現代パロな多重クロス世界だと思ったらゴジュウジャーな仮面ライダーの世界でもあった件 作:名無しのモンスター
壁掛け時計の針が閉店時刻を回り、フロアを煽り続けていたアップテンポなBGMがふっと途切れた。途端に、広大な空間を満たしていた熱気が嘘のように引いていく。
無機質に並ぶランニングマシンの列の向こうで、男性インストラクター──クラフトの黒いポロシャツが動いていた。
彼は片手にスプレーボトルを握り、ダンベルやベンチを1つずつ丁寧に拭き上げている。シュッ、という規則的な霧の音と、漂い始めた微かなアルコールの匂いだけが、がらんとしたジム内に満ちていた。
「お疲れ様です。フロントの締め、終わりました」
エントランスの方から声が響く。残っているのは、片付け作業を終えた2人の職員だけだ。
「了解だ。こっちももう終わるから、先に帰っててくれ」
クラフトがタオルを肩に掛け、振り返って短く応じた。エリアの照明が半分落とされ、鏡張りになった壁には、黙々と働く彼らの影だけが映り込んでいる。昼間の喧騒をすっかり拭い去ったジムは、深い夜の底へと静かに沈んでいこうとしていた。
「……むっ」
ふと、出入り口の自動ドアが開く音が聞こえてきた。もうすぐ閉店時間だというのに、この時間帯に、フィットネスジムを立ち寄る変わり者がいるというのだろうか。
だが、クラフトが出入り口の方に視線を向けた途端……入店してきた時間帯がどうとかよりも、注視すべき点がある事に気づいた。
「……
入店してきたその2人の姿が、あまりにも普通ではない事に……だ。それも2人とも、まるで生物がほとんどそのまま戦士になったかのような姿をしていたのだ。
1人はマダラオオトカゲを思わせる、鮮烈な赤と緑の
頭部から背中にかけては鋸のような鋭い鰭がせり出し、真紅の大きな複眼がギラリと光り、口元には敵を噛み砕くための獰猛な牙が剥き出しになっていた。
太い腕と脚には風を切り裂く鋭利なカッターが備わり、左の二の腕には、幾何学模様が刻まれた扇状のプレートと猛禽の嘴のような鋭い突起を持ち、真紅の瞳のような宝石が埋め込まれた、鈍い銀色の不気味な金属製の腕輪が輝いていた。
もう1人はバッタの外骨格と人間の筋肉がグロテスクに融合したように隆起し、生々しい血管が脈打っていた、深い青緑色をした皮膚の戦士。
顔を覆うのは、血のように赤く巨大な複眼と、生え揃った鋭い触角。額には感覚器官である第三の細胞が妖しく明滅し、大きく裂けた顎からは、獣のように鋭い牙が覗いている。
両腕には刃のごとき鋭利な突起が備わっており、指先は獲物を引き裂く鋭い爪となっていた。
仮面ライダーアマゾン。仮面ライダーシン。野生の本能が働く2人のライダーが、それぞれ変身したその姿で、このフィットネスジムに現れたという事は……
「やはり俺の持つディスクが狙いか……2人とも、危ないから下がっていてくれ」
「は、はい‼︎」
「クラフトさん、お気をつけて‼︎」
「あぁ」
職員達をジムの奥に下がるよう誘導しながら、クラフトは2人のライダーが何か仕掛けてくるか否か様子を窺う。
するとふと、彼等の腰周りの違和感に気づく。
「むっ? 巻かれているベルト、レガシーライダーバックルじゃない……? それにもう1人は、そもそもバックルを巻いていないだと……?」
アマゾンが腰に巻いているのは、レガシーライダーが全員のディスクに内蔵されているはずの、レガシーライダーバックルではなかった。鮮烈な赤の帯の中央に、コンドルの鋭い眼光を思わせる白い円形のバックルとなっているようだ。
