴女、私と初めて会った時に……セラフィエル様の事、あの女って言ってたわよね?」

 

 ギクリ。ま、まずい。聞かれていたか。

 あの時は感情が抑えられずに口走ってしまったが、今になって激しく後悔した。

 

「言ってたわよね?」

 

「い、いやどうかな。あまり覚えてな……」

 

「言ってたわよね?」

 

 目に迫力があり過ぎる。魔王の瞳より黒い目だ。吸い込まれそうな丸い瞳には困惑する私がはっきりと写っている。

 

「もしかして……」

 

 くっ。口止めをするか?いやこやつは敬虔な光神教徒だ。口止めがどれほど効果を発揮するか分からん。

 これまでか……。

 

 

 

 

「貴女もセラフィエル様が女神様だと信じているのね!?」

 

 

 

 

 あー。

 そうか。こやつがアホで助かった。

 

「セラフィエル様は男神だと信ずる人もいるんだけれどね。私はやっぱり包み込んでくれる女性の神様だと思うのよ。聖書にも記載がある『出会いは全て必然だ。だからこそ、全ての必然を蔑ろにしてはならない。』という文節、これって男女の出会いの話でもあると思うのよ!恋愛ストーリーが好きな女神様がいてもおかしくはないでしょ?あなたはどう思う?」

 

 凄い早口だ。この国一番の魔法士の詠唱かと思った。

 

 しかし、『出会いは全て必然』ね。

 セラフィエルと出会うのも必然だという事か。全く納得できんな。殺されるべくして産まれたと言われた気分だ。

 

 コンコン。

 

 大変答えづらい事を聞かれそうになったが、そのタイミングでドアをノックする音が聞こえた。

 

「……今出るわよ」

 

 ティナが行ってくれた。

 

 …………聞かれていたか。あの時、思わず『あの女』と言ってしまった。

 セラフィエルの事を『あの女』などと言う人間はいない。この世界では神は女でも男でもどちらの概念も無い。セラフィエルに性別も何も関係なく信仰されている。

 個人の趣味趣向はあるだろうが、基本は性別という概念を持たず存在している。

 

 だが、私は知っている。奴は女の姿だった。

 

 ひとまずの目標は私の生きていた時代が何年前なのかを調べる事だ。そして、その間に何が起きたのか。

 なぜ私の事が、カストルム帝国が歴史に残っていないのか。

 セラフィエルはなぜ私たちを滅ぼしたのか。

 そう、滅ぼされた……。何故だ。

 

 少し、考えるか。

 

 精神の宮殿にある玉座に座り、身を委ねる。

 

 

 遡れない歴史。

 王宮の書庫にだけ古い歴史の本が無いとは考えづらい。

 

 

 魔術概念の消失。

 概念が無くなっただけで、魔術そのものは使えている。

 

 

 言葉の違い。

 歴史が進めば言葉が変化することもあるだろう。だが、あまりにも違いすぎる。

 

  

 …………滅ぼされた私の国。

 

 

 

 あぁ、もしかして。

 

 

 

 滅ぼされたのは私の国なのではなく、私の時代なのかもしれない。

 

 

 時代というか、歴史というか。王宮の書庫からは数百年前より前の時代の事は綺麗に消滅していた。

 

 不自然だ。

 私の生きていた時代以前もそっくり無くなっている。魔王についてなどは、書物や語り部などで語り継がれても良いほどの脅威の筈だ。世界が滅んでいたかもしれない程の敵を後世に伝えないなど考えられない。

 

 

 セラフィエルが世界を滅ぼした。

 

 

 可能性はある。

 それなら古の聖女が大地を育む話とも辻褄が合う。本当に世界が滅んでいて、一部の生き残りが……。

 いや、生き残りがいたら謎の鎧姿の女の軍勢について、それこそ死ぬ思いで語り継ぐだろう。

 

 なぜ、それが伝わらない。

 

 そして、分からんのは旧時代の世界が滅んだとして、今この時代はなぜ滅んでいないのかということだ。人間を絶滅させるつもりなら、奴らはできた。それほどの力だ。だが、今は生きている。

 都合の悪い事があったのか?私たちを滅ぼさなくてはならない理由があったはずだ。

 それともやはり、私の魔神の力が目的だったのか?

 

 いや、それも違う。ヤツは私と戦った後にこの力に気づいた様子だった。魔神の力を振るう事に驚いていたからだ。

 

 

 魔神の力。これもよく分からん。

 

 

 そして、転生……。

 

 

 『全ての出会いは必然である』

 

 

 転生が必然……か?

 私を転生させた存在がいるのか?

 

 だとしたらそいつは、とてつもない存在だ。それこそ本当に神の力だ。

 

 

 『魔神』

 

 

 もしかして、こいつが……。

 

 

「私の友人だったわ」

 

 思考の宮殿から引き戻される声。驚いてしまって身体が反応した。あまり年寄りを驚かすなよ。

 

「……そうか。もう夜遅いし、寝る準備をしよう。明日から登園だ。これからもよろしく頼む」

 

「ええ。ありがとう。明日は一緒にクラスまで行きましょう」

 

 ん?あぁ、こいつもしかして私がAクラスだと思っているのか。

 

「私はCクラスだ」

 

「…………うっそでしょ」

 

 本当だよ。アルベールと仲良くな。

 

 

 

 

 

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