セラフィエルの憂鬱   作:笑顔猫

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第25話 書庫

 

 

 それから私は様々な授業をクリスタと一緒に受けるようになった。

 やはり美しい女と共にいる事は心を豊かにしてくれるな。特にクリスタの笑顔には人を癒す魔法がかけられているのではないかと疑うほどにこちらも笑顔になってしまう。

 純粋な子供というのはなんとも替え難い存在だ。

 

 ティナとは行動を共にしなくなった。あまり一緒にいる所を見られても余計に目立つだろう。まあ、寮で毎日会うので学園内で会う必要が無いという所が大きいが。

 

 アルベールは上手いことやっているようだ。既にAクラスはアルベールの物と言っても過言ではないとティナからのお墨付きだ。母上の薫陶というのはかくも恐ろしいな。

 

 それに、エリオット。彼はあまり話しかけなくなってきた。目を合わせては逸らし、気まずそうな表情で私の前を去る。私の言う事に少々の理解を示してくれただろうか。これも時間が解決してくれるだろう。

 

 

「イザベラさん」

 

「それはもうやめろ。学友同士さん付けなど不要だ」

 

 クリスタはその大きい目をぱちくりさせた後、その目を輝かせてこう言った。

 

「ベラちゃん!」

 

 ベラ。ベラね。

 まぁ、なんとでも呼ぶがいい。

 

「それでいい、クリスタ。お前は良い子だな」

 

 頭を撫でてやったら嬉しそうに目を細めた。

 

「えへへ」

 

 愛いやつだ。手違いでクリスタが私の婚約者にならないだろうか。ならないだろうな。

 そんな事を考えてしまったせいだろうか。

 

 そいつは唐突にやってきたのだ。

 

 

「あ!僕の愛しのイジーちゃ〜ん!やっと見つけたよー!」

 

 

 エイル(バカ)だ。

 

 

 ◇◇

 

 

 エイルの奴はなんとビックリ、学園内ではかなり有名になっているらしい。

 私がそう命じたのだが、まさか律儀に私の為に行動しているとは思わなかった。

 

 エイルが走り寄ってきた時、クリスタが大慌てしていた程だ。

 

「お、王子様だよベラちゃん!また何かしたの!?」

 

 そう言っていた。

 『また』とは何だ。心外が過ぎるだろう。私から何かをした事は無い。

 だが、王子様ね。確かにルベリオの王子だが、名前の由来はそこじゃあないだろう。

 役者仕込みのあのキザったらしい演技が王子様らしいと学園の女子の視線を奪っているらしい。全くもってけしからん。

 

「エイル、久しぶりだな」

 

「うん、イジーは元気にしてたかい?って、聞くまでもないね。以前より身体も大きくなって元気さも増したかな?綺麗な顔は、更にもっと美しくなったけれどね」

 

 パチッとウインクされた。一々鬱陶しいな。

 

 クリスタは緊張して石のように固まっている。おお、友よ。石化の魔法は難易度が高いとの噂だ。解除魔法を使える術師を呼ぶから待っていてくれよ。

 

「お前はその鬱陶しさに磨きがかかったな。聞きたいことが山ほどあるが、今はよしておく。後で呼ぶから何を置いても来い。遅ければお前のケツを蹴り上げてやるからな」

 

「す、素晴らしい……!い、いやなんでもない!うん、絶対行く。何を置いても行く!」

 

 素晴らしいってなんだ。こいつはどうもマゾヒストの気がある気がする。初めの出会いが良くなかったのだろうか。

 もう少し頭にいい物を食った方がいいだろう。

 

「やかましいからさっさと行け。まだお前はお呼びじゃないんだ」

 

「うん。分かったよ!じゃあまたね愛しい君。そして、お友達の子猫ちゃんも今度お話してほしいな」

 

 俗に言う投げキッスをされた。あいつはまた殴った方が頭が治るんじゃないか?

 エイル(バカ)が立ち去った後、クリスタがようやく口を開いた。

 

「……ベラちゃん、何者?」

 

 聞くな。

 アストリア王国の王女で、ルベリオの王子の婚約者で、それを全て話せないだけだ。

 

「……今度話してやる。今は何も聞くな」

 

「絶対だよ!」

 

「あ、あぁ」

 

 約束してしまった。私は純粋な子供に弱い。

 

 

 ◇◇

 

 

 そんな事がありつつも、少しずつ学園の書庫に足を運んでは過去の資料を漁る日々が続いた。

 数ヶ月は経ったが、今のところあまり成果はない。

 

 だが、成果は無いなりに分かることもある。

 

 やはり、私の時代の国々や出来事が記された書物は存在していなかった。魔王の事すらどの文献にも載っていない。

 

 光神教の聖書によると、始祖と呼ばれる聖女が誕生したのは四千年ほど前の事らしい。

 