一方のシンは、クラフトの言葉通り、レガシーライダーバックルどころか、ベルトらしきものすら巻いていない模様。いくら融合戦士を基づいているからといって、ベルトが巻かれていないのはライダーとしてどうなのだろうか……
バックルの事を気にしている中、アマゾンとシンがクラフトに向かって駆け上がり始めた。彼等が右手を手刀として振り落とされるのを見て、クラフトは軽々しく回避し、後退する。
「考えても仕方ないな。ここで暴れるというのなら、誰であろうとも追い払うまでだ」
飛びかかってきたアマゾンの手刀とシンが、振り下ろしてきた長い爪を、アクロバティックに跳躍して回避。そしてズボンのポケットの中に入っているレガシーディスクを取り出し、スイッチを押した。
『レガシー・オーズ・ディスク!!』
『セッティング・オーケー!! レガシーライダーバックル、アクティベート!!』
スイッチの起動に連動し、そのエネルギーを通して腰周りにレガシーライダーバックルが出現・装着され、そのドライバーの凹凸部分にディスクを素早く差し込んだ。
『ローディング……オーケー!! トランス・プリパレーション!!』
するとクラフトの周りを、2人とは姿が全く異なるライダーの全身や写真の立体映像が、複数に分かれて映し出され、走りながら攻撃しようとしてきた2人を弾いて怯ませた。
左手を前方へ軽く突き出してバランスを取りつつ、右手を握り拳を作りながら左肩の辺りまで大きく振り上げ、レガシーライダー特有となる言葉を叫んだ。
「変身‼︎」
そしてクラフトは、右腕を勢いよく振り下ろしながら、ドライバーの右側にあるレバーを力強く押し込んだ。それに合わせ、片方のレバーも連動して押し込まれる。
『トランス・オーケー!! 仮面ライダー
『タカ!! トラ!! バッタ!! タ・ト・バ!! タトバタ・ト・バ!!』
活気ある音声が響き渡ったのと共に、全ての映像がクラフトと重なり合い、淡い光が弾け飛んだ。
そして光が収まった時には、クラフトの姿は全身が鮮烈な三つの色彩に分たれているものに覆われた。
天空を統べる猛禽の如き、深紅の頭部。爛々と輝く翠玉の双眸は、いかなる獲物をも見逃さない。
胸部から両腕を覆うのは、密林の王を思わせる獰猛な黄金。その腕には、白刃のような鋭利な爪が折り畳まれた状態で息を潜めている。
そして大地を踏みしめる強靭な両脚は、跳躍の時を待つ生命力に満ちた鮮緑色だった。
漆黒の素体に繋ぎ合わされたその姿は、決して交わるはずのない3つの命の結晶。胸の中央に燦然と輝く三連の円形紋章が、それを実現させたのを表していた。
その名は、仮面ライダー
「さて……いくぞ」
クラフトことオーズが呟けば、折り畳まれている爪──トラクローが、手先側へと伸びるように展開された。
そしてトレーニング器具を蹴らないように、軽く跳躍しながら駆け出し、そのトラクローをアマゾンとシンに向けて振り下ろす。それをアマゾンは腕で防ごうとするも火花を散らされながら怯み、シンはその場で仰反りながら回避した。
シンが回避したのを見計らい、オーズは左腕のトラクローを振り上げ、強く爪を突き立てながら皮膚を抉る。そこからは何故か血液どころか液体ではなく、代わりに火花が散ったのだが。
「フンッ‼︎」
今度は脚部──バッタレッグのバッタ並みの跳躍力を活かし、天井近くまで跳躍。
その跳躍力に一瞬驚く形で怯んだ2人に、急降下の蹴りをそれぞれの胴体にかます。シンに蹴りを決めそのまま飛び台代わりにして再び跳躍し、アマゾンに回し蹴りを決める形で。
そして2人が横転するのを横目に見ながら、出入り口前に着地したオーズはとある点に気づいたようだ。
