セラフィエルの憂鬱   作:笑顔猫

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第33話 魔神

 

 

「魔神とは、我が家に伝わる異質な力の源です。セラフィエルは魔力を齎したと伝えられてきました」

 

「しかし、ごく稀にセラフィエルの力の介在しない力を発現する者がおりました。アストリア王家はそれらを秘密裏に引き取り、研究しました」

 

「ヴォルコフ家はその研究所も兼ねているのですよ。ああ、もちろん非道な事はしていませんよ。力の制御やコントロールなどについて協力していただいておりました」

 

「ただ、ある程度魔力が育つと制御不能になり、本人の自我も消えてしまう事が常でした。ありったけの魔力を暴発させた魔物になってしまい、討伐せざるを得ませんでした」

 

「あの異質な力を自在に使えれば他国への牽制になる。それに、人工的に英雄を作り出せるかもしれない。そう短絡的に考えたのが先王陛下でした。ユリウス陛下がお止めになり、少々の反発もありながら平和になったアストリア王国でした」

 

 

「ですが、貴女が登場した」

 

 

「貴女は凄まじい力を持ちながらも、それを自ら制御し成長させていった。そんな貴女の事について、いつしか我々の中で呼称ができました」

 

 『魔神の愛し子』

 

「異質なその力は魔神の力と呼ばれるようになり、実力主義の我々は貴女を影から信仰していた程です。偽物の神、セラフィエルなど存在しないのです。あるのは魔神、そして魔神の使徒イザベラ様だ」

 

「ですが、その力を酷く警戒されていたのは腰抜けソロンですよ。あの役立たずは莫迦の集まりである光神教に何かを見出したのか、魔神の力を王国を滅ぼす脅威『異端』だとし、貴女を排除しようとされた」

 

「これには流石に我々も介入しようとしました。だが、貴女は自力で対処された。素晴らしい対応力です。この歳で切り抜けられる窮地ではありませんよ。それも魔神の加護のお陰でしょうか?」

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 開いた口が塞がらなかった。

 

 そうか。

 

 …………そうか。

 

 ソロンは最初から敵だったのだ。

 妹への愛情など、一つも無かった。

 

 あるのは、王太子としての冷酷な顔だけ。

 

 兄心だと思っていた部分は、私を油断させるための罠だ。

 奴は全てにおいて手を抜かない。全ての行動に意味があった。

 

 執拗な監視の目的は、本当に監視そのものが目的だったんだ。

 

 いつ私が暴走しても討伐できるように、備えていた。

 

 私が、討伐対象……?

 

 目の前がグルグルして真っ暗になり、倒れそうだ。

 

「魔神の愛し子、使徒様。どうかご用命を。貴女の敵の悉くを滅ぼしてみせましょう」

 

 私は、守りたかっただけなのだ。

 クロエを、アルベールを、共に歩んできた仲間を、自らの手で育てた我が国を。

 

 転生してまで力を付けたんだ。その結果が、討伐対象だと?

 

 …………。

 

 落ち着け。落ち着くんだ。

 怒りを鎮めろ。

 

 私の中からヤツが顔を出したがっている。

 

 

 ……この男、オズワルドは狂信者だ。それも、私を信仰の対象としている。

 私が死ねと言えば喜んで死んでくれるのかもしれない。命令一つで、ソロンや母上。その他全ての厄介事を消し去ってくれるかもしれない。

 

 

「……使徒様?」

 

 

 思わずハッとする。

 よし、冷静になれた。

 危うく皆殺しにするところだった。

 

「……情報、感謝する」

 

 オズワルドは和やかに微笑んだ。

 

「勿体なきお言葉にございます」

 

 だが、だがな。

 お前たちは重大な事に気づいていない。

 

 致命的だと言えるほど、大きく間違えている。

 

「セラフィエルは、実在する」

 

「…………!??!?!」

 

 オズワルドは大きく顔を歪めた。

 

 あぁ、言ってしまったな。

 セラフィエルに勘づかれる可能性があるから口にはしなかったんだ。

 

 奴らにとって私が異端の力なのは事実だ。

 

 この争いに大義名分など存在しない。

 

「そ、そんな。まさかッ!」

 

「あぁ、違う。私は光神教徒などではないよ」

 

 勘違いは正さねばならない。こやつは本当に私の味方になる可能性がある。

 アルベール同様、扱いには気をつけないといけないが。

 

「では、なぜ……?」

 

「私の事を魔神の愛し子だと言っただろう。ならば尚のこと、セラフィエルを知っているという事だ。あれは人間が生み出した空想の産物などではない。実在する神に等しい力を持つ存在だ」

 