 私は、四千年以上も前からやってきたタイムトラベラーなのかもしれないな。

 そして、転生した。

 

 この転生もセラフィエルが関わってないとしたら、魔神が起こした奇跡の可能性もある。

 だとしたら、なぜ私を転生させた。魔神にメリットがある話の筈だ。

 

 あの時、あの運命の日。

 セラフィエルは何と言っていただろうか。

 

 『忌まわしき魔神の力』

 

 そう言っていた。

 セラフィエルにとって、魔神とは忌まわしいものらしい。

 

 もし、魔神がセラフィエルと敵対してる存在だとすればどうだ。

 

 ……少し考えてみるか。

 

 記憶を辿れ。精神の宮殿に身を潜めるんだ。

 

 

 消えた歴史。

 セラフィエルが消滅させた可能性がある。

 

 

 魔神の力。

 魔神が私に与えた力なのかもしれない。

 

 

 敵対する魔神。

 セラフィエルを倒すために与えた力なのか?

 

 

 そして、転生。

 魔神が私を転生させたとしたら。

 

 

 その目的は、セラフィエルの討滅。

 

 

 その理由は、セラフィエルとの敵対。

 

 

 セラフィエルが世界を滅ぼした理由は、魔神が関わっている。だが、滅ぼし切る事はしない。人類は必要なんだ。

 

 

 人類が必要な理由……。

 

 

「魔法……?」

 

 

 前の時代との違いは魔法と魔術の差異だ。

 セラフィエルにとって、魔術は都合が悪かったんだ。だから、滅ぼした。

 だが、人類に何かを期待した。だから人類の絶滅はしなかった。

 

 そして、魔法のある現代は生き残っている。

 

 ……魔法。

 そうだ、思い出した。セラフィエルは言っていた。

 

 

『このセラフィエルに聖魔法を使わせる人間がいたことなど、この数万年で一度も起きなかったイレギュラーだ』

 

 

 つまり、数万年単位でセラフィエルは人間を殺していたと自白している。

 

「……!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()……!!

 

 これが真実なら……!

 認めたくはない。何故だ。何故、どうしてそうなる……。

 

 何度も世界をリセットなどしている存在と対峙している事実に目が眩む。

 本当に勝てるのか、そんな存在に。私程度の小さな人間が……。

 

 いや、落ち着け。

 ヤツは世界を何度も滅ぼしているんだ。その内の一つが私の時代だった。

 そして、魔神はそれを阻止する目的を持っている可能性が高い。となれば、セラフィエルが警戒する魔神の力とは目的が一致している。これ以上ない協力者と言えるだろう。

 

 まだ色々と不明瞭だが、セラフィエルが何度も世界を滅ぼしている事は確定だ。

  

 今この時代が安全な保証など無い。都合が悪くなればセラフィエルは今にも襲いかかってくるだろう。 

 

 前世より研ぎ澄まされた魔神の力。これを磨くより他ない。だが、磨けば磨くほど私を蝕んでいく。

 ままならぬものだ。

 

 今までよりこの力の制御を中心的に考えなければならないだろう。

 来たる日に備えるべきだ。

 私一人ではあの軍勢を抑えることはできない。

 

 仲間を、集う必要があるな。

 

 

 ◇◇

 

 

「ふぅ……」

 

 やはり思考を深く沈めるのは体力を使う。私の精神の奥深くまで潜り込むんだ。"アレ"も近づく。

 あまりやらない方がいいだろう。

 

「随分と集中されてましたね」

 

 ん?誰だ。

 顔を上げると教師らしき若い男がこちらを見ていた。

 

「歴史の本ですか。勉強熱心な事です」

 

「あぁ。気になる事があってな」

 

「何か分からない事が?お教えしましょう。これでも教師ですから」

 

 やけに話しかけてくるな。

 それにこいつ、私が集中して思考を巡らせている中ずっと見ていただろう。

 歴史の本の事をわざとらしく聞いてきたり、少々怪しい。

 

 再度そやつの顔をよく見ると、目の奥が赤く光っている。

 

 

 ……染み込んだ血の色。

 

 

 人殺しの臭いがする。

 

 

「私に構うな。一人でいたいんだ」

 

「おや、それは申し訳ない。勉強、頑張ってくださいね。また会いましょう」

 

 そう言ってその男教師は去っていった。

 

 魔力を感じなかった。

 それはつまり、感じ取れないほどの魔力制御が、高い次元で行われているという事だ。そして、それを隠している。

 

 いかにも怪しい奴だ。アルベールにも注意しろと言っておこう。

 

 さて、そろそろ寮に戻るか。ティナが寂しがる頃だ。

 

 疲れた身体も、ティナの顔を思い浮かべて少し軽くなった。

 

 

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