終末世界の転生傭兵は、かつての愛機と再会して無双する。 作:Yura0628
『司令部より、作戦参加全部隊に通達。…防衛線が崩壊した。作戦は、失敗だ』
悲壮感漂う通信を、少年はボロボロになったコックピットで聞いていた。
ヘルメットを脱いだ頭は血に染まり、肩口にはパイロットスーツの下から傷口が覗いている。
だが痛みに顔を歪ませながらも、少年は口元に笑みを浮かべヒビ割れたディスプレイを眺めていた。
「ははは…とうとう敗けた…か」
《搭乗者のバイタル低下を確認、緊急延命措置を実行しますか?》
「いや、どの道俺はもう助からねぇ。要らんことするな…グッ…」
痛む体を動かし、少年はコックピットハッチを開けて転げる様に地面へ降りると、ボヤけ往く視界を上に向ける。
ここは元々最前線の隠匿格納庫だったが、天井が崩落し空を眺める事が出来た。
「人口の灯りが無くなったから星がよく見える…皮肉なもんだなぁ…」
既に陽は西の空へ沈み、数多の星が夜空を埋め尽くしている様子を記憶に焼き付ける少年。
そんな少年を、背後の巨大な人型は感情を映さない機械の眼で見つめていた。
-マスターの生存…我々に課された最大の役目を私は全う出来なかった。だと言うのに何故マスターはこんなに…-
瞳を輝かせているのか。と、一抹の疑問を抱き、人型はセンサーを少年と同様に空へと指向する。
《…美しいと言う表現は知識としては分かりますが、やはり感覚で捉えるのは私には難しい様です》
「急だな…でもまぁ、いつかは分かるんじゃね?俺と出会った時なんかマジでお前感情篭ってなかったけど、今じゃこんなんだ」
《確かに、マスターは私に多くの感情を教えてくれました。……故に分からないのです。何故自分の役目を果たせなかった私に、マスターが怒りを抱いていないのか》
冷たく無機質な声。その言葉には何処か自己嫌悪の感情が滲み出している様で、されど少年は人型の言葉を軽く笑い飛ばした。
「いや、お前が役目果たせてなかったら俺はどうなるんだよ。課せられた任務も全う出来ずこうして死に掛けてるんだぞ?」
《ですが——》
「あーもうこの真面目野郎。俺は別にお前に怒りは抱いてないし、ここまで共の戦ってくれてむしろ感謝してるっての。だからこそ、俺は
言って、座った姿勢から仰向けになる少年。これにより、鈍色の破片が突き刺さった腹部が顕になった。
「もし、誰かがお前を見つけ出して乗る時に、俺の死体があったらたまったもんじゃないだろ?」
少年の言葉に、「自分はもう死ぬ。でも、お前はまだだ」と言う想いが込められていると人型は察する。
「にしても…ここで死ぬのか。結局最強にはなれず終いで…悪い、皆」
とだけ聞き取り、少年の心臓が停止した事を人型は認識する。
そして、静かに言の葉を紡ぐ。
-私のマスターはあなた以外にあり得ません-
と。
◇
一面の青空の下、俺の視界に巨大な航空母艦を中心とした大艦隊が映る。
重航空母艦オーケアノスが旗艦のタイタン艦隊は、最寄りの大陸から1000km以上離れた大海原を航行していた。
俺は天月ハル。このタイタン艦隊所属の傭兵パイロットで、黒髪黒目の面白みのない人間だ。まぁ、腕自体はこの艦隊でトップクラスに立つとは自負してるけどな。
などと思っていると、潮風が頬を撫で、俺の背後で轟音と共に人型兵器TF〈アルデバラン〉が空へと飛び立っていった。訓練にしては少し早いな、何かあったか?
