セラフィエルの憂鬱   作:笑顔猫

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第27話 訪問者

 

 

「ふぁ〜」

 

 思わず欠伸がでた。

 学園の授業は退屈だ。

 

 そもそも私はまともに通って卒業する気がない。今でもよく寮を抜け出して森まで駆け出し、魔神の力の制御に励んでいる。

 

 そういえば学園は派閥メンバー集めや婚約者探しの場になっていると母上が言っていたが、今のところ私には何の声もかかってきていない。

 

 一応すでに侯爵家のオルシュ家一員だと名乗っているはずだが、なぜだ。私の顔はこんなにも可愛いというのに。

 まぁ理由はいくつか考えられるが、最も可能性が高いのはアルベールが牽制しているだろうという事だ。

 目立つように行動しろと指示した以上、私の意図は伝わっている。聡明なアルベールの事だ。派閥など作るのはお手の物だろう。私には全くできんな。

 

 そんなどうでもいい事を教室で考えボーッとしていた所、癒しの存在が声をかけてきた。

 

「ベラちゃん、ご飯食べに行こ!」

 

 教師の言っている事を何も聞いてなかったが、今は昼休みらしい。

 

「あぁ、昼だったか。行くか」

 

 毎日の楽しみと言えば、この愛くるしい学友と昼飯を食べながら他愛の無い話をする事だ。

 私のどうでもいい話を、まるで聖書を読んでいるティナのような真剣な顔つきで聞いている。

 訓練の中身や魔力について、そして人生観などをよく話しているが、元国王という事もあってか世間話のつもりが深い所まで話してしまう事もある。

 クリスタは良い生徒だ。こちらの想定していない事まで話してしまう。

 

 まぁそんな事は置いておいて食事だ。学園において、食事は全て学園内の食堂で用意されている。もちろん無料だ。学費に含まれていると考えてもいいのだろうな。

 

 今日は何を食べようか。クリスタは昨日バタートーストを食べていたな。そんな物じゃデカくなれないぞと言って無理やり肉を食わせたら、お腹がいっぱいなんだと怒られてしまったんだ。

 

 そんなクリスタの魅力的な誘いに立ち上がった私を引き止める声がかかった。

 

「少し、いいでしょうか」

 

 その声の主に目を向けると、黒い髪を肩まで伸ばし、キリリとした瞳でこちらを冷静に俯瞰したように見ている女生徒だった。

 背が高いな。歳の程は恐らく十七か十八、つまりは最高学年ほどだろうと推測される。

 

 だが、恐ろしい程感情の無い顔だ。

 

「ダメだ。今からクリスタと飯を食うんだ。後にしろ」

 

「え゙!」

 

 クリスタの口から酒焼けしたような音が出た。

 

「では、その方も一緒にどうでしょうか」

 

 ついでだな。クリスタなんか眼中に無いと見える。

 見る目の無い奴だ。世界にはクリスタのような純粋な子が必要なんだよ。

 

「ダメだ。後にしろと言ったのが聞こえなかったのか愚図め。目的を忘れたのか?私のご機嫌を取った方がいいんだろう?ならばお前は後だ。クリスタ、行くぞ」

 

 こやつの目的は私をどこかの派閥に誘う、もしくはなんらかのチームに入れようとしているのだろう。

 でなければわざわざ高学年の生徒が一年の教室まで来て、直接声をかけるようなことはしない。

 

 それに、この女は()()。冗談抜きで、魔力の質だけで言えば今のアルベールに匹敵するだろう。

 そんな生徒がわざわざ自分で私に会いに来た理由を考えなければならないんだ。面倒な事この上ない。

 

 私は落ち着いてクリスタと昼食を摂るんだ。

 

「ひぇえ〜、ベラちゃん私の方が後でいいんだよー!」

 

「何を言ってるんだ。クリスタとの食事より優先する事など無い。エイルのバカにもそう言ってあるから、奴は昼休みという絶好のチャンスに現れないんだ」

 

 クリスタは驚愕の表情でずっと聞いていた。クリスタよ、私はお前が思っているよりずっとお前を気に入っている。

 

 特に、素直なところがいい。

 

「では、昼食は私も共に摂る事にしましょう」

 

 ……馬鹿なのかコイツは。

 

「べ、ベラちゃん!私もその方がいいかな〜……なんて。先輩話したがってるし、私ともお話できるよ!」

 

 私の表情が段々と冷たくなっていくのを見たクリスタが慌てて妥協案を出した。

 なんとも良い子だなクリスタは。

 

「ではそうしよう。おい、名乗れ」

 

 その先輩とやらに生意気な口を叩いてみたが、この女は表情一つ動かさずに私の言葉を受け入れた。

 

「はい。私の名はイルシア・ヴォルコフ。現在六学年Aクラスに所属しております」

 

「ろ、六年のAクラス様だよベラちゃん!すごいね!」

 

 いや、凄くはない。私にとって、それこそセラフィエルにとって学園のAクラスなど有象無象だ。クリスタの方が余程価値がある。

 私の心に安寧を齎すという意味で。

 

「そうか。知ってるとは思うがイザベラ・オルシュだ。不届き者と飯を食う趣味は無いが、クリスタが許可したから同伴を赦す。クリスタに感謝しろ」

 

「く、クリスタ・ウィンドミアです!ベラちゃんとお友達をやらせていただいてます!ベラちゃんは面白くない冗談を言う時がよくあるので、気にしないでくださいね!」

 

 ぐはっ……!