「攻撃を受けた時どころか、おしゃべりすら何一つもしていない……まるで機械人形みたいだな」
ここまでの間で、アマゾンもシンも、掠りのある声すら発していない点についてだ。本来ならば、人は何かしらの声発するはず。なのにこの2人のライダーは、ここまで何一つ声を発していないのだ。
2人揃っての無口に、レガシーライダーバックルが巻かれていない点。それらが相まって、オーズは2人のライダーの違和感を感じ始めてきたのだ。
「……いや、今はジムから追い払う事が最優先だな。細かい事を考えるのはそれからだ。器具を破壊されるわけにもいかん」
『シャチ!! ウナギ!! タコ!! シャ・シャ・シャウタ!! シャ・シャ・シャウタ!!』
今すべき事の判断をしたオーズ。すると彼の身体は群青色の光に一瞬包まれ、その光が弾けたのと同時に、姿を大きく変化させた。
全身を包むのは、濃淡の異なる3つの『青』だ。
波間を駆ける
胸部から両腕を覆うのは、蒼雷を宿した電気
そして大地を滑るように歩む下半身は、変幻自在な
円形紋章も
仮面ライダーオーズ・シャウタコンボ。水脈を支配するその姿は、荒れ狂う大海の化身にして、見る者を深淵へと引きずり込むような、冷酷なる美しさを放っていた。
「そろそろ、このジムから出て行ってもらおうか」
オーズがそう呟けば、両肩の鞭──ウナギウィップを取り出し、起き上がった2人のライダーを巻きつく形で捕える。
2人とも何とか振り解こうとするが、そのウナギウィップから電流が流れ始め、それが2人の身体に感電。2人を痺れさせ、動きを大きく鈍らせる。
その隙を狙って、オーズはウナギウィップを振るいながら2人を引っ張り、ジムの外へと放り投げた。夜の街道へと放り込まれ、街灯の灯りに照らされながら横転している2人を見ながら、オーズも外へと出る。
「これでも痛がってはいても、声には全く出さないか……まぁいい。狙いは明らかに俺の持つディスクなのは確か。攻撃してくるのを諦めなさそうだし、次だ」
『ライオン!! トラ!! チーター!! ラタ・ラタ・ラトラァータァー!!』
またもやオーズの身体が一瞬だけ光に覆われれば、今度は黄金色に覆われた姿となる。
胸部から両腕はタトバの時のものと同じで、トラクローが折り畳まれた状態でなりを潜めていた。
頭部は百獣の王の威厳を宿しており、太陽の炎の如き
そして大地を蹴るしなやかな両脚は、神速を誇る野の
円形模様は
仮面ライダーオーズ・ラトラーターコンボ。サバンナを支配する猛獣達の魂が一つに融け合ったその姿は、荒野を駆ける一陣の熱風にして、太陽のような比類なき気高さを放っていた。
「他の者達が、誰1人こちらを見てなければ良いのだが……フンッ‼︎」
頭部──ライオンヘッドにある鬣の部分──ライオネルフラッシャーが光り出し、周囲を太陽光の如く覆った。
光が収まった時には、アマゾンとシンは視界を奪われたのか、それぞれの複眼・双眸を腕で覆っていた。
その隙を狙い、トラクローを展開させるオーズ。そして脚部──チーターレッグによるチーターの如くの瞬発力で駆け出し、両腕のトラクローで2人の胴体を切り裂いた。
そのまま隣り合わせな2人の間に入るように止まり、その場で両腕を広げながらくるりと一回転。その勢いでさらにトラクローによる爪の斬撃を胴体に当て、またもや2人を転倒させる。
「そしてだ‼︎」
『サイ!! ゴリラ!! ゾウ!! サゴーゾ!! サゴーゾォッ!!』
また一瞬の輝きを全身から放ち、それが弾けた後、今度は重厚なるモノトーンの階調で全身が包まれた姿となった。