「ハル、出動命令が出た。またクリム連邦の連中がけしかけてきたらしい」
…お出まし、って訳ね。
◇
俺がこの世界に降り立ってから、18年。
前世で死んだ俺は、カプセルの中で目が覚めそのまま児童保育所の様な場所で育ってきた。もちろん最初は混乱したが、どうやら俺は転生…とか言う如何にも非科学的な事象に遭遇したらしいと自分を納得させて、今日に至るまで生きてきた。
ただ俺は親の居ない人口子宮チルドレンとして生まれたため、施設の上限年齢である15歳で当てもなく放り出される事になったんだが…この世界には、人類の敵対勢力の他に、機械生命体〈ヴォイド〉が跋扈していて、これを狩る傭兵の需要が常にある。
おまけに人型兵器〈TF〉も存在するこの世界で、俺は前世の経験を生かし傭兵として生きていく事を決意したんだ。
ちなみにこの世界は俺が元いた世界の遥か未来のようで、時々その痕跡が地表に現れたり、任務で出張った先で目撃したりする事がある。
何故ここまで荒廃したのか記録は残ってないが…まぁ十中八九「連中」のせいだろうな。機械生命体ヴォイドも、連中から生まれた副産物の一種だろう。
事実はどうあれ、俺はこの世界に再び生を受けた。なら思うがままに生きないと損ってもんだ。
そうだろう?相棒—————
◇
『ハル。敵影は12機のグループAと32機のグループBで、後者が恐らく本命だ。こっちはアルファチームとデルタチームが対応する。お前はガンマチームと共にグループAを迎え撃て』
「分かった」
管制官〈スカイホルン〉の言葉に答えながら、俺は自身が乗る灰色のTF〈アンタレス〉を動かしカタパルトに移動する。ディスプレイに表示される指示に従ってスラスター出力を調節し、射出管制官のハンドサインで機体の姿勢を整えた。
ふと見上げた空は何処までも青く澄み渡り、これから戦闘が始まるとはとても思えない。
『ガンマリーダーより〈アンリアル〉。先に行ってるぜ』
ガンマチームの隊長が俺のTACネームを呼びながら空へと飛び立った。彼に続き、同じガンマチームのTF〈アルタイル〉が次々と飛び立っていく。
『さて、ハル…じゃなかったアンリアル。カタパルト準備よし。いつでも発進可能だ』
「了解」
応え、俺は操縦桿を握り締めながら深く息を吸う。
そして静かに吐くと、目を開きペダルを思い切り踏み込んだ。
「ハル・アマツキ、アンリアル、出るッ!」
次の瞬間、ドンッという強い衝撃と共にシートに体が押し付けられ、艦橋や駐機している機体が後方へと流れていく。
数秒後、俺の躰は大空に羽ばたいていた。
『さーてアンリアル。今回のミッションはグループAの殲滅。単純明快でお前には朝飯前だろう。ガンマチームの仕事を無くしてやれ』
『おいスカイホルン、コイツなら本当にやりかねないからやめてくれ。ただでさえ俺達の仕事が無くて腕が落ちそうなんだ』
空に上がった途端聞こえてくる通信。俺の横にガンマチームのアルタイルが横並びになり、編隊を組んだまま俺達はレーダーに映る敵影へと向かう。
『確かに、ここ最近ハルに撃墜かっ攫われてく奴たくさんいるしな。デルタリーダーもこないだボヤいてたし…腕だけならクリム連邦の〈イーグル〉にも匹敵してるパイロットが何だってこんな所にいるのやら』
「それは偶々生まれ落ちたのがタイタン艦隊だったからだな」
『なるほど?』
まぁでも、生まれたのが旧時代国家の系譜を継ぐタイタン艦隊の勢力で良かったとは思う。他の勢力だと少年少女を売買したり、ヴォイド共に捧げたりと言った行為が横行してるらしいしな。ちなみにクリム連邦はタイタン艦隊と同じく当たり寄りだが、何故か襲いかかってくるので俺の中で評価は低いです。
『さて、雑談はこの辺にしてそろそろ敵さんが見えてくるぞ。各員戦闘準備』
『『「了解」』』
スカイホルンの言葉でガンマチームの纏う雰囲気が一変し、戦場の匂いが漂い始める。同時にディスプレイに映るのは、俺達の下前方を飛行する青い人型達。
『呑気に飛んでやがるな』
「仕掛けるぞ。アンリアル、
戦闘開始を宣言して機体を翻し、超高速で敵編隊に向かう。ガンマチームの機体も離れず追従し、俺達は上方から敵編隊へ襲い掛かった。
『右上方より敵機接近!』
「もう遅せぇ!」
こちらの姿を視認した敵機は慌てて散開するが、速度のついている俺達を振り切る事は出来ない。
『ガッ!?』
「まずは1機」
俺に背を向け必死に距離を取ろうとした敵機をビームライフルで撃ち抜き、視線を別の敵機に向ける。今度の敵機は逃げる事なくシールドを構えビームライフルを撃ってくるが、当てられてやるつもりは微塵もない。
『な、躱しッ…!?』
彼我の距離凡そ300m、ビームライフルなら接射にも等しい距離で俺は放たれたビームを避けながら敵機との距離を詰める。
動揺した敵機はエネルギーパックが空になったのにも気付かずトリガーを弾き続け、そんな敵機を、俺はビームセイバーで両断した。
「2機目」
『…アンリアル、お前今日ペース遅くないか?何処か不具合でも?』
…敵機の撃破を確認した俺がガンマチームの戦闘を眺めていると、スカイホルンから通信が入る。流石は歴戦の管制官だ。担当するパイロットが普段と違う行動をしていたら直ぐに気付く。
けど俺が
「嫌な予感がするんだ」
『嫌な予感?』
『アンリアルの嫌な予感か、そりゃ怖い…なッ!』
敵機を蹴り飛ばしながらガンマリーダーが応える。声音は全然怖がってないが、それでも部下を散開させて警戒させる辺り、俺の感覚を信頼してくれているのが分かる。
「スカイホルン、今回の襲撃で対艦兵装を搭載した敵機はいたか?」
『いや、アルファからもデルタからも報告は上がってないな。ッなるほど』
「先行してるベータチームからの報告は」
『未だ報告はない。ただ敵部隊の配置から連中の襲撃ルートは割り出してあるからそろそろ…』
とスカイホルンが言葉を切った瞬間、全体通信に報告が入る。
『こちらベータリーダー。レーダーコンタクト、敵の本命は〈イーグル〉だ』