 あ、安寧を齎すはずだ……。

 

「……なるほど」

 

 いや、なるほどじゃないが?十三の娘に面白くないと言われて私のガラスのハートは粉々だ。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

「じゃあイルシアさんは一年生の頃からずっとAクラスなんだね!すごいなぁ」

 

「いえ、それほどでも」

 

「その通りだクリスタ。大した事じゃない。尊敬するならこの私だけにしておけ」

 

「えぇ……。ベラちゃんも、イルシアさんも、尊敬できる所があるよ!」

 

 

 クリスタが良い子過ぎる。抱き締めて頭を撫で回してやりたい。

 

「わっ、えへへ」

 

 そう思った時には撫で回していた。この手が勝手に……!

 

「本当に仲がよろしいのですね」

 

「当然だ」

 

 イルシアと名乗る女はずっと表情を変えず、感情が伺えない。

 六学年Aクラスの中でもエース級の生徒が平凡な一学年Cクラスの女子に自ら赴く。異常な事だ。私の事がバレているか、何処からか嗅ぎ付けたか。

 

 エイルに見せたら、どんな匂いだと言うだろうか。

 

 いや待て、イルシアの姓はなんと言っていたか。

 

 『イルシア・ヴォルコフ』

 

 ヴォルコフ家。

 ……アルベールが以前言っていた、アストリア王家に仕える影の家だ。

 

 バレているのでは無い。元々私が王族だと知っているんだ。

 何処からか嗅ぎ付けたんじゃあない。ヴォルコフ家が命じたんだ。

 

 余りにも接する気分ではなくて聴き逃していた。

 

 ヴォルコフ家は表向きは平凡な伯爵家だ。領地は持たず、アストリア王都内で家を持ち、主に騎士団の人事を行っている。

 しかし、裏では違う。王族を影ながら守り、その血筋を絶えず積み重ねる為の保険装置だ。

 その重さは、王族の血を混ぜる事すら許されているほど。

 

「思い出した。お前ヴォルコフの血筋か」

 

「はい。その通りです。お会いしとうございました、我が主様」

 

 急に片膝を床に着け、深い礼をするイルシア。

 バカが。目立つことはするな。

 

 私はイルシアの首根っこを掴んで持ち上げた後、耳元で囁いた。

 

「私は今のところ身分を隠している。仕えたいなら今はアルベールの所へ行け」

 

「ですが、主様。アルベール様はイザベラ様の元へ行けと」

 

 頑固なやつだな。凝り固まった阿呆だ。

 

「頭を使え。私は今護衛を必要としていない。今後もいらん。もしその任務を全うしたいなら、せめて私の隣に立てる程度には強くなれ。お前はクソだ。弱過ぎる」

 

 厳しいことを言った事が効いたのか、初めて表情が崩れた。周りと比べて実戦経験も豊富で魔力の質も高く、傑出した強さなのだろう。

 

 だが、私の護衛をするとは笑わせる。今の私はセラフィエルの攻撃を受けても多少は耐えられるが、お前はセラフィエルの攻撃に耐えられる程強くない。

 最低限、魔王とタイマンを張れるくらいにはなってもらわんと正直話にならない。

 

 セラフィエルは、それ程の相手だ。

 

「今はいらん。今後の成長に期待する。死ぬ気で努力しろ」

 

「はい……。お役に立てず、申し訳ありません……」

 

 項垂れたイルシアは謝罪の言葉を放ち、とぼとぼと哀愁のある歩幅で帰路についた。

 

「べ、ベラちゃん、大丈夫なの……?」

 

 ああ、クリスタを心配させてしまったな。

 

「問題無い。アレはアレで考えるところがあるみたいだ。悪い奴じゃなさそうだし、クリスタが食事に誘ってくれて助かったかもしれないな」

 

 そう、派閥争いだとかの話だとばかり思っていたんだ。あれは私の仲間になり得る金の卵だ。

 

 今度、私がヤツを見てやってもいいかもしれないな。

 

 

「ほんと?ベラちゃんの役に立てたならよかった〜」

 

 

 ?

 なんだ?違和感がある。

 

 引っかかる言い方だ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に聞こえる。

 

 …………。

 いや、まさかな。

 

 もし仮に、万が一、いや億が一そうだったとしても私の為に行動しているんだ。

 邪険にする事は無いが……。

 

 そういえばクリスタの家名はウィンドミアとか言ったな。

 

 『ウィンドミア』

 

 知らん。

 

 知らん事があるか?

 

 私はそこそこ勉強した。王族として覚えなければならない事柄や、貴族の名前などは概ね網羅している。

 ヴォルコフがピンとこなかったのは私がイルシアの話をまともに聞いてなかっただけだ。

 

 そんな私でも、『ウィンドミア』などという家名は一つも聞いたことが無い。

 つまり、『ウィンドミア』は国内貴族じゃあない。さすがの私でも国外のどこかの貴族の名前まで全て把握してる訳じゃあない。

 

 一瞬ルベリオ王国かとも思ったが、エイルにクリスタの名前を教えた時、特に反応していなかった。

 

 アストリア王国でも、ルベリオ王国でもない。

 

 西の魔導国でもないだろう。クリスタは目立った魔法の成績じゃあない。

 

 だとすれば……聖王国か?

 少し警戒してしまう。

 だが、聖王国出身にしては気安過ぎる。最初のティナのような反応をされてもおかしくない場面はあった。

 

「?」

 

 首を傾げて固まった私を不思議そうに見つめるクリスタ。

 

 ……多分気のせいだ。何かの見落としだろう。

 

「すまん、考え事をしていた。食事を続けよう」

 

「?わかった!ベラちゃんは考え事してる時もかっこいいね」

 

 そんな事をエイルにも言われたな。

 

 そういえばエイルはクリスタと話したがっていた様子だった。一瞬会ったあの時、何かを感じたのかもしれない。

 

 ……という事は、だ。

 

 全く、何の策略に踊らされているのやら。

 

 私は考える事を辞めた。

 

 

 

 

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