頭部は硬質な白銀の輝きを放ち、中央には天を衝く1本の角が突起部分として聳えている。その奥で不気味に灯る紅蓮の双眸は、いかなる障壁をも粉砕する破壊の意志を宿していた。
胸部から両腕を覆うのは、鉄壁の硬度を誇る鈍色の装甲。その拳には肉厚なガントレットが嵌められ、大地をも穿つ怪力が静かに脈打っている。
そして地鳴りを響かせる巨躯を支えるのは、頑強な意思を具現化したような漆黒の両脚。一歩ごとに重力を操り、周囲の空間すら歪めるほどの底知れぬ質量を湛えていた。
漆黒の素体の上で重なり合う、白銀、鈍色、そして深い黒。決して交わるはずのない3つの重量級の命が、絶対的な質量となっていた。
円形模様となる動物は
仮面ライダーオーズ・サゴーゾコンボ。重力を統べるその姿は、歩く要塞の如き圧倒的な威容にして、見る者を平伏させる恐るべき力強さを放っていた。
「このまま決めさせてもらうとしよう……むっ、危ないな」
するとそのサイの仮面──サイヘッドを垂直に下げ、素早く上げる事により、武器とも言える角でシンの右腕を弾く。
今度はアマゾンが獣の如く垂直に飛び掛かり、爪と牙でオーズに喰らいつこうとしている事に気づく。そして脚部──ゾウレッグで大地を強く踏み締めれば、一瞬の震動が起こって空気をも揺らし、アマゾンをシンごと衝撃波で押し飛ばした。
2人とも少し離れた位置にまで飛ばされたものの、空中で態勢を立て直し、その場に着地する。だがその瞬間を、オーズは見逃さなかった。
「これで終わりだ……ハァッ‼︎」
腕部──ゴリラアームを両腕同時に突き出せば、その瞬間に、ガントレット──ゴリバゴーンがジェット噴射の如く発射される。それは勢いよくアマゾンとシンとの距離を詰めていき、やがて2人同時に接触───
『フォース・トランスファー・オーケー!! ビースト!! トゥー!! アマゾン!!』
『フォース・トランスファー・オーケー!! ライア!! トゥー!! シン!!』
しようとした直前、アマゾンの右肩辺りが一瞬だけ、淡い光に包まれる。
『ファルコ!! Go!! ファッ・ファッ・ファッ・ファルコ!!』
するとどういう事だろうか。光が収まったかと思えば、アマゾンのその右肩辺りに、ハヤブサの頭部がついた橙色のマントが装着されたではないか。
ジャングルの戦士としては似使うかどうか分からないそのマントを、アマゾンは何の疑いもなく翻す。するとアマゾンの周囲に、橙色の竜巻が発生。その強大な風力がゴリバゴーンを弾き、強制的にオーズのゴリラアームへと戻っていった。
「な、何が起きたというんだ……?」
『ウィップベント』
突然のアマゾンの一風変わった能力に、オーズが思わず戸惑う中、シンの目の前に、再び一瞬の淡い光が縦長に発生。
そこにシンが右手を突っ込んだかと思えば、光は赤がかったピンク色の、エイの尻尾の形状をした鞭となり、シンの手元に収まった。形状はともかく、色合いがシンの見た目にそぐわないとは思うが……
それをオーズに向けて振るったかと思えば、鞭は一気に伸び、オーズの右肘を巻きつく形で捕らえた。
「ぬおっ⁉︎」
シンが力強く鞭を引っ張れば、重量級の姿であるはずのオーズが、シンの元へと引き寄せられる。そして眼前へと間合いを詰められたかと思えば、シンが左手の爪を横薙ぎに振るい、オーズの装甲に切りつけた。
「ぐあっ⁉︎」
その隙を狙い、アマゾンもオーズの背中を右手の爪で切りつけ、続け様に両手を交互に振るって背中を切り裂く。さらにシンが鞭の拘束を解き、すぐさまオーズの胴体を、アマゾンの跳び蹴りに合わせて蹴り飛ばした。
「ぬうぅっ……唐突に変えてきた闘い方云々に驚いて、油断してしまったようだ………………ハッ⁉︎」