 オズワルドは心からの驚愕の表情をしている。

 ……衝撃だろう。信仰している本人から、信じたくない真実が語られるというのは。

 

 全く、私が信仰されるなど夢にも思わなかった。

 

「オズワルドよ」

 

「……はっ!」

 

 衝撃から立ち直れていないオズワルドを強制的に現実に戻してやった。

 

「お前の事は理解した。お前に賛同している者はどれほどいる?」

 

「複数の貴族家から賛同を得ています。そして、ヴォルコフ家当主、サクリ・ロゴス・ヴォルコフも貴女に付き従うでしょう。ソロンの監視依頼は何も知らぬクリスタに直接依頼がされたようです」

 

 思ったより規模が大きい。

 

「そうか、分かった。以降はアルベールを巻き込め。アルベールはお前と同じ匂いがする」

 

「お、おぉ。愛し子の双子の片割れと同じ匂いとは畏れ多いですが……承知いたしました」

 

 なんだか気持ち悪いな。あぁ、思わないようにしていたがつい意識してしまった。

 こいつは随分気色悪い。

 

「あぁ。アルベールは今のAクラスを掌握している。上手く使え。それと、アルベールは魔神について何も知らない。だが、私の力については多少把握している。情報の取り扱いに気をつけろ」

 

「はっ。かしこまりました。使徒様のお望み通り叶えて差し上げましょう……」

 

 使徒様、ね。

 

 そんなつもりも、無いんだがな。

 

 結局、私の知りたい魔神の情報は得られなかった。こやつらは私の持つ魔神の力をたまたま『魔神』と呼称していただけだ。

 

 私とこやつらで共通認識を得ている訳じゃない。

 

 未だに孤独な戦いを強いられているわけだ。

 

 

 何も知らなければよかった。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 オズワルドとの話を終え教室に戻ると、先程の後輩二人がクリスタと話をしていた。

 

 ……まだ居たのか。

 

「ふむふむ、魔力制御がダントツで上手いのには理由がありそうですね。是非教えを乞うてみたいものですが……」

 

 真面目そうな後輩が真面目そうにクリスタと考え事をしていた。

 

「アイザ〜。もう行こうよ〜クリスタ先輩も忙しいと思うし」

 

 あぁ、あいつもいたのか。名前を忘れた。

 

「アリス、少し待て。それで、クリスタ様。なぜイザベラ様はCクラスなのでしょうか」

 

「うーん、そうだなぁ。なんでだろうね?分かんないぐらい凄い人だよ。Aクラスのヴァレンティーナさんに魔力操作を教えたのベラちゃんみたいだし。寮の同居人だから羨ましいよね!」

 

 何を阿呆な事を言ってるんだ。

 

「馬鹿者共が!失せろ」

 

 後輩二人はビクッとしてこちらを見た。

 

「お前らに教える事など何も無い。ティナには特別な才能があるし、エイルにも目を見張る特殊な力がある。お前らは何だ?すぐに強くなる為の"コツ"を聞いてくる奴には何も教えることはない。死ぬまで走り込みをしていろ」

 

 クリスタに私の事について聞き込みをするなど清々しい程の馬鹿だな。

 その度胸だけは認めてやらんでもない。

 

 クリスタはヴォルコフの正当後継者として認められたロゴスの実の妹だ。ソロンから直接依頼される程度には暗部としての力が認められているという事。

 

 その力は、学生の域を既に超えている。

 

 私の事についてなど、魔神の力含めほとんど知り尽くしているだろう。

 そんなクリスタに私の事について聞くという事は、敵国の近衛騎士に王族について聞くようなもの。

 

 まともに答える訳が無いだろう。

 本物の馬鹿にしかできん芸当だ。

 

「す、すみません……」

 

 謝りながらそそくさと退散する後輩二人。

 さっさと行け。クリスタにあまり近寄るんじゃないぞ。

 

「待たせたなクリスタ。昼飯を食いに行くぞ」

 

「……うん!分かった」

 

 笑顔で素直についてくるクリスタ。

 

 こやつも妙だ。クリスタの目の前でロゴスであるオズワルドが接触してきたんだ。

 私が「クリスタがヴォルコフ家」だと気づいている事に気づいているだろう。だが、まだこうして共に行動している。

 

 気づかれたとしても仕事に影響が無いという事か?

 

 ここにきてクリスタの目的がいまいち掴めん。私はもはや気にしていないが、こやつはそもそもソロンに依頼されて私の監視をしている筈だ。

 

 これもまた、陽動か……?

 

 分からん。

 

 分からんが、一つだけわかる事がある。

 

「あ、これ美味しい!ベラちゃん一口食べていいよ!」

 

 こやつの笑顔は、可愛いという事だ。

 

 

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