仰向けに倒れた後すぐに起き上がるも、背後の違和感に気づき、思わず振り返る。
そこに立っていたのは、内に潜む狂気がそのまま形を成したかのように禍々しく、そして美しい漆黒の装甲の戦士。
ベースとなる深い黒には、闇を引き裂くような純白と、妖しく光る深緑色が走る。
とりわけ異彩を放つのは、顔面に張り付いた蝙蝠を思わせる特異な頭部だ。無造作に白いペンキを乱れ打ったような荒々しい意匠の奥で、非対称の複眼と剥き出しの牙を思わせる鋭い口元が、冷たい殺意を帯びて瞬いている。
ドライバーはレガシーライダーバックルではなく、抜き放たれた狂気の鞘の如く冷徹な金属光沢を鈍く放っている。その中心に押し込まれている蝙蝠の印章からは、彼の全身を侵食するかのように、底知れぬナニカが脈打っていた。
仮面ライダーエビル。見る者の本能に直感的な恐怖を刻み込む、残酷で静謐な『影』の佇まいをしていた。
その戦士──エビルがドライバーに手を掛ければ、それは外されエビルの右腕に収まり、黒き剣──エビルブレードとなる。それは今にもその殺意を行動で示す事を意図しているかのように、夜の街灯で妖しく光っていた。
「何ッ⁉︎ な、仲間かッ⁉︎ いつからそこに───ガッ⁉︎」
まさかの増援・乱入に戸惑うオーズ。その隙を逃さんと言わんばかりに、エビルはエビルブレードを振り上げ、オーズの胴体を勢いよく斬りつけ火花を散らさせた。
さらに振り下ろしたり、横薙ぎに振るったりして、オーズの胴体に次々と斬撃による火花を散らしまくっていく。さらにアマゾンとシンの爪による同時攻撃が背中にも襲い掛かり、そこからさらに3人同時に蹴り飛ばされ横転する。
「ッ……」
一気に蓄積されていく痛みに耐え切れず、立ち上がろうとしたオーズは思わず左膝をついてしまう。動かなければ、その意思に背かれるかのように。
そんな中、エビルがドライバーに嵌め込まれている、銀色の蝙蝠があしらわれている黒い巨大なスタンプらしきものが、街灯に反射された途端、エビルブレードの引き金が引かれる。
『必殺承認!!』
カチャリ……と無慈悲な音が鳴り響き、冷徹なシステム音声が処刑の
エビルが獲物に狙いを定めるかのようにゆっくりと姿勢を沈め、次の瞬間、地を蹴って高く宙を舞う。それと同時に、漆黒と深緑色に脈打つオーラが無数の影の蝙蝠となり、それらがオーズを拘束する。
「ッ⁉︎ しまった……‼︎」
それと合わせるかのように、アマゾンも高く跳躍しており、振り上げられていた右腕の鰭が、今にも獲物を切り裂かんと活発化しているかの如く揺れている。
さらにシンも獲物に狙いを定め、獣の如く疾走。喰らい尽くさんとオーズに向かって飛び掛かる。しかも腕や足筋にある皮膚の一部が、5本の毛によってできた爪のように立ち上がり、月光を反射して怪しく煌めく。
そして指先の鋭い爪が、オーズの堅牢な装甲をがっちりと掴んでさらに固定する。さらにシンの全身の生体筋肉が限界まで膨張し、脈打つ血管から、凄まじいエネルギーが奔流となって四肢へ注ぎ込まれる。
『 』
声は発されていない。だが口を人間やバッタのように、鋭い歯を口の奥底で光らせながら大きく開いている事から、まるで叫んでいるかのような錯覚を見せる。
そのまま渾身の力と共に、ひねりを加えた強烈な一撃が、オーズの身体に襲い掛かる。その瞬間、激しい火花が散ったのと同時に、凄まじい衝撃波が周囲の空気を震わせる。
シンがすぐさま跳躍しながら後退すると、真上からアマゾンが、全身のバネと重力による落下で得た、エネルギーの全てを両腕に乗せながら降下してきた。
「クッ……‼︎」
シンの必殺技らしき強力な一撃を喰らった事で、どうやら右腕の拘束が緩くなっていた模様。その機会を逃さず、オーズはその腕のゴリラアームとゴリバゴーンを盾代わりにして迎え撃つ。
そしてゴリバゴーンが、アマゾンの前腕部に備わった鰭状の鋭利な刃──アームカッターに当たり、発生した激しく散る火花の音と共に、金属の軋むような不快な破砕音が響き渡る。その衝撃がオーズの身体全体に響き渡り、彼のゴリバゴーンを弾いた。
即座にアマゾンが跳躍して後退すれば、最後に迫るは、緑がかった黒い瘴気のエビルブレード。それがオーズの装甲を力強く、無慈悲にも斬り裂いた。
「ガッ、ハッ……‼︎」
エビルが振り向きながら歩いていけば、やがてオーズのいた位置に、夜の世界を一瞬だけ照らす程の爆発が発生。その光景をエビルはバックとして背中を向け、アマゾンとシンは静かに眺めていた。
爆煙が収まった時には、オーズは変身を解除されクラフトの姿へと戻ってうつ伏せに倒れ、ディスクは爆発によって吹っ飛び、それをエビルが後ろ向きのままキャッチした。
───WINNER エビル‼︎───
戦闘の終わりを知らせるアナウンスが鳴ったのと同時に、3体のライダーは終始何も喋らず、クラフトに背を向けながら歩き去って行った。
「ウッ、グッ……かっ彼等は一体、何者、なんだ……」
ジムの職員達が身の安否を心配して駆け寄る中、過ぎ去って姿が見えなくなっていっている3人のライダーを見つめていたクラフトは、やがて意識を手放したのだった。
♢
3人のライダーが向かった先は、とある一軒の建物。とはいっても、そこは建物と言ってもいいのか不明なものとなっていた。
剥がれ落ちた外壁から赤錆びた鉄筋が覗き、屋根の半分はすでに崩落していた。ガラスの抜け落ちた窓枠は空ろな口のように暗闇を開いており、彼等以外の人物がいないその空間には、ただ乾いた風の音だけが虚ろに響いていた。
ライダー達がしばらく歩いていると、この建物の奥にある1枚の茶色く濁っていたドアが見えてきた。
軋むドアをエビルが押し開けると、そこは分厚い灰色の埃に覆われ、完全に時が止まっていた。壁紙は死んだ皮膚のように黒ずんで剥がれ落ち、むき出しのコンクリートには無数のひび割れが走っている。
家主を失ったその部屋を、吹き抜ける乾いた風が、床に積もった塵をただ無意味に舞い上げていた。
「戻ってきたか」
その部屋の奥から、1人の人物が一言だけ喋りながら歩いて来ており、藍色の綿が出ているボロボロのソファーに座った。
ソファは既に、最初から建物や夜の木々などの影によって、大抵が黒く覆われていた。それ故なのか、そのソファーに座った男性の姿が、ほぼ全く見えない状態にあったのだ。
だがそんな事は気にせんとばかりに、シンがその男性のところへとゆっくりと歩み寄っていった。そして彼に何の躊躇いもなく、オーズのレガシーディスクを手渡し、それを彼は受け取った。
「例のレガシーディスクを手に入れたようだな。確かに受け取った」
男性がそう呟くと、3人のライダーが頷いた途端、身体全体がホログラムとなって消滅していった。
そんな彼等を見ても何とも思わなかった……否、既に慣れているからなのか、消えていった3人のライダーの事を無視し、男性は埃の被った窓から満月を眺め、また呟く。
「これでまた1つ、俺の最後の願いに近づいた」
その呟きは、月夜の光の中で溶けて消えていったかのような、悲壮感を持っていた───
何故ライダー達が他のライダーの力を使えたのか、そして何故そのライダー達が消えたのか、その謎が明かされるのは、まだ先となる……
次回はクロノスが乱入した混戦の後の話から始めます。